グラビアアイドルのボディラインは苦手!? “3Dの限界”を検証
nikkei TRENDYnet 9月9日(木)11時36分配信
|
3Dテレビが発売され、「3D元年」と言われる今年。3Dならではのコンテンツとは何なのだろうか。コンテンツのジャンルごとに3Dの良し悪しを分析してみた。 |
【詳細画像または表】
3Dテレビが発売され、「3D元年」といわれる今年。まだ数が多いとはいえないが、さまざまなコンテンツを3Dで制作する動きが広がっている。
現在、スカパー! HDなど有料放送で視聴できる3Dコンテンツはスポーツ中継、音楽ライブが中心。ブルーレイ3Dなどのパッケージソフトでは、アニメ、映画、グラビアイメージビデオなどが発売されていく予定だ。また、業界内では「3D普及のためにはアダルトソフトが欠かせない」との声も少なくない。
果たして、3Dならではのコンテンツとは何なのだろうか。コンテンツのジャンルごとに3Dの良しあしを分析してみた。
【スポーツ中継】サッカーは不向き? カギは「箱庭効果」
現状、3D放送のコンテンツとして最有力視されているのがスポーツ中継だ。3D映像の魅力は、奥行きのある映像から感じられる臨場感。まるでスタジアムで観戦しているような気分が味わえるといわれるからだ。
実際、日本で唯一3D専門チャンネルを持ち、3Dコンテンツを最も長い時間放送しているスカパー! HDは、サッカー中継を主力コンテンツに据えている。6月にサッカーW杯中継を行ったほか、現在はJリーグ中継を原則、毎週1試合放送している。
ただ実際に中継を見た人に話を聞くと、「スタンドの観客を映したシーンが印象的だった」「試合終了後の紙吹雪がきれいだった」など、試合そのものではない映像を評価する声が多く聞かれた。なぜか。
理由は「箱庭効果」にある。サッカー中継では、試合の状況をわかりやすく伝えるため、上からグラウンド全体を俯瞰するような映像を多用する。しかしこういった引きの映像では、立体感が付きにくく、むしろ「箱庭で試合をしているように見え、迫力に欠ける」(立体映像ジャーナリストの大口孝之氏)というのだ。
サッカーではないが、5月にラグビーを3Dで中継したJ:COMグループのジェイ・スポーツ・ブロードキャスティングでは、「2回テスト撮影をした結果、カメラの位置をグラウンドに近い高さに下げた」と明かす。「3D撮影は、人間の目と基本的に同じ。グラウンドが間近な席ほど人気があるが、カメラのベストポジションも同じになる」(ジェイ・スポーツ)
同様のことは、野球中継にもいえる。日本テレビが制作した巨人戦の3D中継では、普段の中継では使われない、バックネット裏からの映像が多用された。このカメラアングルだと、ピッチャーが投げた球が画面の手前に飛んできて、迫力があるからだ。
このように、カメラアングルによって、3Dに向くスポーツと向かないスポーツがあるようだ。
3Dへの向き不向きという点では、試合時間も大きく影響する。というのも、3D映像は体への負担が大きいといわれており、適度に休息をとったほうがいいとされているからだ。
そういった意味でも、前半、後半それぞれ45分試合が続くサッカーは3D向きではない、との声が聞かれる。一方野球は、試合時間こそ長いが、イニング毎に小休止があるので、体への負担は少ないのでは、と話す関係者もいる。
そして、引きの映像が少なく、試合時間が短いという、3D向きの2つの要素を兼ね備えているとされるのが、格闘技だ。人物の位置の入れ替わりが激しい点も、3Dの魅力を引き出す要素となりそうだ。
【音楽ライブ】「AKB」にピッタリ? 前後の位置が入れ替わるダンスに注目
スポーツ中継と並んで、3Dでの撮影が進んでいるのが音楽ライブだ。スカパー!HDは7月、3Dカメラを12台も投入して倖田來未ライブを中継。10月には今年夏に開催された3つの音楽フェスタの録画映像を放送する予定だ。フジテレビの有料CS放送、フジテレビNEXTはアリスの東京ドーム公演を3Dで放送したほか(現在はJ:COMオンデマンドで配信中)、アイドルグループ「アイドリング!! ! 」のライブも3Dで収録。J:COMオンデマンドではTBSが撮影した「モーニング娘。3Dサマーパーティー IN 赤坂BLITZ」を9月から3カ月間、無料で配信している。
