中日スポーツ、東京中日スポーツのニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 中日スポーツ > 芸能・社会 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【芸能・社会】

押尾被告第4回公判 救急隊員、知人が証言

2010年9月10日 紙面から

 東京23区内なら、119番から30分以内の搬送が可能−−。合成麻薬MDMAを一緒にのんで死亡した飲食店従業員田中香織さん=当時(30)=を救命しなかったとして保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優押尾学被告(32)の第4回公判が9日、東京地裁(山口裕之裁判長)で開かれた。最大の争点である同罪をめぐり、現場に駆け付けた赤坂消防署の救急隊長ら5人が証人として出廷し、弁護側の「40分かかり、救命可能性は低かった」という主張と食い違う証言をした。田中さんの容体について押尾被告から連絡を受けた友人も出廷し、この時点では被告が死亡したとは話していなかったことも明らかにした。公判は10日も開かれる。

◆押尾被告 入念にメモ

 この日、押尾被告は最初の証人の証言を冒頭から猛烈な勢いでノートにメモしていった。ひととおりメモが終わると、視線を落としノートをなめるように見つめた。3人目の証人は田中さんの遺体の様子を生々しく証言したが、押尾被告は背中をやや丸め、熱心にメモをとった。4人目の証人の際にも熱心にメモをとっていたが、5人目の証人の際はほとんどメモをとらず、ついたてで覆われた証人の証言に聞き入っていた。退廷する際は、これまで3回の公判と同じように裁判長に向かって深々と一礼した。

◆裁判員 積極的に質問

 この日の公判では裁判員たちが、前回公判とは打って変わって証人に積極的に質問する姿が見られた。

 六本木ヒルズの防災センター職員への尋問の際には、男性裁判員が「緊急ボタンはどの部屋にあるのか」と質問。ほかの男性裁判員2人も「(住人は)ボタンに気付くものなのか」「センターに常駐しているのは何人ですか」などと疑問点をただした。

 この日の証言が今裁判の争点の一つである保護責任者遺棄致死の核心部分に迫るためか、裁判員たちは強い関心を持って臨んだようだ。

◆証人(1)麻布消防署救急係長A氏『麻薬なら一発で救命救急センター』救急救命の仕組み説明

 最初の証人は、麻布消防署救急係長のA氏。救急救命士の資格を持ち、救急隊員歴21年のうち15年を救急現場で活動、6年を部下の監督・指導にあたってきた。これまでに、睡眠薬の大量服用など300件以上の薬物事案を扱ってきた。

 女性検察官の質問に答える形で、A氏が救急救命の仕組みを説明。患者の重症度、緊急度によって「1次救急」「2次救急」「3次救急」に分類されることや、患者の症状を見分ける「観察カード」には症状の重い順に「赤枠」「青枠」「緑枠」があり、患者の意識や呼吸などをチェックし、重症かどうか判断される、と述べた。

 検察官は、昨年8月2日夕、田中香織さんの容体が悪化した様子を記載した書面を示したいと裁判長に要請。裁判長が認めると、大型モニターに書面が写し出された。

 「アゲハちゃん(田中さんの源氏名)の肩を揺すったり、ほおをたたいたりしながら『おい、しっかりしろ』と声をかけた」といった内容で、押尾被告の供述をまとめたものらしい。

 検察官 「オレンジのマーカーをひいた部分には田中さんがうなり声をあげ、上下に動かすボクシングのような状態になったとある。これはどんな状態ですか」

 A氏 「不穏状態で非常に緊急度、重症度が高い」

 検察官 「不穏状態とは」

 A氏 「意味のない行動を繰り返すことです」

 検察官 「観察カードだと、どの色に」

 A氏 「緑の枠の状態。ただ、これひとつだけでは、3次救急とはいえない」

 検察官 「(田中さんが)白目をむきだしたエクソシストの状態は」

 A氏 「オレンジよりさらに意識障害が進行している。青枠にあたり、救命救急センターへの搬送が必要。さきほどの緑の枠に加え、青枠がついたことで、総合的にみて3次救急となる」

 検察官 「女性が裸だと、どういうケースを想定するか」

 A氏 「経験からいって薬剤(違法薬物)を疑う。(その場にいた押尾被告にも)事情を聴く」

 検察官 「薬物を使用した場合は」

 A氏 「カードの中に麻薬(の項目)があるので、一発で救命救急センターとなります」

 事件のマンションから最も近い救命救急センターは、西に約1・5キロ離れた日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区広尾)。患者が心肺停止に陥った場合、一般的にどのような救命活動をするかについてやりとりして検察側の尋問が終了した。

