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[8876] 「目指す未来は大団円?」(習作・オリ主転生・ダイの大冒険)
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:ecc55030
Date: 2010/09/05 15:50
前書き

はじめまして、ニネコと申します。今回初めて投稿させていただきます。
様々な方の作品を読んで、自分でも書いてみようと思い立ちました。

 このお話は「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」の二次創作になります。
 オリ主による本編再構成ものを目指すつもりですが、ただの小ネタの連作に終わるかもし、原作ブレイクなだけかもしれません。拙いながらもがんばりたいと思っております。
 作者の妄想を垂れ流していますので、原作を大事にされる方はお気を付け下さい。


~注意事項~
・主人公はオリ主で、現代日本からポップに転生しております。
・一部キャラクターのTS化や改変があります。
・オリジナルのキャラクターや魔法、武器などが出てきます。
・原作本編の時間軸より前から始まります。なので、一部主要キャラが当分出てきません。

 上記、注意事項が駄目な方はご遠慮ください。


 誤字脱字、文脈の乱れなどありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
 皆様、宜しくお願い致します。

****
2010/09/05:四話併合、修正。



[8876] 「序章~転生しました~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:ecc55030
Date: 2009/05/19 08:03

 異世界トリップ。キャラ憑依。BL。TS化。夢小説。
 どれも好きなネタで、色々な作品を読んできました。自分で書いたこともあります。
 だけど、体験したいなどと思ったことはなかったのです。

 私、死んだはずだったんです。
 21世紀の日本に暮らす専門学校生で、オタクな腐女子だった私。 
 その最後の記憶は、視界いっぱいの真紅になるはずだったのです。
 あ、別に自殺ではなく、不運な事故によるものです。ドラクエの新作発売を間近に自殺する気など私にはこれっぽちもありませんでしたから。と言うか、残り少ない寿命をわざわざ自分で縮める気などありませんでしたし。

 あの日の帰り道、私はいつもとは違う大きな通りに面した歩道を歩いていました。
 空は茜色に染まり、街に明かりが灯り始める時刻。
 通りを走る車は多く、また行き交う人も多い中、私はPCや大量の本が入ったバッグの重さにふらふらしながら歩いていました。
 行く手を遮るように停められた自転車。それを避けようと一歩、車道側へと動いた時でした。
 耳に嫌に響いたブレーキ音。全身を襲う衝撃。熱とともに流れるアカ。
 少し遅れて、誰かの悲鳴。
 混乱する私に、頭の中の冷静な部分が、「これじゃもう駄目だな」と告げました。
 それを裏付けるかのように、世界は赤く染まっていました。

 それが、どういうわけでしょう。
 気づけば見知らぬ場所と、言語と、人々に囲まれていました。
 体は鉛のように重く、声も思うように出せず、まるで赤子のように泣くことでしか意思を表せません。視界もどこかぼやけて霧がかったようでした。
 ですが、私はその時は「重態ではあるが、一命を取り留めた」のだと考え、体の欲求に従うように睡眠をむさぼりました。

 まるで、ではなく、赤子になってしまったのだということに、私が気づいたのは大分後になってからでした。

 周囲の状況を理解し、自分が所謂、その、輪廻転生して別の自分に生まれ変わったのだと自覚したのは、今の私が3歳を過ぎてからでした。
 それまでは、昨日と今日の区別がなく、ずっと夢の中を漂うようでした。
 その間にきっと自分は無意識下では理解していたのでしょう。 

 自覚してから私は、あまり混乱することなく、今の自分を受け入れることができました。

 前とは違う名前で呼ばれること。

 新しい家族のこと。

 自分が男であること。
 
 ですが、私はまだ大事なことを一つ見落としていたのです。
 
 ――ここが、私が暮らしていた世界ではないということを。



[8876] 「第一話~私の名前はポップです~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:ecc55030
Date: 2009/05/19 08:06

