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昔話老人 |
9月9日(木)
会社の昼休み、昼食をとったあとはいつも近くのカフェでコーヒーを飲む。
今日もそこで本を読んでいたのだが、ふと本から視線を外した瞬間、
「今の時代は安い喫茶店が多くていいねぇ!昔はこんなのなかったよ!」
ちょっとしたスキに隣の席の老人に話しかけられてしまった。杖を椅子に立て掛けている。85歳くらいか?かくしゃくとしているがそれくらいはいっている。
読書を中断されて少しムッとしたものの、無視するわけにもいかず「そうですか」などと返事をしてしまった。
「これは大正生まれの人間には夢のようなことだ!」
「はあ…」
「私はね、群馬の高崎出身で、中曽根と同じ教室だったんだ。何年生まれだと思う? ね?」
(めんどくせぇ〜…)
「…大正10年ですか」
「9年だ!中曽根は軍の入隊試験に何度も落ちてねえ…。なのに後からわしを飛び越してどんどん階級が上がって…」
老人はこちらにお構いなしに延々と話し続ける。
営業の仕事をしていたとき、何日かにいっぺんはこういう客に出くわしたなあ。
この手の老人には話し相手がほとんどいない。それでいて時間だけはたっぷりあって…。
「中曽根はわしと同じ教室だったのだ。入隊試験に何度も落ちたのにアイツの階級はポンポンと」
…そして同じことを何度も繰り返すのだ。
夕方。仕事が終わって、一息つくために同じカフェに入ったら、奥からどこかで聞いた声と言葉が耳に入ってきた。
「大正9年に」
「中曽根と同期で」
「試験に何度も落ちて」
ハッと右ななめの奥に目をやると、あっ、昼間のジイサン、まだいたのか!
スーツを着た、40代ごろのビジネスマン風の男性に向かって話していた。話すとはいってもあくまで一方的な、そして何度も何度も同じ内容を繰り返す、牛のよだれのようにだらだらだらだらといつ終わるとも知れない昔話である。
男性はテーブルに書類を広げ、それを見るのに集中しているていなのだが、ときおり「なあ」などと同意を求められ、そのつど老人に向き直って「はあ…」と返事をしている。明らかに迷惑がっている様子。
ボクの近しい周辺にも、ここまではいかないものの、会うたびに過去の栄光や、有名人といかに親しかったか、そして羽振りのよかったときの思い出を話す人間がいる。
単に話したことを忘れているのか、自分にとって快いものだけを話したいという精神力の劣化なのか。それはわからないが、これは聞く側にとって本当に面倒くさいものなのだ。
トシをとってもああはなるまい。老人と男性とのやりとりを離れて眺めながら、ボクはそう誓ったのだった。
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