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[8027] 【習作】現在題名考え中(リリなの+NW2ndオリ主)
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/10/18 18:24
※前書き



この作品は主に作者の妄想と空想と勢いとノリでできております。
登場するオリ主はTRPG、NW2ndの世界のキャラクターではありますが、アニメや小説等ででてきたキャラではありません。
また、基本的に世界はリリカルなのはがメインとなるため、NWの人たちの登場は基本無いものと思ってください。


尚、以下の事に嫌悪感を覚える方はどうか、ブラウザのバックで戻るかこのページを閉じて下さいませ。


・オリ主最強です。とにかく強いです。コレ基本。
・オリ主ハーレムです。うはうはです。モテモテです。
・展開はテンプレ的です。かなりテンプレです。テンプレート美味しい。
・原作キャラの性格が改変される恐れがあります。ってか多分変わります。
・色々と世界設定の解釈がずれているかもしれません。独自解釈があります。
・更新頻度は早くないです。も、も、妄想マシーンをくれぇ!
・こんなこともあろうかとぉぉぉぉぉぉぉ!
・中の人などいない!でも、中の人想像は決して!止めない!


この作品を読まれる方は、以上のことに納得されたものとします。


最後に、作者はこういった場所への投稿はこの作品が初めてとなります。
色々と無作法なこともあると思いますが、指摘していただければ出来るだけ修正したいと思います。
また、誤字等の報告もいただければ気付き次第修正しますので、宜しくお願いします。


それでは、どうか宜しくお願いします(礼)

修正履歴:
2009/04/23 作品タイトル、第一話タイトル修正・第二話誤字修正
2009/07/13 第四話投稿
2009/08/02 閑話の一投稿
2009/10/16 第五話投稿
2009/10/18 第五話誤字修正



[8027] 第零話 彼の理由とその目的
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2010/09/05 11:41
 始まりは、この日、この時、この瞬間。
 僕の今後全てを決定した大事な瞬間。
 けれど、そんなことは当時の僕は思いもしなくて。

 だと言うのに正しい想像をしていたんだ。


 魔法少女リリカルなのは。
 始まりません。


第0話  彼の理由と目的
(「ぇ、始まらないの!?」「や、世界にすらついてないよ」)


 世界は無限にあるという。現在の世界と似て異なる平行世界。現在の世界との繋がりが不明な異次元世界。
 そんな世界の一つ、ファー・ジ・アースと呼ばれる世界。この世界において魔法や魔法使い、結界と言う言葉は深い意味を持つのだが…

 とりあえず、今回は全く関係ないので彼方に放り投げておく。

 アンゼロット城。第八世界に近い泡沫世界――それは、世界と世界の狭間に生まれては消える無数の、それこそ泡沫のような世界――の一つにあるとされるそれは、本来は行くも帰るもその城主の許可が無ければかなわない。
 強引に到れるものが居るとすれば、城主に匹敵しうる力を持つ存在くらいであろう。
 
 だが。今現在その城主は不在であり、其処に誰かを招くものは居らず、強引に到ろうとするものも居ないはずである。

 そんな城の廊下を歩く影が一つ。その容姿は幼く、年は二桁にも満たないだろう。少年らしい軽い足音は、けれど無駄に広いその廊下にはよく響いた。音で誰かの接近を知るための細工なのだろうかと一瞬思うも、少年は自身の想像を軽く放棄する。
 そもそも、接近に気付かなければならぬような相手は、足音を立てるようなことはしない。『彼女』らは飛んでくるのだから、足音なんて何の意味も持たない。

 埒も無いことを考えるのは、この無駄に長い廊下を歩く事に飽きてきたからだろうか、などとそれこそ考える意味のないことを考えて思考の暇を潰しつつ、歩む足を止めない。規則正しい音を周囲に響かせ歩み…その音が、止まった。
 彼の前には大きな扉。此処が目的の場所のはず。

「盟主代理。深海蒼が参りました」

 少年が扉の前で膝を付き、扉の中へと声を掛ける。扉の中では主が居らずとも常駐している人がいるはずである。……そして今日は、少年を呼んだこの城の主…の、代理がいるはずなのだ。

「深海、蒼。盟主代理から許可が出た。入れ」
「はい」

 長くは無い答えに短く応じ、扉を押し開ける。其処は玉座……では、なく、テーブルセットが置かれたテラスであり、武装した仮面の男たちが護るその中央でテーブルに着き、湯飲みで茶を啜る巫女が一人。

「来てくれてありがと、蒼君」
「気にしないで。でも、盟主代理……ってか赤羽さん、明かに洋風のテラスとテーブルなのに湯飲みで茶を啜るのはどうかと思うよ?」

 どこか親しげな巫女の様子に、少年も先ほどまでの改まった態度を捨てて…それでも、どこか外見よりも確りした印象を抱かせる様子で応じる。肩を竦めて続けられた言葉にその巫女は「はわっ」と妙な声を上げて慌てて湯飲みを置き。

「ぁー…こほん。蒼君、先ず座らない?」
「では、失礼します」

 とりなすような咳に突っ込みを居れず、少年が勧められた席に座る。す、と近づいてきた仮面の男が少年の前にティーカップを置き、ティーポットから淡い色の液体を注いだ。琥珀のそれは綺麗に澄み、その香りは多くの人を楽しませるのだろう。
 少年もその一人らしく、香りを楽しむ表情はどこか嬉しげで。

「……いい茶葉みたいだね。赤羽さんがこういうのを知ってるのはちょっと意外かも」
「アンゼロット秘蔵、って書かれているのを使ってもらったからねー」
「ちょっと待ってそれって飲んだ僕だけ責められない!?だから赤羽さん緑茶なの!?」

 あはは、と笑う巫女が口にしたこの城の本来の城主であり、少年と巫女を含む全ての異能者たちの盟主であり、さらに理不尽の塊の名前を耳にして思わず身を乗り出して少年が叫ぶ。どー、どー、と巫女に両手で押さえられ、不満げな顔を崩さず溜息一つ零して座りなおし。

「それで、今日の用は何?」
「えぇとね…この間、新しい泡沫世界で、さらに異界にわたるためのゲートが発見されたの」
「……へぇ?」

 先に述べたように、泡沫世界とは無数に、泡のように表れては消える世界。その世界の内は様々で、異様な世界もあれば何もない、虚無のような闇の世界もある。そんな中、ごく稀に世界と世界を『繋ぐ』ためだけの世界が生まれることもある。

「でね。そのゲートなんだけど、異世界に繋がってるって知って好奇心旺盛な魔王が一人、通っちゃって……」
「……あえて本命を外して。鉄子じゃないよね。兎…?」
「その本命だよ」
「……ぽんこつか」

 魔王、という物騒な言葉に少年は驚いた様子はなく、巫女もまた其れを特に気にした様子はない。さらに魔王という言葉からは連想しにくい少年の言に一言で答え、少年も納得したというように頷いた。
 周囲にいる仮面達は、二人が会話していることなど知らぬとばかりに立っているだけだが…なぜか一部、笑いを堪えるようにしているのは少年の言葉が誰を指すのかが解るから、だろう。

「それで急いで誰かをその向こうの異界に送らなきゃいけなくなっちゃったの」
「……この状況でどうして僕を呼んだのか、何て聞かないけど。なぜ僕なのか、は聞いて良い?」
「アンゼロットの推薦、かな。『できるだけ外見が子供で、単体戦闘力が高いホムンクルス』って言われたから」
「成程」

 異界がどのような世界かわからない状況で。外見が子供というのは、大人よりも警戒されにくいという特性があるから。単体戦闘力については、行き成り多数送り込めるほど安全が確保されていないため、一人だけを送ることを考えて。ホムンクルスの理由は『替えが利く』から。
 それぞれの条件に自分の中で理由を認め、うん、と頷く少年。その少年を見て、巫女は微笑み、

「アンゼロットの目の前にそういう人が居たんだって」
「そんな理由!?真面目に考えた僕が只の馬鹿じゃないか!?」

 ……しかし、この城の城主はそういう性格なのである。周囲に控える仮面の男達の視線に僅かに同情が混じった気がして少年は深く、深く溜息をついた。

「まぁ、良いけど。行くのは構わないよ、拒む理由もないし」
「ありがと。必要なものは、いってくれたら出来る限り此方で準備するから」
「……じゃぁ、黄金の」
「却下」

 準備するから、と言っておきながら少年の言葉を即座に却下した巫女は、ニコニコと微笑んでいる。その背に何か背負っちゃいけないものが見えるのは気のせいだろうか。
 う、と気圧される様に少年はうめいて、溜息一つ。

「ダメ?」
「そもそも、純前衛の君がなんに使うの?あれ、無駄に高いのに」
「いや、無駄って…。結構アレが持つ保護効果は悪くないんだよ。そりゃ魔法攻撃の強化のほうが目に付くけどさ」

 巫女が却下した理由は値段のようだった。事実、少年が要求しかけたものは、少年が知る道具の中で頭一つ抜けて高いのだ。要求理由を答えながらも、実際は初めからそこまで期待していなかったようで、「まぁ、冗談」と肩を竦めて流し。

「なら、カイザーフィストかな。アレを革グローブに、とか出来ない?」
「其れくらいなら、何とか…かな。うん、それならぱっと見ただのグローブだしね」
「後は適当に自分の装備や変形箒をもって行くよ。……包帯も持っていっとこうか」
「包帯?」
「魔殺の帯。まぁ、僕の場合は魔鎧、になるけど」
「あぁ、クロちゃん」

 納得、と頷く巫女に困ったように少年が笑う。クロ、と呼ばれているのは少年が持つ魔剣に属する防具、俗に魔鎧と呼ばれるもの。漆黒の細長い布であるそれにクロという名前をつけたのは彼ではなく、他ならないその布自身なのだが…余りにもその安直な名前は、少年は余り好んではいないらしい。
 だからといって包帯と呼ぶのもどうかと思うのだが、その件は少年の中でさておかれている。
 ちなみに、カイザーフィストとは過去に伝説的な学生チャンプが使ったボクシンググローブの事を示すのだが、伝説と呼ばれる人数も意外と多いためその形状を保存しようという概念がかなり薄かったりする。道具とは、使われるためにあるのだから。
 余談だが、そのグローブ、この世界においては拳銃を越える威力がある。ありえない話だがその辺はまほーのちからで問題はない。

「いや、問題あるだろ」
「はわ?どうしたの?」
「あ~……。気にしないで」

 虚空に向かって突っ込んだ少年に巫女が不思議そうに首を傾げるが、気にしないでといわれて姿勢をもどした。彼らのうちではよくあることなので、問い詰めるようなこともしない。

「このまま話してると果てしなく脱線しそうだからそろそろ確認するけど。向うで彼女を見つけたら、僕はどうすればいいの?」
「ん~…一応、こちらに帰ってくるよう説得してもらっていいかな?表面上とはいえ、協力体制を取っている相手だから。応じない場合で、向うに迷惑を掛ける様なら…」
「……うん、その場合は現場の判断で動く。其れと、向うの状態、状況の確認も任務に含まれるのかな?」
「優先度は低いけどね。主目的はベルちゃんの捕獲」

 逆に言えば、その魔王を発見し、何らかの対処を行うまではどれだけ先の情報を得ても戻ってくるのは叶わない、ということ。尤も、人員を送り込めるだけの情報が揃えば増員を望めるので魔王の発見が遅れた場合の手もないわけではない。

「うん、解った。それじゃ、モノは現地で受け取るよ。他に何か注意事項は?」
「そうだね…どんな人どころか、何が居るかも解らないけれど。できるだけ友好関係が築けると嬉しいかな?」
「解った。只でさえ冥魔やら他世界の危機やら、こっちも余裕はないもんね」

 この世界は、世界全ての敵とも言える存在に狙われている。世界の裏側ともいえる異界からの侵略者、冥界と呼ばれる世界から来る破壊者。これ以上敵対者を増やしたくないという思いは、この世界で戦う者たち全てに共通する想いでもあるだろう。
 バトルジャンキーは除く。

「それじゃ、行って来るね」
「うん、行ってらっしゃい。頑張ってね」

 紅茶を一気に飲み干し、席を立つ少年へとにっこり微笑んで巫女は見送りの言葉を放つ。巫女に背を向け、歩き出した少年は…けれど、ふと何かに気付いたように振り返って、巫女をまじまじと眺めた。

「……どうしたの?」
「ん、いや……。なんでもないよ。柊さんと仲良くね?」
「はわっ!?」

 自分が出した名前に、目に見えて動揺した巫女にくすくすと笑いながら少年は再び歩みを進め、部屋をでる。
 ふと一瞬、彼女の姿が…この城が…この世界がコレで見納めになるかも、なんていう思いを抱いたことは一切口にせずに。

――彼が、その思いが正しかったということを知るのは今では思いもしない未来のこと。けれど――



「盟主代理!」
「……どうかしたの?」

 少年に巫女が依頼してから数日後。慌てたように駆け込んできた仮面の男に、書類にサインする手を止めて巫女が不思議そうに首をかしげた。
 巫女の周りには書類が山と積まれているが…とりあえず今は駆け込んできた隊員の要件の方が急を要する、と判断したようだ。

「異界へのゲートが確認された泡沫世界ですが、唐突に世界が崩れました!其処にいた隊員たちは皆脱出できたようですが…!」
「……ゲートを通っていった子の帰ってくる道がふさがれちゃった……?」

 報告に僅か、呆然とする巫女。間は少しの間、けれど、ゆるく彼女は首を振って己を取り戻す。慌てるべき事ではある。少なくとも彼は、一人で調査に向かわせて大丈夫と思われるほどには彼女にとって優秀な存在だ。其れが帰ってこれなくなったのはかなり痛い。だが、それでも。

「……うん、あの子なら大丈夫。報告ありがと、下がって良いよ」
「……はっ」

 ゆるく笑う巫女に、仮面の男はそれ以上何も告げず巫女の言葉に従い、部屋を出て行く。見送って吐息を一つ…なぜか、彼女の中には不安が殆どなかった。
 何があったのか。大丈夫なのか。気にかからないわけではない。自分の命令で彼は向かったのだ、彼に何かあれば其れは自分の責任だということになる。…けれど。

「なんでかな…君はもう帰って来ないと思う。良い意味で」

 彼が信頼できる仲間を作って、そして彼女をすらも味方につけて。此処ではない違う世界の為に帰ってこないという未来。其れを巫女は幻視していた。盟主がこの城の本来の主であれば文句の一つ二つ出たかもしれないが、今の盟主である巫女からすれば良い方向に向かってくれるのならそれで良い、という想いがある。
 だから。

「がんばれ。君は幸せを掴む義務があるんだから」

 遠く、今この世界の誰も感知できない世界に居る少年へ、巫女は小さくエールを送った。



[8027] 第一話 彼の転移とゲートの向う
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/04/23 22:59
 そのときの出会いは、僕にとって幸運だったのか不幸だったのか。
 彼と出会えたお陰で上手く行ったことは多い。
 けれど、その彼のお陰で上手く行かなかったこともある。

 どちらにしろ、言える事は。
 そのとき僕は、生涯の友人とであったんだ。

 魔法少女リリカルなのは。
 はじ…まらないんだよね、まだ。


第一話  ゲートの向うと未知の世界
(「そういえば、始めは僕だったっけ」「そうそう。同年代の同性が相手でよかったよ」「…始まらないの…」)


Side:Yuno
 遺跡の調査は、役割ごとに決められたメンバーで行われる。調査班、探索班、障害除去班。
 人数は障害除去班が最も少なく、探索班が最も多い。本当は遺跡の危険性を考えれば障害除去班は人数が必要なんだけど…スクライアの一族は学者肌が多く、戦闘能力がある人間が少ないのだ。
 なので、大きな遺跡を調査する場合や危険性があらかじめ解っている場合は傭兵を雇うことになり、そんな時は探索班と調査班も死力を振り絞って遺跡を漁ることになる。
 支出を超える収入を得なければ生活できないんだ、そうなるのも当然だよね。

 そんな感じで支出と収入のバランスが難しそうな今回の遺跡調査において、僕は調査班にいる。次か、次の次あたりに遺跡調査の責任者を任される予定であり、今回はその練習として歴戦の責任者のサポートと言う位置についていた。

「……見たことも無い装置、ですか?」

 責任者が別の発掘品への対応で忙しいため、代わりに僕へと届けられた報告に眉を寄せた。

 今調査しているのは管理世界ではあるが、独自の魔法体系を築き上げている世界である。最近のミッドチルダとの交流でミッドの術式が混じり始め、色々と面白い魔法があったものだけど…いや、今は其れを考えている場合じゃない。

「この世界独自のものなのかな……?案内してもらっていいですか?」

 先ずは見なければ始まらない。責任者の人にも声を掛けてみたが、やはり手が空かないらしく僕と発見者、後数人の護衛だけで向かうことにする。
 案内された場所にあったのは…魔法陣らしきものと、その中央に鎮座する奇妙な像。
 奇妙と言うしかなかった。その像は、どうやら剣を持った青年をかたどっているらしいんだけど……

「……なんなんだろう、このポーズは」
「……さぁ、全くわかりませんで」

 僕の呟きに、此処まで案内してくれた発見者の探索班の人が困ったように答える。
 なんだかこう、足をばたつかせるかのような感じで、剣を持ってない手を空へと伸ばし、顔はものすごく必死な感じ。その様を例えるとしたら、そう……

