銀の雨ふるふる IFルート
これまでのお話。
香月秋彦は学校から帰宅している途中で異世界へ転移してしまった。
ローデシア大陸の最北端の村。カーライル村近くの森の中で小人族の錬金術師、コーデリアと出会う。
コーデリアはないすばでぃ~になるための研究をしており、実験のために秋彦に女性化の薬を飲ませる。その結果、秋彦は女性になってしまった。
そしてカーライル村から、古都アデリーヌへと向かったコーデリアと秋彦はそこでオカマのルパートと変質者のラッセンディルと出会った。ロリコンで女好きのアビゲイル。男の娘のアデル。さらにストーカーじみたアメリア。ヘンタイ連中に出会い。脅える日々だったが、心の傷もようやく癒えかけたある日。彼らは再び古都アデリーヌへとやってきていた。
これまでの事をルパートに相談する2人。ルパートの一緒についていてあげるわ。という心強い言葉に安心した2人は買い物へと出かけた。
第01話 「神聖魔法とその結果」
「あき。居酒屋に寄って、ワインを買っていくのじゃ!」
「飲めるの?」
「わらわは大人の女じゃ。酒ぐらい飲めるわ!」
「はいはい」
「人の話を聞くのじゃー!」
コーデリアが喚いているのを無視して、居酒屋のドアを開けて中に入る。
居酒屋の中はなんと言おうかほこりっぽかった。それと人が多くて熱気がむんむんとしている。客の誰もが剣を腰につけ、鋭い目つきで見ている。どうやらわたし達は場違いな所に迷い込んだ。と思われているのだろう。
カウンターから店主らしき、ひげ面の男がやってきて「何か用かい」と妙に猫なで声で言う。
「ワインを買いに来たんだよ」
「ああ! そうか、そうか。うん。それでどんなのがいいんだい?」
「コーデリアはどんなのがいい?」
「無論、ザクセン産の赤じゃ!」
「わたしは泡のあるのがいいんだけど……」
「スパークリングなら、ルリタニア産の白がいいのじゃ」
「ほおー。子どもの方がよく知っているじゃないか」
「わらわは子どもではないぞ」
「小人族だろ。それぐらい知ってるさ。小人族は体も小さけりゃ、胸も無いってな!」
「おのれー! ようも言うてくれたな! 消し炭にしてくれるわ!」
コーデリアが魔法を唱えようとする。店内のざわめきが一瞬、止まってわたし達に注目が集まった。
「おーい。コーデリアはザクセン産の赤ね。わたしはルリタニア産のスパークリングワインにするから魔法はやめて。店主さん、聞いたとおりだから、ザクセン産の赤とルリタニア産の白のスパークリングの2本をちょうだい。持って帰るから」
「あ、ああ」
店主は驚いたような顔をしてコーデリアを見詰めていた。
「ほら早く!」
「う? ああそうだった」
店主が慌ててカウンターに戻るのと同時に店内のあちこちでひそひそと話す声が耳に届いてくる。
「おい。あの小人族、魔法使いか?」
「魔法使いがこんな場所にくるかよ」
「しかし、いま使おうとしたぞ」
「ハッタリだよ。魔法使いが塔から出る訳ねえよ」
「ちげえねえ」
男達の笑い声が店内に響く。
コーデリアの表情が険しくなり、わたしは止めるのに必死になっていた。
ワインを持ってきた店主にお金を払い。わたしはコーデリアを引きずる様にして店を出る。
まったく、心臓に悪いよ。コーデリアはまだむくれていた。仕方ないので途中でベリーのクレープを買うとコーデリアに食べさせて機嫌を取る。
ルパートの店に帰り、この事を話すとルパートは笑っていた。
ルパートも、もう!
わたしの方が怒りたくなった。
さて出発しようとした矢先、ルパートのもう一軒のお店から連絡がやってきた。
なんでも従業員にけが人が出たそうで、お店が混乱しているらしい。わたし達も一緒にお店へと向かう。職人通りを通り過ぎ、わたし達は居酒屋の集まっている一角へと再び足を踏み入れた。やってきたのはとある大きなお屋敷。門にはおよぐ子犬亭と描かれている。ルパートは鉄の門を開ける。そして大きな木の扉を開くとそこは……。
「は、はだかの男の人が踊ってる……」
店内に作られたステージ。赤いスポットライトを浴び、肌もあらわにした男たちがあやしげに腰をくねらせて踊っていた。
わたしは足をがくがく震わす。あわてて店から逃げ出そうとする。しかしルパートに両肩をつかまれ、逃げ出せなくなってしまう。
「ふふふ。逃がさないわよあき」
「あわあわ、ルパート助けて……」
「なにをしておるのじゃ? けが人がいるのじゃろう」
「ええそうね」
コーデリアの言葉にルパートはあっさりとわたしの肩から手をどける。そうして店の奥へと行ってしまった。
わたしとコーデリアも後を追いかけるように付いていく。
怪我をした女の人はいすに寝かされ、顔を包帯でぐるぐる巻いている。血がにじんで痛々しい。そっと眼を逸らした。コーデリアはルパートを手伝って薬草を貼り付けている。戻ってきたコーデリアが首を振りつつ「痕が残るじゃろうな」と呟いた。
「かわいそうだね」
「とはいえ、後は祈るぐらいしかやることはないのじゃ」
「祈るって?」
「そうじゃのう。女神コルデリアとかにな」
「アビゲイルのところの女神様だね」
わたしはこの世界の神様というのには疎いのだ。まだはっきりと分かってない。というのもある。神話とかも知らないし。
それでも胸の前で両手を組んで祈った。神様。女神コルデリアさま。どうか目の前のこの人を助けてください。
