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【芸能・社会】押尾被告 元国会議員にも相談電話 「(女性が)もういっちゃってる」2010年9月8日 紙面から MDMAを示す隠語はアミノ酸で、昨年8月2日の事件直前にも入手を依頼された−−。合成麻薬MDMAを一緒に服用して死亡した飲食店従業員田中香織さん=当時(30)=を救命しなかったとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優押尾学被告(32)の裁判員裁判の第3回公判が7日、東京地裁(山口裕之裁判長)で開かれ、MDMAを被告に渡した罪で服役中の男性(32)が証人として出廷、薬物をめぐるリアルなやりとりを明かした。もう一人の証人は元国会議員の男性で、救急車を呼ぶようすすめたが押尾被告が渋っていたことを証言した。次回は9日。 ◆事件3日前に薬物注文 メールの危険性指摘も無視午前10時から証言したのは、押尾被告にMDMAを渡し、麻薬取締法違反(譲渡)で懲役1年の実刑判決を受けた男性I受刑者。事件直前に押尾被告にMDMAを渡すに至った詳細な経緯を明かした。「MDMAは田中さんが持ってきたもの」と無罪を主張する押尾被告にとって、事件の鍵を握る“薬物仲間”の証言は判決の行方に影響を及ぼしそうだ。 2人は約2年前、押尾被告の所属事務所社員の紹介で知り合った。その後、食事を繰り返しながら、お互いに名前を呼び捨てで呼び合う親密さに発展した。 「薬物の話をするようになったのはいつごろから?」との検察官の質問に「昨年の春ごろ」と答えた。押尾被告から映画の撮影現場に誘われた際にカプセルを買ってくるよう頼まれたことや、自身が大麻取締法違反で逮捕された過去を押尾被告に明かしたという。 さらに押尾被告の薬物経験についてI受刑者は「『気分転換にたまにやる』と聞いたことがある。MDMAです。最初は“エクスタシー”と言っていました」と証言。入手先を「知り合いから」と話していた押尾被告は、I受刑者にも「入手できるか?」と依頼してきたが、「私は密売人ではないが心当たりがあって聞いてみたが、手に入らなかった」と話した。 検察官はこの後、2人のメールのやり取り、防犯カメラの映像などから関係者の詳細な行動をまとめた「時系列一覧表」を示し、事件の“核心”へと迫った。 検察官は、7月30日午後2時42分に押尾被告が送信した「アミノ酸入る?」というメールについて質問。I受刑者は「アミノ酸はMDMAの隠語で使っていた。押尾の発案です」と明かした。自分の過去の逮捕歴からこうしたメールの危険性を押尾被告に説明したが、気に留めなかったという。 押尾被告は午後2時47分、同51分と“アミノ酸”の入手をメールで督促。急いでいる理由について、「MDMAを使って他の女の子とセックスを楽しむんだろう」と想像したという。 ◆『女の子がゾンビになった』その根拠になったのが、5−6月ごろ押尾被告から聞かされた“ドラッグセックス”の話だった。2人とも体調が悪くなり、押尾被告は「女の子がゾンビみたいになった」「やばかった」などと話していたという。 押尾被告の依頼に応じたI受刑者は31日午後1時27分のメールで「アミノ酸は(単位が)10からになっちゃうから、10(錠)になったよ」と押尾被告に連絡。入手先については言葉を濁したが「3−4万円ぐらいで買った。カプセルではなくて押し固めた錠剤が10錠」と証言。色や形状、質感についても詳細に話した。 午後1時29分に押尾被告からのメールで午後5時に会うことを約束。午後4時56分に六本木ヒルズマンションに到着。MDMAの入った紙袋を受け取った押尾被告は中身を確認し、玄関の靴箱に行き、スニーカーの中に入れたという。「違法薬物を隠すときはスニーカーの中に入れると聞いた」と証言した。 さらに同日夜、押尾被告は米国で手に入れ、所属事務所のチーフマネジャーに持って帰らせた違法薬物入りサプリメントボトルを見せたという。「日本では出回っていない“エクスタシー”(MDMA)」と話していたという。 その後、押尾被告に勧められてその薬物を飲んだI受刑者。午後9時50分に「頭がボワボワ」などと押尾被告にメール。押尾被告も「アゲアゲ」「じんわりきたな。どうしよう」などと返信した。 そして事件当日の8月2日。押尾被告から空カプセルを買ってくるよう頼まれ、六本木のマツモトキヨシで購入後、午前11時ごろにヒルズのマンションに到着。午後2時32分にI受刑者と押尾被告のマネジャーがマンションを出た1分後に田中さんがマンションに入っていった。I受刑者は田中さんとの面識について、5〜6月ごろ西麻布で押尾被告から紹介された1度だけと明かした。 そして事件発生後の午後6時32分ごろから、押尾被告はI受刑者らに電話やメールをかけまくった。寝ていて気付かなかったI受刑者は午後8時12分に押尾被告に電話。「大至急来てくれ」と言われ、午後9時ごろにマンションに到着。部屋には既に押尾被告のチーフマネジャーとマネジャーもおり、押尾被告からは「薬物を大量に服用して、体調がおかしくなって死んでしまった」と説明を受けたという。 ◆隠ぺいストーリーは2つ 『事故』『身代わり』を提案I受刑者は押尾被告がその場で提案していた“隠ぺい工作”に言及。「ストーリーは2つ。1つ目はマネジャーが田中さんと押尾が貸した部屋で遊んでいて、その中で起きた事故だという内容。