「まるで、何かから落ちてるみたいですね」
「ですねぇ。でも何故でしょう、コレをみていると落ちる、と言うよりも下がる、と言いたくなるんですが」
「……あぁ、何となくわかります。落ちる、じゃなくて下がる、ですね」

 本当に何でだろう、案内役の人の言うとおり下がると言いたくなる不思議な像だった。……なんだろう、なぜかこの像の近くに居ると、僕の運気とかいろいろなものまで下がる気がしてきた。
 この後で何か不幸に見舞われることがあるとしたらきっとこの像の所為だ。そうに違いない。…なんて、そんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。
 唐突に、像の足元にある魔法陣に光がともる。こう、と発光し始めたソレは、中空に二つの魔法陣を描き出した。

「装置が作動した!?…コレは…ベルカ式に、ミッド式……!?ありえない!?」

 ありえない、はずなんだ。ベルカ式とミッドチルダ式の魔法陣は全く別物で、同時に描かれると言うことはないはず。いや、近代ベルカ式ならばエミュレートの関係上同時に行使する騎士も居るとは知識で聞いた覚えがある。ならばコレは近代ベルカ式?……わからない、古代ベルカ式を見たことが、僕はまだ、ない。

「さがれや、ぼっちゃん!」
「はい、お願いします!」

 護衛の人が前にでるのに合わせ、僕と案内役の人が下がる。今すぐ攻撃を行わないのは中途半端に魔力が集まっているから、だろうか。この状態で無茶をすれば魔砲が暴走、僕たちは生き埋めになってしまうかもしれない。
 そう、コレが何かわからない。二種の魔法陣が同時に現れる、何て本来はありえないことなんだ。例え近代ベルカ式であったとしても、一つの魔法で二つの魔法陣が同時に表れる、と言うことはない。
 その魔法陣がさらに正確な形を作っていく。中央にある二つの魔砲陣を覆うように、単円と二重円の魔法陣が正方形を描く。……コレは……本で読んだことがある。確か。

「召喚魔法陣……気をつけてください、何かが来ます!」

 僕の声に護衛の人たちがデバイスを持つ手にさらに力を込める。……二つ分の魔法陣による召喚魔法、ソレに呼び出されるモノに対するのは、僅か数人の護衛と、攻撃能力なんて無い僕と、そもそも戦闘に使える魔法なんて殆ど無い探索班の案内人。
 もっと護衛をつれてくるべきだったか、何て後悔ももはや意味が無い。此処で何が起きるかも確認せずに退けば、どんな被害がでるかもわからない。
 僕らに残された道は、この召喚で呼び出されるモノが危険なものではないことを祈るだけだった。
 召喚魔法陣のすぐ傍に、浮かび上がり始める影。誰もが緊張して見据える中……
 ソレは子供の姿をし……

「へ?…っと、うわっ!?」
 
 ぺい、っと吐き捨てて。魔法陣は消えていった。

「…………」
「…………」
「…………ぼっちゃん」

 どうしよう、この無駄に高まった緊張感。なんだかこう、凄く馬鹿にされた気がして仕方がない。テンションが下がっていくのを自覚する…そうだ、下がる。さっきの像の所為だ、きっとこれは。掛けられる声に溜息一つ。

「……あ、えぇと、あの。怪しいものじゃないんで、如何みても武器なソレ、下ろしてもらえませんか……?」

 見慣れない服を着た、見た目は僕と同年代に見える、魔法陣から吐き出されて着地に失敗し尻餅をついたその子は自分に向けられているデバイスに慌てたように両手を挙げて、おずおずとそんなことを口にした。
 空気がさらにしらけていくのがわかる。さっきの僕たちの決死の覚悟はなんだったんだ。いや、危険な存在が召喚されたわけじゃなかったからいいんだけど。いいんだけど!

「……ぼっちゃん」
「……うん、良いですよ。デバイスを下ろしてください」

 溜息一つ、護衛の人たちにそう告げて、その子の方へ歩みだす。先ほどまで輝いていた魔法陣は全て沈黙しており、それらはもう危険はないと判断できる。彼からは強力な魔力も感じないし、同い年くらいの相手なら急に襲いかかってきても僕でも何とかできるだろう。そして、彼が何者かとか聞きださなきゃいけない。

 とりあえず敵意はないみたいだけど。素直に喋ってくれるといいんだけどね…。
Side out

Side:Sou
 ゲート――と書いてトンネルと読む――を抜けると其処は武装した人たちが待つ屋内だった。……いや、まって。何この状況。
 とりあえず敵意がないことをアピールするために両手をあげて、声を掛ける。……一瞬聞いた言葉が英語に聞こえたので英語を話してみたのだけど、通じた……のかな?通じてくれないとかなり面倒なことになるなぁ。
 赤羽さんにも出来るだけ友好関係を、と言われてるし。流石に此処で行き成り戦闘、とかは御免被りたい。戦えば……負けない自信はある。
 見た感じ、武器らしきモノを向けてきている人たちは戦闘慣れはしているんだろうけど、其処まで物理戦闘能力が高いようには思えない。引き換えに魔力を強く感じるから……キャスターだろうか。だとしたらこんな前に出てるのは自殺行為だと思うんだけど。
 それとも、この世界だと魔法使いが己の身を守る手段が発達しているんだろうか?…ありえる。もしそうなら少しは手間がかかりそうだ。……それでも、負けないとはいえる。勝てるとは言わないけどね。
 そんな感じで観察しながら様子を伺っていると、武器らしきモノを持っていた人がちょっと下がり、同い年くらいの子…男の子、かな…が前に出てきた。この子が…この集団の指揮者、なのかな?

「僕の言葉がわかる?」
「……はい。大丈夫です」

 掛けられた言葉は、やっぱり英語…に、聞こえる。少し違う気もするけれど、英語で答えれば伝わるのは伝わるみたいだ。
 よかった、と零すのは僕も向うも同じ。……でも、問題は此処からか。僕自身のカバーストーリーを頭の中で組み上げていく。職業柄……というか、なんと言うか……自分の身の上話を偽り他人に信じさせるのには慣れてしまっていたりする。
 ……嫌だなぁ、そんな子供。自分なんだけどさ。

「えぇと、君はどうしてここに?」
「どうして、と言われても……その、そもそも此処はどこなんですか?」

 問い返した僕に、少年は少し不審そうに、けれども同時に、僅かに何か納得したような表情を浮かべる。まぁ、本当に此処がどこかは僕は解ってないんだけどね。

「此処は、第99管理世界にある遺跡。君は君のすぐ後ろにある像に召喚されたんだけれど……」
「管理世界……?召喚……?いえ、僕は探しモノをして居ただけの筈ですが……」

 言われた言葉は良く分からない、と言うのが本音だ。管理世界とか、誰が管理してるんだろう?召喚って、僕は自分の意思でゲートをくぐったはずなんだけれど。……ゲートの途中で別方向から召喚された?いや、でも僕を補足するのは簡単じゃないと思う。あぁ、そうか、召喚がゲートを開いて他者を呼び出すものだ、と考えれば……逆に、誰かがゲートを開いて世界に来ようとする様は召喚に見えるのかもしれない。そう考えながら後ろを振り返り。

 下がる男の像を発見。

「……何処に行こうとも……下がる男からは逃れられないのか……っ!」
「……良く解らないんだけど、でも、下がる男っていわれてなんか納得した」

 柊さん、南無。異世界の人にまで下がる男で納得されてるよ。……ほんとに此処異世界?

「……何が起きたのか詳細を聞きたい、かな。付いてきてもらっても構わないかな?」
「解りました。此処で放り出されても……僕一人ではどうしようもないと思いますし」

 少年の言葉に頷く。なんか異世界にちゃんと飛べたのか疑わしく思え始めたけれど、このどうにも怪しい建物……目の前の彼が言うには遺跡……には見覚えはないし、一人だと迷いかねない。頑張れば抜け出せるかもしれないけど、案内してくれる人が居るなら頼りたい。楽だし。

「それじゃぁ……えぇと」
「……?…あ。蒼。深海、蒼って言います。深海がファミリーネームで、蒼がファーストネームです」
「有難う。僕はユーノ。ユーノ、スクライア。それじゃ、深海」
「蒼で構いませんよ、スクライアさん」
「解ったよ、蒼。こっちに来てほしい」

 先頭を歩くのはスクライアさん。で、その横のどう見ても戦闘が出来ない人が続いて、僕とスクライアさんの間に戦闘可能な人…スクライアさんの護衛だろうか…が入る。残った人が僕に、歩け、という目を向けてきたのでその後ろにつき、さらに僕の後ろに護衛の人が続く。
 うん、正しい陣取りだ。こういうことに本当になれてそうで、敵対する羽目になってたら大変だったろうなと思う。……できれば友好関係のままで居たいな、あのぽんこつと戦う必要があること考えたら。
 そういえば僕以外居ないようだけど、ぽんこつは違うところにでたのだろうか。それとも僕より先にゲートをくぐった筈だから、この人たちに見つかる前に外に出たんだろうか?……後者だと有難い。探す手間がかなり減る。
 違うところに出たのだとしたら…それはこの異界、とは限らない。そうなると厄介だ、僕は単独で界渡りなんて芸当は出来ない。その時は……だっ!?
 
「…………」
「……何をやってるの?」
「いや、こー、色々と考え事をしてまして」

 ぶつかった人にすみませんと謝りながら、僕に声を掛けてきたスクライアさんに答える。うん、考え事してたせいで立ち止まった前の人にぶつかっちゃった訳だ。何も考えずに歩いてたのが功を奏したのか、ぶつかった相手がすっ飛んだりはしなかった。
 ……あれ?月衣を切った覚えはないけど、ぶつかって痛かった?……少しばかり状況の整理をする必要がある、かな。

「それで、この子が……」
「はい、その装置に召喚された人物です」

 ……また考えてる間に話が進んでたらしい。僕の前に出てきたのは、壮年の男性。さっきの少年と違い、此方は年季がある。うん、この人は簡単に騙せ無さそう。上手く説明しきれないと……やっぱり、此処で戦闘、となるんだろうか……面倒な。

 どうやらゲート通過後最初の問題はこの人との会話になりそうだ。
 そう考えた僕は、表に出さないように改めて気合を入れなおす。

 さぁ、勝負といこうか!
Side out



[8027] 第二話 彼の事情と彼女の存在
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/04/23 22:58
 初めての異界。初めての世界。
 そして……そこに現れる、僕の世界の魔王。
 彼女を連れ戻すことが僕の役目で。

 けれどその瞬間を捉えそこねたことが。
 僕に理由を与え、未来を繋いだ。

 魔法少女リリカルなのは。
 うん、やっぱり始まらないんだ。


第二話  彼の事情と彼女の存在
(「という訳で、今回も彼です」「……」「……えぇと、なんで僕睨まれてるの……?」)


Side:???
「……あら、あの子が来たの」

 石造りの遺跡の深く。迷宮ともいえるその場所の奥底に居るその存在が、くすりと笑った。

「今ぶつかると不味いわね。ゲートを繋ぐのに結構力を使っちゃったし、此処はプラーナが余り濃くない見たいだし」

 女の声。少女にも聞こえ、幼くも聞こえ、熟したようにも聞こえるその女の声に、ざわり、と闇が蠢いた。まるで怯えるように。傅くように。従うように。
 今、その場において。その声の持ち主はまさしく王だった。

「仕方ない、此処は逃げましょうか。……けれどただ逃げるのも面白くはないわね。折角なんだから顔見せ位はしてあげたいし」

 そう、顔を見せる。そうすれば、あの子は自分を見つけることに必死になるだろう。その考えに女は愉快そうに唇の端を上げた。
 面白い。面白いじゃないか。つまらないと思っていた今、彼女の頭の上をうろつき回る雑魚の中に、相手をするに足るものが現れたのだから!
 顔を見せるに足るものが現れてくれたのだから!!

「そして私は隠れてしまうの。あの子に見つからないように。……力が溜まった時にもう一度顔を見せて」

 そして、絶望をあげる。

 くすくすと笑う女の周囲で、ざわりと闇が蠢いた。
Side out

Side:Sou
「つまり、君は事故で此処に来たと?」
「そうなる、と思います。探しモノの最中に見つけた像を調べていたら、行き成り……」

 唐突だが状況を整理してみよう。先ず、僕はウィザードだ。
 ウィザードとは本来魔術師や魔法使いを示す言葉であるが、僕の場合……というより、僕の世界においてはそれは当てはまらない。世界へと侵略してくる異形に対し抵抗する力を持つ者をウィザードと称している。
 その抵抗する力はウィザードの名のとおりの魔法であったり、人間が持つ『気』と呼ばれる特殊な力であったり、様々な薬品の投与等で行われた強化であったり、純粋に技を極め到ったモノであったり、人によって様々だ。
 僕の場合その力とは、特殊な生まれと特殊な道具、そして鍛えぬいた技となる。
 で、ウィザードと呼ばれる存在はそれぞれが既に世界の常識を超えた力を持っているため、己自信の『非常識』を世界から隠すために……否、常識的ではない自分が世界に消されない為に、『月衣(かぐや)』という防壁を身に纏うことになる。

 そう。世界は、世界自身の常識を破るものには優しくないのだ。

「ほう。なら、君が着たあの装置を動かせば帰れる、のかな?」
「かも知れません。ただ、僕としては探しモノが此方にある可能性も有るので、すぐ帰る、と言うのは……」

 この『月衣』という防壁は一種の結界……というより次元の狭間のようなもので、常識の存在に対しては絶対的な防壁となる。具体的には、只の銃弾なら問答無用で無効化するしコレさえ纏っていれば深海だろうが宇宙空間だろうが平気で生きていけるという代物だ。
 自分で言っててなんだが、非常識にも程がある。いやまぁ、そういうものなんだけれど。
 さらに、コレを次元の狭間のようなもの、と称した理由がある。実はこの『月衣』、中に物を入れておくことが可能なのだ。重量自体はその月衣の持ち主にかかるため余り重いものは入れられないが、体積的に0となり、どれだけ探しても見つけることが出来なくなるというのはとんでもない利点だろう。
 さらに空間自体を常識的なその世界から切り離し、異空間と化す『月匣』という技術もあるが……。とりあえず今は考えない。

 さて。非常識的だがコレがウィザードである僕にとっての常識であり、当然であったことなのだが。
 けれど今、僕の回りにその『月衣』を感じることが出来ない。

 そう、僕は、僕が持っていた最大の護りを失ってしまっていることになるのだ。

「君が探している物、とは一体どういうものなんだい?」
「人、の姿をしています」

 ……といっても正直、コレは予想の範囲内だ。『月衣』は僕が居た『非常識』に優しくない世界で『非常識』な僕らが生きていくためのものであり、その世界が『非常識』に優しければ全く意味はない。……そもそも異世界という『非常識』な世界に行った時点でコレは何の価値もないと言えてしまう。
 便利な道具袋がなくなったのは痛いけれど、可能性は考えていたので最小限必要な品物は全てリュックに詰めて背中に背負ってたり、形を変えて身に着けていたりする。それでも幾つか、普通持ってると危ないような武器は月衣に入れていた為、それらは封印されてしまったことになるのだが。
 まぁ。何とか生きていくのに問題はないからいいだろう。
 それよりも問題は、『月衣』と同じように僕が持つ技術や魔法が使えなくなっているかもしれないこと。正直、こっちが使えないのは本当に辛い。此方はできるだけ早く確認する必要がある。

「人の姿をしている……まるで人間じゃないみたいな言い方だね?」
「人間ではない…と、思われます。確認できるのは人型であること、くらいですので」

 さて。自分の状況を確認し終えたところで、目の前の人物との会話に意識をもどす。思考の所々に挟まっていたのは僕に対する事情聴取のようなもので、僕は目の前の壮年の弾性に色々と聞かれている。
 一部の嘘…『事故で此処にきた』…ということ意外は基本的に真実なので問題なく受け入れられているよう。最初に召喚なんて異様な方法で現れたのも響いてるかな?
 後、どうやらこういった召喚のような事故で世界を渡る存在がこの世界には時々居るようだ。周囲で零れる言葉を拾っていると、時々「次元漂流者」という単語が聞こえる。単語どおりの意味だとするなら……っても、次元って言葉はちょい幅でかすぎね?二次元と三次元の壁は厚いぜ?具体的にはリアルとアニメくらいに。

「……良く解らないんだが。それは人型をした使い魔とか、竜とか、そういった類なのか?」
「そんな感じ、だと思います。……此方も詳細が解っている訳ではなかったんですよ。ただ、危険性がありそうなので追っていた、という形なので」
「……君のような子供が?」
「僕を発見したのは同じくらいの年の子だったと思いますが」

 詳細が解っているわけではない、というのは本当。追っている存在の名前とかは知っているし、それが僕らの世界で『魔王』と呼ばれる存在であることも解ってる。……けれど、彼女がなんなのか、と問われると、その生体、正体は良く解っていない。……蝿の女王、っていうくらいなんだから蝿がベースなんだろうけどさ。

「だが、危険……と、いう意味では同じ、か」
「そういう事です。また、僕自身がそういう役についていることもあり、こういう事故にも慣れていまして」
「成程。普通なら思い切り取り乱すのに平然としているから、何かの罠かと思ったよ」
「まぁ…居る人からすればそうでしょうね。何も考えず来た身とすれば何故警戒されてるかわからない、って感じですが」

