森首相買春疑惑

 

 月刊誌「噂の真相」が6月号(00年5月10日発売)に「『サメの脳ミソ』と『ノミの心臓』を持つ森喜朗“総理失格”の人間性の証明」と題した記事中で,森首相が早稲田大学在学中の1958(昭和33)年に売春等取締条例(現行の売春防止法の前身)違反で検挙されていた,という買春疑惑(「警視庁OB」談==「売防法とは違って,当時の条例は売春業者側だけじゃなく,客も検挙したからね。森は検挙された客の1人だった。結局,石川県では有名なエライ町長さんの息子で,将来もある若者だということで,1週間ぐらいで起訴猶予になったと記憶している」)を明らかにした。

この記事に対して,森首相側は「事実無根で,名誉棄損だ」として00年5月17日,東京地裁に1,000万円の損害賠償請求訴訟を起した。

この件で東京地裁は,警視庁に犯歴調査を命じた。だが,警視庁は「犯歴経歴は犯罪捜査のために収集・保有しているもので調査には応じかねる」と拒否回答をする(これに先立ち00年5月12日の衆院法務委員会でこの問題が取り上げられ,法務省の古田佑紀刑事局長は一般論としてではあるが,「事件が送致あるいは立件された場合,事実と,どんな処分がされたのかを記載したデータがある」と述べていた)。

ところが,疑惑を報道した直後に,神奈川県警公安第一課長が県警の照会センターに首相の犯歴を照会・報告を受けたやりとりが記された文書(照会結果として「S33・2・17 警視庁 売春防止法違反 2・25 地検 起訴猶予 (推定 森氏が大学2年後期の事案のもよう)〜以上」)が,00年9月14日発売の写真週刊誌『フライデー』(9月29日号)や15日付の『夕刊フジ』で報道がなされた。

仮にこれが本物であれば(裁判所が裁判の判断材料として調査を命じたのであるから,協力するのは警視庁の当然義務であるばかりか,森首相自身が事実無根の前科者扱いされ,名誉を毀損されたとして訴訟を提起しているのであるから,犯罪歴がないのであれば,人道上からも回答するのが本筋,回答しなければ逆に事実と疑われることになるとの“筋論”とは別に)警察内部では調査していたこととなり),警視庁は最高権力者に不当な政治的判断をしたこととなる。

ところで,この種の事柄は本来,極めて私的なことでプライバシーの範疇に属するが,総理は公人であるので,プライバシーの論理は適用されない。

参考条文

民法第710条(非財産的損害の賠償)

 他人ノ身体,自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス 

民法第723条(名誉毀損における特別規定)

 他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコトヲ得

 

 

参考判例

1.名誉毀損(きそん)については,当該行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合において,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為は,違法性を欠いて,不法行為にならない(最判1966−昭41−・6・23最高裁民事判例集20巻5号1118頁)

2.ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に,その者のその後の生活状況,当該刑事事件それ自体の歴史的または社会的な意義,その者の事件における当事者としての重要性,その者の社会的活動およびその影響力について,その著作物の目的,性格等に照らした実名使用の意義および必要性を併せて判断し,右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは,右の者は,その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。(最判1994−平6−・2・9最高裁民事判例集48巻2号149頁)

 

 なお,「金鳥の夏,日本の夏」のユニークなCMなどで有名な,蚊取り線香メーカーの大日本除虫菊(本社・大阪市西区)社長が写真週刊誌などで女子大生との買春疑惑を報じられ,99年12月に代表取締役会長に退いている(同社長は大阪工業会副会長を99年9月に辞任)。

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