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第十八話 怪盗紳士の挑戦状
<ボース市街 遊撃士協会>

次の日の朝、遊撃士協会へやって来たエステルとヨシュアは、アガットと合流し、日課となった魔獣駆除パトロールに向かおうとしていた。
そこへ、息を切らせた男性が遊撃士ギルドに駆けこんで来る。

「エステル殿と、ヨシュア殿はいらっしゃいますか!?」
「あたしがエステルだけど?」

自分を指名した見覚えの無い男性の登場に、エステルは戸惑いながらもそう答えた。

「私は王都の帝国大使館で働いているジェラルドと申します」
「はあ……」

自己紹介をされても、まったく声をかけられる心当たりの無いエステルは気の抜けたような返事をするしかなかった。

「レイナ殿から聞きました、エステル殿は姿を消してしまわれたフラッセお嬢様をわずかな手掛かりを頼りに探しだしたと」
「いえ、それほどでも」

ジェラルドにそう言われたエステルはそう言って照れ臭そうに頭をかく仕草をした。

「そこで、捜し物の名人のエステル殿とヨシュア殿にお願いしたい事があるのですが」
「そんな、名人だなんて……」
「それで、ご依頼の内容はなんですか?」

さらにのろけているエステルとは対照的に、ヨシュアが落ち着いてジェラルドに尋ねた。

「我らの主人、ダヴィル大使が直接会ってお話ししたいと言う事です」
「向こうがお前達を指名して居るんだ、行って来い」
「アガットさんはついて来てくれないの?」

エステルはアガットに不安そうな視線を向けた。

「もう指導係の俺が付きっきりで無くても大丈夫だろ」
「アガットさんは捜し物の依頼より、魔獣退治に行きたいんでしょう」
「へっ、わかってるじゃねえか、ずいぶんボース支部にも馴染んで来たようだな」

エステルとヨシュアはアガットに見送られて遊撃士協会ボース支部を出て行った。

「いいのか、2人について行かなくて。これが最後の事件となるかもしれないんじゃぞ」
「ふん、正遊撃士になれば顔を合わせる機会はいくらでもあるじゃねえか」

ルグランに尋ねられたアガットは、憮然としてそう答えた。



<ボース市街 フリーデンホテル>

フリーデンホテルの2階のとある部屋に、ボース地方を視察に訪れていた帝国のダヴィル大使の一行が宿泊している。
しかし、今日は朝から閉じこもって出て来ないため、ホテルの清掃係のディナもおかしいと首をかしげていた。

「バレリオさん、何があったか知ってます?」

ディナに尋ねられた、フロント係の壮年の男性、バレリオは首を振って答える。

「分かりませんが、オーナーの市長からは部屋に近づかないようにとのご命令です」
「お掃除もさせていただけないんですね……」

2階への階段を見上げながら、ディナは深いため息をついた。
そこへ、エステルとヨシュアを連れたジェラルドが姿を現し、2階への階段を登って行く。

「あの2人ってボース地方で研修中の準遊撃士さんじゃないですか?」
「そのようですね」
「遊撃士が来るなんて、やっぱり事件が起こったんですか?」

瞳を爛々と光らせて、自分を見つめてくるディナにバレリオは困った顔をしてため息をついた。

「遊撃士殿を連れて参りました」

そう言って敬礼したジェラルドの後に続いてエステルとヨシュアは緊迫した空気に包まれた部屋に足を踏み入れた。

「おお、待ちわびたぞ!」

ダヴィル大使は、やって来たエステルの手を取ると固く握りしめた。
エステルとヨシュアはダヴィル大使に圧倒され、棒立ちになっている。

「閣下、お話を遊撃士殿に」

ジェラルドとは違う、部屋の中に居た別の男性がダヴィル大使に声をかけた。

「おお、そうだったなバークレー君」

返事をしたダヴィル大使が勢い良く手を放したのでエステルはよろけてしまった。

「実は私が帝国より授かった、帝国大使の証である勲章を盗まれてしまったのだ」
「ええっ、それって大変な事じゃない!」

ダヴィル大使の言葉を聞いて、エステルは思いっきり驚いた。

「この事が周囲に知れたら、ダヴィル大使は辞めさせられるかもしれません。そして、後ろ指を指されて一生を過ごされる事になると……」
「そんなに大変なの?」
「うん、帝国の勲章は皇帝の代理人の証だからね」