「第一話~私の名前はポップです~」


 転生したことを自覚してから2年。
 私は、5歳になりました。

 前世の記憶があるからだろうか。私は他の子よりも早く文字を覚え、自力で本を読むことができるようになった。
 簡単なものから、専門書まで目に付く本という本を片っ端から読んでいった。
 そして、増えていく知識、地名、国名。それらが前世の記憶を刺激し、私に一つの結論を突きつけた。

「嘘だぁ……」

 否定しようにも、結論をより強固に補強こそすれ、否定するための要素を見つけられない。
 ここ最近は、本を読むどころか遊ぶこともせず、家から出ていない。

「はぁ……」

 衝撃の事実だった。 
 前世の記憶を持ったまま転生したことも衝撃だったが、今回のこれは、それをはるかに上回った。いっそ、前世の《私》というモノを、幼さゆえに生み出した妄想だと片付けてしまいたいほどだ。
 枕元に放り出した地図に記された国名に、日本はない。代わりに記されているのはロモスやパプニカ。
 私が住んでいる村はランカークス。
 家は武器屋を営んでいます。
 父はジャンク。母はスティーヌ。
 そして、私の名前はポップ。

 これだけだったら、どこかで聞いたような名前ばかりの異世界に転生したと考えただろう。
 これはこれで衝撃だが、今ほどの困惑を私に与えはしなかったと思う。
 だが、私が手にした知識はそこで終わりではなかったのだった。

 歴史が書かれていた本に記されていたこと。
 今から数年前、世界は魔王によって災禍に満ちていた。
 それを打ち払ったのが、勇者とその仲間。
 日本ではゲームなどでありふれた話でしたし、そういった作品を《私》は好んでいました。
 だが、今、私がいる場所では実際にあった歴史として語られている事実。
 魔王の名はハドラー。
 
 魔法に関する書物には記されていたこと。
 火炎呪文はメラ系。
 氷結呪文はヒャド系。
 他にも色々と見知った名称の魔法の数々。

 記憶と一致していく、事実たち。
 ここは、ドラゴンクエスト、それも”ダイの大冒険”の世界。
 どうやら私は転生だけでなく、異世界トリップまでしたようだ。
 しかも、私がポップ。
 
 よりにもよって、ポップかよ!
 そう、人目が無ければ叫びたかった。

 物語において勇者ダイの隣に立ち、何度も死線をくぐり、一度は本当に死んでしまうはめになる彼。大魔法使いのポップ。
 彼だからこそ生き残れたであろう戦いを、現在不貞寝引きこもり中の私が生き残れるわけが無い。やる気も無い。
 物語の登場人物の彼は大好きだったが、自分にそれをやれっていうのは無茶もいいところだ。

 彼と私の違いは、少なくない。
 私がどんなにうまくやろうとも、結果を違えることになると思う。先を知っているということは必ず油断を生むし、思い込みによる過ちも生み出す。
 《私》が妄想の産物だとしたら、この先の展開を知っているというのも妄想になる訳なので、悩む必要はないが。
 かといって、《私》を妄想の産物と結論つけるには判断材料が無いし、客観的判断を誰かに委ねようにも相談相手がいない。下手に相談して、変な目で見られたくもない。


「はぁ」


 記憶が正しければ、本編のポップは15歳。
 それまでに師であるアバン先生に出会わなければ、さっきまでの考えは妄想でしかなくなる。 
 しかし、出会ってしまったら、彼のように勇者の友として、波乱に満ちた人生に足を突っ込むことになるだろう。私が彼なら、それを放棄することは、《私》が知る未来の内容を悪い方向へと変えることにしかならないはずだ。
 しかし、出会わなくても、魔王のいた世界だ。ずっと平和なまま過ごせるとは限らない。つまり、無力なままでいていいわけでもない。

「私は、どうしたらいい?」

 誰に聞かせるわけでもない言葉は、ここ最近の私の悩みを表す一言だった。
 前に伸ばした両手は、五歳児に相応しい大きさで、剣はもちろん、包丁ひとつ上手く扱うことができないほど幼い。
 そう、五歳児なのだ。私はまだ。
 どれだけ悩もうと、私は幼い子供であり、何をしようにも力が足りない。
 最初の一歩も踏み出せず、また、踏み出す方向すら定まらない。
 
 ぐるぐる、ぐるぐる。
 
 同じところばかり巡っては悩みつかれて、結局不貞寝をしてしまう。
 窓の外の陽はまだ高く、外からは人々の声が聞こえてくる。
 楽しげなその声は不快で、今日もやっぱり不貞寝をしようと枕に頭を押し付ける。

 バタン!