また、ソニーグループのソニー・ミュージック エンタテインメントは8月25日から、「いきものがかり」などの3Dミュージックビデオをプレイステーション向けに配信しはじめた。10月中旬にエピックレコードジャパンから発売するピアニスト「ラン・ラン」のライブブルーレイ・ディスク(BD)や、11月3日発売のCHEMISTRYのライブBDでは、特典として3D映像を収録。年明けには人気声優ユニット、スフィアのライブを、ブルーレイ3Dで発売する予定だ(発売元はランティス/Glory Heaven)。
音楽ライブが3D向きといわれるのは、スポーツ中継と同様、臨場感が重視されるためだ。そのため「舞台だけでなく、手前の観客を入れると、より臨場感が高まる」(立体映像ジャーナリストの大口氏)という。
加えて、3D向けの演出も重要だ。アイドリング!! ! の3D撮影を行ったフジテレビNEXTでは、横一列ではなく、縦に並んでもらい、メンバーが前後に入れ替わるなど、3Dに合った演出を取り入れた。ソニーミュージックも「4人組のスフィアのライブは、前後左右の動きがあり、3D向きと判断した」と話す。
モーニング娘。やAKB48など、大人数のアイドルグループが人気を集めているだけに、動きの激しい3Dライブ映像は注目を集めそうだ。
【アニメ】3D化は容易だが、日本人好みの作品は少ない
9月17日、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが日本で初めて映画のブルーレイ3Dを発売する。『くもりときどきミートボール IN 3D』と『モンスター・ハウス IN 3D』の2タイトルがそれだ(『くもりときどきミートボール』はJ:COMオンデマンド、ひかりTVビデオサービスでも配信)。
アニメは実写と異なり、3D化はコンピューターによる処理が中心で、特殊な機材を必要としない。このため海外を中心に、制作が加速している。
『モンスター・ハウス IN 3D』は3D作品としては初期の06年公開。「当時の技術水準では、映像の処理にやや難があった」(立体映像ジャーナリストの大口氏)といい、実際に試聴してみると、絵の動きがスムーズでない部分があった。
一方『くもりときどきミートボール IN 3D』は、昨年公開で絵の動きに違和感を感じるところはない。飛び出してくるような演出など、迫力感もある。
ただ、日本のアニメキャラクターは平面的な絵柄のものが多く、CGを駆使して作られた立体的なキャラクターは、日本人好みとはいえない。アニメを3Dで見たいかどうかは、評価が分かれるところだ。
【映画】本命は「アバター」はまだ未定。邦画も3D大作が続々
3Dブームの火付け役となった『アバター』だが、今のところブルーレイ3Dの発売の予定がない。業界関係者は「3D映画のパッケージ化の動きは想定より遅い。大型タイトルは来年にずれ込むのではないか」と口をそろえる。
年内にブルーレイ3Dの発売が予定されている実写映画タイトルは今のところ2つだけ。10月6日発売の『タイタンの戦い 3D&2D ブルーレイセット』と11月17日発売の『Disney's クリスマス・キャロル 3Dスーパーセット』だ。
『タイタンの戦い』は2Dで撮影された映画で、3Dブームを受け、完成後に3Dに変換された作品。そのため、映像に不自然な部分があり、劇場公開時の評判は芳しいとはいえなかった。
ただ、ブルーレイ3Dを視聴したところ「映画館で見たときよりも立体感を感じた。3D撮影には劣るが、十分視聴できるレベル」(大口氏)と評価は高かった。
今後は、各映画会社とも、3Dで劇場公開した作品は原則、ブルーレイ3D化する予定という。一般的に映画タイトルのパッケージ化は、劇場公開の半年後とされているため、来年以降、発売タイトルは急増しそうだ。
中心となるのはやはりハリウッド映画だが、邦画でも3D化の動きが強まっている。
『THE LAST MESSAGE 海猿』は、2D撮影を3Dに変換されたものが、9月18日から劇場公開される予定。また10月30日には、全編を3Dで撮影した『牙狼〜RED REQUIEM〜』も劇場公開される。
『牙狼』を制作した東北新社は「自社が持つ撮影、CG合成、編集などの3D技術を注ぎ込んだ、ショーケース的な作品」と話す。同社はこの映画制作を通じて、3Dコンテンツの制作ノウハウを高め、映像制作の受注を狙う。
これらの作品もいずれはブルーレイ3D化されると見られ、視聴タイトル数の増加に貢献しそうだ。
【グラビアイメージビデオ】アダルトのネックは「モザイク」と「額縁」
