1920年代、世界は軍縮ムードに包まれていた。日本でも帝国陸海軍の将校・下士官10万人以上がリストラされた。当時軍人は「税金泥棒」と罵られ、朝晩の通勤では背広を着用し、軍隊の存在意義そのものが問われていたという。
中国の地方は今なお貧しい〔AFPBB News〕
巷では政治不信が高まり、街には失業者が溢れていた。しかも、米国は対日強硬姿勢を一層強めていた。
このような中で、日本国内、特に軍内部で政治に目覚めた青年将校による「変革運動」が生まれていったことはご承知の通りだ。
一方、中国では、1980年代以降の改革開放時代に人民解放軍兵士の待遇が悪化した。経済自由化が貧富の差を生み、高度成長は格差拡大と腐敗蔓延をもたらした。
最近の中国における「金権主義」はおよそ共産主義の理念とは相容れない。
しかも、日米は今も「中国封じ込め」政策を止めようとしない。中国内外のこうした諸矛盾を解決するには、今こそ軍人が役割を果たさなければならない。貧しい農家から人民解放軍に入隊した生真面目な若手将校たちの多くがこう思い悩んだとしても不思議はなかろう。
歴史は繰り返すのか
あくまで仮説ではあるが、当時の日本軍人と現在の人民解放軍将校は「自己目的の喪失」という、よく似た厳しい境遇にあったのではないか。
だからこそ、軍隊の存在意義を正当化する「新たな歴史的使命」が必要とされた(もしくは作り出された)のではないのか。
当時の帝国陸海軍と現在の人民解放軍では歴史的背景が異なる、歴史を弄ぶのもいい加減にしろ、とのお叱りは甘んじて受けよう。それでも筆者には、社会主義、軍隊、歴史的使命というキーワードが揃うこと自体、「偶然」とは思えないのである。
北一輝の思想は、天皇親政の下で国家改造を目指し、列国との対決を志向した、いわゆる「皇道派」に受け継がれた。その「皇道派」は2.26事件以降衰退し、代わって「統制派」が実権を握る。その後の昭和史について説明は不要だろう。
今の人民解放軍内部に昔の日本の「皇道派」や「統制派」のような極端なグループが存在するとは思いたくないが、正直なところ、実態はよく分からない。万一、似たようなグループが存在するとすれば、空恐ろしいことである。
個人的には、今回ご紹介した帝国陸海軍と人民解放軍の「歴史的使命」の比較など、「的外れ」であることを心から願っている。
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