 勢いよく、扉が開かれた。


「ポップ、ねてる?」


 ノックもせず、部屋に入ってきた彼女の声に、私は顔を向けた。

「ううん、起きてる」

 掛声をかけて起き上がる私に、「じじくせぇ」と言って笑う彼女の顔は私とそっくりだった。
 最も私と違い、彼女はくるくるとよく表情が変わるのだが。

 彼女の名前はポーラ。
 私、ポップの双子の妹である。

 さっきの説は、訂正しないといけない。
 どうやらここは、”ダイの大冒険”のパラレル、もとい平行世界のようだ。




[8876] 「第二話~一時保留~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:ecc55030
Date: 2009/05/19 22:22


「第二話~一時保留~」


 私は考えるのを止めた。
 考える暇がなくなったとも言える。



 不貞寝引きこもりの日々は、父さんの拳であっさりと終止符を打つことになった。
 父いわく、

「母さんとポーラに心配かけさせるんじゃねぇ」

 らしい。
 そういう父さんも私を心配していたのだろう。
 叩かれた頭は、馬鹿になるんじゃないかと思うほど痛かった。

「……ごめんなさい」
「わかりゃいいんだ。ほら、天気もいいんだ。外行ってこい」
「うん」

 痛い思いを繰り返すほど馬鹿ではないので、私はとりあえず体を動かすことにした。
 ありがとうというのは照れくさいから、飲み込んで。
 明日からは、店のお手伝いもちゃんとやろうと決めて。
 だから、今は父さんの言葉に押されるように玄関へ駆け出す。

「いってきまーす」

 久しぶりの外は、抜けるような青空だった。




 杖を重く感じるのは、けして気のせいではないのだろう。 
 何度も振り回し続けたせいか、腕が思うように上がらないでいる。

「な、なんとぉ」

 戦士の攻撃に、右へと動く。
 だが、そこには既に新手が迫っていた。

「てあぁー!!」

 振り下ろされた剣は、避けることを許されなかった。

「うぼぁー!」

 大きな声を上げながら、私は大の字に地面へと倒れこむ。

「姫、ごぶじですか?」
「ありがとうございます、勇者様」

 倒れた私のすぐそばで、勇者がメアリの手をとり立ち上がらせる。
 他の友人も口々に何か叫んでいる。

 何をしているかって?
 子供たちの一番人気。勇者ごっこに決まっている。

 私にふられた役割は魔王。
 16回連続で魔王。
 いつもだったら、いじめじゃないかと思うところだ。
 が、最初に「今まで誘いを断った罰」として与えられたため諦めた。
 友人たちが、許してくれるか、この勇者ごっこに飽きるまで私は魔王のままなのだろう。
 まあ、今の私にとって勇者側をやるのは遠慮しておきたい気分でもあるし、かまわない。
 ごっこ遊びの流れもだいたい決まっているから、無茶なこともやらされないし。

 ただ、一つ問題があるとするなら。

「ねんがんの ひめを てにいれたぞ!」

 そろそろセリフのネタがつきそうなことだろう。
 皆が飽きる前に、私が飽きそうだ。


 結局、勇者ごっこは陽がくれるまで続けられた。
 私はその間、ずっと魔王のままだった。
 私の魔王は好評らしく、きっと次回も魔王だろう。
 ほめられたけれど、嬉しくない。

 夕飯の席で、今日あったことを楽しそうに話すポーラ。
 当然、散々やった勇者ごっこの話が出ないはずが無く。

「ポップがまおーだと、ほんとにおもしろいの」
「へぇ」
 
 こっち、見んな。



[8876] 「第三話~魔法~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:ecc55030
Date: 2010/09/05 15:37
「第三話~魔法~」




 引きこもりの日々から、あっというまに一年たった。

 捨て台詞に斬られ役。勇者ごっこで、私以上に魔王を演じれる奴はいないね!
 村の大人たちからも、「将来は役者になれる」ってほめられるくらいだしね!