バークレー書記官の言葉を聞いて、エステルがヨシュアに尋ねると、ヨシュアはそう言ってうなずいた。

「さらに、リベール国内で帝国の大使が盗みにあったとなればリベール王国の治安が疑われ、国際問題にもなりかねません」
「あたし達の責任は重大ね」

エステルは真剣な顔でゴクリとつばを飲み込んだ。

「いつ盗まれたのだと分かったのですか?」
「”怪盗紳士”と名乗る人物から挑戦状が届いたのだ」

ダヴィル大使はヨシュアの質問にそう答えると、1枚のカードをエステルとヨシュアに見せた。

『勇ましき双竜の勲章は我が手中に有り。取り戻したければ我の挑戦を受けよ。最初の暗号は88個の鍵の内、一番低い物を探せ』

カードにはそのような文章が書かれていた。

「エステル殿とヨシュア殿は、レイナ殿から得たわずかな手掛かりを元にフラッセ殿を素早く見つけられた。その活躍をまたお願いしたい」

ジェラルドはそう言って、エステルとヨシュアに頭を下げた。

「そ、そんなかしこまらなくても」
「暗号の解読と、勲章の奪取に全力を尽くします」
「うむ、くれぐれも内密にな」

エステルとヨシュアはダヴィル大使にそう言って部屋を出て行った。
2人が階段を降りて、ホテルから完全に気配が消えた頃、ダヴィル大使はバークレー書記官に念を押すように尋ねる。

「本当に大丈夫なのだな、失態がエルザ大使の耳に届いて見ろ、我らは笑い者にされるぞ。あの共和国の女狐だけにはバカにされたくは無いのだ」
「はっ、分かりましてございます」

バークレー書記官はダヴィル大使に向かってそう言って敬礼をした。



<ボース市街 ハーヴェイ一座のテント>

ホテルを出たエステルとヨシュアは、”怪盗紳士”が残した暗号の意味について考えていた。

「88個の鍵って……この街で一番大きい市長さんの家でもそんなに数は無いわよね」
「空港のコンテナにはたくさん鍵が掛けられているけど、荷物が持ち出されたら数が変わってしまうだろうし……」

ヨシュアの言葉を聞いて、エステルは何かを閃いたように手を叩く。

「そうだ、他にもたくさん鍵がありそうな場所があるじゃない」

エステルとヨシュアが向かったのは、巡業のために魔獣を閉じ込めた檻がたくさんあるハーヴェイ一座のテントだった。

「魔獣の檻の鍵を見せて欲しい? そんな事をしても時間の無駄だと思うよ、エステル君」
「何でよ?」

応対に出たブルブランに鼻で笑われたエステルはむくれた感じで言い返した。

「我々の一座には88個もの檻は無いし、どうやって一番低い鍵を探すのかい? 地面にはいつくばるように掛けられた鍵なんて存在しない」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「暗号なのだから、それは何かをたとえた比喩表現のものじゃないかな?」
「そうだ、グランドピアノ!」

ブルブランとエステルの会話を聞いていたヨシュアが気がついたように大声を出した。

「どういう事?」
「グランドピアノの鍵盤は88個なんだよ、きっと一番低い音の鍵盤に怪盗紳士の次のメッセージがあるはずだよ」
「この街でグランドピアノがある所と言えば……」
「アンテローゼだよ、行こう!」

興奮したヨシュアはエステルの手を引いてハーヴェイ一座のテントを出て行った。
自分を見向きもしないで去って行ったヨシュアに、ブルブランは愉快そうに笑い声を上げる。

「そんなに暗号の答えが解ったのが嬉しかったのかい、純粋な所があるじゃないか」

アンテローゼに入ると、正面のステージにグランドピアノが置かれているのが見える。
エステルとヨシュアは支配人のレクターに事情を話して、グランドピアノを調べさせてもらうと、一番低い音が出る鍵盤の所に、折り曲げられたカードが挟まっていた。

