春の章
(4)ひねもす夕なぎ、まどろんで
海の見える駅。電車が静寂を破る=神戸市垂水区城が山、山陽電鉄滝の茶屋駅(撮影・峰大二郎) |
昼下がり、山陽電鉄の姫路行きに乗った。須磨駅を過ぎると、キラキラと光る海が見えてくる。
「春の海 終日(ひねもす)のたりのたり哉(かな)」。江戸時代の俳人与謝蕪村が一句詠んだのはこの辺り。「のたり」とは緩やかにうねる様を意味するそうだ。
滝の茶屋駅(神戸市垂水区)で下車した。高台にあり、姫路方面行きホームから大阪湾が一望できる。ぼんやりとかすむ海の上を、タンカーや客船、漁船が行き交う。「ぷぉぉん」。眠気を覚ます小さな汽笛が一つ。
沖では、ノリの養殖が間もなく終わり、タイ漁が本格化する。「のどかさは昔と同じだが、町は高齢者が増えた」。近くの人が教えてくれた。
一九七〇年代には一日一万三千人を超えた利用者も、今は約六千人。三年前、神戸空港が開港してからは「ぐぉー」と、くぐもる航空機の音が響くようになった。
夕刻。海がオレンジ色に染まる。「―カタン―カタン―」。乾いた音を立てて、特急電車がホームに入ってきた。
車窓に、仕事帰りか、眠りこけるおじさんたちの疲れた顔、顔…。「―のたり―のたり―」。レールを伝う音がそう聞こえたような。
(岸本達也)
(2009/04/20)
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