 て、違う!
 役者を目指していたわけじゃない。
 それに、一年もの間、勇者ごっこで魔王以外やらせてもらえないのは、やっぱりいじめじゃないか。
 私と違って相手は生粋の子供だから、手加減がないから容赦が無い。当たれば、木とはいえ剣は痛いんだぞ。毎回必死で避けてんだぞ。
 かといって、遊びの誘いを断ることもできない。
 勇者ごっこ以外で遊ぶ時だってあるし、ごっこもいざ始めてしまえば楽しいし。
 それに、ポーラに誘われたら、断れないんだよな私。

 魔王役にはもう飽きた。
 でも、誘われたら断れない。

 結局、いい解決方法が思いつけるわけなく、逃げることにした。




 父さんの手伝いがある日を除いて、私は釣竿片手に朝早くから出かける。  
 朝早くなのは、ポーラにつかまらないために。釣竿を持っていくのは、言い分け用にだ。
 本当は釣に行くんじゃない。
 魔法の練習をしにいくのだ。

 そう、色々思考がループしていて、うっかりしていたが、今の私はポップなわけで。
 ポップといったら物語の後半では、ものすごい魔法使いじゃないですか。
 現代日本じゃ妄想でしかない魔法。
 それがこの世界では、努力次第で使える。

 気づいたら、もう使ってみたくてしょうがなかった。

 だけど、村にはそういったことに詳しい人はいなかった。
 教えてもらうことができない。独学でがんばるしかない。

 だけど、私の周りに魔法を習得するための教材はなかった。
 手に入れようにも、村には残念ながらそういったものは無かった。
 街まで行けばあるのだろうが、子供の足では簡単に行くことなどできない。

 だから、私はその機会を待つしかなかった。

 そして、一月前のこと。
 街へ父さんの仕入れにくっついていけることになった。
 母さんは留守番。私とポーラは父さんと一緒に街へ向かった。 

 仕入れも終え、つれていってもらった書店。
 一歩踏み入れれば、独特の紙のにおいが鼻をくすぐる。店一杯に並べられた本。本。本。
 村にある本のほとんどを読破してしまった私にとって、それは宝の山だった。
 未読の本が置かれた書店。前世から変わらない私のベストプレイス。
 嬉しさに悲鳴を上げないでいるのが、つらいほどだった。
 店主に場所を聞いても良かったのだが、久しぶりに訪れたこの場所を堪能したかった私は背表紙を目で追っていく。
 父さんはポーラと隣の店にお土産を買いに行っているから、時間はある。大丈夫。
 にやけそうになる顔を片手で抑える。
 端から順に見ていけば、簡単に目当ての魔道書たちはみつかった。

 これで、私も魔法が使える!

 私の興奮は、値札を見た瞬間に急下降した。
 近くにおいてある絵本とは、桁が1つ2つ違っていた。

「……高い」

 ボヤキが思わず漏れる。
 今、自分が持つおこずかいだって、けして少ない額じゃない。
 本を買おうと、こつこつと貯めてきたのだ。絵本なら買えるだけはある。
 でも、欲しいのは魔法を使えるための教科書。
 
 うぬぬ。

 立ち読みで、暗記するか。
 そう考えて手に取った本に目を通す。

 ……無理だ。

 これを短時間で暗記できるのは、天才だけだ。
 呪文に関する説明に考察、契約の詳細に術式。
 目に入る情報が多すぎて、文字がゲシュタルト崩壊しそうだ。

 うう、でも、読みたい本を前にして、おあずけなんて。
 今日という日を逃したら、次に来るまで月単位の間隔があくし。

 うおうおうおうおぉ。

 バシィ!

