日本サッカー協会に知恵が無ければ、Jリーグ百年構想は実現できないだろう。
紆余曲折を経て、日本代表の新監督にイタリア人のアルベルト・ザッケローニ氏が就任した。
これは、不思議と納得が入り混じった新監督就任とも言えるだろう。不思議なのは、南アフリカW杯では日本人監督のもと、日本代表は"アウェー"で初の決勝トーナメント進出を果たし、国民意識では「大健闘」と評価されながら、改めて外国人監督を採用したことだ。
納得という面では、日本代表の現在の世界ランク32位という立場では国際競争力が弱く、親善試合を組むためにも「世界マーケット」に顔の効く外国人監督が必要だということ。おそらく、日本協会は後者を取ったのだろう。
これは、ある意味では正解だ。日本の連盟・協会のなかで、海外交渉力を持つところは外国人監督、コーチ、サービスマンが活発に海外との交渉を担当しているからだ。日本スキージャンプチームでも、ワックスマンはオーストリア人で、彼の自宅は日本チームの前線基地で資材置き場でもある。チームがヨーロッパで使う車両もその前線基地にあり、日本チームが渡欧すれば、彼が空港に車両を運び出迎えてくれるのだ。また、彼の人脈で他国の行動や今後の合宿予定なども知ることができる。
だから、監督は外国人であろうが、日本人であろうが適切であれば良いのだ。ただ、日本協会の強化担当技術委員会には、長期的視野において自国民監督の養成を忘れることの無いようにと要望したい。
8月末、大きなニュースがあった。
17歳、中京大中京高3年の宮市亮がイングランド・プレミアリーグ「アーセナル」への加入が決定的になったというものだ。宮市はU-19(19歳以下)日本代表のFWで180センチ、66キロの俊足ドリブラーだ。
なぜこれがニュースなのか?
答えは、今後、宮市の後を追うようにJリーグを経験せずに海外のチームに加入する選手が増えるからだ。そう言える根拠は、現在の日本代表を見れば分ることだ。18歳でイタリアへ渡った森本、21歳で渡欧した本田、長谷部や松井の名も海外リーグの活躍の中から聞こえてきたのだ。
この傾向は韓国でも同じだ。朴智星、朴主永、奇誠庸、李青龍の4人は、「FANTASUTICK4」と呼ばれ、10代後半から20代前半で国外修行に出たメンバーで、W杯決勝トーナメント進出の原動力だった。
例えば、私たち日本人が驚きかつ賞賛の目を向けたのは、サッカーの中田がイタリアでインタビューを受け、当たり前のようにイタリア語で答え、卓球の福原愛が同じように中国語で応える姿だった。サッカー界でも森本がイタリア語、松井はフランス語、長谷部はドイツ語と多彩だ。海外で年数を重ねれば当たり前だと思うだろうが、そうではない。最初はブロークンであろうが、意志の疎通には言葉が絶対条件。英語を学ぶためという理由で海外に出る者は星の数ほどいるが、結局は海外でも超少数日本語社会を築き、気がついたら日本語以外は喋ることができなかったというのが現実だ。
Jリーグ百年構想は、国内すべての町に「おらがチーム」を、というのが目標だ。しかし現実には2軍が閉鎖され、選手が19~21歳で伸びるチャンスは乏しく、日本は昨年U-20W杯への出場を逃した。確実に言えることは、Jリーグは世界基準で見れば強化水準には達していない。今後、国対抗のテストマッチでは海外リーグで活躍するメンバーで占められるだろう。
Jリーグの問題点はもう一つ。
経営難のクラブが多すぎることだ。経営危機のチームに対しJリーグから貸付金という例もあるが、そういうチームが増えたらどうなるのか?サッカーバブルは、とうに終了している。協会は、「日本の大掃除」に着手する必要がある。
イングランド・プレミアリーグが導入した新しいルールを参考にすべきだ。
1チームの選手登録数は25人。この内「地元育成選手」を8人入れる必要がある。地元育ちの国籍は問わない。21歳までに3シーズン、イングランド、もしくはウェールズ協会の加盟クラブに登録された選手なら「地元育成」になるという。
例えば、高校野球で考えよう。
地元高校が甲子園に出場する。しかし、その高校はレギュラーの大半が本州の中学校出身者だとすると、果たして地元高校といえるだろうか?駒大苫小牧高が優勝したとき、北海道は歓喜感激に包まれたが、それは大半の選手が道産子であったからこそのものだ。確かに、連覇の際は兵庫出身の田中将大投手の力は大きかった。その田中投手にしても2年間は下ずみであったから、道民は準道産子と捉えたのだ。余談だが、その証拠は札幌ドームでの日ハムVS楽天戦で楽天の投手が田中マー君であれば、日ハムファンの80%は「マー君、頑張れ」と密かに応援している。
言いたいことは、イングランドですら「地元選手」制を取ったということ。
サッカーが日本に定着するためには、「地元選手」制は不可欠だ。
北海道日本ハムファイターズが北海道に定着したのは、アメリカ人のヒルマンやアメリカ帰りの新庄らが、道産子化したからだ。
確かに、プロ野球とプロサッカーでは規模が違う。露出度も違う。日ハムの先発を言える道産子ファンは多いが、コンサドーレの先発を言える人は極めて少数だ。
しかし、その現実を踏まえて、例え日本協会が動かないとしても、コンサドーレはイングランド協会に学ぶべきだ。なぜなら、それしか生き残る道は無いからだ。
各チームを見れば、少数ながら北海道出身者も存在する。選手を商品としてトレードを繰り返しながら、チーム作りをするという現実も知っている。だが、もはやチーム存続の危機は迫っていると思う。今後、公的資金の借り入れはあり得ないからだ。だからこそ、強化10年計画の最初が「地元選手チーム」であるべきだ。
北海道に関わりのある選手を、道産子が応援する。逆に言えば、今のままのコンサドーレ札幌は、必要ですか?。(文、スポーツライター・伊藤龍治)
伊藤 龍治の「スポーツ見聞録」
http://www.hokkaido-365.com/365column/itou/