選挙によって組織や集団のリーダーを選ぶというのは民主主義の世の中では当然のこととされている。9月に民主党の代表選挙があることは以前からの予定だし、そこに小沢さんが出馬することについても本来何の不思議もないし、民主党という組織が菅代表で事実上の敗北をした参議院選挙の結果を受けて代表を改めて選ぶというのも、ある意味当然といってよいのだろう。 そう思いながらも小沢さんの出馬について違和感が拭い去れないのはなぜか、考えてみた。 そもそも菅さんが首相であり代表であるのは、その前の鳩山さんが辞任したからである。そして菅さんは民主党内での代表選で(小沢グループの候補者に)勝ち、その後の国会で(民主党議員が全員菅直人に投票している)首班指名を受けて首相に就任した。政党政治と議院内閣制のもとではある意味当然の流れである。問題はそれがわずか2ヶ月半まえだということであろう。 民主党ではわずか2ヵ月半前に菅氏を首相にふさわしい人物として推挙し、国会の議決を経て「国民」の支持をうけたことになる。曲がりなりにも制度上国会を通す以上、菅首相は国民の意思である。適任かどうかはワタクシにはよくわからない、といっておこう。しかし国会の議決をへた首相の地位である。国民の意思を国会が示したのがわずか2ヵ月半前である。 もともと民主党の代表選挙は9月に予定されていた。だから、菅氏の代表の座も7月の選挙の結果でどうなるかわからないというのは当初から言われていたことだ。選挙で負けたら首相交代もありうるというのも、政治の世界ではすでに常識だったのかもしれない。 しかし、選挙で負けたら党の事情で首相を変える、というのはやっぱり変だ。代表を変えるのはいいが、今の制度では(必然ではないが常識的には)代表イコール首相だ。つまり民主党は9月の代表選挙を予定通りおこなうことで、はじめから「短期での首相交代も当然」との立場をとっていることになる。しかし、国民の意思はそんなに早く変わるものなのだろうか?首相とは国民が党に白紙委任しているのだろうか?少なくともある人を代表として戦った選挙で勝った結果選ばれた首相(代表)が辞任したら、選挙のやり直しなんじゃないの?という考え方もできる。まあ自民党のときもそうだったから、これは民主党のせいでもないのだが、やっぱりこの制度、どこか変だと思う。 ところで、菅氏自身が短い期間での首相交代に批判的であったことは知られている。 『(菅氏は)2009年に出版した著書『大臣 増補版』の中で、自民党出身の首相が短い期間で交代することを批判したあとで、以下のように述べていた。 「政策的に行き詰まったり、スキャンダルによって総理が内閣総辞職を決めた場合は、与党内で政権のたらいまわしをするのではなく、与党は次の総理候補を決めたうえで衆議院を解散し、野党も総理候補を明確にしたうえで総選挙に挑むべきだろう。」』(wikipediaより) ある意味真っ当な意見だと思う。(ワタクシはもっと過激であり、いったん国民の信託を得た以上、首相は自発的に辞任すべきではなく、死んだり職務不能になったとき以外は辞める場合かならず内閣不信任などの国会の手続きを経るべきだという立場。もっとも憲法上はそうなっていないけれど)。だとすれば、そもそも6月に首相が交代したのにわざわざ9月に代表選挙を予定通り行うこと自体が変だ、あるいは、菅さんの言うとおり衆議院解散なしに党内のアタマのすげ替えだけで首相が変わってしまうことが変だ、ということではないか? あえてこの制度を前提にするのなら、小沢さんがいまごろ立つのなら6月の代表選挙でたつべきだったのだろう。しかし政治の権謀術策に長けた小沢さんは負けそうな参議院選挙の前になどやるわけもない。はじめから9月にかけていたのだろうか?政治の世界では当然の作戦かもしれないけれど、この時期に短期の首相交代がいかに日本にとってマイナスかは言うまでもないのであり、そのことを知ってか知らずかこのような行動に出ている民主党の偉い方々の行動は、きわめて理解に苦しむ。鳩山政権のときに小沢氏がさまざまに口を出していたことがあきらかで、その結果が鳩山政権の迷走の一因だったはずだ。鳩山政権がこけたあと、小沢氏が代表選にでていたらその後の選挙はどうだったのだろうか?国民も議員もそういう思考実験をしてみる必要があるだろう。参議院選挙がおわってしばらく選挙をやらなくて済む段階でおもむろに腰を上げ、あえて国の最高責任者のポジションを変更しようとするやり方は、戦略的には優れているとしても、ワタクシは非常に国民を愚弄しているように思える。 ということで、違和感の根っこにあるのはいまの議院内閣制と党との組み合わせ方であり、またそれを権力闘争に利用している政治家の人々の思想とワタクシの考え方とのギャップだろうと考えた次第である。(自分が国民の多数意見だなどというあつかましいことを言うつもりはありませんので念のため。あくまで個人的見解です)。 ところで、今回しらーっと行動しているけれど、こういう問題を引き起こした最大の張本人(無責任かつ無能な行動で騒ぎだけ巻き起こして勝手に辞任した前の首相)の脳内はますます理解不能となっている。民主党のマニフェストはもともと実行不可能だと思っていたし、いずれだめになるとは前の衆議院選挙から思っていたのだけれど、せっかく多くの支持者がいたのにここまで短期間で失望感を思い切り拡大させたのは、この方の大きな功績である。こういう人がいまだに党のなかで重要な立場を占め、またそれが派閥を持っているということ自体、ワタクシには理解不能なのだ。かれは議員辞めるとか言っていたような気もするけれど、なんだか重要な舞台回しの役割を演じているように思えるし、来る党首選挙ではキャスチングボートを握りそうだ。