 本を手に答えの出ない悩みに没頭していた私の頭部に、痛みが走る。
 叩かれた。
 振り向けば、そこには呆れた顔した父さんとポーラが立っていた。

「何、変な顔してやがる」

「変なのー」

 けらけらと指差して笑うポーラの手には、お菓子が入っているのだろう可愛らしい包みが握られていた。

「ほら、あとはお前だけなんだから、さっさとしねぇか」

「そ、それなんだけど……これ、買って」

 手にしていた本を差し出す。

「あ?何だ?また、本か。って、高いじゃねえか。そんなのよりこっちの奴にしろ」

 値札を見て、私と同じ感想を抱いた父さんは近くの絵本を指差した。

「それはおこづかいで買うから。ねえ、買って買ってぇ。ほしいーほしいー」

 一度口にしてしまえば、もう止まらなかった。
 
「足りないなら、絵本はあきらめるから。だからこれ、買ってぇ。買って!」

 その後の私は、いつもの私ではなかった。
 駄々をこねて、こねて、こねまくったのだ。
 怒鳴られようが、殴られようがしつこく駄々をこねた。
 顔の穴から出せるもの全てだし、わめき、あきらめなかった。

 こんな面白そうな本をおあずけにされたら死ぬ。
 悔しさのあまり、死んでしまう。
 なんていうか、そんな気持ちだった。

 最終的には父さんが折れ、私の手元には欲しかった魔道書があった。

「……大事にしろよ」

 疲れたように私の頭をぽんと叩く。

「うん!」

 私はうなづいた。

 ごめんね、父さん。
 これ買ったから、楽しみだったお酒買えなかったでしょ?
 次の時は、私がお父さんの好きなのプレゼントするから許してください。
 言わないけど。



[8876] 「第四話~出会い~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:4af25c61
Date: 2010/09/05 15:42
「第四話~出会い~」




 足を止める。
 昨日も来た川原の大きく平らな岩の上には私が書いて消し損ねた魔法陣が残っていた。
 本に載っていたものを、何度も何度も描いては消して、を繰り返した完成作。朝露で水気を帯びた岩の表面を軽くなでる。白墨で書いたそれは、そんな簡単な動作でにじみ歪んだ。
 これが昨日初めて光を発し、そしてそれが自分の体を照らした瞬間の興奮が、ふつふつと再燃する。叫びはしないが、口が弧を描くのが止められない。
 成功、したのだろう。
 光に包まれたあの瞬間に感じた身体の中に染み入るような、それでいて、じんとしびれるようなのがきっと魔力なのだと思う。
 やっと。そう、やっと今日から私は本格的に魔法の練習を始められるのだ。
 昨日までのように魔法陣を延々と書く作業から開放されるのだ。いや、書くのは楽しかったのだが。
 さて、では記念すべき初詠唱をしますか。

 言い分けように持ってきた釣竿を杖に見立て、私は川面に向かい精神を集中させる。

「メラ」

 ぽひゅっ、と気の抜けた音を立てながら小さな煙がでた。

「…まあ、こんなもんだよね」

 初めてだからしかたがないよね。うん、別に最初からちゃんとできるなんて思ってないさ。

 …思ってないよ?




 朝も早くから家を出て、気がつけば陽は頭の上で、さんさんと照っていた。
 一回ごとにゆっくりと集中をしながら練習したメラは、ようやく焚き火の火種くらいにはなるようになった。いやぁ、自分でつけた火で焼く魚はおいしいね。

 村の近くを流れる川はもう少し暑い季節ともなれば子供たちの絶好の遊び場だ。もちろん私もその中に含まれる。
 今、手にしている釣竿は父さんに作ってもらったものだ。これがよく釣れるのだ。
 こうやって休憩がてら釣り針を川面に垂らせば、川上からどんぶらこっこ、と黒い物体が流れてくる。

 は?

