[2010年09月09日(木)]
【大相撲】白鵬が語る、相撲界への思い〜「再生するときは、今！」
武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki
秋場所が目の前に迫ってきました。
名古屋場所前から、力士たちの野球賭博問題などで、みなさま方にはご迷惑、ご心配をおかけしたことを、力士の代表として、まず謝らせていただきたいと思います。
不祥事を受けて、名古屋場所は開催すら危ぶまれ、番付発表も初日の１週間前という異例の出来事が続きました。
名古屋入りしてからも、いったい相撲が取れるのだろうか……という不安を私自身、ずっと抱えていました。だからこそ、中途半端な気持ちで臨みたくないという意地もありました。他の力士たちも同じだったはずです。「やる」「やらない」で、気合いの入り方も違うわけですからね。
「負けてたまるか！」
その気持ちだけでした。
でも、この期間の中で、自分を見つめる時間ができたことも事実です。
横綱として、何ができるか？
それは、「勝つ」ことです。勝ちたい。勝たなければいけない。
でも、自分から勝ちにいったんでは、結果にはつながらないんです。「勝ちたい」という思いを抑えて、とにかく15日間相撲を取り切ることが大事。
その結果、全勝優勝という最高の形で名古屋場所を終えることができました。
優勝パレードのために紋付袴姿に着替えて、ファンの方たちの前に出ていったとき、みなさんからの大声援を受けて、胸が熱くなりました。場所中もずっと温かい声援をいただいていましたけれど、逆にそれが怖かった。でもこのとき、「怖い」んじゃなく、ファンの方がいて、自分がいるんだということを確認できたんです。
今から80年前、相撲界で『春秋園事件』という大事件が起こりました。力士の地位向上、協会の体質改善を要求して、大量の関取が協会を離脱した事件です。このときは力士自ら協会を離れたので、今回のケースとは異なりますが、危機的な状況だというのは同じです。こういうときこそ、力士、そして相撲協会は、原点に戻るときなんじゃないかと思うんです。再生するとき、とでも言うのかな？
『春秋園事件』の後、私が尊敬する双葉山関らすばらしい力士たちも出てきた。ですから、今回のことを教訓にして、私たちが力を合わせていい時代を作り上げていかなければいけないと思っています。
８月の夏巡業では、謹慎していた関取が土俵に復帰して、みんながそろったということがまずうれしかったです。だから、朝の稽古土俵で、謹慎が解けた若手の豊ノ島、若荒雄、豊響らを指名して、思いっきり稽古をつけました。彼らは将来性のある力士だし、引っ張り上げることは、私の横綱としての仕事ですからね。
それでも、大関・琴光喜関が解雇されたことについては、いまだに納得できない気持ちがあります。先日の力士会で、「もし琴光喜関が引退相撲を開く場合は、力士会として協力しよう」という提案をし、力士たちの賛同を得ました。
彼は最高の大関でしたよ。今でもあんなに相撲がうまい力士はいないと思っています。土俵に上がったことのない人にはわからない気持ちかもしれないけれど、無念だったことでしょう。重ね重ね今回、アンケートによる自己申告をもとに、協会側から一方的な処分を下されたことは残念でなりません。
それはさておき、われわれが第一にすべきことは、相撲界へのみなさんの信頼を回復することだと思います。言葉じゃなくて、行動で。それには、元気な姿でいい相撲を取ることしかない。まずは、それに尽きます。
今、私には千代の富士関の連勝記録「53」という目標があります。でも、あんまり意識すると、力入っちゃうからなぁ。ともかく、千秋楽まで全力で走るつもりです。