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きょうの社説 2010年9月7日
◎院内感染 問われる医療の危機管理
帝京大病院の多剤耐性菌による大規模な院内感染を受け、警察も任意聴取に乗り出すな
か、ほとんどの抗菌薬が効かない新型の耐性菌が国内で初検出されていたことが分かった。患者の命を預かる医療機関にとって、耐性菌の院内感染は組織としての危機管理が問われる最大の脅威といえ、北陸の病院も他人事ではない。新型の耐性菌は栃木県の独協医大病院で昨年5月にインドから帰国した男性で見つかっ たが、その段階で菌は特定できず、今年8月に再度調べて判明した。他の人への感染は確認されなかったものの、医療機関が発生情報を迅速に共有できるよう国の体制整備は急務である。医療機関も新たなタイプにも対応できる体制が整っているか、衛生管理や情報共有の仕組みなどを点検してほしい。 帝京大病院の院内感染では、多剤耐性アシネトバクター菌による感染者が46人に上り 、9人が感染によって亡くなった可能性がある。昨年10月に最初の死者が出ていたが、感染症の対策部署には報告されず、今年4〜5月に感染者が増え、本格的な対策に乗り出したという。 対応が早ければ、感染拡大を防げた可能性があり、病院の責任は免れない。内部で調査 委員会を設置しながら、厚生労働省や東京都が8月に行った定期調査では院内感染を報告せず、さらに感染者の転院時に、転院先に情報を伝えていなかったことも極めて問題である。 帝京大病院のような特定機能病院は、抵抗力が衰えた重症患者が多く、院内感染対策が 後手に回れば今回のように深刻な事態を招くことになる。耐性菌の発生は完全に予防するのは困難とされ、日常の衛生管理の徹底とともに重要になるのは発生時の迅速な対応で被害を拡大させないことである。 新たに確認された耐性菌は「NDM1」という遺伝子が大腸菌に入ったもので、病院内 だけでなく、健康な人にも感染する恐れがある。インド、パキスタンが発生源とみられ、世界保健機関(WHO)が各国に警戒を呼び掛けていた矢先の国内報告例である。世界的な動向把握の体制づくりとともに感染ルートの解明が急がれる。
◎のと鉄道運転体験 能登の魅力を高める武器に
のと鉄道(穴水町)が廃線となったレールで実施している列車の運転体験が全国の鉄道
ファンに受け、予約が3カ月待ちという。本物の列車を運転できるのだから、人気が出るのは当然かもしれないが、1カ月あたりの受け入れ定員が10人程度ではいかにも少ない。鉄道会社の側からすれば、車両や人員の制約があり、受け入れを簡単には増やせないの だろうが、せっかくの人気を活用しない手はない。能登の魅力を高める観光資源として、行政も加わって、もっと大きく育てられないか。 金沢―上野間を結んでいた寝台特急「北陸」と急行「能登」が今年3月のダイヤ改正を 機に定期運行を終える直前、金沢駅に全国の鉄道ファンが大挙して来たのは記憶に新しい。鉄道ファンは年齢層が広く、趣味にお金を惜しまない人たちが多くいる。もっと定員を増やし、宿泊をセットにした旅行企画にすれば意外な人気商品になるのではないか。 運転体験は、穴水町でふるさと協働事業を展開する「まちづくり会社 江尻屋」がのと 鉄道から業務委託を受けて実施している。参加者は講習を受けた後、同鉄道所有のディーゼルカーを実際に動かし、廃線となった軌道約200メートル区間を2往復する。鉄道ファンからすれば、1万円の体験料で、全長約18メートル、乗客定員112人の車両を運転できる魅力は何にも代え難いようで、終了時に、のと鉄道から贈られる「体験証明書」も人気という。 廃線のレールを利用した列車の運転体験は、珠洲市のNPO法人も計画しており、のと 鉄道から車両1両と、旧蛸島駅付近から穴水方面への線路約850メートルを既に購入済みである。こちらも地域挙げて支援の輪を広げ、実現にこぎつけてほしい。 全国的には、北海道の阿寒湖に近い陸別町の「ふるさと銀河りくべつ鉄道」が同じよう に運転体験コースを設けるなど、廃線を利用した町おこしが脚光を浴びている。地域のキラーコンテンツ(特別魅力的なソフト)として磨き上げ、地域の活性化に役立てたい。
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