「あぁぼうっぶ!」

 どうやら人のようです。




 発見した場所が良かった。
 流れてきた黒い塊、もとい人をまだ幼い私が助けることが出来たのは、それ以外に無いだろう。
 ここより少し下流になれば、子供たちが遊び場にするような場所。そこまで行かずとも、ここでも大人なら余裕で足がつく深さだ。パニックになっている人は、その身に着けたマントが水を受け帆のように膨らんでいることから、水の流れに逆らえず、上手く立てないだけなのだろう。
 だから、私がすることといえば、マントの端を掴み、水を逃がすことだけだった。
それだけで、その人を押し流す水の流れは弱まって、その場に留まらせることが出来た。
 あとは、その人が自分でパニックから立ち直って、自力で川辺まで上がってきた。

 水をたっぷりと含んで重そうな黒い服をまとったその人をそのまま放置するわけにもいかず、私は魚を焼いていた焚き火まで連れて行く。
 流されて体力の消耗が激しいのだろう。見も知らぬ子供の私の無言の誘導におとなしくついてくる。まあ、私が握っているマントの端を取り戻すのも面倒くさいだけなのかもしれないが。
 それにしても、ふらふらと危ない足取りだ。

「ここ、座って。今、小枝拾ってくるから。あと、そこの魚、食べて良いから」

「……あ、あぁ」

 平らな石を指差し、座らせる。ぬれた前髪で顔の上半分が隠れているが、唇が青いあたり、体は大分冷えているだろう。何か暖かいものでも飲ませるほうがいいのだろうが、あいにく私が釣った焼き魚しかない。
 とりあえず、焚き火で温まってもらうしかない。服は自分で何とかするだろう。

「少し休んだほうがいい。急ぎじゃないなら、村まで案内するから」

「ああ、頼む」

 本当はとっとと村に向かって、大人に任すのが一番なのだろう。だけど、先ほど見た足取りでは途中で倒れそうだった。
少し待って回復しないようなら、焚き火に当たりながら村から誰か連れてくるのを待っていてもらおう。
 私もかなり濡れてしまっているが、天気もいいし、一緒に焚き火に当たればすぐに乾くだろう。

 小枝をそれなりに拾って戻ると、そこにはおっぱい様がいらっしゃった。

 ……もとい、ぬれた服を脱いで焚き火で温まる女性がいた。

 もちろん裸ではなく、下着を着てはいる。着てはいるのだが、その布を押し上げ、自己主張している物体が、私に混乱と羞恥と居た堪れなさを抱かせた。

 さっきまで、正直に言えば男の人だと勘違いしていた。返事の声も低く、着ていた服も無骨な印象な物だったから。

 それが一転。おっぱいである。
 悪魔のふくらみとも言うべきものが、薄布一枚隔てたそこに存在していた。
 目も意識もそこから離れることが難しかった。

 だから、私は彼女を村まで連れてきたのかを良く覚えていない。

「すげーな、おい」

 そう、彼女を見て呟いた父さんが、母さんに叩かれて地面に沈んだのは覚えている。

 おっぱい、怖い。




[8876] 「第五話~一歩前進~」
Name: ニネコ◆59b747f8 ID:a7910854
Date: 2010/09/05 15:44
「第五話~一歩前進~」




 おっぱい様、もといファニさんは、怪我が治るまで村に逗留することになった。
 彼女は、自身をパプニカの錬金術師だと名乗り、この付近に素材となる何か良さそうな物を探しに来ていたと言った。
 連れ帰った翌日、母と一緒に彼女の見舞いに行った際、そう自己紹介された。

 黒い服の合間から覗く、白い包帯が痛々しい。ベッドから上半身を起こし、私たちを迎え入れたファニさんは自分のことを語った後、私の頭に手を置いた。

「本当にありがとう。あそこに君がいなかったら、どうなっていたか」

 年上の若い女性に、頭を撫でられながらお礼を言われて、私はなんだか照れくさかった。
 視線を向けていた所が所なだけに、ちょっと罪悪感まで沸いてくるが。
 母さんも、照れている私を微笑ましいとでも思っていたのだろう。柔らかな笑みを浮かべて、彼女が私を褒めるのを聞いていた。
 が、それも彼女の発言によって、昨日のトラウマに匹敵するものに変貌する。