 続いて、弁護側は瀕死(ひんし)の状態の薬物中毒患者を救うのは容易でないと示唆しながら、実際にどう対応するかについて質問。押尾被告は田中さんを蘇生(そせい)させようと、心臓マッサージを施したとされる。

 弁護人 「MDMAをのんだ患者について多臓器不全かどうか判断できる?」

 A氏 「できませんし、しません」

 弁護人 「仮に心肺停止になったらどうするか」

 A氏 「その場で心肺蘇生法に着手します。ストレッチャーを動かしながらでも。心臓マッサージは原則横、人工呼吸は頭の上で」

 裁判長の隣の裁判官が「(事件現場のマンションの一室で)人が死んでいる場合、かけつける時間に影響はあるか」と尋ねられると、A氏はきっぱり「まったくありません」と答えた。

◆証人(2)元麻布消防署員B氏『消防署から現場まで2、3分』救急出動の手順説明

 第2の証人は、事件当時麻布消防署に配属されていたB氏。事件現場に最も近い消防署だ。救急出動までの手順を説明したB氏は、検察側から「どれくらいで出動できる」と聞かれると「大体1分くらい」と証言。過去にも何度か現場のマンションから救急要請があり、道順は把握していたという。

 検察官 「消防署からマンションまでどれくらい」

 B氏 「だいたい2、3分」

 検察官 「昨年の8月2日(日曜日)午後6時ごろだと」

 B氏 「2、3分で到着可能です。日曜は車両も少なく、スムーズに走行できたと思う」

 検察官 「日赤医療センターまでどれくらい」

 B氏 「5分くらいですね」

 検察官が、2つの地図を大型モニターに示す。1枚目は麻布消防署からマンションまでの地図、2枚目はマンションから日赤医療センターまでの地図だ。2つの地図から、検察側は119番を受理してから、出動、救命、日赤までの搬送を短時間で行えると主張した。

 一方、これまで「仮に119番しても、病院までは40分以上もかかる」と主張してきた弁護側。検察側の主張には、信号が赤になったときなど時間のロスを考慮に入れていない、と質問をぶつけた。

 弁護人 「赤信号とか交通量が多いとき、(救急車が)減速する場合もあるわけですね」

 B氏 「その通りです」

 弁護人 「時速40キロということだが、道路状況によっては下がることも?」

 B氏 「そうです」

 ここで、弁護側は6月12日(金曜日)の出動事例を大型モニターを使って提示。これに、検察側は「それは金曜日でしょう。事件のあった日曜日とは車の量が違う」と単純な比較はできないと反論した。

 ここで男性裁判員から「消防署からマンションまでスムーズにいけないというのは、どういうケースか」と質問。B氏は落ち着いた口調で「信号が3つとも赤だったり、反対車線に車があって追い越せないケース」としながらも、影響については「2分くらいのロス」と速やかに移動できると証言した。

◆証人(3)赤坂消防署救急隊長C氏 田中さんに息があり薬物中毒とわかっていれば救命処置できた 現場の様子を説明

 3人目の証人は、一昨年10月から赤坂消防署に勤務する救急隊員歴22年の救急隊長のC氏。事件当日、田中さんが亡くなっていたマンションの23階の部屋に出動した。

 同署の記録によると、午後9時19分に119番通報を受けて1分後に出動。同28分に現場に到着。到着まで9分かかった。C氏によると、それまでに同マンションに3回出動し到着までにかかった時間は5−9分。事件当日は、過去3回の出動時にあった警備員の案内がなく、救急車の駐車場を探すため「3分ほどロスがあった」というが9分で到着したという。

 C氏ら救急隊員3人は巡回中だったマンションの警備員と合流し、救急車からストレッチャーを運び出し、非常用エレベーターに乗って23階へ。警備員がインターホンを鳴らすと2回目で119番通報した押尾被告の知人が出た。

 部屋に入ってC氏ともう1人の隊員が田中さんを確認。その時の様子が生々しく語られた。

 弁護人 「死後硬直の進行は」

 C氏 「全身に出ていた」

 弁護人 「死斑は」

 C氏 「背面部、背中の部分、特に首の後ろの部分に強い状態で」

 弁護人 「体温の状態は」

 C氏 「非常に冷たい状態。ただ、皮膚感覚で、検温したわけではない」

 そのため、C氏は押尾被告の知人に田中さんが誰が見ても死亡している「社会死」の状態であることを説明したというが、「最初に会った方(押尾被告の知人)は『後から来たので分からない』。別の方に聞いたところ『(女性は)顔見知りだが知らない人。詳しい者がもう1人いる』と言われた。後から来た人にも状況をきくと『顔見知りだったが、詳しいことは分からない』と言われた」とやりとりを振り返った。押尾被告はその時点で同マンション内の上階に“待避”していたため、部屋に残された人間たちの混乱ぶりがうかがえる。

