「ピスト」と呼ばれる競技用自転車にブレーキを装備せず、公道を走る愛好家が増えている。しかし今年に入り、ピストにはねられた歩行者が死亡したり重傷を負ったりする事故も相次いで発生。ブレーキ無しの自転車が公道を走るのは道交法違反なうえ、事故にもつながりかねないため、警察は交通違反切符を切るなどして取り締まりを強化している。【田辺佑介、馬場直子】
東京都渋谷区で今年2月、歩行中の60代女性が30代の男性会社員運転のピストにはねられ、1週間後に死亡した。同区では5月にも、自宅前を掃除中の90代女性に20代の男性会社員運転のピストが後ろからぶつかり、女性が肩を骨折した。警視庁原宿署が、それぞれ重過失致死と重過失傷害の容疑で捜査中。また福岡県警は7~8月、福岡市中央区・天神など中心街で取り締まりを強化し、制動装置不良で4人に5万円以下の罰金となる切符を切った。
ブレーキ無しのピストは、主に競輪選手や部活動向けに専門店で販売されている。インターネット上のオークションでは、中古品が3万円程度で買え、数千円で落札できるケースもあり、選手以外でも購入可能。ブレーキ無しで販売しても違法性はない。ブレーキ付きで販売している自転車店もあるが、「ワイヤがスタイリッシュでない」として取り外す愛好家も少なくない。
人気は関西でもじわじわと拡大。京都市中京区の繁華街でブレーキ無しピストに乗っていた20代男性は、「事故も多いと聞くが、普段から練習しているから大丈夫。扱えない人は乗らなければいい」と話す。しかし警察庁は「制動装置が備えられていない以上、道路上での使用は原則として違反」との見解だ。
自転車メーカーの「ブリヂストンサイクル」(埼玉県)は危険で違法であることを注意書きしているが、「お客さんが自分で外してしまうとどうにもならない」(広報担当者)と困惑している。自転車協会(東京都港区)も、「競輪選手でも公道での練習には前後にブレーキを付けている。ピスト自体は悪くないが、ブレーキ無しでの公道走行は大変危険」と警鐘を鳴らしている。
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■ことば
トラック競技用で、ペダルと後輪の動きが一致する固定ギアを採用。ペダルを止めれば車体は止まり、後ろに踏めば後退するため、停止するには相当な脚力が必要となる。部品が少なく整備しやすいことなどから、00年代に入って東京を中心に全国に広まったとされる。道交法は、時速10キロで走行中、3メートル以内で停止できるブレーキを前後輪に備えるよう規定。ペダルでの停止はブレーキとして認められていない。
毎日新聞 2010年9月8日 大阪夕刊