★★★★☆(評者)池田信夫

2020年、日本が破綻する日 (日経プレミアシリーズ)2020年、日本が破綻する日 (日経プレミアシリーズ)
著者:小黒 一正
日本経済新聞出版社(2010-08-10)
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日本経済の最大のリスク要因は、巨額の財政赤字である。これは民主党の代表選でも争点になっているが、菅首相にも小沢一郎氏にも打開策があるようには見えない。それより深刻なのは、財政赤字による世代間格差の拡大について、どちらもほとんどふれないことだ。本書は、財政と世代間格差の問題を実証データで検証したものだ。

政府債務の返済がいつ行き詰まるかについて、著者は遅くとも2020年までに国内の家計貯蓄を食いつぶすと推定する。そうすると外債を発行するしかなく、長期金利が上昇することは避けられない。国内のバランスシートでは「家計貯蓄=政府債務+企業債務」なので「家計貯蓄が尽きたら企業が国債を買えばよい」などという話はナンセンスである。

「財政危機説は狼少年だ。ずっと低金利が続いてるじゃないか」という楽観論に対しては、この10年が異常な不況であることを示す。国債の利回りは成長率に見合って下がってきたので、景気が回復すると金利は上昇する。長期金利が5%台になると国債費(利払い)は20兆円増え、それが財政破綻のリスクを高めてさらに金利が上がる・・・という悪循環に入る可能性がある。

「純債務はそれほど大きくない」という話もあるが、これは逆だ。政府の保有する金融資産をすべて簿価で売却できるなら政府債務は300兆円ぐらいになるが、売却できるのはごく一部で、年金債務を含めると1430兆円にふくらむ。

「政府には徴税権があるので国債の債務不履行は起こらない」というのは、テクニカルには正しい。必要な財源を増税や年金保険料の増額でまかなえばいいので、将来世代が高齢者より一人8000万円も超過負担する世代間格差を容認するなら、債務不履行は回避できる。国債の消化が困難になれば、日銀に引き受けさせてインフレにすればよい。つまり財政危機は、本質的には世代間の利害対立なのである。

このまま何もしないと、10年以内に金利上昇とインフレと通貨不安が始まるだろう。長期にわたって蓄積した財政のひずみを是正するには、消費税を20%以上にし、年金を積立方式に変更するなど、きわめて大規模な制度改革が必要だが、これには数千万人の既得権がからむため、政治によほど強い指導力がないとできない。どちらが代表になっても、民主党政権では無理だろう。