 いや、解るんですけどね。と付け足すと男性は軽く笑った。どうやら信じてくれたらしい…のはいいんだけど。でもこんなに簡単に信じていいのか?明かに怪しいだろ、僕。

「……っていうか、そんな簡単に信じていいんですか?」
「あぁ、そうだな、コレでも結構人は見てきたつもりだ。……君は全て話しちゃ居ないが、嘘も殆どついてない。何より、敵意がないってのは本当だろう?」
「えぇ。……戦闘なんてしたくありませんよ。痛いのは嫌です」

 ちがいない、と男性がまた笑う。……ふむ、この人は裏切られたら自分を呪って死んでいくタイプの人だと見た。学者がそれでいいのだろうか、とは思うものの、自分に自信なくして遺跡調査やら学者はやっていけないのかもしれない、と思い直す。
 そういえば、僕を此処に連れてきた子は僕らからそう遠くないところで、色々と指示を出していた。……思ってたより偉い立場に居るのかもしれない、彼。

「まぁ、事情はある程度解った。本来次元漂流者は管理局に連絡することになるんだが……探しモノが見つかるまでは黙っておこう。で、探しモノに関しては危険があるというのであれば流石に余り手伝えないが…」
「それは構いません。ただ、出来ればこの世界……えぇと、僕たちが今居る『世界』という意味ではなく、大きな意味での世界の情報を聞きたいのですけど……」
「……商売の基本はなんだか知ってるか?」
「Give And Take。……手持ちではこんな程度しかないですが、それでよければ」

 言いながら、リュックから向こうを立つ時に変えて貰った宝石を差し出す。こういう宝石系は何処でもある程度の価値はあるものだし、紙幣を持ち歩くよりは確実なのだ。
 まぁ……世界や国、状況によっては役に立たないんだけれどね。宝石って石だし。

「……その年齢で、君がどんな人生を歩んできたのか酷く興味をそそられるね」
「勘弁してください、昔語りをする年じゃないですよ、僕」

 お金じゃなく宝石を出した事が何かに触れたようだ。疑うというほどではないものの、確かに興味を持って向けられる目を笑顔で避ける。まぁ、深くは聞かないけどな、と男性は僕が差し出した宝石を一つ受け取った。……商談成立。
 さて、コレで情報源も得られたし。少し気が楽になったかな、と先ほどの少年のほうに何となく目を向けて。

 強烈な違和感。金髪のその少年の後ろに微かに感じる気配。誰も気付かない……気付けない。気づくはずがない。アレは簡単に気付ける代物じゃない。

 護らなきゃ、という発想は、己の体が走り出してから生まれたモノだった。
Side out

Side:Yuno
 召喚陣から出てきた彼と、責任者…うん、リーダーでいいや。リーダーとの会話は始めこそ若干の緊張を孕んでいたものの、今では何の問題もないようだ、リーダーが笑って彼が肩を竦めている。
 あのリーダーはああ見えて人を見る目がある、と長からも太鼓判を貰っている人だ、信用できると判断したのなら彼は信用できるのだろう。……そう、彼。
 適当な長さの黒髪に蒼い瞳を持つ少年。黒髪事態は珍しくもないが、黒い髪に蒼い瞳は珍しい…と、思う。僕らの前に出た時に両手を挙げて敵意がない事を示したけれど、彼の瞳は欠片の恐怖も無く慌ててすらなかった。酷く冷静な目で僕らを観察していた。
 だからこそ、彼は僕の手には負えないと判断したのだ。もし彼が突然のことに慌てふためき戸惑うようなら、次元漂流者としてただ保護し管理局に届けただけだろう。
 
 リーダーが彼に掛かりきりであった為、様々な指示を求める声が僕に来たのは予定外だったけど…まぁ、コレも今後のための訓練と思えばそう辛くもない。
 その二人の話も、彼が何かをリーダーに渡すことで決着が付いたらしい。ならばもういいだろうか。

 ……実は、スクライアの一族には僕と同年代の同性がいなかったりする。年上か、年下しか居ないのだ。
 だから、ちょっとだけ……そう、ちょっとだけ彼と話してみたいと思っていたのだ。
 此方へと彼が顔を向けていたこともあり、一歩足を踏み出そうとして。

 彼の姿を見失った。

 轟音。
「■■▲▲――――――!!?」

 何語かもわからない聞き取れない音の羅列は僕のすぐ後ろから。遅れた風が僕の髪を、服を勢い良く凪いで行き、風を生んだその体は、彼の形をして僕のすぐ傍に。

「な、何を……」
「敵です、下がってください!」

 彼の言葉に理解は出来ないながら僕の体が従う。大慌てて彼から距離を取り、皆のほうに走って反転。彼の拳が壁にめり込んで……壁に?違う、間に何か見えないものが挟まっている。

 ならば、僕のやることは決まっている。

 音に反応した皆が何事かと振り返ってくる中、魔法を発動させる。彼は僕じゃない、『何か』を攻撃した。そして、それは僕の後ろに居た。きっと彼は僕を助けてくれたのだ。ならば、今此処でその存在を確立させて彼を救うのが僕の役目。
 バインドを発動させ、彼ではなく彼の前に居るであろう、今壁にたたきつけられているであろう『何か』を緑の鎖で縛り上げる。……居た、人型をした見えない『何か』が!

「支援感謝します!」

 逃げ出そうともがいてるその『何か』を、チェーンバインドへさらに魔力を込めて縛り付けながら、僕へと掛けられる声に頷く。コレで捉えた、後は護衛の戦闘班の人たちに任せれば―――
 そう思う僕の目の前で、彼は拳を引きバックステップ。適度な距離を取って、不意に振り返った。

「な、何だ!?何があった!?」
「……」
「襲撃です!見えない『何か』が其処に!」

 問いかけてくるリーダーの声に、何故か彼がこたえないので僕が答える。誰もが緑色のチェーンバインドが縛り付ける何かのほうへ目を向ける中で…彼だけが、別の何かを見ている。気になった僕はその視線を追ってしまった。

 銀色の髪に、金の眼。見かけたこともない服装を着た少女…そう、少女、の筈…が彼を見て小さく口を開き、そして視線に気付いたのか僕を見て、哂い。
 虚空へとその身は消えた。…………そう、消えた。転移の魔法陣もなく、魔法力すら感知できないままに。

「な、なんなんだコイツは!?」
「……インビジブルストーカーの類、だと思います」

 リーダーの声と、彼の冷静な応えにはっと意識が戻る。……今、僕は何を見た?そんな考えが浮かび、けれど霧散して行く。そう、今はそんなことよりもこの『何か』を如何にかする方が先、だ。

「インビジブルストーカー?」
「僕の世界の似た存在で、見えざる追跡者の意味ですね。名前どおり見えないんで接近に気付きにくいんですよ」

 あんなふうに縛られちゃもう駄目ですけれど、と彼が付け足す。必死にもがいてはいるようだけど…正直、この程度の力と魔力しかないなら僕のチェーンバインドを破れる、とは思えない。
 それにしても見えない存在、か……そんなのも居るんだ……。

「どうします?アレはこのまま捕獲しますか?」
「……そう、だな。非殺傷設定で気を失わせ、捕獲しよう」

 彼の言葉に頷いたリーダーが戦闘班の人に声を掛ける。応、の言葉と共に戦闘班の人たちがデバイスを構えて。
 
 遺跡が急に振動しだした……ぇ?

「な、なんだ?どうなっている!?」
「や、流石にコレは僕には解りませんて!?この遺跡全く知らないんですから!?」
「うわ……不味い、バインドが…っ!」

 振動に気を取られてしまったのが不味かったのか、バインドが弱まった瞬間に見えない『何か』はそれを引きちぎった。……不味い、また見えなくなると今度は捉えられるかわからな――

 打撃音。
「■■▲▲――――――!!?」
 轟音。

 先ほどの巻きなおしのような悲鳴の後、壁がぶち抜かれた。きっと『何か』はその穴の向うに吹っ飛ばされたんだろう。……壁の穴へ先ず向いた皆の視線が、それを為したであろう拳を振り切った彼に集中する。…………なんで解るの?

「いや、えぇと。何となく気配でわかりませんか?あぁ、居るなぁ、とか」
「……御免、僕にはさっぱり」

 皆の視線の意味を正しく理解したらしく、零した彼に誰もが首を横に振る。……でも、冗談をやってる余裕は余りない。振動はまだ続いて…どころか、大きくなってる気がする……!?

「不味いぞ!遺跡が崩れだした!?」

 誰かの叫び声。遺跡が崩れだしたって……なんでまた!?

「馬鹿な、何故だ!?」
「理由よりも先ず退避でしょう!出口は!?」
「そ、そうだな。皆、急いで逃げるぞ!」

 思わず一瞬取り乱したリーダーへの彼の一喝。それで正気を取り戻し、即座に指示を出すリーダー。……僕もその一喝が耳に届いて正気に戻れた。そう、先ずは非難しないと。

「殿は私が勤める、ユーノは彼の案内を!急げ!」
「解りました。君、こっちだよ!」
「助かります!!」

 大急ぎで引いていく皆の流れに乗って、僕は彼の手を掴んで走り出す。……凄い楽に彼は付いてくる。さっきの突進と言い、彼の身体能力は僕とは比べ物にならないようだ。こんな時なのに、少し羨ましく感じた。

「げ……傀儡兵が居やがる!」

 今度は前方から誰かの叫び。……く、こんな急いでる時に限って、なんで遺跡の防衛装置が動くかな……!?いや、逆?防衛装置が動いたから遺跡が崩れようとしているの……!?
 とりあえずこのままじゃ不味い。戦闘班の人に前に出てもらって、退路を確保してもらわないと。

「戦闘――」
「道を作ります、足を止めないで下さい!」

 僕が指示を口にするより早く、僕に手を引かれていた彼が弾かれたように加速する。手はいつの間にか離されていて、彼の姿はあっという間に前方へ。
 そして、聞こえてくるのは破砕音。目に映るのは、戦闘班が唖然と見守る中で徒手空拳で傀儡兵を破壊していく彼。
 ……特に強力な魔力も感じられないのに、特に魔力が篭っているようにも見えないその拳で、一撃で装甲をへしゃげさせ、傀儡兵を吹き飛ばす人なんて始めてみたよ、僕……。

「ぼーっとしてないで、走ってください!」

 彼の声に、はっとした様にまた皆が走り出す。彼は誰よりも前で、立ちふさがる障害を全て破壊して行く。

 彼が前に居る限り、逃げ損ねる事はあり得ない、と。なんだかもう、僕の常識を超えた彼を見ていてそんな想いが浮かんできた。
Side out



[8027] 第三話 彼の常識と異世界の知識
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2010/09/05 11:40
 異界に到って始めにやること。それは情報収集。
 幸いにも僕は、その伝手を行き成り手に入れることが出来た。
 だったらやっぱり、それをやるのが当然なわけで。

 勉強とか好きって訳じゃないけど……
 とりあえず、今は只管知識を得ることに集中しなきゃ、か。

 魔法少女リリカルなのは。
 何時から始まるのさ?


第三話  彼の常識と異世界の知識
(「解説役に向いてるんだよなぁ…」「あぁ、うん、自覚はある」「あ、あの、拗ねて向こう行っちゃったんだけど…」)


Side:Sou
 毎度唐突ですまないが、今僕は逃げている。進行形だ。
 集落のテントの隙間を走り抜け、時々後ろを、そして周囲を警戒する。……追跡者の影は無い。だから再び走り、隙間をぬけ、追跡者の影を探す。そんなことを繰り返してもうどれくらいの時が過ぎたのだろうか。
 正直もう限界だった。体より先に心がまいってくる……逃亡する、と言うのはそういうことだ。特に、何処まで逃げれば安全かも解らないようなこういう時は。

 それでも、僕には逃げると言う選択肢しか許されていない。逃げることしか出来ない。
 そう、立ち向かうなどもっての他。ニゲロ、ニゲロ、ニゲロと、本能の叫ぶままに走る。

 けれどやはり、逃げに徹していると精神は衰弱していってしまうから。
 その瞬間、追跡者の影があったにもかかわらず、僕は咄嗟に逃げると言う思考に従うべきか迷ってしまった。

「…しまった!?」
「ふふ……捕まえたよ……?」

 ほんの一瞬の隙を突いて僕を縛る緑色の光の鎖。もがいても緩まることは無く、寧ろもっと強く僕を縛り上げる。
 ちくしょう、こんなところで捕まってしまうなんて……。もう、終りなのか。僕に未来は無いのか。視界が遠く、暗くなっていく。絶望が僕を蝕んでいく……。

「さぁ、諦めるんだ。諦めて……」


「その通信用デバイス、分解させて!」
「だが断る!ってかこれデバイスじゃないから!!」


 まぁ、つまり…僕が持つ携帯電話を分解させろと迫ってくるユーノから逃げ回っていたわけです。携帯電話って言ってもコレは普通の携帯電話じゃない。0-Phoneと呼ばれる僕らの世界のウィザードたちが使うもので、言語翻訳機能や異界通信機能を備えてる便利な品だ。
 コレのお陰で国どころか世界レベルで出自が異なる者達が皆協力して戦えるんだ、と言えばその利便性は納得してもらえるだろうか。
 で、コレ。なんか『念話』と呼ばれるものも受信できるらしくて、携帯越しに念話に応じてたらそれがユーノにばれて、何それ見せて、どうなってるの、バラしていい?という流れ。

 元の世界なら分解されても良いんだけどね、壊したところで補充幾らでも利いたし。というか天の都合という名の理不尽により故障したり繋がらなくなったり、何てざらにあったから。
 だがしかし此処は異世界。壊したり分解したりして使えなくなってしまったら、修理できるとは限らない。だから、簡単に分解させるわけにもいかないんだ。……いや、僕自身は機械弄りは結構好きだったりするんだけど、修理とか流石にやったことないし。

 不服そうなユーノ……あぁ、そうそう。スクライアは彼の一族全ての姓らしいので、個人特定が全く出来なかった為に名前で呼ぶことになった……を目に、僕は溜息一つ。
 とりあえず数ヶ月前の事を思い出してみる事にする。……いまだ縛ったままで解放してくれない友人が居る、という現実から逃げるために。



 結論から言って、崩れ始めた遺跡はそのまま完全に崩壊した。周囲から貴重な前時代の遺産が、とか、まだ資料とか運び出してないのに、とか、今回は完全に赤字だー、とカキコ絵的た気がするけど僕は気にしない。だって僕の所為じゃないし。
 下がる男の像とか、確かに気になるものはあったけれど優先度は低い。僕の目的は其処じゃない。
 あの遺跡内で僕の本来の目的の彼女……蝿の女王にして全ての翼持つものの王、ベール=ゼファーを見かけることが出来たのは僥倖だったと言えなくはない。少なくとも彼女がこの『世界』にいる、という保証を得る事が出来たんだから。

「……少し、いいかな?」
「ぇ?……えぇ、はい」

 さて、彼女は既に界を渡ったのか、それともまだ此処にいるのだろうか。そんなことを考えていたところで声を掛けられて、少し反応が遅れた。
 振り返った先には金髪の少年。確か……ユーノ・スクライアさんといったっけか。

「なんでしょうか、スクライアさん」
「ユーノでいいよ、スクライアだと一族皆のことになっちゃうから。……ちょっといいかな?」

 ……ふむ?とりあえず姓で呼ぶと判断が付かないらしい。現にスクライア、という単語に反応してか何人か此方を向いた人がいたみたいだし。
 いやまぁ、単純に僕らの取り合わせに顔を向けたとか、スクライアさん…や、とりあえずユーノさんでいこうか。ユーノさんの声に反応しただけかもしれないけど。いや、さておき。

「かまいませんよ。なんでしょうか?」
「……うん、君にお願いがあってね。確か、この世界の情報が欲しいんだよね?」
「えぇ、そうですが……其れが何か?」
「その……今回の遺跡調査の責任者の人に言われたんだけど。コレを返すから、情報量と引き換えに少しの間、僕らに雇われて欲しいんだ」

 言いながら差し出されたのは、遺跡崩壊前に僕が男性に渡した宝石。……えぇと、コレはつまり。

「情報量は肉体労働で払え、と?」
「身も蓋もない言い方をすればそうなる、かな。僕たちもほらちょっと……」

 僕の言葉に、ユーノさんがちょっと言葉を濁して眉を寄せる。なんだろう、と首をかしげたところで「不味い、次回の用心棒を雇う金がー!」という声が聞こえてきた……。
 ……うん、ちょっと気まずい。

「まぁ……そういうこと、なんだ」
「……事情は理解できました」

 お金って何処でも大事だよね、やっぱり。

「解りました。……ただ、衣はともかく食と住の提供は欲しいのですが……」
「住は大丈夫だと思うけど、食はちょっとお金が掛かる…かも」
「……まぁ、背に腹は変えられませんから」

 時間を取られるのは痛いといえるけど、食、住がこの世界では僕にはない。お世話してくれる可能性があるのならすがっても仕方ないと思う。例え多少金を払うことになっても。
 此処で振り切って彼女の捜索に乗り出しても……野垂れ死ぬか、疲労たまりすぎてて彼女にあった瞬間即殺されそうだしなぁ。

「有難う、助かるよ。……それと」
「……?なんでしょうか、ユーノさん?」
「えぇと、歳も近いし敬語で話す必要ないよ?さんもいらないんだけど」

 一応雇い、雇われの関係になるんだから其処ははっきりしていても良いと思うんだけど。っていう思考は子供らしくないかと思い、自重する。
 いや、うん。大人達の都合に巻き込まれたりしているうちに僕みたいにマセるウィザードは結構少なくないんだってことにしておいて…?
 とはいえまぁ、良く知らない人を呼び捨てにしたり、敬語を使わない、というのにも抵抗があるわけで。

「……その、すみません。同じくらいの歳の人と話すのは慣れてなくて……」
「……あぁ、君もそうなんだ……」
「えぇ、まぁ……」

 いちおー、元の世界で小学校に通い始めてはいたけど…浮いてたからなぁ、僕。
 ちなみに僕の外見年齢は現時点で凡そ9歳くらい。『通い始めた』という表現をしたのは其れまで小学校に通えてなかったからだったんだよな、と思い返す。
 ……あれ?こっちに来てたらまた小学校に通えない……?何やってるんだよ僕!夢は大学卒業してサラリーマン、そして奥さん貰ってお父さんになるんじゃなかったのか!