「ほかの3Dコンテンツと比べて、視聴数が多い」(J:COMオンデマンドを運営するジュピターテレコム)のがグラビアアイドルのイメージビデオだ。J:COMオンデマンドでは9月上旬現在、3タイトルを配信している。
3Dイメージビデオの魅力は何といっても体のラインが立体的に見えることだ。ところが、実際に見てみたところ、全身が写っているときは迫力があるのに、体の一部分をアップにすると、立体感が薄れてしまう。
立体映像ジャーナリストの大口氏は「額縁効果のため」と指摘する。立体的に写したい対象物(この場合はグラビアアイドル)の一部が画面の枠に見切られると、対象物が枠に張り付いて立体感が抑えられてしまうのだ。2Dでは一部分にズームしたほうが迫力が出るが、3Dでは逆効果になってしまい、「3Dならではの撮影の仕方を研究する必要がある」(大口氏)。
3Dイメージビデオに人気が集まるなか、コンテンツ制作の関係者と話していると「3Dの普及に欠かせないだろう」と必ずといっていいほど話題にのぼるのが、アダルトコンテンツだ。
実際、過去を振り返ってみると、VHSビデオやCD-ROM、DVDなどの普及の影には、アダルトコンテンツの存在があった。
ただ一方で「3Dの場合、モザイクの処理がネックなのでは?」という声も多く聞かれた。2Dでは画面上にモザイクをかければよかったが、3Dでは対象物が画面よりも奥(もしくは手前)にあるため、そう単純な話ではない。対象物より手前にモザイクを入れると、モザイクが浮いたようになり、不自然だし、逆に対象物の奥に入れれば、それはモザイクの意味を成さなくなる。
これはモザイクに限った話ではなく、映画の字幕なども同様。位置決めに相当手間がかかるという。
アダルトコンテンツの制作で知られるSODクリエイトは、1月に3Dのグラビアイメージビデオ『3D×衝撃 触れてみて…滝沢乃南』を発売し、10月7日にも第2弾『華彩なな』を発売予定だが、アダルトコンテンツは皆無。やはりモザイク問題が壁になっているのだろうか。
SODクリエイトによれば「モザイク処理に手間がかかるのは確かだが、技術的にはクリアしている」とのこと。実際、サンプル動画まで完成しており、見たところ不自然さは感じられなかった。
「アダルトコンテンツも要望があれば発売したい」(SODクリエイト)というが、グラビアイメージビデオのリリースが先行しているのにはいくつか理由があるという。
1つ目は、イメージビデオのほうが、年齢制限のあるアダルトソフトよりも、3Dコンテンツの普及の裾野が広がると考えているからだ。
2つ目は、そもそもBDのアダルトコンテンツが多くないということだ。画質を考えるとブルーレイ3Dが望ましいが、再生機の普及はこれから。主に3Dテレビ放送で用いられるサイドバイサイド方式なら通常のBDでも再生できるが、DVDと比べるとディスクの製作費用がかさみ、必ずしも市場価格が高いとはいえないアダルトコンテンツには適さないという。
ちなみにSODの3Dイメージビデオは、いずれも通常のDVDにサイドバイサイド方式で収録されている。容量の少ないDVDに左右2つの映像を記録しているので、当然のことながら画質はいまいち。ハイビジョン画像に見慣れた目からすると、鑑賞はやや厳しい印象だった。
画質や販売量のことを考えると、最も適しているのはネット配信ではないかとSODクリエイトは話す。
ところが、ここにも問題がある。ネット配信の場合、コピープロテクトなど著作権保護が欠かせないが、そのシステムがまだ確立していないのだ。
「著作権保護システムが完成するのは、来年になりそう」(SODクリエイト)。それまで、配信は難しいという。今秋を目処に短いサンプル動画は公開する予定だが、しばらく“本命”は登場しそうにない。
日経トレンディ10月号では3Dコンテンツに加えて、テレビ、カメラ、ゲーム機など、あらゆる分野に広がる3D映像機器の最新動向を紹介。それ以外にもタブレット端末、ネット対応テレビなど、AV機器の今後のトレンドを読み解いている。
(文/佐藤嘉彦=日経トレンディ)
【関連記事】
“思い出の記録”に最適! ソニーの3D対応BDレコーダーの“プラスα”に迫る
「売れない3D」に力を入れすぎた夏のテレビ売り場
3Dテレビ全機種にいち早く搭載したソニーの「2D−3D変換技術」とは!?
ソニー、BDレコーダー内蔵テレビ「BRAVIA HX80R/EX30Rシリーズ」を発表
急なズームやパンはダメ!──3D中継、W杯南ア大会 こだわりの現場
最終更新:9月9日(木)11時36分