 C氏は事件当日の119番通報の内容について「『倒れている』とだけだったので、救急隊のみの出動となった」とし、田中さんに息があり薬物中毒とわかっていれば、「その状態だと(搬送は)3次救急。薬物中毒だと酸素吸入、心電図モニターをつけるなどやることが決まっている。搬送に時間がかかることは考えにくい」と救命処置ができた可能性を示唆した。

 また「東京23区内なら、119番から30分以内の搬送が可能」と証言。「40分かかり、救命の可能性は低かった」と主張する弁護側の主張と食い違った。

◆証人(4)六本木ヒルズ防災センター男性職員D氏 3〜5分で部屋に到着できる ヒルズ周辺は渋滞することがない

 4人目の証人は、六本木ヒルズの防災センターの男性職員D氏。ヒルズにあるマンション各部屋から同センターに非常時に通報できるボタンがあり、押された場合、一般的に3〜5分ぐらいで部屋に到着することを明らかにした。

 職員によると、非常ボタンは部屋のリビングやトイレ、風呂などに設置されており、押されるのは年間100件近くで、その際、センターから119番通報するとともに、救急車の到着に備えて準備に取り掛かるという。

 また、職員は停止した心臓に電気ショックを与える自動体外式除細動器(AED)使用についてセンターに常駐している看護師が行えるとし、事件当日に通報があれば即座に対応できたことを示唆。さらに救急車がヒルズに到着するまでの所要時間にからみ、当日は日曜日だったが、ヒルズ周辺は曜日や時間帯に関係なく身動きがとれないほど渋滞することはないとの認識を示した。

◆証人(5)事件当日に被告と数回電話した友人のE氏 弁護側の死亡時刻を否定 午後6時35分被告から電話

 5人目の証人は、8月2日の事件当日に押尾被告と数回電話をしたという友人のE氏。公判の争点となっている田中さんの死亡時刻について、弁護側の午後6時ごろとの主張を否定する証言をした。

 E氏は午後6時32分、押尾被告から携帯に電話があったが気づかず、後で「至急連絡してくれ」とのメッセージが残されていたことを知った。再びかかってきた6時35分の電話に出たところ、非常に焦った口調で「大変なことになった。今すぐ六本木ヒルズに来てくれないか」と頼まれた。

 E氏は静岡県にいたため行けないことを告げたが、「何とかならないか」と再び頼まれた。E氏は押尾被告の緊迫した声から田中さんの容体が悪いと認識し、救急車を呼んだ方がいいとアドバイスしたという。

 E氏は検察側からこの電話の内容の詳細を聞かれ、「(押尾被告から)シャワーから出たら、女性が意識がなく、倒れていると言われた」と答えた。「(押尾被告から)女の子が死んだという話はあったのか」と尋ねられると、E氏は「意識がないということだったと思います」と振り返った。

 弁護側も反対尋問で「(押尾被告が)女の子が死んだと言っていたのでは」と確認したが、E氏は「全くないです」と、きっぱり否定した。

 検察側は田中さんが死亡したのは午後6時47〜53分ごろで、午後5時50分ごろに異常が発生した直後に119番すれば、遅くとも6時22分ごろには治療で田中さんを救命することができたと主張。弁護側は午後6時ごろに田中さんは死亡しており、たとえ、119番しても病院までの搬送に約40分かかるとしている。午後6時35分の時点で田中さんが生きていれば、弁護側の主張が崩れることになる。

 E氏は事件当日、押尾被告と共通の知人とも携帯電話で何度か連絡を取り合っており、午後7時11分の電話では「女性(田中さん)が危険な状態なので行っても仕方がない」と話したという。

 また、午後7時51分に携帯電話で元マネジャーに女性が死んでいるのか確認するとともに、救急車を呼ぶよう促した際、元マネジャーは「(押尾被告が)有名な方なので今すぐ呼べない。体から反応が出るものが出る」と話したという。

◆傍聴券求め511人が列

 「押尾裁判」を傍聴するため、東京地裁には9日も一般傍聴券を求めて511人が列をつくった。抽選の結果、傍聴券を得たのは72人、競争率は7.1倍だった。

 

この記事を印刷する


中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