2010年9月8日0時3分
政府は円高を懸念し、日銀も交えてその阻止に努めている。しかし、現在の円高進行の背景を考えると、これを阻止するためのコスト、つまり国民の負担は相当大きくなる。
まず今日の円買いの主役は、日本経済を狙い撃ちするファンド筋ではない。このところのヘッジファンドは資金の流出が目立ち、積極的に相場を動かす力がなくなっている。代わって相場に影響力を持つようになったのが日本の個人投資家と中国の外貨準備ファンドだ。
数字での把握が困難ながら、近年個人の投資マネーが累増し、ヘッジファンドにも恐れられるほどの影響力をもつようになった。そのマネーが、海外経済に不安の芽が大きくなると、外貨売りの円買い戻しを呼び、円高要因になる。また中国は外貨準備が既に2兆5千億ドルにものぼり、これをドルやユーロで運用していたが、いずれの通貨も不安定になっただけに、最近ではより安全な円や金にシフトしている。
この流れを止めるには、米国の景気不安や欧州危機を和らげる必要があるが、その点で日本にできることは限られる。それを無視してドルやユーロ以上に円保有を魅力の無いものにしたり、あるいはこれを不安に陥れたりすることは、為替の安定以前に、国民財産の安全保持に反する。日本の金利は既に下げられないところまで下がっている。そもそも日銀の実質実効レートによれば、円は15年前の水準よりまだ3割も円安だ。
一部の輸出企業のために国民に一層の負担を強いるより、むしろ海外企業の買収を容易にし、輸入コスト低下の消費者還元を進めるなど、円高のメリットを最大限生かせるような仕組みを考えたほうが建設的だ。(千)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。