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【芸能・社会】

押尾裁判 救急救命医が証言 「100%近く助かる」

2010年9月11日 紙面から

押尾学被告の第5回公判の傍聴券を求め、東京地裁(奥)の前に列を作る人たち=東京・霞が関で(潟沼義樹撮影)

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 合成麻薬MDMAを一緒に飲んで死亡した飲食店従業員田中香織さん=当時(30)=を救命しなかったとして保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優押尾学被告(32)の第5回公判が10日、東京地裁(山口裕之裁判長)で開かれ、検察側証人の救急救命医や田中さんの両親らが出廷した。救急救命医は、田中さんの死亡状況などから、仮に病院に搬送後に心停止の一歩手前の状態になった場合でも「100%近く助かる」などと証言。「119番しても助からなかった」と主張する押尾被告側がさらに追い詰められた形となった。

◆証人(1)昭和大学医学部教授A氏 蘇生措置取れば助かる可能性大だった

 この日はまず、昭和大学医学部教授で救急医療センター長も務める男性医師A氏が検察側証人として出廷した。A氏は押尾被告の保護責任者遺棄致死罪を立件する上で最大の焦点となる田中さんの救命可能性について、田中さんが若いことや、心臓そのものに(容体急変の)原因がないことを挙げ「病院に運ばれる前に、心停止の一歩手前の状態になったとしても、9割方助けられたと思う」と証言。搬送後に、その状態になった場合は「100%近く助かる」とした。

 検察側は事件当日午後5時50分ごろから6時20分ごろにかけて、田中さんの容体変化を青色から赤色まで色分けして記述した資料を提示。最終段階となる午後6時20分ごろには「手首の脈をみたが、脈は打っていないみたいだった」という記述があり、A医師は心臓がポンプの役割を果たせなくなる心室細動や心肺停止の可能性も指摘した。

 一方でA医師は、今回のケースは薬物が原因で心臓が弱っており、心筋こうそくのような心臓自体の疾患ではない点に注目。この場合は心室細動などが生じている状態でも、心臓に電気刺激を与える除細動器や心臓マッサージなどの蘇生(そせい)措置を取れば助かる可能性が高いことを繰り返し強調。6時20分の時点でも救急隊が駆けつければ救命できた可能性が高いと結論づけた。

 さらにA医師からは、田中さんの救命可能性を否定する押尾被告の主張を覆す重要な証言も飛び出した。

 検察側 「MDMAを服用し、中毒が起きてから数分から10分程度で亡くなることはありえるでしょうか?」

 A医師 「私はそういうスピードはないと思います」

 A医師はMDMA中毒によって起きる諸症状は脳から引き起こされ「脳は階段を上るように悪くなる」と説明。1つのプロセスに5−10分程度時間がかかり、今回のような容体変化を経て死亡に至るまでには「どんなに考えても30−40分ぐらいはかかる」と指摘した。この点に関しては裁判長や裁判官からも繰り返し質問されたが、A医師の証言はぶれなかった。

 119番の通報時期をめぐっては、検察側は資料を示しながら「どの部分で119番通報すると思うか?」と質問。A医師は最初に異変が生じた午後5時50分ごろを挙げて「(田中さんが)ハングルのような言葉を発した状態で呼ぶのが普通です」と証言した。

◆証人(2)都立墨東病院医長B氏 肺水腫になるには1〜2時間かかる

 検察側証人として出廷したもう一人の医師も高い確率で救命できた可能性を明言した。

 東京都立墨東病院の胸部心臓血管外科の医長である男性医師B氏は、田中さんの死亡鑑定書を見ており、死因について、「不整脈による急性心不全。MDMAによる薬理的作用で脈が速くなるタイプの不整脈。心不全が肺水腫を起こし、肺水腫が心不全を悪化させた」と説明した。

 弁護側は「田中さんの容体急変から死亡まで数分。119番しても救命できない」と主張しているが、B医師は容体急変から死亡までの時間について、「鑑定書をみると、重症の肺水腫が形成されている。どんなに短くても30分。常識的には1時間、2時間必要」と解説。さらに、119番通報していた場合の田中さんの救命の可能性を「きわめて高い可能性でできたと思う。9割以上で救命できたと推測する」とした。

 B医師は肺水腫を発症した場合に周囲からみてもわかる異変について、「口から泡を吐き、最初はせき、息苦しくなり、これは患者さんがよく使う表現だが、真綿で首を絞められたような息苦しさ。最終的にはもがき苦しんで絶命する」という。

