Hatena::Diary

突き抜けないブログ

2010-09-08

明日オープン

「ご隠居ご隠居、てえへんだあ!鰻屋本舗が赤坂に新店を出すんだってよ。」

「八さん、情報が遅いねえ。ブログツイッターではその話題で持ちきりだよ。明日9月9日にグランドプリンス赤坂内に出店ってね。だけどさ、そんなに驚くことかい。」

「だってさ、鰻屋本舗っていえばさ、「久保屋」とか「杉本屋」とかのれん分けした店がたくさんあったのに、みな「升田屋」や「ゴキゲン屋」チェーンに鞍替えしちゃったじゃない。老舗の升田屋なんて10年前は店じまいする寸前(2000年は14局)だったのが、今や1ヶ月に10店も出す勢い(2010年1月〜8月で100局越え)だし、新興チェーンのゴキゲン屋にいたっては1日1店の猛烈な出店攻勢(1月〜8月で181局)をかけてフランチャイズを増やしている。久保屋なんて両方に加盟しているしね。それに比べ鰻屋本舗は今や銀座の本店を守るのが精一杯じゃない。それがどうして赤坂の1等地に店を出せたんだい?」

「おやおや八さんは、店主のここ数年の苦労を見ていなかったのかい?主人も悩んだんだ。このまま鰻屋と続けていいかなってね。そこでな、屋台を出したんだよ。ラーメン屋(矢倉)をな。」

「えっ、ラーメン屋? ご隠居、店主は鰻一筋25年じゃなかったけ?それにラーメンは誰でも作れるけれども競争も厳しく、もとい矢倉は誰でも指せるけどその分研究も進んでいてとても厳しい土俵じゃないの。それにいざラーメンを作ろうと思っても▲7六歩△3四歩▲2六歩に△3二金と、トンカツ(1手損)とかオムライス横歩取り)とか注文されたらどうするの。」

「そんなことは分かっているさ。だから▲7六歩△3四歩に▲6六歩からと、お通しの出し方から違うんだ。」

「だけどその出だしから矢倉じゃあ、後手飛車先不突きとか急戦矢倉とかされて、主導権が取れないじゃない。相手の作戦まで全てコントロールするのが藤井システムだ。客の注文通りの品を出すのではなく、私の料理を黙って味わいなさいというのが店主のこだわりだったでしょ。」

「うん、そのことでは苦労していた。で、研究に研究を重ねてついに作り上げた味が「藤井流早囲い矢倉」だ。矢倉というのは仕込みに時間が掛かる。手数が美濃囲いの5手に対し、矢倉は角の移動に2手(7九角〜6八角)必要なこともあって10手以上かかるからね。この仕込みの工程に店主は目をつけた。そこで飛車先不突きが主流のなか、あえて▲2六歩〜▲2五歩を決めた。これで後手に守勢を強いてから、▲6八玉〜▲7八玉と早囲いする。これなら6八角の1手を省けるから主導権は握れると。」

「それは「寅屋」の看板でおなじみの田中寅彦九段が昔出していた定食だね。その味を現在によみがえらせたのか。」

「ただよみがえらせたのではないよ。6四角には4六角と、角対抗型で有名な脇謙二八段の「脇屋」の味つけも応用するとか、場合によっては7八玉6七金6八金の「片矢倉」にするとかして独創的な料理に仕立て上げているんだ。もともと店主は居飛車だろうが振り飛車だろうが、全ての料理を研究していてなんでも作れる。だが、オリジナリティのない料理は嫌うからね。」

「片矢倉! 絶滅していたあの幻の味を復活させたのか、それはすごいねえ。」

「もちろんそれだけ年月は掛けているよ。銀座の店を守りつつ屋台を出してと、どれだけ苦労したか分かるだろう。」

「でもまだ分からない。それだけで赤坂に店をだせるのかい? 羽生・深浦・森内・佐藤・郷田…繁盛店は、いやトップ棋士は皆矢倉の味にはうるさい。若き渡辺竜王だって矢倉では15年以上のキャリアがある。店主といえども年期ではかなわないでしょう。あっちは小学生の頃から矢倉を修行しているんだから。」