こういう状況を見る限りにおいて、内からも外からも日本政治というものへの失望と不信が増していくということを、当事者たちはどれほど理解しているのだろうか? ところで裏技としては代表小沢氏で、首相は菅氏続投、ということもありうるのだけれど・・・それってもっとまずいんでしょうね。あと、もうひとつ興味深いは、もう完全に民主党に見切りをつけてぶち壊す(そして自民とくっついて保守大連立)ために出馬したのかな、という憶測。つまり負けることを前提に立つ。まあそこまで「国士」だったら、ワタクシはちょっとだけ見直しますけれど。海外の金融メディアはある程度予想されたことだが小沢氏の動きに対し批判的。ウォールストリートでもFTでも、あまりにも短期で変わりすぎる日本の首相という事実を指摘し、日本はそんなことやっている場合ですかね、といったニュアンスだ。FTが、小沢氏が代表選に負けたとき配下をひきつれて党をでて自民党とくっつくかもしれないという分析を紹介していたのが興味深い。 (追記) 菅首相は円高経済対策の概略を打ち出すべく今日3時から記者会見をやるみたいだけれど、そもそも1ヵ月以内に首がすげ変わる(主要な閣僚も含めて)可能性があるなかで、どれだけ意味があると考えてのことだろうか?まあこの辺はすでにウォールストリートジャーナルがきっちり今朝の段階で指摘している。要するに小沢さんが出馬を表明した段階で代表選までの政治的な対応が期待できないこととなった、とはっきり書いてあるのだが、そのように見られてもしかたないだろう。 |
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小沢氏、民主党代表選出馬意向表明
民主党の小沢一郎前幹事長は26日午前、鳩山由紀夫前首相と都内の鳩山氏の事務所で会談し、9月の民主党代表選挙に出馬する意向を伝えました。会談後、小沢氏は記者団に「鳩山前首相から、出馬を決断するなら全面的に支援していきたいとの言葉をいただいたので、鳩山氏の前で出馬する決意をした」と述べました。 これを受けて、同党の菅直人代表は「大変いいことだ。正々堂々と、自分が党の代表になったときは、首相として『国民のためにこういうことをやっていくんだ』ということを、小沢氏にも発言していただき、私もその決意を明ら... ...続きを見る |
歌は世につれ世は歌につれ・・・みたいな。 2010/08/28 00:29 |
小沢首相待望論のアホくささ
現状を打破できるのは小沢だけだ。なんていう幻想がまことしやかに、国会議員やマスコミやその他一部の人々の間でも信奉されているようです。単々と、そのアホくささを書いてみます... ...続きを見る |
ある日ぼくがいた場所 2010/09/05 13:45 |
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いつも大変勉強になるブログをありがとうございます。 |
55号 2010/08/27 12:39 |
野党時代から交代交代って叫んでた党だから・・ |
七さん 2010/08/28 17:39 |
前から決まってスケジュールだし、それなりに経緯もあるんでしょうけど、やはり納得することは難しいです。 |
mushoku2006 2010/08/28 19:46 |
政治プロセスなんて所詮こういうものを除外できないものだと僕はそう思っています。 |
通行人 2010/08/29 22:43 |
いや、そうじゃないでしょう。 |
たっくん♪ 2010/08/31 00:46 |
たっくんさんのコメント、すべて私が思っていることと同じです。 |
お染 2010/08/31 19:23 |
国外在住で、いつも貴ブログを読ませていただいているのですが、初めてコメントさせていただきます。本日菅さんと小沢さんの立候補の記者会見をUstrで見ました。小沢さんの政治家としての見識の高さと知識の深さに信服です。日本の首相にはこのくらい実質のある人になってもらいたい。なぜこれほどの政治家を民主党は今まで首相にしなかったのだろうと、これまでの民主党の迷走は、どういう意図なのか彼を中心から外そうとしたことからきているのだと思いました。 |
mandms 2010/09/01 22:57 |
間違いなく小生がいえることは、経済政策論をみんす頭のあほにいいたいというです。さてあなたは、どんなな観点で、その事業が採算ないといえるとでしょうか。ということで、バックテストを一つ。十ン年前に10年もの国債をかったか、やめて米国債を買っていかったというじょとですが。あなたの退職時には日米国債はそうなっているやら。というこのでワレワレは多々っかているんだよ。 |
karu 2010/09/01 23:58 |
さてKOとWASADA]ははっきてあほが多いのでが、さてここからが、面白いところで、米経済および、欧米の中銀のがやったことは、今今失敗である。対して今のロシアとか中国の指導部のここ2年における経済政策は基本的に今今、間違っていなかったというはだれが評価するんでしょう。だって今さー |
かる 2010/09/02 00:15 |
皆様コメントありがとうございます。まとめて出失礼ながら御礼申し上げます。違和感を別の言い方で言い直せば、1年前、3か月前と総選挙や代表変更という機会があったので、その時選ばれなかった人が選挙民と違う次元で選ばれてしまうということなのではないかと思います。やはり首相が代わるんだから、総選挙やり直しか最低でも民意を問う手続きが必要なのだと思います。 |
厭債害債 2010/09/07 06:08 |
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