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2010年9月9日(木)付

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尖閣―争いの海にせぬ知恵を

東シナ海の尖閣諸島沖で、中国のトロール漁船が石垣海上保安部の巡視船に衝突し、中国人船長が逮捕される事件がおきた。尖閣諸島は、日本が領土と定めて実効支配しているが、中国も主権を訴える敏感なとこ[記事全文]

円高ドル安―もう「恐怖症」を超えよう

先進5カ国の代表らがニューヨークで円相場の大幅上昇を決めたプラザ合意から、四半世紀がたった。私たちはこの間、「円高恐怖症」に陥ってきたが、そろそろ卒業すべき時を迎えたのではないだろうか。[記事全文]

尖閣―争いの海にせぬ知恵を

 東シナ海の尖閣諸島沖で、中国のトロール漁船が石垣海上保安部の巡視船に衝突し、中国人船長が逮捕される事件がおきた。尖閣諸島は、日本が領土と定めて実効支配しているが、中国も主権を訴える敏感なところだ。それだけに、双方とも今回の事件には冷静に対処することが大切だ。

 海上保安庁によると、船長は日本の領海上で巡視船「よなくに」から退去警告を受けたが、船首を「よなくに」の船尾に接触させて逃走。別の巡視船「みずき」の再三の停船命令も無視して、急に船の方向を変えて「みずき」に衝突させた。

 「みずき」の船体はへこみ、甲板の鉄製のさくが倒れた。幸いけが人は出なかった。海保の発表によれば船長の行為は悪質で、逮捕は当然だろう。

 中国外務省は尖閣諸島は中国固有の領土であるとして、日本の巡視船による現場での活動の停止を求めた。

 中国のメディアは、巡視船が中国漁船にぶつかってきたと報じている。ネット上でも対日批判の書き込みが相次ぎ、北京の日本大使館前では抗議活動があった。

 真相の解明は捜査を待つとして、ここは国民感情の対立が新たな対立を招くことは避けねばならない。仙谷由人官房長官が「ヒートアップせず、冷静に対処していくことが必要だ」と語ったのは落ち着いた判断だ。

 グローバル化の時代になり、人や物の流れが盛んになっても、領土や領海をめぐる問題の解決は非常に困難だ。

 ましてや戦争の記憶が残る日中間の主権問題は、愛国心を刺激しやすく、とりわけ難しい。

 「我々の世代の人間は知恵が足りない。次の世代はもっと知恵があろう」

 中国の最高実力者だったトウ小平氏(トウは登におおざと)が尖閣問題について1978年にこう語って解決を後代にゆだねた。だが、一世代を経ても双方が納得できる策は見つからない。だからこそ、話し合いで対処するしかない。共に誤解や疑心を招くような言動は厳に慎むべきだ。

 日本政府は尖閣諸島の私有地を借り上げたり、海上保安庁に厳重に警備させたりして、活動家の上陸など問題が起きるのを防いできた。中国側も私有地借り上げや海保警備に異は唱えながらも、実力行使には出てこなかった。双方とも領土問題が日中関係を揺るがさないように配慮してきた。

 しかし、中国の近年の海軍力の増強の内実は不透明なままだ。ベトナム沖などの南シナ海で、武装した大型漁業監視船に守られて中国漁船が操業していることは、漁業と海軍・海洋当局の強い結びつきを想起させる。

 不信は不信を呼び、脅威感さえ招きかねない。このような事件を繰り返さず、平和な海を維持するために、日中は協働すべきだ。

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円高ドル安―もう「恐怖症」を超えよう

 先進5カ国の代表らがニューヨークで円相場の大幅上昇を決めたプラザ合意から、四半世紀がたった。私たちはこの間、「円高恐怖症」に陥ってきたが、そろそろ卒業すべき時を迎えたのではないだろうか。

 15年ぶりの円高水準のもと、民主党代表選でも円高・景気対策が争点になっている。政府は日本銀行とともに対応に追われ、急激な相場の動きには介入も辞さない構えを示す。

 為替変動で打撃を被る人々への配慮は大切だ。だが、円高に歯止めをかけようとしたり、影響を和らげたりするだけでいいとは思えない。

 振り返れば、デフレの遠因となったバブルも、プラザ合意以降の円高による不況圧力を緩和しようと、金融をゆるめすぎた結果だった。

 現在の円の急騰は、米国が低金利・ドル安による輸出主導の景気回復路線を進めていることの反映だ。欧州もユーロ安を容認しているので、増幅されて15年ぶりの円高水準になった。

 しかし、世界全体に対する円相場の変化を示す実質実効為替レートでみれば、過去25年の平均あたりだというデータもある。景気回復のためには円安の方が都合がいいことは確かだが、市場介入や日銀の金融緩和で相場をコントロールできる余地は小さい。

 とすれば、今や円高に適応し、現状を新たな成長の土台とするような構想力と政策が、企業にも政府にも問われているのではあるまいか。

 とくに多極化の時代には新たな発想が必要だ。アジアの新興諸国では今後5年で中間層が15億人に、富裕層も1億人に増えると見込まれる。この勢いを日本の産業の活性化につなげるために、円高も活用したい。

 実際、そうした動きはすでに始まっている。1〜8月の海外企業に対するM&A(合併・買収)は312件と、過去10年で最多のペースにある。

 アジアでの事業拡大や新分野への進出など、海外戦略の強化のために円高を利用して企業買収に動いたところも少なくないに違いない。

 これが現地生産に伴う国内産業の空洞化につながらないようにすべきだ。それには輸入コストの低下を武器に新たな事業を起こし、為替相場に左右されない内需型産業を育てたい。

 たとえば医療や介護、教育といった分野で、政府の新成長戦略に沿った規制緩和などをテコに産業の育成が真剣に追求されるべきだ。

 新規参入で経営の質を高め、職業教育で働き手の能力を引き上げる。そのために競争しやすい市場や制度を考えることも必要になる。

 円高にたくましく順応していく新しい産業構造をデザインする「政府の企業家精神」が、今ほど求められている時はないといえよう。

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