「まだこんな幼いのに、魔法を独学で修得するなんて、君は天才かもね」

「ポップが魔法を?」

「ええ、まだ小さな火でした。ですが、十分すごいと思いますよ」

 ニコニコと、私を褒めてくれるファニさんの言葉に、母さんの私を見るまなざしが鋭くなっていく。
と、言うか、いつ私はファニさんに魔法のことを話した?話すとしたら、焚き火の所から村までの間だろう。

 ……

 ……歩くリズムで上下左右。

 ………

 ………押し上げられた布地は、至高のライン。

 …………

 …………だめだ。
 おっぱいのことしか、思い出せない。
 何か色々と聞かれていたような気はするが、おっぱいに意識が行って、なんて答えたか思い出せない。
 駄目だ、自分。どれだけエロ餓鬼ですか。

 頭抱えて落ち込みたい気分だが、母さんからの視線がそれを許さない。
 ファニさんの話に、愛想よく相槌を打っているが、時折こちらにやる視線はするどい。
 これは後が怖い。説教か、それとも尋問か。
 ポーラのいたずらがばれた時よりも、母さんから感じる何かが怖い。
 それに、私、何かいけないことをしたか?魔法の練習?
 でも、私が魔法の勉強をしているのって、母さん知っていたよね。……あれ、言ってなかったかな?本のことは、知っているはずだよね。あ、でも魔法を唱えたのって、昨日が初めてだから……あれ?そもそも、母さんには釣りに行くって言って出かけていたよね。あれ?じゃあ、練習していたことは……話していない?家にいる時は、ポーラがそばにいるから話すとバレるし。え、じゃあ、やっぱり……
 
 混乱し始めた私を余所に、母さんたちは話し続ける。

「でも、本当に誰かの指導を受けていないのですか?呪文を唱えるだけなら、まだ幼くても出来る人もいます。ですが、契約までこの年齢で、しかも独学で、一人で行って成功するなんて信じられませんよ。契約の手順は高度なものですから」

「そういうものなのですか?どうも私はそういうことに疎くって」

 どうやら話題が、また私のことに戻ったらしい。
 褒めてもらうのはうれしいが、私、別にここにいなくてもいいんじゃないかな?が、二人きりにして何を話されるのかも気になる。
 結局、席を立つことも会話に加わることもせず、大人しくしていることしか出来ない。

「あいにく、今の村には、そういうことに詳しい人もいませんし」

 苦笑して首をかしげる母さんの言葉に、私もうなずく。それなりに考えて、独学することにしたのだから。教えてくれる人がいるなら、その人から習うって。

「なら、お礼も兼ねて、私が指導、というか、基礎を教えましょうか?」

「え?」

「しばらく、こちらに滞在しますし。ポップ君が良かったらですが」

 戸惑う母さんに、にっこりと笑いかける。私も驚き、彼女の顔をじっとみつめる。優しげな笑みは、冗談、という訳でもないようだ。

 教えてもらえる?魔法を?
 本当に?

 想像していなかった提案に、母とファニさんの顔を交互に見比べる。

「本業ではないけれど、ね。君に教えられるくらいは詳しいわよ」

「ポップ?」

 二人の浮かべる表情に差はあれ、どうやら私の答えを待っているようだった。
 どうしよう?
 いつの間にか強く握っていた拳を開いて、その手のひらを見た。
 昨日、初めて魔法を唱えたときの感覚を思い返す。

「教えて……ほしい。教えてください!私、魔法覚えたい!」

 一度、口から出せば、もう堪らなかった。
 あんな種火にしかならないメラではなく、物語に出てくるような、ちゃんとしたメラを唱えられるようになりたい。
 自力だけでは無理だ。間に合わない。漠然とだが、そう感じた。

