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新設「さくらんぼ小」校名変更へ 成人向けサイトと同名

2010年9月9日

写真:建設工事が進む「さくらんぼ」小学校=9日午後5時50分、山形県東根市、笹円香撮影建設工事が進む「さくらんぼ」小学校=9日午後5時50分、山形県東根市、笹円香撮影

図:  拡大  

 サクランボ生産量日本一を誇る山形県東根市が来年4月に開校する予定だった「市立さくらんぼ小学校」について、インターネット上で裸の少女のイラストが登場する同名の成人向けサイトがあることが分かり、市長は9日、校名変更を発表した。「ネット社会への認識が足りなかった」と釈明するが、その判断に賛否の声が上がっている。

 新小学校は児童532人が通う予定だ。「さくらんぼ小」という校名は昨年、市民に公募して決まった。集まった215点(783人)のうち、この名前に投票したのが132人でトップ。12月の市議会で承認された。

 東根市にとって、サクランボは街の象徴だ。市内にある山形新幹線の駅名は「さくらんぼ東根」、2002年から開いているマラソン大会も「果樹王国ひがしねさくらんぼマラソン」という。

 市教委の職員がインターネットでサイト「私立さくらんぼ小学校」の存在を知ったのは、校名が承認された後の昨年12月末だった。画面に成人向けの美少女ゲームソフトが並び、裸の少女のイラストなどが現れる。

 市は弁理士に相談したが「法律的に問題はない」との回答を得たため、変更の必要はないと考えていた。

 だがその後、「楽しみを奪わないで」「後から入って来たのはおまえらだ」といった内容のメールが届くようになった。同様のメールは2月から8月末までに計24通。「校名を変更して」といった市民からのメールも3通届いた。

 東根市の土田正剛市長は当初、「校名変更はサイトの世界を正当化することになる」との考えを示していた。

 だが読売新聞が校名とサイト名の類似を報じた8日、ネット上の掲示板での書き込みが600件を超え、話題となった。

 市には同日に51通、9日は午後5時10分までに42通のメールが寄せられた。ほとんどが校名変更を求める市民からのものだった。

 一方で「勇気を持って校名を貫いてほしい」といった電話も寄せられたという。

 9日、緊急会見した土田市長は、反響の大きさに戸惑っている様子で、「このまま開校すれば、入学式にネット仲間が詰めかけたり、子どもが被害にあう事件が起きたりするかもしれないと思った。行政として変更せざるを得ない」と語った。

 市は今月の市議会定例会の最終日に、市学校設置条例の改正案を出し、新たな小学校名を提案する。校名は、昨年の公募で寄せられた名の中から選ぶという。(笹円香、八鍬耕造)

■「堂々と名乗れば」「事前に検索、必須」

 「堂々とさくらんぼ小を名乗ればいい。明るくかわいらしく、街のシンボルとしてすばらしい名前なんだから」

 さくらんぼ小学校の校歌を作詞作曲した山形出身の作曲家、服部公一さん(77)は9日昼前、東根市教委から電話で変更を告げられた。だが納得がいかない。

 「果物の名の学校なんてたぶん全国ここだけ。かわいらしくてアピールできる」。校名にすっかりほれこんでいた。これまで各地で校歌を70ほど作ってきたが、さくらんぼ小の校歌は会心の出来で「光る六つのさくらんぼ」と副題をつけた。

 ♪豊かな木の実だ きみ ぼく 私 六つそろった さくらんぼ小学校

 オーケストラが演奏したCDも完成済みだが、歌詞やメロディーを一部変えなければならない。

 日立の洗濯機「からまん棒」などのネーミングを手がけたコピーライターの岩永嘉弘さんは「商品名などを考える時に、先行例がないかネットで検索するのは、いまや必須条件です」。もし重なったら、言葉を少し入れ替えたりする方法もある。

 でも校名を変える判断に、岩永さんは首をひねる。「さくらんぼ小」ができるのが東京・歌舞伎町のような繁華街なら、あらぬ誤解も生むだろうが、実際はサクランボや洋梨の畑が広がる。「サイトと同じ名前だからって心配する必要ないんじゃないですか」

 一方、IT関係者からは、校名変更について「やむを得ない」との声が相次いだ。

 実在の校名とサイト名が同じ検索画面に並ぶことで「サイトの内容と学校が関連づけられる」「校名に誇りが持てなくなる」などの懸念だ。

 ネット上の有害情報の通報窓口になっている「財団法人インターネット協会」の国分明男副理事長によると、報道を受けて、「山形のおかげで知名度が上がった」とサイトが話題になっているという。「そのままの校名なら今後もネット上で話題にされるだろう。山形の人には申し訳ないが、こういうことにも注意すべき時代なのだと反面教師にすべきだ」という。

 学校裏サイトの監視を自治体から請け負うガイアックス(東京都品川区)の蔵田三沙代さん(27)は「多くの人に支持された校名を変えるのは悲しいことだが、小学生に与える影響を考えると、やむを得ないのではないか」。

 来春、この小学校に入学予定の娘がいる男性(35)は、報道で同名の成人向けサイトがあると知り、ネットで検索した。「ゲームのリアル版かも」という書き込みを見て、他の学校の子どもにからかわれるかも、と不安になった。

 騒ぎになる前は、校名に抵抗はなかった。「校名の決定前にネット検索する必要を感じていた保護者は少なかっただろう」とも思う。だが今は「変えていただいた方が子どものためにはいい」という。

■サイト運営者「名称変更も」

 成人向けサイト「私立さくらんぼ小学校」の運営者は9日、「(東根市の)子どもや保護者の方々を不安にしてまで名称を貫こうとは思わない」として、児童の安全に配慮して名称変更も検討することをサイト上で表明した。

 これに対し、東根市の土田正剛市長は「仮にサイト名が変わったからといって、サイトの利用者が小学校に来ないとは限らない。校名を変える方針は変わらないし、今後もサイト側と連絡を取ることはない」と話した。

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