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2010年9月11日(土)付

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村木氏無罪―特捜検察による冤罪だ

あらかじめ描いた事件の構図に沿って自白を迫る。否認しても聞く耳をもたず、客観的な証拠を踏まえずに立件する。郵便不正事件での検察の捜査はそんな強引なものだった。大阪地裁は[記事全文]

初のペイオフ―円滑な処理と責任追及を

銀行預金に初の「ペイオフ」が発動された。銀行が破綻(はたん)した時、1人当たり元本1千万円とその利息までは預金保険で保護されるが、超過分は債権債務の整理しだいで削減もありうるという事態が現実[記事全文]

村木氏無罪―特捜検察による冤罪だ

 あらかじめ描いた事件の構図に沿って自白を迫る。否認しても聞く耳をもたず、客観的な証拠を踏まえずに立件する。郵便不正事件での検察の捜査はそんな強引なものだった。

 大阪地裁は昨日、厚生労働省の局長だった村木厚子被告に無罪を言い渡した。村木被告は、郵便割引制度の適用団体と認める偽の証明書をつくり、不正に発行したとして起訴されていた。

 村木被告は大阪地検特捜部に逮捕された当初から容疑を否認し、一貫して無実を訴えていた。判決は証拠とかけ離れた検察の主張をことごとく退け、「村木被告が偽証明書を作成した事実は認められない」と指摘した。

 検察は、ずさんな捜査を深く反省すべきだし、村木被告の復職をさまたげるような控訴はすべきでない。

 偽証明書は、村木被告が障害保健福祉部の企画課長の時、障害者団体として実態がない「凛(りん)の会」に発行された。企画課長の公印が押されており、村木被告の容疑は、部下だった係長に偽造を指示したというものだった。

 係長は捜査段階で容疑を認めたが、公判では村木被告の指示を否定した。取り調べで係長は、偽造は自分の判断だと訴えたが、検事は取り合わなかった。参考人だった厚労省職員らも公判で強引な取り調べの実態を証言した。

 大阪地裁は係長らの調書を信用せず、証拠として採用しなかった。検察側の立証の柱はもはや失われていた。

 特捜部が描いた構図は、「凛の会」会長が民主党の国会議員に口添えを依頼し、厚労省では「議員案件」として扱われていた、というものだ。

 だが、議員会館で口添えを頼んだという当日、その議員はゴルフ場にいたことが公判で明らかになった。特捜部はそんな裏付けすら怠っていた。

 検察の捜査をめぐっては、東京地検特捜部が1993年に摘発したゼネコン汚職で、検事が参考人に暴行を加えて起訴されるという不祥事が起きた。その後も、特捜部に摘発された被告らが「意に反した調書をとられた」と公判で訴えるケースは少なくない。

 特捜検察に対する国民の信頼が揺らいでいるということを、検察当局者は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 特捜検察はかつてロッキード事件やリクルート事件などで、自民党長期政権の暗部を摘発した。政権交代が可能になったいまでも、権力の腐敗に目を凝らす役割に変わりはない。

 冤罪史は「自白」の強要と偏重の歴史である。今回の事件もその列に加わりかねなかった。

 検察は、これを危機ととらえねばならない。弁護士や学識経験者も加えた第三者委員会をつくって検証し、取り調べの可視化などの対策を打つべきだ。それとともに報道する側も、より客観的で冷静なあり方を考えたい。

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初のペイオフ―円滑な処理と責任追及を

 銀行預金に初の「ペイオフ」が発動された。銀行が破綻(はたん)した時、1人当たり元本1千万円とその利息までは預金保険で保護されるが、超過分は債権債務の整理しだいで削減もありうるという事態が現実になった。

 中小企業専門の金融機関として発足し、乱脈経営へと暴走した揚げ句にきのう破綻した日本振興銀行に対して金融庁が発動に踏み切った。大幅な債務超過に加え、預金者や金融システムへの影響が極めて限られるとの判断が背景にあった。

 振興銀は一般の銀行同士が資金をやりとりするネットワークに入っていない。金融市場からお金も借りていない。いわば金融システムから孤立した銀行である。銀行の破綻処理で一番気をつけなければならないのは、他の銀行が連鎖破綻することだが、振興銀にはこの連鎖ルートがない。

 このため、破綻処理をしても金融システムは揺るがない、という見通しを立てることができた。

 預金の構成もユニークだ。普通預金も当座預金もない。扱うのは他の銀行より高い金利をうたった定期預金だけ。しかも売り文句が「1千万円までは預金保険で保護されます」。1千万円以下の預金が残高の97%を占め、高額預金者には自己責任を問いやすい状況にあった。

 こうした特徴を考えれば、今回のケースをペイオフの標準的な事例とみなすことはできない。したがって、今後普通の銀行の破綻処理に際してペイオフを発動するかどうかを判断するに当たっては、より慎重な判断が必要とされるに違いない。

 今回は何よりも、初めてのペイオフを混乱なく円滑にやり遂げることが大切だ。金融整理管財人として処理に当たる預金保険機構は、預金者の不安を招かないよう払い戻しなどの業務を迅速に進めることが欠かせない。同時に、健全な借り手企業が強引な債権回収などで経営を圧迫されないよう、注意してもらいたい。

 いうまでもなく、破綻を招いた振興銀の不可解な経営についての全容解明と責任追及も徹底されなければならない。前会長で「金融行政のご意見番」として鳴らした木村剛被告は金融庁の検査を忌避した銀行法違反の罪で起訴された。だがこれは、氷山の一角に過ぎないだろう。

 事件摘発後に振興銀が委嘱した特別調査委員会は、「中小企業振興ネットワーク」と呼ばれる親密企業群との間で不良債権飛ばしなどの不正が横行していたとする調査結果を公表した。商工ローン大手SFCGからの債権買い取りでは二重譲渡も判明しており、損失が膨らみそうだ。

 破綻処理を通じ、ずさんな経営の闇を白日の下にさらしてほしい。

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