「ええ、頑張りましょうね」

「よかったわね、ポップ」

「うん!」

 母さんの言葉に、満面の笑みで答えた。




 だが、しかし、母さんの説教が無くなった訳ではなかった。
 帰宅後、嘘をついて出かけていたことと、村の外へ一人で出ていたことを叱られた。その上、火の危険性をみっちりと説明された。

「分かった?分かったなら、返事をしなさい」

「ごめんなさい」

 素直に謝れば、母さんはあっさりと許してくれた。
 台所へ向かう母さんを見送り、夕飯まで自分の部屋で過ごそうと階段を上る。

「叱られてんの、ポップ」

 階段の上に、ポーラがいた。にひひ、と自分と同じ顔で笑われた。

 夕飯は、ちょっぴりしょっぱかった。




 次の日から、私はファニさんから魔法を学ぶこととなった。
少し残念なのは、学ぶのが私一人だけだったことだ。ポーラや友人たちは、魔法には興味があるくせに、勉強となるとさっさと逃げ出した。少しは頑張れよ。
 勉強は、私が教本としていた本を元に、魔法についての理解度の再確認や勘違いの是正から始まった。どちらとも取れる表記や間違いやすい箇所を洗い出す。 
 本だけでは分からなかった感覚。実際にファニさんが手本として見せてくれたメラは、大きな火の玉で、離れていても熱を感じた。唱えられた呪文も、まるで短い歌のようだった。
 食い入るように見つめれば、苦笑されたが、彼女は一つ一つ丁寧に教えてくれた。
 そのおかげで、彼女が村を発つ日には、メラだけでなく、他の魔法も使えるようになった。

 村の端。私とファニさんの二人だけ。何人かいた見送りの人もここに来るまでに別れを済ませ戻っていた。
 私だけ、なんだか最後まで一緒についてきてしまった。

「ポップ君は、本当に飲み込みが早かったね。教えていて、私も為になったし、楽しかったわ」

 なんて、頭を撫でて褒めてくれる。それはうれしいのだが、ごつごつとした手袋の感触が少々痛い。
旅装に身を包む彼女の姿は、最初にあった時と同じ黒ずくめの重そうなものだった。彼女いわく、収納に長けた服と外套なのだそうだ。素直に鞄にしまえばいいと思うのだが。
それに、その格好。体型が分からないだけでなく、性別不詳で怪しく見える。せめて色だけでも違うものにしたらいいのに。いや、あまり変わらないか。

「ファニさんの教え方が、分かりやすいからだよ」

「錬金術で食べていけなくなったら、家庭教師でも始めようかしら」

 軽く言うから、冗談なのだろう。先生も似合うとは思うが、ファニさんが錬金術や作品を語る時、瞳の輝きから違って、本当に好きなのだと伝わってきた。
他愛も無い会話は楽しい。でも、いい加減切り上げないといけない。

「ファニさん、お元気で。今日まで……本当に……ありがとう、ござ、まし…た……」

 軽く伝える筈が、語尾が震える。
 短い間だったが、ファニさんとの魔法の勉強の時間はすごく楽しかった。
 それも今日でお別れ。なんだか泣きそうだ。

「ふふ、泣きそうね」

「な!泣きません!」

 からかわれた!何か悔しい。

「あら、そう、残念。ま、またすぐ会えるしね」

「?」

「外に落し物探しに行った時、使えそうな素材を見つけたからね。収集を兼ねて、会いに来てあげる」

「でも、パプニカからだと遠いよ。無理じゃない?」
 
 遠いというか、まず大陸が違う。簡単に行き来できる距離じゃない。

「大丈夫。魔法があるわ」

 ルーラか!

「ポップ君の魔法が上達したら、その時教えてあげるから。練習がんばりなさい」

「絶対、教えてよ。約束」

「ええ、約束」

 怪我が治るまでの短い師弟関係。だが、最初に考えていたよりその関係は長く続くことになった。
 彼女の姿が視界から消えるまで、その場で見送りながら思った。


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