 思考が暴走した。ちょっと落ち着こう。OK、少し頭を冷やそうか。
 ……なんか今、白い服を着た少女が脳内を過った気がしたんだけど気のせいということにしておこう。時代の先取りいくない。

「まぁ、慣れたら、でいいから」
「はい、解りました」

 こうして、僕はしばらくの間ユーノさん…というか、スクライアにお世話になることになった。
 ちなみに。そういえばなんで初めから敬語じゃなかったのと聞くと、一族内という気安さからかあまり敬語を使わない所為だと言うお答えでした。



 そんなわけで、彼らにお世話になってから数ヶ月。色々教わりながら別の世界の遺跡の発掘を何度か手伝い、今回はユーノと共に参加している。
 ちなみに僕らの関係だが……外見上の歳が近いということがあり、さらにスクライアという一族の環境の所為で、僕はユーノと一緒くたの子供扱いで、客人とされてない節がある。
 その方が確かに楽なんだけどね。楽なんだけどさ。……如何なのよ、其れ。まぁ、お陰でお世話になり始めてからたった数日でユーノどころか、スクライアの方々相手に畏まらなくなったんだけど。

 で、教わったこの『世界』の事。こちらには世界を渡るレベルでの管理機構が存在し、『時空管理局』と呼ばれていること。
 その管理局の管理する世界は多岐に渡り、現時点で既に三桁を数えること。管理外でも監視状態の世界もほぼ同等にあり、さらに管理の手を伸ばそうとしていること。
 それぞれの管理世界についての概略も聞いた。ちなみに僕が召喚された世界は人は住んでいるけどそう多くなく、政府と言うものもないので名ばかりの管理世界だったらしい。今いる此処は、一応は管理外世界なんだけどもうほぼ管理世界と変わらないんだとか。

 尚、スクライア一族は時空管理局と敵対するのを避けるために、管理世界であろうとなかろうと先ず管理局に捜索・調査許可を願い、其れが通ってから現地政府の許可を取り、と言う風にしているんだそうだ。
 スクライア一族が遺跡発掘や探索に長けており、その手に持っていないにしてもロストロギアの知識も膨大なものとなっている為下手なことをすると即座に叩き潰されかねないしね、とはユーノが苦笑しつつ語った事。

 魔法についても色々聞いたんだけど、あいにく僕は魔法の使用をメインとしたウィザードじゃなかったので、よく分からないというのが本音。取り合えず、ミッド式とベルカ式というものがあること、攻撃においてはミッド式は中遠距離を、ベルカ式は近距離を得意としていること、補助形は言うほどの差がないこと、などは理解できた。
 取り合えず、魔法には非殺傷設定と言うものがある、というのが最大の驚きで、さらにこっちで戦闘のことを考えると『攻撃を非殺傷にする』魔法は必須らしい。……ちょっと真面目に考えなきゃいけないかもしれない。
 後はこっちで暮らしていたら見ることもあるから、見て感じるといいよとか何とか。プログラム式らしく、一度は丁寧に教えてくれたんだけど……うん、解析とか、僕には無理でした。僕には。

「うん、此処の遺跡の発掘はこんなもの、かな」
「意外と儲けた感じかな、ユーノ?」
「そうだね。君が手伝ってくれるようになってから護衛代が大分安上がりになってるらしいし」
「安月給で働かされる子供。不憫だよなぁ、うぅぅ」
「引き換えに食事は結局無料で提供してるじゃないか。親のお手伝いと思えば蒼も苦しくもないよね」
「今疑問系ですらなかったよね?」

 安上がり、と言うことだが。護衛の能力と言う意味で言えば僕一人で数人分の働きをしている……らしい。と言ってもまぁ、ある程度の数は居てくれないと目が届かないんだけど……。
 目が届き、声がかかりさえすればすぐ駆けつける。その雇い賃が知識と普通の子供より少し多い程度の食料なので、色々重宝されてます。
 ……僕此処から抜け出せるんだろうか?皆が手放してくれるだろうか?最近微妙になって来た気がする。

 バインドは既に解かれ、僕は僕の世界から持ち込んだ道具を確認しながら、そしてユーノは発掘したものや調査で得た情報を纏めながら会話をする。コレはよくあること。
 先ず、僕の武装の初めとして上がるのはグローブ。……まぁ、コレは何処に行っても使えるみたいで安心した。ユーノ曰く、「如何見てもただのグローブなのに初歩の攻撃魔法異常の威力があるって何さ」との事。……僕に言われても解らないって。

 次に、僕がよく移動用に使う箒。普段は右手に腕輪になって嵌っているが必要な時に展開され、陸を走る四足獣の形態を取る、『ハウリングビースト』と言う名前の箒。……獣なのに箒かよ、とか言わない。僕の世界では、魔法的な乗り物はすべからく、『魔法使いの乗り物』と言う意味で箒と呼ばれるのだ。
 尚、この四足獣はウィングを展開し空を飛ぶことも可能。ユーノ曰く、「行動補助専用のデバイスなんてそう無いよ。変なの持ってるね」とか。形態変化自体は、こっちの世界でも良くあるそうだ。地味に会話等をこなせる人工知能をつんでいるが、余り自分から話さない奴なので僕も気にしていない。人工知能には取り合えず『ツヴァイ』という名前をつけている。

 さらに次は、ちょっと大きくてごつい刀。僕の世界で『斬星』と言う名を与えられていた刀の形をした、箒。……箒と言ってもこれは乗って飛ぶ、と言うものじゃないけどね。ただ、この刀にはちょっとした特徴があって……ちょっとしたことをしてやれば、ひっどいことになる。
 何でコレが箒に分類されてるのかは僕にもわからない。後、コレはなんとなくユーノにも見せてはいない。……右手の腕輪が四足獣になったんだから、左手の腕輪も何かになるんじゃ、程度の事は気付かれてると思うけど。

 後、僕の右腕に大抵巻かれている『魔殺の帯』と呼ばれる黒い帯。この帯はそれ自体が特殊な力を持ち、巻き付いた者の能力の制御、封印を勝手にしてくれる。全くもってありがたくないアイテムだ。
 僕の場合は封印の力が弱いものを巻いている為、コレを身に付けている間は魔器――そう呼ばれる、意思を持つ特殊なアイテムが僕の世界にはあった――を召喚できなくなると言う程度でしかないんだが……実は、僕の魔器ってこの帯なんだよね……。
 身につけていなければ封印されず、身につければ封印されても召喚する理由が無い、となって意味が無い封印となってたり……。
 尚、魔器なので意思を持っている上に人化が出来るのだけど……こっちも余り喋らないし、化けない。「道具は道具たれが信条です」とか以前に言っていた気がする。

 他にも身に付けている服は、向うの世界で魔力を込めた糸で織られた特殊なものだったり、バンダナや外套なんかもあるんだけど、特筆するべき武装と言えるのは今上げた四つくらいだろうか。

 そうそう。ウィザードなら誰もが持つ結界、『月匣』の展開は問題なくできた。常識とのズレやら色々厄介な月衣に対し、月匣の方は完璧に異質な空間を生成するために問題が無いようだ。……やったらユーノに「君の世界の魔法って、一体どうなってるわけ?」と真顔で聞かれたのは忘れることにする。僕の世界の能力者なら誰でも出来る事だっただけに、理解はしてないわけじゃないけど、説明はこう、色々と面倒だし。
 とかく、こっちの世界では異常な現象らしいので、出来るだけ使わないようにしようと決意した。

 僕の世界の魔法や技術も、此方で問題なく使うことは出来るようだ。魔法を使ってみて思ったんだけど、魔素……マナ、という言い方をした方がいいだろうか?まぁ、魔力の素は此方でも向うでも変わりは無いみたい。
 ただプラーナという概念は無いそうで、その話をしたときはユーノに不思議そうな顔をされた。そもそも全ての存在が一つの力でなされているというのが理解できないみたいだから、コレはまぁ……また機会があったら説明する程度にしておこう。

 さて、そんなこんなで武装の確認も完了。整備については……僕は機械弄りは嫌いではないけど、専門的にやれるわけではないのでツヴァイに一任していたりする。無口だが頼れるんだよな、動く時も獣状態で動くから見た目に違和感余りないし。

「それで、今回の遺跡発掘結果で売れそうなものって何さ?」
「幾つかあったんだけれど、今回一番高く売れそうなのはこれかなぁ」

 広げていたものをリュックに詰めなおす。場合によっては品の受け渡しの為に僕が船に乗って行くこともあるんだ、もし揉め事とかになった時に便利だとかで。
 ……この世界においての強さの指針は魔力だそうで。魔法を使うことに向いていない僕はこー、魔力がかなり低いために相手に警戒心を抱かせないという点で優秀なんだそうだ。
 正直かなり嬉しくない……。

「うん、これ。ジュエルシード」
「へー。僕が見てもわかるくらい凄い魔力だな。……こりゃ売れるか」

 なるほど、と頷く。コレを運ぶための船に僕が乗ることになるかな、何て首を傾げたら、「うん、お願いする」とユーノの答え。
 まぁ……今回は運ぶだけらしいし。一応いつもどおりの装備だけありゃ大丈夫だろ……多分。
Side out



Ex-Side[Ponkotu]:other
 それは、その遺跡が崩壊し、彼らが引き上げてから数日後の事。
 もはや誰も折らず、見るものもいないその崩れた遺跡跡でからり、と音が鳴った。

 小さな音は徐々に大きく。そして其れは目に見える異変となる。からからと、がらがらと。崩れた石の山、頂上から崩れ、落ちる石が多数。

 そして。

 ガラリ、とひときわ大きな音を立てて石の山から伸びる一本の手。
 其れは細く、小さく、白い。その手の持ち主は少年か少女か、どちらにしても酷く華奢で小さい存在だろう。
 あぁ、だというのに。だというのにこの崩落に巻き込まれ、こうして生き残っているとはなんと言うことか。その存在は既に人ではないということか。
 伸びた手は周囲を探るように暫し揺らめき、やがてがしと近くに在った石を掴んで――

 引っ張った所為で手の方に石が雪崩れて再度埋まった。

 …………。

「あぁもううざいわーーー!!」

 怒声と共に放出された魔力波が、周囲の瓦礫と序に見えない魔物と埋まっていた傀儡兵をふっとばす。

「大体何よなんなのよ!折角格好良く決めて消えれたと思ったら!何で遺跡の防衛機構蹴り起こしただけなのに崩れるのよ!」

 わいのわいのと喚いているのは、銀髪に金の瞳を持つ美少女……だった、のだろう、元は。瓦礫やらに埋もれていた時間は相応に長いのか髪も肌も汚れてしまい、纏っている服も破れたりしているわけではないが、どこかボロボロな感じを思わせる。
 と言うか、防衛機構無理矢理起動させたのなら其れは最終防衛として次回もありえると思われるのだが。

 咄嗟に思いつか無いその頭、そして今のその姿、まさにポンk

「言わせないわよっ!!」

 失礼。

「まったく、フラグも潰れちゃってこれじゃ帰れないじゃない。……まぁ、いいわ、その分こっちで楽しんでいけばいいのだから」

 しばらくぶちぶちとまだ文句を零していたが、やがて口元に薄い笑いを履く。
 見るものが見れば恐怖を感じるであろう其れ。だがしかし、薄汚れた姿でされても寧ろ笑いを誘うだけである。
 哀れぽんこつ。

「……あぁ!言った!?言ったわね!?」

 しばらくぎゃいぎゃい騒いでいた少女だが、やがて何かを思い出したように少女の姿も此処から消えてゆく。


 異世界から来た彼が追い求める、蝿の女王とも呼ばれるその魔王がこの世界で何を企むのか。
 今はまだ、知る者はいない。
Ex-side out



[8027] 第四話 彼の災難と彼女の遭遇
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/07/13 03:58
 其れは、いつもどおりの楽な仕事のはずだった。
 其れは、いつもどおりにすぐに終わるはずだった。
 其れは、いつもどおりに何の問題も無いはずだった。

 こっちに来ての平穏で、僕は忘れて居たんだ。
 僕のいつもどおりは、『非日常』である事を。

 魔法少女リリカルなのは。
 始まり…ま、す?


第四話  彼の災難と彼女の遭遇
(「どうして疑問系なの?」「や、まだ一話前だし」「……えー」)


Side:Sou
 轟音、振動。感じた魔力は尋常じゃない……と、言うほどには感じられないけれど、僕が乗っている次元航行船を落とすには十分すぎるもの。
 あぁあ、ったく、今まで航行中に行き成り攻撃を受けた事なんてなかったから気を抜いていた。そうだ、その選択は当然だ、だって無防備に腹をさらしているようなモンなんだから、気を張っていなきゃいけなかったんだよ、今畜生!
 前の世界じゃ其れが当たり前だったじゃないか。たった数ヶ月、たった数ヶ月で鈍ったのか、僕は!自分に吐き気がする。けれど、自己への憤慨は此処までだ。吸気一つ、呼気一つ。

 船のコンソールに手を走らせる。初めてコレに乗ったときに一通り以上の捜査は教え込まれた、被害状況を先ずは確認。……格納庫に直撃、狙いは運んでる品か!
 この船が何処を通るかをどうやって知ったのか、とか、どうやって次元航行中の船を狙撃?とか思うところはある。だが、其れを突き詰めている暇は今はないし、今じゃなくても構わないだろう、だから疑問を抱いた事を忘れないように脳に刻みながら格納庫へと走る。あの攻撃なんだ、恐らく行き成り乗り込む計画の筈……水際で止められなければなすがままに奪われるだけ。

 其れを安穏と見てるわけには行かない。商品を持っていかれて黙ってられるほど僕はお人好しじゃないんだ。

「ツヴァイ!」

 走りながら名を呼ぶ。応え、右腕の腕輪が変化し機械式の四足獣へ。その背に飛び乗れば、四足獣は翼を展開して一気に加速する。飛行状態時は伊達に機動箒と呼ばれていない、このほうが僕が走るより相当早い。もう振動は無いとは言え、通路を飛びぬけるのは正直かなり怖いんだが……
 うん、ツヴァイにはこの船の船内MAPを登録しておいたしきっとその辺は何とかしてくれる。

「……壁にぶつかったりしないよな、ツヴァイ?」
『……』
「こう言う時くらい喋れよ!?」

 相変わらず無口な相棒その1に思わず突っ込んだ僕を責めることができようか?いや、できまい!……なんか状況とノリがあってないように感じるがこれは大事なことなのだ。軽いノリとテンションを維持することでたとえどんな状況であっても深刻にならず、言葉を絶やさず、重圧を受けない事。これによりたとえ絶望的であっても、前を向いて歩みだせる意思を維持できると言うもの。いや、ほんとに。
 人に不安を与えるような態度とは裏腹にツヴァイは加速しながらも丁寧に一つ一つの通路を抜けていく。かなり距離がある時点で扉を開かせ、閉める指示は行わない。そんな余裕があれば次の扉を開ける。
 そうして幾つの扉を潜ったろう。貨物室に文字通り飛び込んだ僕が目にしたのは、壁にあいた穴と、吸い出されそうになっている壁に括りつけられたボックスと。

 穴の向うから飛び込んでくる、一人の少女。

「何とか、間に合ったか!」
「……っ!?」

 ツヴァイを腕輪に戻しながらの僕の声に反応し、咄嗟に此方へ顔を向ける少女。頭の後ろ側で二つに纏められたツーテールの金髪がゆれ、白い面に赤い瞳を持つその顔がはっきりと見える。
 十人中十人が美少女と言うだろう見た目を持つ綺麗な娘に、僕はつい……

「とりあえず引いてくれたら追う気は無いんだ、大人しく下がってくれないかな」

 見惚れない。……いや、こー……僕が追ってる『彼女』とか、時々会うことがある鉄子とか、東方のお馬鹿とか、魔王って美少女・美女多いんよね。お陰で美少女とか美女を見たら先ず警戒しろと言う反射行動が刷り込まれてしまっている。
 ……そうそう、知らない人のために一応。鉄子……てつこ、ってのは鉄道オタクの女性の事をさす。鉄道オタクの男性は鉄夫で、てつおだっけ。漢字当てないんだっけ?
 