 また、田中さんは亡くなる前、あぐらをかいて意味不明な言葉を発したという。B医師はこの状態について、「あぐらをかくのも肺水腫のあらわれ。『起座呼吸』といって、呼吸が苦しいから自然ととる体位。最後まで(あぐらを)かかない人もいるが、(発症から)早い段階にあぐらをかくケースもある。言葉にならない言葉を発する。誰でも(身体の異変が)分かると思う」と指摘した。検察官から「そういう症状が現れたら、周りの人は救急車を呼ぶことを期待できるか」と聞かれると、B医師は「正常の社会的観念を持っていれば呼ぶはずだ」と断言した。

◆証人(3)田中香織さんの両親 父『死人に口なし』許せない、最高の刑で罪償って

 この日は、亡くなった田中さんの両親も証言した。父親は、「いろんなことで楽しませてもらって私にとってはいい子だった」と田中さんへの思いを語り、検察官から田中さんと一緒に飲んでいた時に撮った写真をみせられると、「今は(一緒に)飲めなくなって残念」と肩を落とした。

 その後、用意してきた文章を涙声で朗読。「押尾被告がなぜ香織が苦しんでいる時に119番通報して救急車を呼ばなかったのか。『死人に口なし』と責任を香織になすりつける行為は許せない。押尾被告にはこの事件の最高の刑で罪を償ってほしい」と怒りをにじませた。

 続いて母親が証言台へ。父親同様、文章を読み上げ、田中さんは将来銀座のクラブのママになること、トラック運転手の父親が仕事を引退する日に手作りの弁当を持たせることを夢見ていたと明かした。父親は今月末で仕事を辞めることが決まったそうで、「香織は将来的な夢と、すぐに近づいていた夢のどちらもかなえられなかった」と声を震わせた。

 押尾被告に対しては、「亡くなった人の冥福(めいふく)を思う気持ちが感じられません。実際、私たちは(押尾被告から)はがき一枚受け取っていません。あまりにも無責任で、人の心が感じられません。親として望むのはただ一つ、娘の人生に残されていたであろう時間と同じぐらい長い長い刑を、娘の尊い命と同じぐらい重い刑を被告に与えてください」とした。

◆『ふざけるな、その医者呼べ』 死亡時刻めぐって被告が逆ギレ

 押尾被告を取り調べた男性検察官も証人として立った。まず田中さんの死亡時刻について、押尾被告の供述が変化したことを明かした。

 昨年8月末、押尾被告を参考人として聴取した際は「7時40分ごろに亡くなったと言っていた」。しかし今年1月に取り調べると「開口一番に、丸暗記したことをはき出す感じで『5時45分ごろにおかしくなった。6時からエクソシスト状態になって、15分ごろ死んだ。急死したからおれは助けられなかった』と言っていた」という。その後、検察官が供述の変化を追及すると押尾被告は「(弁護人から)死体遺棄罪になると言われ、まずいと思い、うそをついていた」と話したという。

 証人の検察官は「(死亡時間が)1時間20分もさかのぼることになり、しかも理由が弁護士のアドバイスという。およそ信じられませんでした」と厳しい口調で語った。

 さらに、この死亡時刻をめぐって取り調べで押尾被告が逆ギレしたことも明かされた。1月、押尾被告の言い分を一通り聞いた後、追及に移ったときのことだ。

 検察側「被告が一番反応したのはどんなことでしたか」

 証人「死亡時刻について、私が『苦しんでいたのがパッと死亡するとは考えられない。専門医もおかしいと言っている』と言うと、押尾君がそれまでフランクに話していたのに『ふざけんじゃねえ、その医者連れてこいよ! アゲちゃん(被害者の源氏名アゲハの愛称)見てねえじゃねえか!』とキレた」

 取調室の様子が赤裸々に説明され、押尾被告は終始、検察官をにらみつけていた。

◆バブリーな生活も赤裸々

 田中さんが亡くなった東京・六本木ヒルズレジデンス23階の部屋は、事件当時、下着通販会社の女性社長の名義で借りられていたが、そこでの押尾被告のバブリーな生活も法廷で明らかになった。

 検察側が行った押尾被告の供述経過の確認によると、部屋の家賃は毎月50万円で、女性社長が「出世払いでいい。クリエーターには環境が大事」として押尾被告にカギを渡し無償で使わせていたという。生活に必要な家具が備え付けられ、光熱費も無料。押尾被告はそこに大型テレビやオーディオセットを買いそろえていた。当時は妻子がいたにもかかわらず、押尾被告にとって、快適な“セカンドハウス”だったようだ。

 

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