「そこでだ。その繁盛店に負けないために店主はまた新しい料理を作り上げたんだよ。「鰻ラーメン」、いや、「矢倉藤井システム」だ。」

「ご隠居、私が味オンチだからってご冗談を。鰻とラーメンを合わせるってそんな無茶な。そもそも藤井システムは居角、矢倉は引き角で、角の使い方が全く違う。駒組も行程も全く違う二つをあわせてもうまくいくわけないじゃないの。」

「まあ八さん、王座戦挑戦者決定戦を見てみなさい。

http://kifulog.shogi.or.jp/ouza/58_2/index.html

この将棋、後手は△5三銀と急戦矢倉を匂わせているね。ここで▲3七桂で△4四歩を強要して出足を止め、そして6八玉〜7九玉と矢倉ではなく高美濃にしたのが囲いの革命児ならではの仕込みだ。」

「さらにここからが店主の腕の見せ所だ。藤井は飛車先交換をあえて許し、そして▲6五歩〜▲4五歩で開戦だ。高美濃+急戦矢倉なんて見たことないだろう。これこそが店主の新作だ。「6六歩と角道を止めている先手では急戦矢倉系は出来ない。」この常識を店主は打ち破ったんだよ。長年「藤井システム」で鍛えた腕前は、他の料理をやらせてもひと味もふた味も違うだろう。」

「これはすごい。矢倉で深浦を攻めまくって圧倒するなんて、これはまさに絶品だ。」

「そうでしょう、ところで八さん、この符号どこかで見たことないかい。」

f:id:katsumata321:20100908093109g:image

「あっ、「4五歩」に「6五歩」は、角道をあける手、決戦する手と、藤井システムの象徴じゃないですか。角の利きと桂のサポートでの攻撃という、まさに鰻屋本舗の味だ。なるほど、矢倉ではなく高美濃にして、引き角ではなく居角のまま角道を通すことによって、鰻とラーメン、もとい藤井システムと矢倉を合体させたのか。これなら2つの味は衝突しない。さすがすぎる。」

「この挑戦者決定戦を味わいながら、ご主人のコメントを読むといい。」

http://fujii-system.com/


「いつも皆さんのご声援に励まされています。ありがとうございます。

王座戦は久しぶりのタイトル戦でもあり、また羽生さんと戦えることが嬉しくもあり楽しみでもあり、今の自分の持てる力はすべて出すつもりです。

最近の振り飛車党の席巻に私も一役かえればと思っています。棋界唯一の(?)矢倉も指せる振り飛車党として、いかに戦うか注目していて下さい。

銀座本店の鰻屋のメニューにラーメン定食が正式採用されました(笑)屋台から2年。長かったです(笑)ただこのメニューが王座戦で採用されるかはまだ不明です(笑)」


「八さん、「屋台から2年」って文章は涙が出てくるでしょう。3月には危うく銀座の店まで手放すところだっただけに、ようやく苦労が報われたよね。」

「ご隠居、こりゃ9日は必ず見なきゃいけないねえ。」

「当然だ、将棋界通を名乗るなら、この勝負は絶対見逃せない。そうそう今回はテナントのオーナーも出店にあわせて粋なはからいをしていてね。」

http://www.shogi.or.jp/topics/2010/08/58-6.html

解説者 渡辺 明竜王、聞き手 上田初美女流二段

入場無料

会場 日本経済新聞東京本社 2階 SPACE NIO

地下鉄大手町駅C2b出口直結、竹橋駅4出口徒歩約5分)

「なんと、竜王戦で羽生名人と戦う渡辺竜王と、藤井将棋の大ファンである上田女流二段で解説会か。これ以上ないコンビだね。」

「そうだ。当日は午後6時からだが、行列は必死だ。早く駆けつけねえと見られないかもしれないよ。」