「く……バルディッシュ!」
『Yes, Sir』

 さて、冗談はお終い。少女が後ろを気にしながらも長柄の武器を構えたところで思考をスイッチ。
 ユーノは言っていた、こちらの世界において戦闘力を持つと言うことはほぼ魔導士であるということ。其れは魔法を扱うものであると言うこと。魔法は主にデバイスを用いて使うと言うこと。ユーノはインテリジェントデバイスを持っていたらしいが、意思を持つアイテムだけに使いこなせなかったとか。……じゃぁ、デバイスなしで平気で人を縛るレベルの魔法使ってたあいつの魔力と言うか魔法構築能力はどんだけー、って話し――

 思考脱線、途中放棄、再思考。

 魔導士はデバイスを武器とする事が多いと言っていたことから、今音を発したあの長柄の武器が彼女のデバイスだろう。見た目はポールアクスかハルバードか……バルディッシュの名から斧と推測。……いや、刃を持つ武器としては鋭さがない。非殺傷にしても物理的な意味じゃなかったはず、魔力刃形成機と想定。柄の長さも純粋な射程、其処から伸びる刃の長さを最大射程の槍の形状で想定。

「申し訳ないですけれど、私には必要な物なんです。……だから頂いていきます」
「申し訳ないんなら遠慮してほしいかな。はいそうですか、って渡せないしさ」

 射程計測完了。……しかし、ここまで考えて思うけど彼女は襲撃者だが、攻撃者なのだろうか?もし彼女が持っている武器がそのまま武器として扱うものなのであれば、どちらかといえば白兵が得意であるという予測になる。もちろんそれがフェイントだったって言う経験もこなしているけれど……

「……御免なさい。バルディッシュ、フォトンランサー」
『Photon Lancer』

 僕自身のほんの僅かの逡巡、その隙に構築され発動される魔法。武器形状はやっぱりブラフなのか、打ち出される金の光弾を……けれど、僕はそれを余裕を持って回避する。
 大した魔力もこめられてないし、速くはあるけど僕らが普段から相手している連中と同じ程度。対応するだけならそんなに難しいことじゃない。

「危ないな。謝りながら攻撃って何!?」
「……バルディッシュ、サイズフォーム」

 僕の言葉に反応せずに、手に持つデバイスに何かを告げる少女。いや、応じないと言うよりは応じる余裕が無い、か。……なんだろう。一杯一杯な感じがして、どうにも敵だと認識しきれない。したくない事をさせられてる。自分の意思だけど、自分の意思じゃないような……
 そういう人に特有の表情と、硬質の声。追い詰められた硬さじゃなくて、罪悪感の硬さ。経験から来る勘でしかないんだけれど……

 と、余裕を持っていられる場合でもない。僕の目の前で、バルディッシュと呼ばれたデバイスがその形状を変更し、向きを変えた先端部から金色の光の刃を発生させる。
 それはまるで、死神の鎌の様で。なるほど、サイズフォームとは言いえて妙だと思った。思ったん、だけど。

「いくよ、バルディ…」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」
「……!?」

 僕の声に思わず、と言う感じに突進してこようとした少女が動きを止める。鎌による至近戦か、やはり彼女は射撃ではなく白兵タイプなんだろう。や、そんな考察より今は。
 どうしても、突っ込まずにはいられないことを、突っ込む!

「バルディッシュって三日月斧だろ!?何で鎌!?せめて長柄の斧にしようよ!」

 いや、僕も槍の形状の可能性考えたりしたけどさ、確かに。

「……え……え?え、あの、バルディッシュ?」
『I'm not so(私はその「バルディッシュ」ではありません)』

 ……混乱している少女の変わりかデバイスが返答。端的な答えをどうも。

「解るけどさ……何となく納得いかない」
「……その、御免なさい……?」
『It doesn't apologize, Sir(謝ることはありません、主)』

 なんだろう、流れに飲まれたのかパニック状態だからか、敵意が薄れて素直になっている。頭を下げる少女と、そんな事する必要はないと声をかける従者に僕は思わず小さく笑った。
 ……うん、この子、きっと良い子だ。困った…こうなったら僕はもうこの子を敵だと思えない。妨害は出来ても、本当の意味での攻撃が出来ない。

「まぁ、良いけどさ……。それよりも、何でこんなの欲しいのさ」

 一応、ユーノから説明は受けている。ジュエルシード、その内包する魔力で望みを、願いを叶えると言われる特殊なアイテム。その売り文句だけを見るのなら確かに皆が欲しがるのかも知れない、願いが叶う、望みが叶うという言葉はそれだけ魅力的なものなのだろうから。
 けれど、所詮それは魔法でできることを代行するという程度でしかないだろう。願いが叶うと言った所で、本当に奇跡のように願いを叶えて貰えるものの筈がない。
 もしそうなのなら、このアイテムは遺跡の中に眠っているはずがないのだから。

「願いが叶う、望みが叶うって言われてるけど、奇跡は起こせないよ、コレ」
「……あなたに言ってもわからないと思う。でも、それが必要だから」

 冷たい態度と何処か硬質の声。解らないか解るかは言って貰わなければ解らないのだが…きっと突いても説明してくれることはないだろう。やれやれと溜息一つ、再びデバイスを構える少女の前へ、片手をのばす。待て、と。

「誰も絶対君に渡さない、なんて言ってないよ」
「……?」
「そもそもだ。僕の記憶だとコレ、まだ売り先が決まってないはずなんだ。時空管理局に運んで確認後どうせ売ることになると思うから…できればそうやって合法的に手に入れてくれると嬉しい」
「ぇ、っと……?」
「つまり、やっぱり一旦此処は退いてくれ、と。で、管理局に一旦引き渡した後でどうせ売りに出すから、そのときに口添えするよ」

 それじゃ駄目かな?と首かしげて問うと、初めて少女の表情が揺らいだ。
 安堵と、困惑と、逡巡。…思うに、手に入るという安堵と、襲撃したのに譲られるという困惑と、信じていいのかという逡巡、かな。
 こうなると僕に出来ることはもうない。結局強奪に傾いたときのことを考えて、戦闘になっても問題がないように待機するぐらい。……っても此処で悩んじゃうような子なんだ、できれば戦闘とか避けたいんだけどなぁ。

 僅かな、間。念話でデバイスと相談でもしているんだろうか?……そもそも、デバイスってどの程度の知能を持っているんだろうか?ツヴァイとか並の知能があるのだとしたら、相談役としても十分なんだけど……ん?
 彼女が侵入してきた穴。その向こう。輝く光。


 体は、ごく自然に動いた。


「……っ!?」


 少女を横に突き飛ばすくらいは、間に合った。


「バルディ……」
「護れよ、従者」
『Defenser』


 一声掛けることもできた。けれど、そこまでが限界。


 再度の高威力魔力砲撃が、そこに居た僕を貫通する。後ろから聞こえる弾けるような音は、ジュエルシードを入れた箱が放ったのだろうか。
 声など出ない、出せない。幸い一撃で瀕死となる程のダメージを受けはしなかったものの半端なく体力を持っていかれてる。意味のない音が呼気として放たれ、けれど吸気が肺に送られない。……うん、久々に思いっきりダメージ受けた。今回の攻撃、さっきの攻撃より威力高いんじゃねぇか?手を抜けよ畜生。

 ぐらりと僕の体が傾く。腕輪からツヴァイを戻そうとして、けれど余力なく体が泳ぐ。不味い、止められない。
 視界の端に、直射線上から外れた為か無事な少女の姿が映る。良かった、無事で。
 僕より軽いからか、背に何かが当たる気配がする。あぁ、しまった、護りきれなかったか。
 意識が流れる。酷く驚いたような少女。魔力が込められた宝石。船の穴。漆黒。……漆黒?
 次元航行船。現在は何処かの次元?外は漆黒、輝く色。星?宇宙?思考が流れる。走る。外に吸い出される。人の住めない場所、人の生きられない場所。月衣。発動不可。流れる。外に出る。死。死?

 ――それだけは受け入れられない。『彼女』を放置は出来ない。

「…………死ね、るかぁ!」

 落ちて行く世界の中、堕ちて行く意識の中。僕の周囲にあるソレへと手を伸ばす。そこにあるのは魔力の結晶、そこにあるのは大きな力。
 ソレを手に、僕は僕の意識を拡散させる。想定するのは世界。望むのは世界。僕の為の、僕が在る為の、僕の生きる為の。
 世界の常識全てを覆す、世界。

 船から吐き出され意識が途切れる寸前。確かに僕は、その月匣の存在を感じ取った。
Side out


Side:???(girl)
 光が散るようにジュエルシードが船から吐き出されていく様を、私は見ていることしか出来なかった。
 もしソレがジュエルシードだけだったのなら私も動けた…と、思う。尤も…私が動けなくなった原因である彼が居なければ、母さんの攻撃は私に当たっていて、結局回収なんて出来なかったのだろうけれど。

「……バルディッシュ。あの人…私を、助けてくれた……?」
『I also think so, Sir(そう思います)』

 ……どうしてだろう。私は、あの人に攻撃したのに。襲い掛かったのに。

―誰も君に絶対渡さない、なんて言ってないよ―

 蒼い瞳で何処か困ったように、けれど何かを見透かすかのように。攻撃を返すことなく、私の為に何かをしようとしてくれた。事情の説明も、何もしていないのに。
 そして今さっき突き飛ばされたのが攻撃かと思った私に……違う、あれは私に投げた言葉じゃない。バルディッシュに投げられた言葉と、そのバルディッシュの反応。
 魔法に打ち抜かれ体勢を崩していく彼の眼が意識に焼きついている。私を見て、安堵するように細められたその蒼い色が。

「……バルディッシュ。あの人……死んじゃった、の?」
『……』
「私が……死なせたの?」
『No, Sir』
「……、……」

 突き飛ばされ、座り込んでいた体を起こし、外を見る。もうジュエルシードは見当たらず彼の姿もどこにも見つけられなかった。

「……戻ろう、バルディッシュ。アルフが心配するし、母さんにこれから如何すればいいのか、聞きに行かないと」
『Yes, Sir』

 解らない。解らないから私は願うしかない。どうか、死なないでください。どうか、生きていてください。どうか、無事で居てください。
 どうか、どうか。お礼を言わせてください。謝らせてください。
Side out



[8027] 閑話の一  『其れが、僕の出来る事』
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/08/02 17:22
 これは、魔法使いの少年とであった少年のお話。
 これは、その少年とであった少女のお話。
 これは、そんな二人の出会いのお話。

 彼は出てこないけれど、彼がいたからのお話。
 そう、少しだけ、ほんの少しだけずれた世界のお話。

 魔法少女リリカルなのは
 始まります。


閑話の一  『其れが、僕の出来る事』
(「……orz」「あれ?ユーノ君何してるの?」「後悔中なんだとさ。そっとしとこう」)


Ex-Side[Yuno&Nanoha]:other
 早くも少年は深く反省していた。考えてみれば手は幾らでもあった。そして、その中で最悪の選択肢を自分は選んでしまったのだ。
 何度もあの友人に言われたことじゃないか。数少ない…否、自分にとっては唯一とも言える歳の近いあの友人に。

―ユーノ、君には直接戦闘は無理だろ。だから単独行動なんてするな―

 そう、もし戦闘になったとき。攻撃力が必要な局面になった時。彼には打開策がない。だから、単独行動なんて厳禁だった。
 だというのに彼は単独行動を行った。行ってしまった。可能ならばその瞬間に戻って自分をぶん殴ってやりたいとすら今の彼は思っている。……もっとも、その瞬間の彼ならぶん殴られたところで単独行動をとめなかっただろうけれど。
 反省も後悔も、行動を行った後だからこそ出来るものなのだ。行動しなければ気付かない、気付きようがない。
 其れが、激情から来る行動だったならなおさらだ。

 あまりに感情が強烈過ぎて、その報告を受けた時に何を考えたのかを思い出すことが出来なくなっている。
 只記憶にあるのは強烈な自責の念。何故彼に任せたのかと。何故彼だけに任せたのかと。自分が乗っていれば、その場に自分も居ればひょっとすれば。ひょっとしたら。ぐるぐる。ぐるぐる。
 再び自分が激情に飲まれそうになっている事に気付いて、彼は深く溜息を零した。

 コレじゃいけないんだ。こんなだから、迷惑を掛けることになるのだから。

―迷惑、ってのなら。単独で行かれるほうが後がめんどい。頼られたほうが迷惑にならないよ―

 あぁ、また友人の言葉が脳裏をよぎる。言われていたのに馬鹿なことをしたなぁ、とまたしみじみと思い……思考のループに嵌ったと気付いて、今度は深呼吸。吸って、吐いて。よし、意識の切り替えに成功。

『……ユーノ君、何してるの?』
『え?いや、なんでもないよ、なのは』

 唐突に頭に響いた声に、彼は僅かに動揺したもののなんでもないと返す。念話……魔力を用いた思念による対話。基本的に一定範囲内でなら距離の影響は受けないが、逆に効果範囲を超えると一切連絡が取れないその魔法を思ってさらに気分が落ちる。
 此処……この管理外世界に下りてきたとき、彼は可能な限りの全方位に念話を送った。友人に届くことを祈って。けれども、友人からの反応はなかった。代わりに今の協力者が見つかった訳だが。
 確かにもともとあの友人は念話を使えなかった。あの珍しいデバイスを用いなければ念話が通じなかった。

 ……そういえば分解を拒んだ理由、あれを壊すことを嫌って、だったね。ひょっとして壊した?

 彼は自分が思いついたことに、十二分にありえると頷いた。運んでいたジュエルシードをばら撒いてしまうほどの事故……確かに、そう報告を受けた。尤も彼は自分の友人が事故程度で如何にかなると思って居ないが……にあったのだ、特に頑丈そうに見えなかったあの道具が壊れてしまっていたとしても不思議はない。

 全く、手間がかかる奴だよ、ほんと。

 もしその友人が居れば単独行動をとってこの世界に来てしまった自分に対して思うだろう感想と同じことを思っているなど、彼には解ろうはずもない。解ろうはずもないが、彼はふとその口に苦笑を浮かべた。

 手間がかかるのは僕も同じ、か。

 ジュエルシードと友人が行方不明になったと聞いて、禁じられていたはずの単独行動を思わずとってしまった彼。結果、魔力を宿したジュエルシードと戦闘となり、引き分けた……いや、明らかに負けた……彼。結果として、一人の少女を巻き込むことになってしまった彼。

 本当、手間がかかる。それに無関係な人を巻き込んで――

 そう彼は思いはするものの、巻き込んでしまった事を後悔はしていなかった。彼の言うとおりなのだ、自分には攻撃能力がない。だから、自分には戦闘ができない。あのレイジングハートをいきなり起動し、従えてしまった彼女を頼む他道はないのだ。
 他に手がない以上、その選択をするしかない。それも彼が、彼の友人からいつの間にか叩き込まれていた事。……無論、そんなことを彼の友人が口にしたことはない。ただただ、友人は常にそう行動していただけ。その行動を見ていた彼に、それが移ってしまっただけ。

 そうだ、僕は僕に出来ることをする。僕は、僕の戦いをする。

 少女を巻き込むと決めたとき、同時に彼の中で定めた目標をもう一度確認する。
 それは、護るという事。彼女を傷つけさせないと言う事。幸いなことに、自分は防御や結界には才を持っている。そう。

―ユーノが居るから僕は突っ込めるんだ。君の防御が凄いって事、知ってるから―
―君の戦場は、前に立って戦うことじゃない。後ろで、誰かを確実に護る事だろ―

 彼は友人によく言われたことを想う。護る事ならぬきんでている自分なら。シールドやバリア、結界ならぬきんでている自分だからできることを、誤らぬよう。過たぬよう。

『ねぇ、なのは』
『如何したの、ユーノ君?』
『ありがとう、僕を手伝ってくれて。顔も知らない僕の友人を探すことを手伝ってくれて』
『……ど、如何したの急に?』

 彼女からすれば唐突だろう、そのお礼の言葉に動揺した気配が返ってくる。くすり、と彼は笑った。

『うぅん、改めてお礼がしたくなったんだ』
『そ、そうなの。でも、困ってる人を助けるのは当然なの。それに、友達は…とっても、大切なの』
『うん、そうだね、僕もそう想う。だから、なのは』
『うん、何?』

 念話で、こんな自分の我侭に付き合ってくれたその少女に。ありったけの想いと、覚悟をこめて。

『君は、絶対僕が護るから』
『うん、ありがと、ユーノ君♪』

 返ってきた言葉にうんと頷いて決意を新たにする。その彼は。
 今、フェレットの姿をしていた。



 尚、余談だがこの数年後、親友と呼べる友人と悪友と呼ぶべき友人にこの話をし、

「何で君はそういう殺し文句を、人型で言わないかなぁ…?」
「それだと愛玩動物の精一杯の強がりにしか聞こえないな。まったく君の気持ちは彼女に届いてないぞ」

 などと突っ込まれ、彼は果てしなく落ち込んだらしい。



[8027] 第五話 彼の生存と世界の違和感
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2009/10/18 18:24
 咄嗟に纏ったのは、世界の外の世界。
 咄嗟につかんだのは、魔力の塊たる宝石の種。
 咄嗟に思い描いたのは、僕が僕である為の場所。
 
 それらが如何作用するかなんて、その時の僕には想像もつかなくて。
 けれど、その御蔭で僕は……。

 魔法少女リリカルなのは。
 始まってます。


第五話  彼の生存と世界の違和感
(「……はじまってます?」「まぁ、この辺はそのうちに」「……ん?私の出番そろそろなん?」)