『次なる道しるべは商人達の憩いの場に沈みたり』

「これは簡単だね、僕にはすぐ解ったよ」

カードの文章を読んだヨシュアの顔はほころんだ。

「ヨシュアはすぐに解っちゃったんだ、凄いね~」

笑顔のエステルに褒められて、ヨシュアはますます得意満面になった。

「この街で、商人が関係する所と言えばボースマーケットの事だと思うんだ」
「ふむふむ」
「沈んでいるって言うのは、水の底に有るって言う状態の時にしか使わないし、ボースマーケットで水がある場所と言ったら……」
「なるほど、噴水ね! 確かに憩いの場って感じもするし……」
「それじゃあ、ボースマーケットに向かおうか」
「オッケー!」

エステルとヨシュアは、グランドピアノを調べさせてもらったお礼をレクターに述べてから、早足でボースマーケットへ向かった。
ボースマーケットにたどり着き、噴水の中を調べると、水に濡れてもにじまない特殊なインクでメッセージの書かれた怪盗紳士のカードを見つけた。

「えっと、次の暗号は……」

この後もエステルとヨシュアVS怪盗紳士の知恵比べが続き、エステル達は勲章を取りかえすためにカードに書かれたメッセージ通りボース市街の中を探し回った。
オーブメント工房の柱時計の振り子の裏、武器屋に立て掛けられた槍の取っ手、果てにはギルドの3階の本棚に納められた本にカードが挟まっているなど、怪盗紳士のカードは神出鬼没だった。

『挑戦者よ、これが最後の道標だ。始まりの場所は終わりに通ず。勲章の行方は案内人に聞け』

カードを見て、エステルとヨシュアは疲れた顔でため息を同時に吐き出す。

「やっと最後ね、今日は頭も足もフル回転だったからたまらなく疲れたわ」
「暗号はほとんど僕が解いているじゃないか」

最初はエステルに褒められて喜んで暗号を解いていたヨシュアだったが、エステルが途中から考えるのを全て放棄してヨシュアに丸投げするのを見て、ヨシュアはウンザリして皮肉の1つも言いたくなった。

「じゃあ最後の暗号は一緒に考えよう?」

エステルは最後のカードを見つめながらウンウンとうなっていたが、程無くして両手を上にあげてギブアップの構えになった。
ヨシュアはそんなエステルを見てため息を吐き出す。

「始まりの場所って言うのは、きっと勲章が盗まれて、僕達が調査を始める事になった場所、フリーデンホテルの事だと思うよ」
「なるほど、じゃあ行ってみれば何か解るかもしれないわね!」

ヨシュアがそう言うと、エステルは元気が出たようでフリーデンホテルに向かって駆けだして行った。

「エステルも虫の種類とか、自分の興味のある事には学習能力はあるんだけどね」

諦めたような顔でヨシュアはそう呟いて、エステルの後を追いかけて行った。



<ボース市街 フリーデンホテル>

息を切らせて駆けこんで来たエステルを見て、フロント係のバレリオは目を丸くした。

「そんなに慌てて、どうなさいましたか?」
「うーん、ちょっと捜し物をしているんだけど……」

バレリオに問いかけられて、エステルはごまかすように笑いを浮かべてそう答えた。
そこへ、追い掛けて来たヨシュアが話に加わった。

「多分、ホテルの案内人と言えばフロント係のバレリオさんの事だと思うんですけど」
「私がどうか致しましたか?」
「あの、双竜の勲章のようなものに心当たりはありませんか?」
「ええ、ダヴィル大使様が当ホテルにお越しになられた時に胸に付けておられた物ですね」

ヨシュアの質問にバレリオはそう言って頷いた。
しかし、直後にバレリオは悲しそうな表情を浮かべて首を横に振る。

「残念ながら、私には全く心当たりがありません」
「そうですか……」

バレリオの言葉に、ヨシュアは失望のため息をもらした。

「ねえ、やっぱり案内人ってジェラルドさんの事じゃない? あたし達をダヴィル大使の所に案内してくれたんだしさ」
「それだと、比喩になっていない気がするんだけど……そうかもしれないね」

エステルとヨシュアがフロントを離れようとした時、清掃係のディナが小箱を持って姿を現す。

「バレリオさん、大使さん宛てに荷物が届いているんですけど」
「ねえヨシュア、もしかして」
「うん、そうかもしれない」

詰め寄って来たエステルとヨシュアにディナは凄い驚いた。

「その箱の中身は、僕達が捜している物が入っているのかもしれません」
「中身を確認させて!」
「遊撃士様の頼みとは言え、事件性の無い荷物の中身をお見せするのは……」

