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vol.4 The 芸能界修行篇その一

 僕が入ったころの田辺音楽出版の状況はと言えば、吉田拓郎のバックでスーパーの紙袋を被っていた謎の三人組「アルフィー」が深夜放送から火が付き大ブレイクの兆しを見せていた頃だった。又、研ナオコさんが中島みゆきの作品「カモメはカモメ」で大ヒットし、他にも新人の中原理恵、高見知佳、倉橋ルイ子らが次々にヒットを飛ばしていた。会社にはこれらの人達がひっきりなしに訪れていた。その度に新入社員見習いとして紹介され、華やかな芸能界に自分が存在していると錯覚し、正直ポーっとなっていた。実際の僕は単なるバイト、パシリに過ぎなかった。仕事は相変わらずエジソン先生のローディだった。
 上条英男氏は前述の元テレサ野田、改名後「西園寺たまき」を田辺エージェンシーと共同マネージメントしていた。田辺エージェンシーの担当マネージャーは、アルフィーのマネージャーも兼任していた松浦さんという人だった。そして、僕は修業のためにこの松浦さんの元にアシスタントとして出向を命じられたのだ。
 さすが田辺エージェンシー生え抜きのマネージャー、松浦氏はただ者ではなかった。
厳しい細かいうるさいしつこい。仕事振りもとにかくプロだった。一度出掛ければ必ずTV、ラジオの出演、雑誌の取材、グラビアをもぎとってきた。アルフィーが今現在でもトップアーティストとして君臨している陰には、松浦氏という敏腕マネージャーの存在抜きには語れないだろう。しかーし・・・僕はこの松浦さんが嫌いでならなかった。毎日うんざりしていた。何度もぶちころしてやろうか、このヤローと思っていた。
そして、そんな僕の気持ちを見透かしたかのように上条英男氏の「魔の手」が忍び寄ってきたのだ。
 西園寺たまきは愛称「テリー」と呼ばれていた。
当然の事ながら松浦さんにくっついて回っているうちに上条氏ともテリーとも仲良くなっていた。上条氏は当時「シティワンミュージック」というマネージメントオフィスを経営していた。この会社にも何度も足を運んだ。
 当時、この「シティワンミュージック」にはとても可愛いデスクの女性が二人いた。
可愛いデスクの女性に魅かれた訳ではなかったが、いや、そうかも知れない、うーんどうだろう、まっ多少はあったかな。
 徐々に僕は田辺にいる時間よりもこの会社に滞空する時間が多くなった。松浦さんから逃げたい気持ちも強かったかな。デスクの女性二人は休み時間になると屋上に上り、毎日発声練習を行なっていた。多分タレント志望なんだろうなとは思っていた。
それからすぐに一人は「ゴーイングバックトゥチャイナ」という曲でデビューした。
名前を鹿取 洋子といった。もう一人はミスキャンパスと呼ばれ大ブレイクした川嶋なおみだった。今やワインで出来た血液を持つ変な女として有名だ。 川嶋さんは三上さんというマネージャーと「スリーアッププロモーション」という実に安直な名前の事務所を起ち上げ一緒に独立した。鹿取さんもデビューは何故か「シティワンミュージック」ではなかった。なぜだったかはさすがに忘れてしまった。まあ、なにかとさすがに言えないことも多くある。かんべん。
 上条氏からなぜか僕はとても目を掛けられ、しょっちゅうなんやかやとご馳走になっていた。業界では普通晩に「飯でも・・・」と誘われた時は大体酒呑みにが含まれる。
しかし、上条さんは酒が飲めず「飯を食いに行こう」という時はホントに飯を食うのだった。だから、ステーキだの焼き肉だの豚カツだのをよくご馳走になったものだった。そのうち、上条氏から僕は「シティワンミュージック」への入社を勧められた。
しかもテリーのマネージャー待遇としてである。迷った。大いに迷った。エジソン先生への義理もある。田辺音楽出版の人達はとても優しかった。 しかし、この上条氏、実に危ない魅力を持っていたのだ。未来の事なんて全く現実として捉えられないほどに僕は若かった。いずれ事情を知るが、上条氏の右手の小指は・・・第一関節から先が無かった。その頃は恐くて聞けなかったが、なんというかそんな所までが魅力に写ったのだ。極め付けはある日のTV朝日での事。
 テリーのTVの収録が済み、車に乗り込んだときだった。いきなり車が地震にでも遭遇したかのように大きく揺れ、天井に岩でも落ちてきたのかと思うような衝撃に襲われた。「な、なんじゃー」と思う間もなくフロントガラスに逆さまにサングラスを掛けたリーゼントへアーの男がぬっと顔を出した。そして、その男は叫んだ。
「ボスー!!」
上条氏がその男の顔を認めるや破顔一笑。
「おお、ひろし!!」
車から飛び出た上条氏はそのひろしと呼ばれた男と抱き合った。
「ひろし!!お前元気にやってるかー!!」
「ボスこそどうしてんすか、つめてーじゃないっすか。連絡くらいしてくださいよ」
そのひろし君は・・・元クールスの「館ひろし」だった。上条英男、館ひろしがボスと呼ぶ男。
 いやあ、上条さん・・・カッコよすぎだわ。この出来事は決定的だったね。その瞬間上条さんあなたに追いていきます!!と僕は決心した。
単純だったのだ。
 そして、その日から上条さんは僕の「ボス」になったのである。
田辺を去る事になった日、みんなが歓送会をしてくれた。乾杯の後エジソン先生は大ジョッキに入ったビールを僕の頭からどぼどぼと降り注ぎ、僕の頭を思いっきりひっぱたいた。そして一言。
「二度と戻ってくんなよ」
・・・人生はじめて人を裏切った。

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