Side:Sou
 目を覚ました僕の目に映るのは、真っ暗な世界。けれど不安は無い……此処がどういう場所なのかはなんとなく理解が出来ているから。
 月匣と呼ばれる、「自己の常識」を持って世界を切り離す…いや、限定的ではあるが「新たな世界」を作る、といった方が正しいといえる能力。僕ら、魔法使いなら誰もが持つ能力の発現。
 とはいってもこの能力は僕の世界の『魔法使い』なら誰でも持つものであり、此方の世界の魔導士では高位の結界術士でもないと不可能らしいのだが……それだけ非常識に優しい世界というのには憧れるものがある。

 閑話休題。

 不安は無いとは言ったが、目覚めた僕は戸惑っていた。気を失う前の状況はちゃんと覚えてはいる。だからこそ、このまま月匣を解いていいものかどうか迷っていたりする。
 「新たな世界」を作るとは言ったが…限定的ともつけたとおり、この世界は大抵長持ちはしない。個人認識程度で生み出された世界など世界がその気になって修正にかかればすぐに消えてしまう物なのだ。更に、この世界においては色々な常識がほとんど意味を成さない。距離とか、時間とか、色々狂うのはよくあることとなる。
 本来その辺は月匣の作成者…つまり僕がルールを決めるのだが、生き残ることが最優先であったために僕はその辺をほぼ何も考えずに作ってしまった。結果、正直今月匣を解いたら何処に現れるのか、とか…全く解らない。
 解いた瞬間人前とかだと結構やばい。いや、やばいけどまだマシだ。解いた瞬間そこは溶岩の中でした、とか、宇宙空間でした、とか…そんなことになったら目も当てられない。泣くことすらできやしない。

 と言っても、だからってこのままこの世界に引篭もる事も出来ないわけだが。さっきも言ったとおり、余り長持ちしないものなので。

 さて、以上が脳内で整理した僕自身の現在状況。そしてその状況から推測される選択肢はたった一つしかない。
 即ち、月匣を解く。
 これ以外に取れる方法が無かったりするのだ。

「……こー。コレで解いたら即死、って状況だったらどうしよう?」
『……』
『……死ぬだけ』
「鬼か君ら!?」

 こぼしてみた愚痴にツヴァイは何も言葉を返してくれることは無く、魔器である魔殺の帯―本人はクロ、と名乗っている―はそっけない一言。なんかもう泣きたくなりました。泣かないけど。
 まぁ、うだうだ悩んでも結局状況は変わらないわけで。

「ツヴァイ、経過時間」
『体感にして凡そ三時間。詳細を?』
「要らない。クロ、術式補佐」
『詠唱領域確保。魔装展開準備完了』
「魔装、ファフニールブラッド展開」

 ヴ、と僕の周囲で微かに鳴る音。周囲に現れた魔法陣の光が収束し、僕の右腕に宿る。
 魔装。特定の魔法をほぼ常時発動待機状態とすることで、一定量の魔法力制限を受けるのと引き換えに発動時に必要な魔法力を無視すると言う技術。攻撃、防御、その他サポートに用いられる物ではあるが、いかんせん魔法力制限は魔法使いの中でもそういった神秘使いでは無い僕にとっては重いものとなるし、また、物によっては魔法力だけでなく行動速度にまで制限や阻害を与えてくるものがある。
 その為、常に展開し続けることは控えているのだが…今回は流石に何が起こるのかわからないから、すずめの涙程度でも準備しておくことにする。

「よし…月匣、解除」

 宣言すると同時。黒い世界に無数に罅が入り、ガラスが割れるような甲高い音と共に壊れていく。その向こうに見える景色は……
 ……森?いや…山?時間は昼のようで、太陽が空に燦々と輝いていた。気温は熱くもなく、寒くもなく…春の陽気、とでも言うところだろうか。
 少なくとも僕の人生の中ではもっとも長く経験している馴染んだ空気と、馴染んだ気配。……いや、馴染んだと言うには何か奇妙な違和感があるけれど……それでもまぁ、十分すぎる程に記憶に刻まれたセカイ。

「帰って…来ちゃった?」
『0-Phoneによる確認を推奨』
「あぁ、確かに…ってうぁ、反応しねぇ。電池切れか壊れたか…」
『……空気成分、気候計測を開始』
「頼んだ、ツヴァイ」

 僕の呟きに応じるように腕輪が意見を述べるが、従おうとして携帯を取り出した僕の情けない声に仕方無さそうに微かに発光し始めた。……仕方ないだろう、電池切れだったら確かに僕が悪いけど、壊れてるなら僕の所為じゃない。まぁ、気を取り直すように吸気を一つ、呼気を一つ。そうして落ち着いたらその場に座り込むことにした。
 このまますぐに人の居る場所まで向かいたい気持ちもあるけれど、もし僕が『帰ってきた』のならそういう訳には行かない。だってこんな日の高い時間に僕みたいな子供がその辺を歩いているはずがないんだから。もし誰かに怪しまれ、警察組織に捕まったりしたら後が面倒になる。……『帰ってきた』のならフォローしてくれる組織に心当たりは山ほどあるけど、だからって借りを作りすぎると碌な事にはならないしね。
 だから日が落ちはじめるまでは此処で待機。発光を続ける腕輪からの報告に期待しつつ、僕は周りの景色へと目を向け――

 ほんの一瞬視界の端に映る、光を照り返した物。

 あぁ、そういえば咄嗟に手を伸ばして一つ掴んだんだっけか。ひょっとしてさっきの月匣、コレをコアにしたのかな…?
 そんなことを考えながら拾い上げたのは、ジュエルシードと呼ばれるもの。硬質な輝きを発するそれは静かにそこにあり、一切の魔力を感じさせない。
 ……一切の魔力を感じさせない。

「……」

 いや、待て。それは無いだろ。コレ元々膨大な魔力を秘めた物のはずだろ、何で魔力を感じ取れないんだ?首をかしげながらくるくるとひっくり返してみるものの、やはり魔力を感じ取ることが出来ない。否、ただ内包する魔力を感じ取れない、だけじゃない。魔力があったと言う残滓すら感じ取れない。
 ……あぁ、そうだ、感じ取れない。それが正しい。詳しく意識を集中して探ってみて解った、この宝石の周囲に僕らで言う月衣に似た断絶空間が展開されている。月匣による擬似的な封印状態とでも言うべきか、とにかく、この宝石は世界に在りながら、世界から隔離された空間に存在している、ということになる。だから、この宝石からの魔力を感じ取ることが出来ない。
 ジュエルシード……願いを叶える、とか言っていたっけ。本当に願いを叶える力なんてないのだろうけれど…つかんだ一瞬の僕の志向の流れをトレースし、自己の隔離を自分自身に対して行った、という所だろうか。……コレ、使えないな。21個あったけど1個売れなくなったな、そんな思いで溜息一つ。ま、弁償しろといわれたら頑張って稼ぐとしよう。

 取り合えず其処まで思考して宝石をポケットにしまいこみ、乾いた音を立てる草を下敷きに全身を投げ出すことにした。待っている間にやれることがあるわけじゃない、なら体力を温存するに限る。そう結論付けた僕は、其の侭睡眠へと意識を故意に落とす。
 いい時間になったら相棒が勝手に起こしてくれるだろう、何て予測して。


 
「……御免、もう一度報告してもらっていいかな」
『……』

 時間は昼少し過ぎ、もう少ししたら子供達…といっても、小学生だけだろうけど…が学校という閉鎖空間から解放されるであろう頃。
 僕は、相棒からもたらされた情報に混乱していた。その僕の気持ちがわかるのか相棒も僅かの沈黙…どうやら更に情報を整理してくれているらしい…の後、意味としては同じ内容の報告を繰り返す。

『気候、空気成分、環境、全てにおいて99%ファー・ジ・アース内、日本と同質』
「……うん」
『しかし、世界結界が存在せず、裏界に拠る侵食形式が僅かすら見当たらないため、100%此処はファー・ジ・アースでは無いと断定可能』
「つまり……」
『世界結界が不要…侵魔に因る襲撃が存在しない、かつ冥魔による破滅も存在しない並行世界と推測』
「…………」

 空を見上げて、僕は深く溜息を吐いた。
 裏界。元の世界、ファー・ジ・アースでのほぼ全ての魔法使いの敵である侵魔が住まう世界。侵魔とは、世界を乗っ取ろうとする存在。過去において世界では神と崇められた侵魔の王…魔王達が支配し、統率し、統制する存在達。その存在自体が、魔王によって生み出された魔物達であることが多い。そも、あらゆる伝説においては魔物達も神の手により創造されたか、神の手により創造されたものが歪んでしまったのだから当然ともいえる。魔王達は旧くは神であったのだから。
 そして、その侵魔と一時的にでも手を組ませるほどの驚異、冥魔。冥界と呼ばれる世界に封じられた破壊の、破滅の、滅亡の権化。ただ世界を破壊するため、破滅させる為、滅亡させる為に存在するといわれる者達。
 それらが居ない、世界。それらに怯える必要がない、世界。その、可能性が今僕がいるこのセカイ。

「……世界結界がない、世界、か」

 僕が此処に現れてから感じている違和感の正体はきっとそれなんだろう。そうだ、考えてみれば僕は今月衣をまとって居ない。なのに何の問題もなくこうして魔法産物の相棒と話せているんだ、それは既におかしい事じゃないか。
 たかが数ヶ月ではあるが、それでも僕が魔法使いとなってからで月衣を纏わない時間としては破格の長さだ。それがきっと、違和感に気付けなかった原因なんだろう。

「…………」

 浮かんだ言葉を、けれど僕は口にせず吐息と共に虚空に捨てた。今はそんなことを思っていられる状況じゃないはずだ。
 まず、此処が僕のもといた世界でないのなら援助の一切が期待できない。平行世界である事から高確率で貨幣は同じだろうと予想されるけどそれすら如何かもわからない。
 と言うか、硬貨は兎も角札に関してはきっと同ナンバーの物があるから下手に使うと偽札扱いされかねない。
 日本の紙幣は世界一偽造が困難だと言われている。それは紙幣に使っている紙の成分が極秘事項として扱われており、その成分を完璧に真似る事がとてつもなく困難だからだそうで。もし…というか、正直高確率でなんだけど…使用している紙幣の成分が同じの場合、僕は完璧な、けれど異世界で作られたが故に此方では偽札となるものを持っていることになる。正直、厄介ごとの種でしかない。
 だとしても生活する上である程度の金は必要になる。……まぁ、ナンバー被りなんて銀行とかにでも行かない限り、ばれないとは思うけど……でも、紙幣を使うのはコンビニとか顔を見られる場所は避けるとしよう。
 
 で、お金以上の問題もあるわけで。たとえば月匣を開いたらすぐこの場所だったってことは。

「此処にジュエルシードが落ちた可能性は?」
『船から投げ出された後の事から考えて、高いと予測』

 やっぱり。アレの危険性については詳しく説明を受けたわけじゃないけど、けれどまぁあの手の願望器の類がどれだけ危険なのかは元の世界で身に染みて解っている。放っておく事は出来ない。
 同時に、スクライアの皆から連絡が回って、時空管理局がこの世界に来る可能性も考えられる。こっちについては正直僕にとっては喜ぶべきことだけれど。
 戸籍がない人間が本来存在し得ないのが日本という国だ。恐らくそれも僕の元居た世界と変わりは無いだろう。……いやまぁ、元居た世界だと本来なら戸籍がない魔法使いとか結構居たけど、その辺は支援組織が用意してくれので特に問題にならないのだ。だが、その支援組織とか無いだろうこの世界で、異世界の存在である僕が戸籍を得る手段なんて現在無く、そして戸籍がない僕がこの世界で暮らすのは並大抵の事じゃないだろう。
 が、管理局が来てくれるなら何とか接触できれば…少なくともスクライアの皆のところには戻れる筈。……僕としては、できれば此処に住む許可とかちょっと欲しいなぁ、と思うんだけれど……。

 いや、解ってるよ?僕の本来の役目は忘れてないよ?でも、落ち着ける本拠地を用意するって言うのも大事だと思うんだ。

 ……なんて自分への言い訳は置いておいて、とりあえずは街に下りよう。警察組織なんかは怖いが、だからと言ってここでじっとしていてジュエルシードへの対応が取れるわけじゃない。先ずは情報を集めないと。

『……?』
「世の中には無料でインターネットが出来る場所ってのがあるんだよ。ま、確率で、だけど」

 声は発しないが、何処へ行くのか、と言う疑問を抱いた様子の相棒に、僕は肩を竦めて零す。
 そう、世の中には無料でインターネットができる建物というものがあるのだ。
Side out


※あとがきは今後此方に書いてみることにします。
 取り合えず再び二ヶ月かけた割には全然進んでいません。10kb前後を目処に書いているはずなのですが、上手くいかないのが悩みの種です。
 今回は切りがいいところで10kbに到達したので、取り合えずコレまでで。次回は…タイトルでもいってるとおり、関西の方言な彼女が登場予定です。予定は未定と言いますが(’’)



[8027] 第六話 彼の行動と彼女達の邂逅(前)
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2010/09/05 18:52
 その出会いは、偶然だった。
 その出会いは、何処までも偶然だった。
 その出会いは、だからこそ大切だった。

 その出会いに、そのときは意味なんてなくて。
 だから僕は、その出会いを受け入れることが出来たんだ。

 魔法少女リリカルなのは。
 まぁ、はじまりますでいいよね?


第六話  彼の行動と彼女達の邂逅(前)
(「ええんとちゃう?」「だよねぇ、いちいち考えるの面倒」「ぇ、私、こんなに早かったんだ…」)


Side:Sou
 そんな訳で、やってきました図書館。

「済みません、案内有難う御座いました」
「いいよ、私も図書館に用があったから」

 此処まで案内してくれた見た目が同い年くらいの少女に頭を下げると、彼女は穏やかな微笑で首を振ってそんなことを言ってくれる。うぅ…良い子だ…。
 こー、横暴理不尽盟主だとか計画だけ壮大なぽんこつ魔王だとかわがまま三昧で氷の精霊的な金色の東大公だとかの相手がメインだった僕からすると、こういうおとなしい女の子って言うのはそれだけで希少価値を感じてしまう。だから如何ということは無いんだけど。
 尚現状の説明だが。目的の場所が何処にあるかも知らずに山を下りた僕だったが…途中で目的の場所がどこか確認して居ないことに気付き、しかも降りる前のやり取りからツヴァイに調べてもらうのもなんだか情けない気がしたので仕方なくちょうど近くを通りかかった子に道を尋ねたのであった。
 そうしたらちょうどその子も図書館に向かっていた、とのことなので此処まで案内してもらった、という流れである。
 道中の腕輪や右腕、袖の下に巻いた布から感じるしらけた空気に耐えるのは結構大変でした。

「本の借り方とかは解る?」
「必要になったら、職員の方に尋ねるつもりです。其処まで御迷惑を掛けるわけにはいきませんし」
「…うん、それじゃ、私はこれで」
「はい、有難う御座いました」

 僕の言葉に、迷惑じゃない、と返してくれようとしたんだろうけれど。必要以上に踏み込もうとはせずに引いてくれたことも含めて軽く頭を下げる。気にしないで、と笑ってその少女は長い髪を靡かせるようにして図書館の中を歩いていった。
 その後姿を見送ってから…さて、と僕は軽く気合を入れて図書館の中を歩き出す。探すのは、図書館備え付けのパソコンである。
 こういった図書館には、本を探すためのパソコンやインターネットスペースと称するネット接続可能な場所があることが多い。無論、多い、であって絶対にあるというわけではないのだが……今回は僕の運も悪くはなかったらしい。パソコンがしっかりと置いてあった。幸いなことに使っている人も居ないようだ。

「こういう時には因果律ってモノを信じたくなるよね。基本運命否定論者だけど、僕」

 そもそも運命とは破壊するべきものだ、というのが大抵の魔法使いの意見だと思う。魔王の中に運命を語るものが多い所為だと思う……いや、そもそも語られる運命のほぼすべてが破滅的だからだろうと思うけど。
 ほぼ全ての生物にとって死という終わりがある以上、運命の終着点は死という終焉となる。それを前面に持ってくれば、運命とは破滅に至るべき唯一の道と言えなくもない。……所詮は戯言だといえるが。
 ま、そんな如何でもいいことは思考の片隅にほうり捨て。僕は軌道済みのパソコンに手を伸ばし、先ずはこの世界、この町の地図を呼び出す。最近の事件を調べたところでどうせ地名やらなんやらが出てくると場所がわからずイメージが取れない。ならばそのイメージを補完する情報を集めるべきだ。
 そのついでに別の窓を起こしてこの町だけではなく、全体的に最近の事件についても集めておく。此処最近の社会情勢なんかも知っておかないと余計なポカをする可能性があるし、何より時事ネタは人との交渉の席で存外役に立つのだ。
 そんな訳で、でてきた地図を見ながら、僕は各情報を頭に叩き込み始める作業に取り掛かった。
Side out


Ex-Side[Suzuka]:other
 
「大丈夫ですか?」

 少年が少女に掛けた第一声がそれだった。躓いて転びかけ、つい投げてしまった本を見事に受け止めて声を掛けてきた少年に、少女は照れの混じった顔で大丈夫です、と答える。
 少女は其の侭本を受け取ろうと手を伸ばそうとしたが、ふと気付けば少年は己が受け止めた本をじっと見ている。どうしたんだろう、と首をかしげたところで、