ヨシュアとエステルに向かってバレリオは渋い顔でそう返事をした。
エステルとヨシュアの2人も、バレリオの言い分は正しい事は解っていた。
以前の準遊撃士の最終試験でも、エステルは回収目的の小箱を開けてしまい、シェラザードに怒られた経験がある。

「それでは、僕達がその子箱をダヴィル大使にお届けして、大使の許可を頂いて大使の前で中身を確認しましょう、それでいいですか?」
「それなら構わないでしょう」

バレリオにそう言われて、エステルはディナから小箱を受け取り、お礼を言ってヨシュアと共に2階へと上がっていった。

「おお、戻って来たか! それで、勲章は見つかったのか?」

部屋に入って来たエステルとヨシュアの顔を見て、ダヴィル大使は嬉しそうに身を乗り出すように尋ねた。

「多分、この箱の中に入っていると思います」
「どういう事だ?」

エステルが差し出した小箱を見て、ダヴィル大使は不思議そうに首をかしげた。

「ダヴィル大使宛てに届いた小包です、中身をご確認ください」
「では、危険な物が入っていてはいけないので、私が」

ジェラルドがそう言って包装を剥がすと、中から鈍い光を放つ双竜の勲章が姿を現した。

「おおっ」
「これは正しく……」
「間違いない、私が賜った勲章だ」

ジェラルドとバークレー書記官、ダヴィル大使は歓喜に打ち震えた様子で、感動の声を上げた。

「よくぞ勲章を取り戻してくれた!」
「でも、あたし達が何もしなくても勲章は大使さんの所へ戻って来たわけだし……」
「いや、君達が調査を引きうけてくれたからこそ、我々も落ち着いて待つことが出来たのだ」

エステルが申し訳なさそうにそう言うと、ダヴィル大使は首を振って否定した。

「バークレー書記官、例の物を」
「はっ」

ダヴィル大使に声をかけられたバークレー書記官はダヴィル大使に何か小さな物を手渡した。
受け取ったダヴィル大使は再びエステルとヨシュアの方へ向き直る。

「当エレボニア大使館は、そなた達の多大な功績を称え、ここに鉄騎功労章を授与する」

ダヴィル大使がそう言ってエステルとヨシュアに勲章を渡すと、ジェラルドとバークレー書記官による拍手の音で部屋の中は満たされる。

「2人とも、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいわね」

エステルは照れ臭そうに頭をかいた。

「今回は”怪盗紳士”の名を語ったただの愉快犯だったのかもしれません」
「こうして勲章が我が手に戻ったのだ、犯人について気に病む事は無い」
「これで視察ができますね」

ヨシュアが忠告しても、ダヴィル大使とバークレー書記官は、勲章を取り戻せた喜びだけで頭がいっぱいのようだった。

「勲章をその若さで、しかも外国人の方が授与されるのは珍しい事なのですよ、誇りに思って下さい」

そう言ったジェラルドに見送られて、エステルとヨシュアはダヴィル大使の部屋を出た。
その後、エステルとヨシュアは犯人の正体を探ろうとしばらく調査をしたが、目撃情報などは見つからなかった。
ディナに聞いても、小箱を渡されたのは普通の運送業者に見えたと言う事で、犯人の正体は解らなかった。
犯人は手袋をしていたと言う事で、カードの指紋もあらかじめ拭きとられていたようだった。



<ボース地方 ヴァレリア湖畔 川蝉邸>

事件の報告を終えたエステルとヨシュアは、ルグランと共に川蝉邸へと向かう事になった。

「受付を空けてしまって、大丈夫なんですか?」
「しばらくの間なら、スティンガーに任せても構わんじゃろう」
「スティンガー先輩って、頼りになるんだけどちょっと愛想が無いような気がするのよね、受付に立っていたら依頼に来た人は怖がってしまうんじゃないかしら」

エステルがそう言うと、ルグランは笑い出す。

「そうでもないぞ、あいつの落ち着いた表情は特に街のご婦人達に好評でな」
「スティンガーさんからは、ギスギスした殺気のような雰囲気が感じられないし、そんなに警戒される事は無いと思うよ」
「そっか」

