うつ病や統合失調症、依存症など、心の病の治療現場が変わりつつある。問題が多かった大量投薬や長期入院を超え、患者自らの力を生かして普通の社会生活ができるように支援する取り組みが始まっている。患者同士の助け合いも活発だ。心の病について、今回は回復に向けて知っておきたいことを探る。

　〈20代女性。周りに気持ちが伝わらず、無視されているように感じる。自分は必要ではないと思い込み、家に引きこもる。そのうち絶望し、自殺してしまう〉

司会役も務める

　「この架空の悲劇のヒロインをハッピーエンドにいざないましょう。さて、どうすればよいでしょうか」。８月初め、千葉県流山市にある心療内科・精神科の診療所「ひだクリニック」（開業医）では、20～40代を中心とした統合失調症やうつ病などの患者約30人によるリハビリテーションが実施されていた。司会役も患者だ。

　心の病の患者は考え方や行動に偏りがあり、望ましくない方向に進んでしまいがち。他人とのコミュニケーションがうまく取れない人も多い。そこで物事には別の視点、もっと楽観的な見方もあることを知り、他人と上手に付き合っていくための方法を学ぶことを目的としたリハビリなどを行う。これは同クリニック独自のリハビリメニューで、「プロデュース大作戦」と呼んでいる。

　「考え過ぎはいけない」「気持ちが伝わらないのは相手が鈍感だから」「リラックスして音楽を聴こう」。約１時間の患者同士の議論の末、ヒロインは自分の気持ちを周りの人に素直に伝え、相手にもどう思っているかを率直に尋ねることで救われることになった。

　同クリニックでは疑似就労で患者の就職を支援するメニューなど、様々なリハビリプログラムを用意している。患者は日中や夜間に診療所に通い、これらリハビリを受ける。「デイケア」「ナイトケア」という。

　高橋美久さん（29）はこのようなリハビリの卒業生。以前は引きこもっていたが、今は「調子に波がある」といいながらも、カフェで働けるまでに回復した。ほかにも一般企業への就職が相次いでいる。

相性も大切に

　精神科の治療は投薬と、カウンセリングや心理教育、リハビリなどそれ以外の部分からなる。日本の精神科医療はかねてより薬に頼る傾向があったが、大量投与と自殺の関連性が指摘されるなど問題意識が高まっている。このため薬以外の治療の重要性も増した。「必要な薬を適量使うことは大切だが、患者自身が持つ力を引き出す工夫も必要。バランスよく治療することが望ましい」（ひだクリニックの肥田裕久院長）

　精神科、心療内科などの診療所はここ10年ほどで急増、身近な存在になったが、中身は様々。充実したリハビリなどを実施しているところはまだ少ないのが実情ではあるものの、どのような診療をしているのかは理解したうえで治療を進めたい。慶応大学保健管理センターの大野裕教授は選び方の目安として(1)医師と相性があう(2)薬を最初からたくさん処方しない(3)質問に的確に答えてくれる――を挙げている。