「あの、図書館へはどう行けばいいんでしょうか?」
「……え?」

 掛けられた言葉とのつながりが少女には一瞬わからなかった。故にきょとんとした顔をしてしまったのだろう、少女の様子に少年はすみません、と謝って。

「この本、図書館の印が押されてますから…僕は今まで行った事がなくて、場所がわからなくて」
「……そっか、それ図書館で借りた本だもんね」

 今から図書館に返そうとして少女が持っていたのだから、当然ではあるのだが。それを見て少年は少女が図書館に向かっている…と、までは解らずとも、図書館の場所を知っていると予想したのだろう。
 何だ、ちゃんと繋がってたんだ。そう思って少女は小さくクスと笑った。その笑みに不思議そうな少年に、なんでもない、と軽く首を横に振り。

「今から行くところだったから、案内するよ」
「……有難う御座います。此方に来たばかりで道に不慣れなもので、助かります」

 見た目は少女と同い年くらいの少年。けれど少女の言葉への受け答えはしっかりはきはきとし、何よりその物腰と口調が丁寧で少女は少しだけ違和感を抱いた。
―見た目より大人っぽい?不思議な人―

「来たばかりって…引っ越してきたの?」
「いぇ、その予定があるらしいので下見についてきたんです。……もしかしたら自分が住むかもしれない場所のことは、知っておきたいですから」

 なるほど、と少女が頷く。どんな場所なのか知りたいっていう好奇心はやっぱり誰にでもあるものだと思うから。……尤も、引越しを経験したことの無い少女には解るものでもないのだが、解らないからこそそういうものなんだろうと勝手に納得してしまう。

「それじゃ、この町の事教えてあげるね」
「助かります」

 少年の微笑の肯定に背中を押されるように、少女は語りだす。海鳴の町のこと、住む人の事。少女の親しい人の事。上手く合いの手を入れてくる少年に、語る言葉は図書館まで尽きなかった。


 そうして図書館に着き、別れた少年を思って少女は少しだけ可笑しそうに笑った。本来聞き手側に回ることが多いはずの自分が語り手側になり、名も知らない少年に色々と語ったことが何となく可笑しかった。
 名も知らぬ少年。そう、結局少女は自分の名を伝えて居ないし、彼の名も聞いて居ない。時間はあったはずなのに。振り返れば、少年は別れた場所にはすでに居なかった。

「…なんていうか…不思議な子、だったね」

 引っ越してくるのなら、もしかしたらまた会うこともあるのかもしれない。そのときは名前を聞こう。そんな風に思いながら少女は本を返し、新たに借りていく本を探し始めた。
Side out


Side:Sou
 あらかたの情報は浚えただろうというところで画面から目を離し、天井を見上げて深く吐息を吐く。……いや、うん、結構しんどかった。

「ツヴァイ、データ整理宜しく」

 パソコン画面に出した画像は全てツヴァイに記録するように命じておいた。整理の命令にあわせてちか、と腕輪が光ったので今度は集めた情報の整理に取り掛かっているところだろう、これでとりあえず当分は問題がないはず。
 時計に目を向ける。僕が来てからの時間は……思ったよりは過ぎてないみたいだ。思ったよりも時間が空いたし、折角だし軽く図書館内を歩いてみようか。それで良い時間になったら外で何か食糧を買って…。…何処かで野宿かな。
 未来設計に何一つ明るいものが見出せずに溜息なぞ吐きながら図書館内を適当に歩き始める。……って、小学生くらいの少年が溜息つきながらのろのろ歩いてたら異様だよな、もうちょっと位自分のテンション上げよう。

 適当に本の背表紙や、人なんかを眺めながら歩き続ける。僕の案内をしてくれた少女はカウンターに向かい、何か借りたいものを借りれたらしい。僕に気づかずに其の侭出口へ歩んでいく。
 流し見ているブロックは絵本だろうか、白雪姫、人魚姫。桃太郎に金太郎、ほんとうのたからもの、泣いた赤鬼。流し見しながら次のブロックへ。
 今度は文学書だろうか、正直あまり興味を引くようなものは無い。適当に読むのは嫌いじゃないけれど、本来の意味での文学書とかあんまり読まないし……人も少ない。近くの本を取る女性、低い位置の本に興味を示す男性、手を伸ばしてぎりぎりの位置の本を取ろうとする車椅子の少女。
 次のブロックはなんだろうか。技術書辺りだと興味を惹かれるんだけれど……。思いながら歩みだした一歩は、けれど。
 背後の気配に反転する為に使うこととなった。
Side out


Ex-Side[Hayate]:other
 車椅子を使う少女に対し、返ってくる反応は大抵二つだ。必要以上に丁寧に少女を扱うか、あるいは少女の存在をほぼ全く意識しないかのように無視するか。
 丁寧に扱われるのはありがたくない訳じゃないが、少し困る。意識されないのは楽だが、時と場合によっては困ってしまう。たとえば、今のように。

「ん~……」

 いっそ手が届かない位置にあれば職員を頼ろうとも思えたのだろうが、その本はぎりぎり少女の手が届く位置にあった。だからそのぎりぎりに挑むように少女は頑張って手を伸ばす。
 周りにいるのは女性と男性、そのどちらも少女へと興味を向けない。余計なことは御免だと思っているのか、それとも少女の自立を尊重しているのかそのどちらなのかは少女にはわからないし、別に少女は知りたいとも思っていない。
 それは少女にとってはいつも通りの事で、今通りがかり、そして通り過ぎようとする少年が少女に何らかの反応を示すことがないのもいつもの事。

「ん……あ」

 そして、手を滑らせてぎりぎりの位置で引っ張り出そうとしていた本がバランスを崩すのも…まぁ、少女からすれば良くあることだった。そこそこの厚さがある本が背表紙を下に、少女へと落下してくる。
―あぁ、これあたったら痛いやろな―
 落下してくるその文字を見上げながら少女は呆然と思った。このままやと角があたるやろか、痛いんは嫌やな。思いながらも少女にはどうすることも出来ない。今更頭を庇うことも、間に合わない。
 だから、その文字をじっと見上げていて。
 唐突にその文字が隠されるところもしっかりと瞳に移していた。何が起きたのか理解できないままに間が空くことが1秒、2秒。ようやく見えていた文字を遮ったのが誰かの手であることに気づいた少女は、その手の持ち主のほうへと目を辿らせようとして。
 ひょい、と少女の視界から消える本と、手と腕。不思議そうに見上げる瞳には黒い髪と澄んだ蒼い瞳が映った。

「……大丈夫?」

 掛けられた声に、少女はただ頷きを返す。まだ声が出せるほどには驚きは引いていなかった。只、ふと解った事はある。
 この少年は、確か今自分の後ろを素通りした少年じゃなかっただろうか?

「そ、なら良かった」
「……あ、あの」

 なんでもないことのように言葉を落す少年に、ようやく言葉を口にできるほどまで回復した少女が口を開く。まずは有難う、やね。その思いを言葉として放とうとして……。
 頭部に走る軽い衝撃に、またも少女は黙ることとなった。

「手を伸ばしてたから取れるのかな、と思った僕も僕だけど。君も難しいな、と思ったら声をかけようよ」
「あうぅ……えろぅ、すいません……」

 衝撃の正体は、少年が片手に持つ本。重量の割りに軽い理由は少年がしっかり手加減したからなのだろう。知人でもない少年に本で軽くとはいえ叩かれるのは正直少女としても不本意ではあったが…落下してくる本の角とならば比較するまでもない。
 それに、少年が言っている言葉は別に間違えちゃいない。厳しいと思えば声をかけるべきなのだ。……それでも、少女は誰かに迷惑をかけるのが嫌だから、できるだけ自分でやろうと思うのだが……。

「自分でやろうとする姿勢は凄いと思うけどさ。けれど、それで怪我したら図書館の職員さんに迷惑掛かるよ?」
「……せや、ね。解ってます」
「なら良いけど。取ろうとしてたのはこれで間違いないの?」
「はい、それです。間違いないです」

 そ、と少年は少女に本を渡してそのまま反転。少女に背を向けて次のブロックへと歩み始める姿に彼女は一瞬だけ迷った。言葉にするべきか、否か。今からその背に声をかけて、迷惑じゃないかどうか。けれど。

「あの、有難う御座いました」
「どういたしまして。次は誰かを頼りなよ」

 振り返って向けられるのは微笑。年齢不相応に見える表情と言葉を残し、少年は以降振り返らずに次のブロックへと歩んでゆく。
 その背が見えなくなるまで見送ってから、少女ははっと気づいた。

「しもた……名前、聞きそびれてもうた」

 また会えるだろうか。会えれば良い、そのときは名前を聞いて、今日のお礼をもう一度ちゃんとしよう。……叩いてくれた事も込めて。そう少女は心に決める。
 会える保証などないが、その方が何となく楽しいから。そう思えばきっと、明日が楽しくなるから。
 その少女はまだ、孤独だった。
Side out



※なかがき
某金髪娘を押し込められませんでした…。



[8027] 第七話 彼の行動と彼女達の邂逅(後)
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2010/09/05 18:56
 見かけただけの、その存在。
 見かけることもなかった、その存在。
 僕と彼女は、そんな風にすれ違って。

 だからやっぱり、僕には意味なんてなくて。
 けれども、見かけなかったからこそ彼女には意味があったんだ。

 魔法少女リリカルなのは。
 始まります。


第七話  彼の行動と彼女達の邂逅(後)
(「ちょっと。なんで私だけ別扱いなのよ」「語る長さの問題だって。仕方ないだろ」「……へぇ」)


Side Sou
 時間も良い具合になってきたので、図書館を出て適当にふらりと歩き始めることにする。目的は適当なコンビニで適当に食料を調達すること。……うん、適当過ぎだな。
 ズボンのポケットから財布を取り出し、中身を調べてみる。スクライアの一族と居た時は自分のお金なんて使うことはなかった(そもそも現地でお金が居る時は、一族の大人の人にお願いしていた)し、元の世界での所持金が其の侭入っているはずだけど…。
 ……。
 
 ** あぁっと **

 よし、落ち着け、僕。先ずは紙幣の確認からだ。OK、たとえ使えなくても確認だけは必須だ。さぁ、い~ちまい…コレはレシートだ!次、い~ちまい…残念、コレもレシートだ!他に紙は無い!
 じゃぁ、小銭だ。よぉし、再確認しちゃうぞ!……銀色のドーナッツがやっぱり一つ。つまり所持金は50円。

「……山なら野兎の一匹でもいるかなぁ」
『……』

 視線を彼方に向けて零した僕の言葉に呆れたような気配を感じる。うん、御免、自分でも正直呆れてる。あんなに必死にこの世界の紙幣とか考えてたのに、実は考える必要からありませんでしたとか、もうね、泣きたい。
 だが落ち込んでいても仕方がない、金がないならサバイバルをするしかないのだ。そう、金が無いのだからサバイバルするしか……!

「あれ。そういえば荷物は?非常食とか着替えとか入れてたはずだけど……船と一緒に墜ちた?」
『…………』

 む、無言の肯定が痛い…っ!まずい、早急に月衣を再展開できるようにならないと着替える服がない!小学生にして服がないと呟くニートな生活は御免だ!
 そもそも野宿だがな!……泣けてきたよ今畜生。

「なにしてるのよ、あんた達!!」

 そんな感じで落ち込んでいると、不意に聞こえてきた声に目を向ける。何もしてない!とか思ったわけじゃない、明らかに僕に向けられた言葉じゃないから。
 目を向けた先には座り込む老婆と、その老婆の前に立つ金髪の少女と、その少女が怒鳴り声を上げた対象であろう高校生くらいのお兄さん方。状況から見るにお兄さん方が老婆を突き飛ばすとかなんかして、少女が割って入ったって感じかな。
 少女もお兄さん方も素人だ、というのは見て解る。そうなると年齢差から来るリーチや腕力の差だけでケリがついてしまうだろう。……僕が少女に加勢すればお兄さん方を叩きのめすことは出来なくは無いだろうけれど…其れをやるのはあまり美味しくない。
 僕は騒ぎを起こせない立場にいるのだ。喧嘩など御法度、御免です。
 という訳で少女には諦めて犠牲になってもらおう。決めて、僕はその光景に背を向けて走り出すことにする。

 運がよければ、助けてくれる人はいるだろうしね。
Side out


Ex-Side[Arisa]:other
 失敗したわね、と早速少女は反省していた。後悔ではない、反省である。
 いや、そもそも初めから解っていたのだ。色々習い事をしている身、同年代の少年少女の中では運動神経もあるし多少の荒事に対する心構えも、生まれの関係で無くはない。
 されど、自分の年齢、自分の体で年上の、其れも男を相手取って勝てるなどと思うほど少女は無謀でもなければ馬鹿でもない。本来であれば。
 だから、どれだけむかついて苛立つ様な相手でも出来るだけスルーをしようと思っていた。先ほどまで友人達と一緒に居たので気分がよかったこともあり、耐えれると思っていた。
 ……彼らが、自分の前を歩いていた老婆を突き飛ばさなければ。

 其れを見たら1も2も無かった。気がついたら声を上げ、老婆と彼らの間に割って入っていたのだ。

 だからこそ、失敗したわね、と少女は反省する。次に似たことがあればむかついた時点でさっさと如何にかする方法を考えようと心に誓って、少女は男達を見上げる。
 見下してくる男達は始めこそ面食らったような顔だったものの、自分達に声を上げたのが幼い少女だと理解してその表情を変えた。明らかに見下した、蔑んだ顔。あぁ、むかむかする、と少女は思う。

「どうした、お嬢ちゃん?」
「どうした、じゃ無いわよ。あんた今、この人を突き飛ばしたでしょ!」

 背に庇った老婆を示して、少女が吼える。其れを聞いて少しだけ五月蝿そうに声を掛けてきた男は眉を寄せた。

「道の真ん中をとろとろ歩いていたから、ちょっとどいて貰おうとしただけじゃねぇか」
「真ん中じゃなかったわ。明らかに背中に回ってから突き飛ばしたでしょ!私見てたもの!」

 少女が返してくる言葉に、どんどんと男の顔が不機嫌になっていく。同時に、男の連れから男に掛けられるからかいの言葉。小学生に怒られてやがる、と。
 もう良いよお嬢ちゃん、と後ろから聞こえる声に少女は少しだけ振り向いて。

「大丈夫、お婆様?…でも、御免なさい」

 声を掛けて男に向き直る。10年も生きては居ないけれど、少女は老婆を突き飛ばした男のような人物の性格をある程度理解していた。
 即ち、邪魔に入られた上に仲間に囃し立てられた時点で少女に逃げ道は無い。
 そして、周りを歩く通行人に救いを求める意味も無い。遠巻きに眺めるか、足早に歩み去る人波は事勿れ主義な日本人そのものなのだ。

「なぁ、ガキ。優しく言ってるうちに…」
「優しくも何も無いわよ!この人に謝りなさい、悪いのはあんたでしょ!」

 仲間にからかわれ、それでも子供に殴りかかるのは如何かとでも思ったのだろうか。なおも言葉を載せようとする男に、少女が返す言葉は容赦がない。
 少女は馬鹿じゃない。この状況で、この状態で、男がどういう行動に出るかだって解らないわけじゃない。それでも、少女は譲らない。
―殴って見なさいよ、噛み付いてやるんだから―

「この…ガキがっ!」

 ついに振り上げられた拳に、それでも少女は目を閉じないし目を逸らさない。男を見上げ、拳を見上げ、その瞬間に何か返してやる、と意気込んで。

「子供相手に手を振り上げるのは、流石に大人気ないんじゃないかな?」

 けれど、それらは空回り。男の……高校生の手首を掴んだ男性が、少し困ったような苦笑で声を掛けた。
 その人物を少女は知っている。親友のうちの一人の父親で、確か武術…剣術だったか、の師範をやっている人。

「っんだ、テメ……っ!?関係ねぇだろ!?」
「彼女は娘の友人でね、その子が殴られるとあっては見逃せないな。……それに悪いのは君たちのほうなんだろう?」

 手を掴んだまま、男性は高校生と少女の間に入る。少女からは顔を見えなくなったが、少しだけ低くなった声と共に高校生が見るからに怯んだのがわかった。軽く脅しでもかけたのだろうか。

「……っ、くそっ!」

 助けを求めようと高校生が振り返れば、逃げ去る背が視界に移る。故に、高校生は乱暴に男性の手を振り払い鞄を抱えて走って逃げだした。

「ぁ、こら!ちゃんと謝って――」
「まぁまぁ、此処は見逃して上げてくれないかな。……お婆さんも、申し訳ありません」

 逃げる高校生を追いかけそうになった少女を押しとどめ、男性が老婆に手を差し出しながら頭を下げる。その手を取り、立ち上がるのを助けられながら、老婆は首を横に振った。

「なぁんも、貴方に謝られることはありゃしません。…嬢ちゃんを助けていただいて、有難うございました」
「……いぇ」

 老婆から出た言葉が少女を思うものであったことに男性は少しだけ驚いて、けれど直ぐにどこか嬉しそうに笑って此方も首を振り、名前が挙がった少女のほうはきょとんとした後、すまなそうな顔をする。

「あの、お婆様、心配をおかけして済みませんでした……」
「貴女にも謝ってもらうことはなぁんも無いですよ。庇ってくれて、有難うね」

 頭を下げた少女にも老婆は笑って頭を下げ返し、それからもう一度、今度は二人に対して助けてくれて有難うと頭を下げて歩み去っていく。
 その背を見送り、少女は深く、深く溜息を吐いた。後悔はしない、けれど、反省はしなければならない。自分がつい飛び出してしまった所為で老婆に心配を掛けた上に、親友の父親にまで迷惑を掛けてしまったのだから。