――お前がやれ。
耳元でやかましいぐらい大きく。妙にはっきりと聞こえる明らかに女性の声。
きょろきょろと辺りを見回す。
挙動不審になってるわたしのわき腹をコーデリアがつついてきた。
「どうしたのじゃ?」
「なんかね。妙な声が聞こえた」
「なんじゃそれは?」
「助けてくださいってお祈りしたら、お前がやれって言われた」
「なんじゃそれは? ……まあ、女神にそう言われたのなら、一度祈ってみると良いのじゃ。違うと思うのじゃがな」
コーデリアが呆れたように、どことなく投げやりに言う。
わたしもなにがなんだか分かんないけど、一応祈りを奉げてみる。
意識を集中しながら祈っていると、体の奥から何か言いようのない力が湧き出てくる。
「……女神コルデリアの名において傷ついた者を癒したまえ」
眼を瞑り、祈ってる。いつの間にか女神の祈りが口をついて出てくる。全身から淡い光が溢れて、寝ている女性を包み込む。
周囲で驚きの声が上がっていた。ゆっくりと薄目を開けた。女性の顔から傷跡が綺麗に消え、分からなくなっている。
「……女神の癒し」
ルパートが眼を見開いて見つめてくる。わたしだって驚いてる。じっと自分自身の手を見つめた。一体どういう事なんだろう? 驚いているとルパートとコーデリアの手によって部屋から連れ出される。やってきたのは店の一番奥にある事務所だった。
「――あき、いい事。あたし達のいない所ではもう二度と『神聖魔法』を使っちゃダメよ!」
部屋の入るなり、いきなりルパートはそう言った。コーデリアも顔色を悪くして頷いている。
「下手に使えるところを見せると、縋りついてくる者や神殿から睨まれてしまうのじゃ。良いな。見せるのではないのじゃ」
2人に詰め寄られて思わずこくこく頷いてしまう。なんだか物凄く真剣な表情をしてる。
「女神の癒しを使える癒し手は大陸でもそんなにいないの。アビゲイルやアデルは神官だから使えてもたいした問題にはならないわ。むしろ神殿でも発言力を持てるけど、あきは神官じゃないから危険なのよ」
「そうなのじゃ。なまじ使えるとあきに使ってくれと頼み込んでくる者達で身動きできなくなってしまうのじゃ。それでいて使ってくれないとなると逆恨みする者もでてくるのじゃ」
2人にしばらく説教をされてしまった。そうこうしているうちにルパートが怪我をしていた女性の様子を見にいく。と言って部屋を出て行った。後に残されたわたしはコーデリアから散々脅されてしまう。こわいよ~。
しばらくしてようやくルパートが戻ってきた。そうしてコーデリアを部屋の隅に呼ぶと小声で話し出す。ときおりちらちらとわたしの方を見ている。なんなんだろうな~。気になるけど、近づいたら怒られそう。2人とも真剣な顔をしてる。
「あき。あなたにはノエルの錬金術の学院。北の塔へ行ってもらうことにしたわ」
「はえ?」
そうこうしているうちにくるっとわたしの方に向き直ったルパートが言ってくる。
「そうなのじゃ。錬金術師として学んでくるのじゃ。そうすれば多少魔術が使えても誰も不思議に思わぬのじゃ」
「もちろんあたし達も付いていくわ」
「一応わらわ達も卒業生なのじゃからな。伝手はあるのじゃ」
なんだか知らないうちに2人が盛り上がってる?
あっという間にわたしはノエル王国首都ノエルにあるという北の塔へと向かう事になってしまった……。
どうしてこうなったのかな?
取りあえず、今日はここに泊まって明日、カーライル村にあるコーデリアの家へ帰ってから急いで荷物を纏めることに決まった。
野菜とかどうしよう?
「まあ、それはそうとしてちょっと着替えてみない?」
「えっ……?」
「やってみるのじゃ」
ルパートとコーデリアがふふふっと笑いながら近づいてくる。なぜか両手をわきわきしてる。そして強引に秋彦――もとい。あきを奥の部屋へと連れ込んだ。大きく胸元の開いたレオタードのような服。編みタイツに真ん丸いしっぽ。頭にはウサギの耳。奥の部屋であきはバニーガールになってしまった。
「思ったとおりだわ。良く似合うわー」
「似合うのじゃ~」
喜色満面なルパートとコーデリアは身をくねらせ、いそいそとあきを店内へと連れ戻した。
店内に戻ったあきを客達が口笛を吹いて迎える。
「風俗はいやですぅ~」
「ノンノンノン。だめよ。そんな事を言っちゃぁ~ね」
あきは従業員の男たちにお盆とグラスを持たされて、3番テーブルに行くよう言われる。
こぼさないようにゆっくりと歩く。テーブルを通り過ぎる。その際にあきはお尻を撫でられてビクッと涙目になってしまう。そんなあきの様子をテーブルについたコーデリアがにやにや笑って、呼び寄せる。
「こりゃあ~。酌をするのじゃ」
「ううー」
「よいではないか。よいではないか」
すけべ親父のような物言いでコーデリアがあきの胸を揉んでくる。なみだ目になりながら逃げようとするあき。ぺろんっと剥かれてしまう。あきの胸が露になり、店内に居た男たちが一斉に見つめてきた。
「ふわーん。助けて~」
「むう。やはり大きい……しかし、この乳が! この乳が憎い……本当ならわらわのものじゃったのに……」
「いい加減、諦めてくれないか」
さんざん愚痴を聞かされて辛いんだ。コーデリアがジッと他人の胸を睨んでくる。
「く、くやしくないのじゃ。いずれわらわもこれぐらいにはなってみせるのじゃー!」
コーデリアの叫びが店内に響く。