2つ目は押尾と田中さんが遊んだ後に、42階の部屋で押尾とチーフマネジャーと私の3人で仕事の打ち合わせをしていて、時間になっても田中さんが起きてこなかったのでマネジャーが部屋の様子を見に行ったら、田中さんの異常を見つけるというストーリー。最後はマネジャーを身代わりにしようという話になっていた」と証言した。 その後、午後9時19分に到着した押尾被告の知人が119番通報。救急隊の到着前に部屋を出た押尾被告は非常階段を使って23階から42階まで移動し、途中でついてきたI受刑者に「これなんだよね」と言って白いプラスチックボトルを手渡した。これについては「MDMAの残りだと思い受け取った。処分してほしいということだと思った」と証言した。 受け取ったボトルの中身を42階の部屋のトイレに持ち込んだI受刑者。「私が渡したMDMAをすりつぶして入れたようなカプセルが6個と粉末があった」と証言。処分方法については空のカプセルだけトイレに流し、薬物はビニール袋に入れてごみ捨て場に捨てたという。 その後、押尾被告から「体から薬を抜く薬」の手配を頼まれ、代わりに落ち着かせる薬を知人に手配し、2人で錦糸町のホテルに移動した。そこで押尾被告の携帯電話に警察から電話がかかり、押尾被告は「今の状態では出られない。何て言えばいいかわからない」と動揺。田中さんに送信した「来たらすぐいる?」のメールについても相談され、「すぐにおれ自身が欲しいか、ということにするしかないよね」とすり替え案を持ち出した。 さらに押尾被告は警察に出頭する前、「アッコのことをよろしく頼む」と、当時妻だった女優矢田亜希子を気遣う発言をしていたという。 I受刑者は「私を含めて今回の裁判で多くの証人が証言しているが、どういった思いで証言しているのか押尾には理解してもらいたいし、田中さんとか遺族のことを思うつもりなら、潔く認めて責任を取ってもらいたい」と話した。最後に検察官から前科を理由にした司法取引の可能性を聞かれ、「そういうことはありません。苦渋の選択でした」と証言を締めくくった。 ◆スポーツクラブで知り合い親交2人目の証人B氏は、匿名を条件に出廷。プライバシー保護のため、傍聴席との間についたてが置かれた。 B氏は1年半前に通っていた都内のスポーツクラブで、同クラブの会員だった押尾被告と面識を持った。昨年3月に同クラブのインストラクターから押尾被告を紹介され、食事をしたり押尾被告のコンサートに足を運び親交を深めた。 事件当日、B氏が都内で商談中、押尾被告から電話があり、「『連れの女が意識がない。ヤバイっすよ』と言っていたので、『落ち着きなさい。すみやかに119番して、できる限りのことをしなさい』と言った」。そして、うろたえていた押尾被告に救急車を呼ぶことをすすめたという。 B氏は商談を抜けられなかったため、自分の友人から電話させる旨を押尾被告に伝え、以後何度か電話でやりとりしたが、「彼は119番したかは答えず、『マネジャーを呼んでいる。付き人を呼んでいる。まだ来ない』と繰り返した。芸能人はマネジャーがこないと何もできないのかと思いながら、119番通報しないことを腹立たしく思った」という。午後7時10分に「もういっちゃってるんですよ」と告げられたという。 剣道と空手の経験があり蘇生(そせい)術も知っていると証言したB氏に弁護人が、「どうして何らかの指示をしなかったのですか」などと執拗(しつよう)に質問。田中さんの救命にB氏が積極的に協力しなかったかのような印象づけを図るともとれる内容に、裁判長と検察官からたしなめられ、傍聴席から失笑が漏れるひと幕もあった。 東京地検は閉廷後、B氏が元国会議員だったことを明らかにした。 ◆「アミノ酸」は筋トレしてるから一方、弁護側はI受刑者に対し、田中さんが服用したMDMAが押尾被告に譲渡したものだったのかどうかという点を中心に質問した。 弁護側 「あなたが渡したものを使ったかどうか押尾さんに聞きませんでしたか」 I受刑者 「聞いていません」 MDMAの持ち主が押尾被告と田中さんのどちらだったかは今回の裁判の焦点の一つ。事件当日、押尾被告は誰のものを使ったかをI受刑者に言わなかったが、「薬をたくさん飲み過ぎて(田中さんが)おかしくなった」と状況を説明した。 隠語を「アミノ酸」とした理由については、押尾被告が「よくオレが筋トレしてるので」と言われたと証言した。 7月に押尾被告からMDMAの入手を頼まれた時に断ることができたのではないかとの質問には「押尾の頼みであれば聞いてあげたいと思っていたので、素直な気持ちで応えた」とした。事件後、譲渡した自分に捜査が及ぶ可能性があるにもかかわらず、押尾被告に警察への出頭を促したことについて「長引けば押尾が不利になると思い、自分のことより、本人のことを思った」と打ち明けた。 ◆この日の押尾被告押尾被告はこの日、前日の公判と同様、白いワイシャツ、黒いスーツ、青いネクタイ姿で出廷した。 証人の証言内容に、時折首を横に振るなど動きのあった前日とは打って変わって、この日は終始無表情。背筋を伸ばし、正面にある証人席の方を見たままの姿勢が続いた。時折、ボールペンでノートにメモを取るぐらいで、最後までほとんど動きらしい動きを見せなかった。 I受刑者の証人尋問が終わった後には、隣に座る弁護士らの方を向き、証言の内容を検討したのか、少し長めに会話を交わした。B氏の証言の際には無表情で、じっと見詰めていた。閉廷時は前日と同じく、裁判長に向かって深々とお辞儀をした。
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