「あの、有難う御座いました」
「いや、気にすることは無いよ。君の行動は立派だったと思うから。……只、できればああいうときこそ大人を頼って欲しいな」

 男性の言葉に、少女は只すまなそうに身を小さくする事しか出来ない。彼に迷惑を掛けたことは動かしようの無い事実なのだから。だが。

「……尤も、助けを呼ぼうとしたのは大人ではなく、君と同じ位の子供だったと言うんだから、頼れないのも解ってしまうけど…ね」
「……?」

 助けを呼ぼうとした?と、少女は首を傾げる。どういう事だろう?只通りがかったから助けてくれたのではないのだろうか?そう思って、ふと気付く。
 今現在は、男性が店長をやっている喫茶店の営業時間。こんなところにいるはずが無いのだ。良くみてみれば男性は翠屋のエプロンをしたままだし。

「此処まで私を案内してくれたのも彼なんだ。お礼は彼に……あれ」

 言いながら男性が目を向けた先へ少女も顔を向けるが、其処には誰もいなかった。不思議そうな声が男性から漏れたことからもさっきまでは其処に居たのだろうが、けれど、既に居ない。
 一体誰だったのだろうか、と少女は思考を回す。真っ先に思い浮かぶのは呼ばれた男性が男性だけに、彼の娘である親友。だが、その親友であれば名前をそのまま言えば良いだけだ。次に思い浮かぶのはもう一人の親友。けれど其方も男性は顔を知っているだろうし、名前を挙げれば済む。…そもそも、其方の友人であれば男性ではなく使用人が呼ばれている気がする。
 ……というか、親友はどちらも女の子である。彼、などという三人称が使われる筈がない。
 という訳で違う誰かで、しかも男の子となるのだが……こんな時に助けを呼びに走ってくれるほど親しい男子に心当たりなど、少女には無かった。となると、正義感の強い子でも居たのだろうか。

「おかしいな、さっきまでは確かに居たはずなんだが…」
「どんな子でしたか?」
「ん?あぁ、えぇと……あまり特徴、という特徴も無かったが……そういえば、髪の色は黒なのに蒼い瞳をしていたね」

 気配はあったのに、と零す男性に少女が問いかけると、思い出すようにしながら応えてくれる。その特徴で脳内に検索をかけてみるが…少女の記憶には合致する人物は居なかった。
 親の商売やその関係から、少女は会った事のある人物の顔はできる限り覚えるようにしている。なのに合致する人物が居ないということは、本当にあったこともない相手なのだろう。

「…その様子だと、知らない子のようだね」
「はい……」

 少女からすれば、自分の危機を助けてくれた相手が解らないというのはなんとも落ち着かないものだった。助けてくれた、ラッキー、では終われないのだ。きちんと御礼を口にして、感謝を伝えなければ気がすまない。
 ……それを素直に伝えられるかどうか、はまた別問題として、だが。

「まぁ、きっとまた会うこともあるだろう。その時に感謝を伝えるといいよ」
「……はい」
「……ところで、紅茶でも如何かな?」

 男性の言葉に少し気落ちしたような調子で答える少女に、少しだけ茶目っ気を出した声で男性が誘う。唐突なそれに少女は何を言われたのか解らない、という顔を暫ししていたが…思い当たったのか、くすりと笑い。

「有難う御座います」

 頭を下げた後、二人は男性の喫茶店へ…翠屋のほうへと歩み去る。後に残るのは残滓も残らぬ騒ぎの名残と、変わらぬ人波のみ……。
Side out


Side Sou
 結局。彼女は運がよかった、ということだろう。腕が立つと思われる人が見つかったんだから。
 願えば直ぐに来てくれて、対応も大人。これ以上ない仲裁者が間に入るって言うのは相当運がいい証拠なんだと思う。
 そんな訳でとりあえず大丈夫そうだということを確認した僕は、今、僕が意識を取り戻した場所に居る。時刻は夕暮れも終わり、そろそろ夜が訪れる頃。
 野宿自体は初めてじゃないし、僕自身の特性から熱さ寒さには強いから別に問題は無いと予測。……いやまぁ、月衣無しなのが不安ではあるけれど……多分何とかなるさ!

 そんな風に自分を励ましながら、途中で見つけた廃棄ダンボールを使って簡易寝床をつくる。意外と熱を通さないので暖かいんだ、コレ。

『…………』
「……言いたいことは解るよ。だけど勘弁して」

 なんともいえない気配を放つ腕輪に、情けない声で言いながら僕は溜息を吐いた。…とにかく、当分は此処が僕の拠点となりそうだ。……物凄く安上がりな拠点だけど。
 自分で自分の思考に思わずorzの体制に入りそうになるのを何とか堪えて。

「さて…今日得た情報の整理と参りますか」
『了解』

 諾の意の言葉と共に、腕輪が獣の姿をとる。……現在状況的にモニターの類が存在しないため言葉を交わしての状況把握となるので、明確に顔を突き合せれるようにしたんだろう。
 そして、言葉を交わすうちに世界は朱を青に、紺に、群青に染め、夜がゆっくりと世界を満たす。

 ぐ~、と結局本日一日何も入れられることが無かったお腹が鳴いた気がするが、コレはきっと気のせいなのである。……畜生、貧乏なんて嫌いだ……!
Side out



※あとがき
書く手の勢いに任せていたら、なぜか金欠となってしまいました。彼の今後や如何に。
とりあえず次回は現状の整理と今後の方針決定予定です。

…4ヶ月も空けたのは……流石に、自分でも如何かと…orz



[8027] 第八話 彼の推測と現在の状況
Name: 天瀬◆1dda601c ID:6d07c0a8
Date: 2010/09/05 18:58
 想定するのは大事なこと。
 予想するのは大切なこと。
 思考するのは重要なこと。

 その果てにたどり着いたことに従うことで。
 きっと、僕はその物語の流れを呼んでしまったんだと思う。

 魔法少女リリカルなのは。
 始まります。


第八話  彼の推測と現在の状況
(「あ、え?あれ、次また私なんだ?」「だよ。意外と多いんだよな」「わ、私はー!?」)


Side:Sou
 気がつけば夜が明けていた。朝の日差しが目にまぶしく、鳴く雀の声は耳に優しい。良い朝と言っても問題は無いであろう周囲の状況。それが、僕の気持ちを穏やかに……
 させてくれるわけがない。徹夜とか子供の体にゃ負担になるんだぞコンチクショウ。

 一度瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。新聞に載っていた写真、写されていた光景を一旦記憶に沈めて、さて、と気を取り直し。
 昨日得られた情報を整理した結果をもう一度頭の中で纏めなおす。こういった情報の再確認は、時間に余裕があるならやって置いて損は無い。
 先ず、この世界の現在の暦は4月。春というに相応しい気候の感覚から、僕の世界と暦の上での差異は無い様子。此れはかなりありがたいことだと思う。日数も差はなかったし。
 で、月の初めに動物病院において謎の爆破?事件。いや、後を見る限り爆破とか、そういうものじゃなかったらしいんだけど、それに前後して何か奇妙な獣を見たと言う情報もあったりと謎の事件として処理されているそれ。
 それから数日後に起こる、街中での謎の事件。巨大な樹が云々と言う目撃条件もあるが、こちらも結局詳細不明の事件と言う扱いになっているようだ。
 他にも、幾つか細かい事件は起こっているようだが……特に気になったのはこの二つの事件。
 どちらの事件も目下のところ警察が捜査中、との事なのだが。

「……明らかに非常識な事件だよな」

 まぁ、つまり警察にどうにかできるものでは無いということである。
 非常識となれば魔法や魔術といった、特殊なものが関わっていると言うのはすべての魔法使いの共通認識。そして、今回で言えばその引き金となりうるのはジュエルシード、と言うことになる。
 恐らくジュエルシードがこの世界に落下し、何らかの影響を受けて発動した結果がこれらの事件なのだろう。だろうけど。
 二つ疑問が発生する。

 先ず一つ目は、発生日時。
 片方は月初め、もう片方は凡そ一週間ほど前。僕が襲撃を受け、ジュエルシードをばら撒いた後に気絶していた時間は体感にして三時間ほど、と報告を受けている。
 感覚で言えば三時間前にすべてが始まっているはずなのに、現地では数日前から事象が起きている、と言うこの不自然。航行中の次元にひずみでもあったのだろうか等とふざけてみたら物凄く冷めた目を向けられた気がしたのは正直辛かった。
 だが、時期が合わないからと言って先ほどの事件は無関係だ、とするには謎と不思議に満ちすぎている。何よりも自分の勘が囁くのだ。これらの事件は無関係ではない、と。僕はウィスパードじゃないからただの勘でしかない訳だけど。
 結果僕らが至った結論は、恐らく月匣内の時間が歪んでいたのではないか、と言うこと。咄嗟だっただけにひょっとしたら僕は元の世界の時間制御で月匣を張ってしまったのかもしれない。
 そして、もといた世界とこの世界の時間の流れ方が一緒であると言う保証は何処にもないのだ。日付や世界観、昨日の時点で確認した限りの金銭については同一だが、だからと言って時も同じとは限らない。
 僕にとっては三時間と言う程度の認識が、此方での二週間以上と言う可能性は無いと言えない。仮説に過ぎないが、納得がいく仮説なので今は納得しておく。

 で、二つ目。こっちの方が問題なのだが、どちらの事件も終わっている事。
 どういう形になったのかまでは解らないが、少なくとも決着がついているだろうことは予想される。理由は単純、目撃証言のあった存在が消えている為だ。
 決着がついていなければ恐らく、この目撃された存在…事件を起こした元凶であろう存在は今も尚目撃され続けているはずだし、事件は起き続けているはずである。
 被害が収まり、目撃証言がなくなっている時点でこれら二つの事件は終わってしまっている。だが、終わっているんだ安全なんだよかったばんざーい、とは行かない。
 終わっているという事は、終わらせたものが居るという事。
 何処の誰が終わらせているのかはわからないが、そういった能力を持つものがこの街に居るという事だけは事実として受け止めるべきだろう。
 世界結界が無い世界だ、そういった非常識に対するのは普通のことかもしれないとは頭を過ぎったが、新聞やニュースの記録を見る限りそれは無いと推測される。
 世界の自浄作用によるものか、元々そういったことを処理する公的隠密組織でも存在するのか、それとも偶然そんなことが出来る人が傍にいたのか。
 ……あるいは、襲撃を行った彼女か。何れにせよ交渉でジュエルシードを手に入れるのは簡単では無さそうである。あんな魔力の固まりを簡単に手放したりはしないだろう、誰も。
 手荒な真似は趣味じゃないんだけれどなぁ、僕。今後を思うとため息がでる。

 なんにせよ、まずは残ったジュエルシードの確保からである。今は安全になったジュエルシードよりも、まだ危険を内包しているものを片付ける方が先だ。
 もちろん誰かが回収したと思われるジュエルシードの行方探しも同時進行でやるべきではあるのだけれど。
 ……まぁ、そもそも異変自体がジュエルシードとは関係がない理由でおきている可能性は存在する。そしてその場合、僕が一晩かけてした想定全てが無駄になるのだけれど、今は考えない。
 
 で、そうなると肝心のジュエルシードは何処にあるのか、ということになるわけだけど。
 ぶっちゃけ手掛かりなど無い訳でして。

「いっそ無指向で魔力飛ばそうか?一個くらいは引っかかるかも」
『……』

 できるのか?的な沈黙がスゲー痛い!?悪かったな、どうせ僕は魔法力そんな高くないよ!出来なくは無いけど効率悪すぎて価値ないよ!
 ちょっと泣けてきた、ちくせう。……素直に想定どおりのことをやろうか。
 近くに落ちていた木の枝を拾い、しばらくそれを眺めてから僕は一つだけ頷く。

「…クロ、魔力制御補佐を頼む」
『了解』
「魔導式、起動」

 僕を中心として魔方陣が描かれてゆく。単純にも複雑にも見えるそれは円形。ユーノ曰く「ミッド式みたいだけれど、何かが違う」魔法陣。
 その中央において、僕は無心になって木の枝を地面に立てた。僅かに輝く魔法陣がそれを感知し、一瞬だけその光を強めて。

『……ロケーション、発動準備完了』
「ロケーション、発動」

 クロの報告を受けて、ジュエルシードをイメージしながら僕が宣言する。宣言に重なるように、魔法陣が回る。くるくると、くるくると。
 そんな中で、僕は地面に立てた木の枝を持っていた手を離し―――

 ぱたん、と木の枝が横に倒れた。

 そして用は済んだとばかりに消える魔法陣。

「よし、向こうらしいな」
『…………』

 呆れたような気配とか気付きません知りません。僕は僕の思うがままに歩むのみです。という訳で、木の枝が示した方向へと僕は歩むのでした。


 さて。さっきスルーしておきながら唐突なんだけれど、先ほど僕が使った魔法について考え直してみる。
 ロケーション。失せモノ探しに使われる魔法で、その対象が大体どの方向で、どんな距離にいるかを調べるための魔法だ。
 そう、ただの「道がわからないから棒を倒してみよう!」という遊びとは一線を画す、ちゃんとした魔法なのである。だというのに反応が冷たかったのは僕のあのやり方があまりに適当だったからなんだけど。
 まぁつまり、あれで示したほうに歩けば本当にあるというわけなんだが。

「見当たらないなぁ」

 距離的にはこの辺の筈なんだけど。それっぽい魔力波動も感じる。ただ、どうにもその魔力が強すぎるせいで近くに来ると位置や方向がちゃんと把握できない。
 さて困った。ここからは目視で探すくらいしか出来なさそうだけれど、目視だけだと僕の能力は一般のそれに毛が生えた程度なのだ。

 それでもまぁ、探すしかないわけで。あの手のものはやっぱり草にでも落ちてるのかな、と屈んだ瞬間。

 生じた気配に咄嗟に上を見上げる。
 落ちてくるは黒き獣だろうか。その形は見た事がなく、見覚えもなく。けれども感じるのは魔力、ジュエルシードのそれ。
 開かれた顎の中は真紅。牙すらも漆黒ながら、そんなところだけはまるで生物であるかのように。否、生物なのかもしれない。ジュエルシードを取り込んだ何か。
 不意に思考を走るモノ。侵魔にとり憑かれた獣。それに似ているのかもしれない。

 それは、非日常。非常識。異世界という認識の中、本来の居場所と同じ日常を感じて…その中にある異質なる物。
 非日常には、非日常を。非常識には、非常識を。

 ――打撃音。

『月衣の発生を確認』
「遅いって!」

 振りぬいた拳が黒い何かを捕らえ、弾き飛ばしたところでツヴァイから上がってきた報告に思わず文句をつけた。非常識を認識して咄嗟の防衛反応からか、今まで展開できなかった僕ら魔法使いの自己防衛本能とでも言うべきモノが再び出せるようになったみたいだけど。
 そもそもこれ、非常識に対する防壁とはならないはずなんだが。いやさておき。

「ま、これで漸く僕の本格始動、かな。……勝てると思うな?」
「……――!!」

 僕の言葉に応ずるように、獣が吼えた。
Side out


Side:other(black girl)
 白い少女との取り合いに勝利し、ジュエルシードを得た金髪の黒い少女は、拠点に戻る為の飛行中にふと眉を寄せた。
 魔力反応。つい先ほども感じたモノと同一だと判断し向う先を変更する。
 町の山だろうか。その一角、確かに魔力を感じる方向へ、その場所へと飛行し、見下ろす。その先には――

「――……」

 漏れでた吐息は安堵だろうか。気になっていた人物が、其処にはいて。
 漏れでた吐息は心配だろうか。その彼は、今、ジュエルシードの暴走体とも言えるモノの相手をしていて。
 漏れでた吐息は感嘆だろうか。彼は……。

 ……暴走体程度では、相手にならなかった。
 
 突撃し、体当たりか噛み砕くことしか出来ぬ程度のそれが彼に襲い掛かり、けれど彼は動くことはなく。
 ただ暴走体の動きが彼に触れるその一瞬前に拳や脚による打撃を当てることで、攻撃すると同時に相手の動きを逸らして外させる。
 己の攻撃が届かぬことに業を煮やした暴走体が逃げようと意識を外せばその瞬間に距離を詰めての大振りの一撃が叩き込まれる。
 逃げることが出来ぬとなればまた彼に襲い掛かり、そして同じ結果を繰り返すだけ。
 ただそんな行動を繰り返すだけだが、見ている少女には理解できた。繰り返すたびに彼の一撃一撃が、彼の行動の一つ一つが、重く、速くなっていることに。
 
 その動きは戦闘に、戦場に慣れた者の其れ。ただ淡々と、ただ冷静に『処理』をするかのように戦闘をこなす様は、まるで人形を思わせる。
 ……もっとも、そんな様に気づく余裕は、黒い少女には存在しなかったのだけれど。

 彼女の見ている内、手を出す間もなく暴走体は無力化され、けれど、彼は困ったように頬を掻いた。
 封印する術がないのだろう。ならば、と黒い少女が己の相棒を握る手に力を込め、た瞬間。

「そこの人。封印とかできない?」

 彼の声が耳に届いて、咄嗟に黒い少女はその矛先を彼に向けていた。
Side out


※あとがき
……い、一応続きです。
なんかこう、間があきすぎですが、
こんな感じで気ままに細々と進めていきます…。


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