エステル達が川蝉邸に到着すると、そこにはすっかり長期休暇で落ち着いた感じのカシウスとレナ、同じボース支部所属の遊撃士であるアガットとアネラスが待っていた。

「あ、エステルちゃんとヨシュア君だ!」

エステルとヨシュアの姿をいち早く見つけたアネラスは嬉しそうに飛び跳ねながらエステルとヨシュアに向かって手を振った。

「あんなに遠くから、よくあたし達だって分かったわね」
「目の良さには自信があるんだよ」

アネラスはエステルに向かって誇らしげにそう言った。
そしてエステルは、意外な人物が川蝉邸に来ているのを見つけて驚いた。

「アネラスのお祖父さん!」

エルフィード翁が桟橋で釣り糸を垂らしているのを見て、エステルは驚きの声を上げた。

「お祖父ちゃんも釣りがしたいからってここに来たみたいなの」
「フォッフォッ、わしとクワノはあいつの釣り仲間じゃ」

ルグランはチェックインを済ませて部屋に入り、しばらくすると書類のようなものを持って、川蝉邸のロビーで楽しそうに過ごしているブライト家の4人の前に姿を現した。

「ルグラン爺さん、それは……」
「まあ待てカシウス、皆を集めてからじゃ」

書類に気がついたカシウスを、ルグランが押し止めた。
そして夕食の時が近づき、散らばっていた宿の宿泊達がロビーを兼ねた食堂に集まってくる。

「夕食の前に重大な発表があるんじゃ」

席についたエステル達の前で、ルグランはそう宣言をした。
ルグランはエステルとヨシュア、アネラスに立ち上がって側に来るように指示をする。

「エステル、ヨシュア、アネラス。遊撃士協会ボース支部は、本日18:00をもって3人を正遊撃士として推薦する」

ルグランの宣誓が終わると周囲は拍手と称賛の声に包まれた。
推薦状を手渡されたエステルとヨシュア、アネラスは照れ臭そうにお辞儀をしてその声援に応えた。

「これでお主達3人はいつでもボース支部以外の支部に移籍する事ができる」
「ヘッ、やっとこれで俺もお前達のお守から解放されるってわけだ」

ルグランが説明すると、アガットは面白くなさそうな顔でそう言い放った。

「あら、エステルはそんなにご迷惑をかけたのかしら」
「い、いや……そう言うわけじゃ」

レナにそう微笑みかけられて、アガットは慌ててそう口ごもった。

「アガットはあたし達と離れるのが寂しくてそんな態度を取っているのよね、ツンデレだし」
「バカ、俺は寂しがっているわけでも、ツンデレでもねえ!」

エステルとアガットのやり取りでブライト家の家族が笑いを交えて盛り上がっている一方で、アネラスはエルフィード翁に別れを告げている。

「お祖父ちゃん、今までお世話になりました」
「うむ、剣術で教えるべき事は全て教えたつもりじゃ。これからは様々な場所に赴き、剣術以外の経験も積むんじゃぞ」
「うん、わかったよお祖父ちゃん」
「かわいい孫の顔が見れなくなると思うと、寂しいのう」
「お祖父ちゃん、そんな悲しい顔しないで!」

そう言ってお互いに抱き合うアネラスとエルフィード翁の姿を見て、エステル達はあきれたようにため息を吐きだした。

「やっぱりアネラスのお祖父さんって変わり者ね」
「リベール軍に剣術の指南役として招かれた時もあんな調子だったからな。モルガン将軍に俺よりも嫌われているかもしれん」
「……それはありえそうですね」
「剣術の腕は確かなんだけどな」
「俺はアネラスが居なくなった分、あの爺さんに師事を仰ごうかと思ったが、やっぱりやめとくぜ」

アガットはそう言ってもう一度盛大にため息を吐き出した。

「今日はお祝いと言う事で腕を存分に振るわせていただきました」
「川蝉邸の料理を楽しんでくださいね」

レナードとソフィーアの兄妹が自慢の川魚を使った料理を運んで来た。
食欲旺盛なエステル達は、目を輝かせて料理に食らいついた。
そんなエステル達の姿をカシウスとレナは嬉しそうに目を細めて見守っていた。
そして、予想より早くエステル達がボース支部を離れるきっかけになる依頼が舞い込む事になる。
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