宗門基本法規制定調査会答申書〜新基本法規の骨子〜の問題点
2010年7月30日 大阪教区総局巡回に際しての質問書
大阪教区住吉組
組相談員 梯良彦
今回、宗務所法制部より出された「宗門基本法規制定調査会答申書〜新基本法規の骨子〜」（以下「答申書」）が自ら同朋教団を標榜する浄土真宗本願寺派にとって、また、宗祖親鸞聖人のみ教えに照らし合わせて本当にこれで良いのか以下に問題点を提起し、質問させて頂きます。
�々皺�教区に於いて本年五月二十八日に、「中央において全教区の基幹運動推進委員会の意見聴取を提起し、その意見集約と結果を公開し、一度ではない中央と地方の往復運動の中で改正の議論をすること」・「拙速に改正をしないこと」という「宗法改正」に関する建議が出されました。それに対する総局の回答はなされたのでしょうか？また、この建議の趣意にも示されている通り、最高法規である宗法の改正に当たっては、教団構成員のすべてが議論に参加・検討・決定すべきであり、この際、宗門投票を実施すべきであると考えます。しかし、現宗法第九十四条における宗門に包括される宗教団体における発意に基く手続きは非常に煩雑であります。
一方で同じく第九十四条には、ご門主の発意に基く方法も示されており、これならばご門主お一人の決断で容易に宗門投票を実施することが可能です。総局として、ご門主に今回の宗法改正に関しての宗門投票の発意を進言なさるというのは可能でしょうか？
�◆ 崚�申書」（8頁）、「伝統や形式に縛られ、旧態依然とした組織体制を受け継ぐ現行制度」には門主制度は含まれるのですか？含まれないのですか？
�� 「答申書」（9頁）、「宗会制度や委員会政治の採用によって、経費と時間のかかる割には良質な意思決定や効率的な運用、実行性のある宗務執行ができず」とありますが、「良質」・「効率的」・「実効性」とは、具体的にどのような事例を指すのかお示し下さい。
�ぁ 崚�申書」（９頁）において、宗会の反省点（経費と時間がかかる割には良質な意思決定が為されなかった）、一般寺院と僧侶の反省点（寺院活動を自らが生活していくための手段、利益を得るための方法としてのみ捉え）と問題点を指摘されていますが、ご門主も同じような問題意識をお持ちなのでしょうか？また宗法改正に関してご門主のご意向は働いているのでしょうか？そして門主制度のあり方についても何かご意向があるのでしょうか？
�ァ 崚�申書」（10頁）、「本願寺が、簡素で効率的な組織体制において宗教活動を中心とした寺務を独自に推進することにより、その担うべき役割、宗務量も大幅に縮小し、自ずから組織体制もスリム化される」とありますが、今回の宗法改正によって、具体的に職員の削減は何％を想定し、その結果、経費の削減は何％可能なのでしょうか？スリム化されるとする根拠となる試算例をお示し下さい。また、これとは矛盾する形で「答申書」（15頁）には、「現行における財務規模、職員数の維持を前提として」とありますが、どちらの方針を目指しておられるのか、矛盾点の説明とともにお示し下さい。
�Α 崚�申書」（15頁）、「回金制度はこれを維持し、予算編成時に両者によりその額を協議決定する」とありますが、今回の宗法改正案では回金制度の維持が担保されているとは言い難く、「明確な取り決めのもとでの協力体制」における回金制度の金額決定手続きを具体的にお示し下さい。
�А�｢答申書｣（17頁）「宗派の議決機関として常務委員会を置く」とあります。この常務委員は１５人中、代議員は宗務総長（代議員からの選出として）を含め１２人となり、代議員が多数を占めています。しかし一方で、「答申書」では、本願寺の「自主的運営体制」（24頁）を打ち出しており、その議事機関として、「本願寺評議会」（25頁）の新設が提案されています。その評議員の内訳では１５人中、代議員は僅か5人（宗務総長が代議員選出としても）となります。つまり、今回の宗法改正に於いて本願寺の宗派に対する優位性は明白であり、本願寺の「自主的運営体制」により宗派の運営も大きく左右されることは間違いありません。これに並行して「答申書」（18頁）、（仮称）代議員会の職務において、「（基本法規の変更）基本法規の変更について同意すること」・「（予算等）毎年度の予算及び宗務の基本方針、その他重要事項について意見を述べること」とあります。これでは本願寺、延いては宗派の運営がこれまでの民意を反映せず、一部の限られた人たちの意向により、推し進められてしまいます。また、これは現宗会の立法権の放棄を意味するものであり、我々、教団門徒・僧侶の民意が汲み取られるとは到底考えられません。これらは民主主義の流れに逆行するのではないかと考えますが、それに対してはどのようにお考えでしょうか。
�─ 崚�申書」（30頁）、「この特別開教区の都市開教対策等は、宗派の法制上の制約を受けることなく、築地本願寺が独自に行うこととする」とあります。都市開教対策等は宗派全体の課題であり、宗派と築地本願寺が宗派の法制上で協力し執行すべき問題であると考えます。また、この「答申書」で想定した、法制上の制約を受けることなく行う都市開教対策とは具体的にどのような場合を想定されているのかお示し下さい。
�� この「答申書」の中では基幹運動について全く触れられていません。これは、基幹運動軽視の顕れではありませんか？今回の宗法改正によって、将来的には基幹運動を縮小・消滅させるのではないかという危惧を感じますが、基幹運動を維持していくという担保はされるのでしょうか？
�� 「答申書」[基本３法改正の必要性、目的、基本方向性]の中で「善知識」が
５回にわたり使用されています。それらを抜粋しますと、「善知識のもとに本山で得度式を受け」（9頁）・「宗門において、門徒を宗祖の『お預かり門徒』とし、ご真影と善知識を仰ぐ本山本願寺の門徒を各一般寺院がお預かりしているという考え方のもとに受け継がれてきた」・「法灯を伝承された本願寺の歴代宗主（門主）を善知識と仰ぐ同朋教団である」・「僧侶は、本山本願寺において次第相承の善知識である門主の教化を受けて、一般寺院その他で宗祖の教えの弘通に努める」（10頁）・「宗派と本山との関係を中心とした組織制度の改革を行うにあったても、このようなご真影と善知識を中心とした考え方は充分に踏まえた上で」（11頁）とあります。この中では、歴代門主が無条件で善知識であるかのように示されています。宗祖は『教行信証』「化身土巻」において『涅槃経』より引用され、「またのたまはく（涅槃経・徳王品）、『善男子、第一真実の善知識は、いはゆる菩薩・諸仏なり。世尊、なにをもつてのゆゑに、つねに三種の善調御をもつてのゆゑなり。なんらをか三つとする。一つには畢竟軟語、二つには畢竟呵責、三つには軟語呵責なり。この義をもつてのゆゑに、菩薩・諸仏はすなわちこれ真実の善知識なり。また次に善男子、仏および菩薩を大医とするがゆゑに、善知識と名づく。（中略）この義をもつてのゆゑに諸仏・菩薩を善知識と名づく。善男子、たとへば船師のよく人を度するがゆゑに大船師となづくるがごとし。諸仏・菩薩もまたかくのごとし。もろもろの衆生をして生死の大海を度す。この義をもつてのゆゑに善知識と名づく』と。」（『浄土真宗聖典』（注釈版）409頁）とお示し下さいましたが、「答申書」で示される「善知識」はどのような意味を持つのかを定義して下さい。また、その定義に基いて、戦前、戦時教学の先頭にたち、法主という絶大な権力をもちながら、宗祖の教えに背いた「消息」「親示」「直諭」を出した大谷光照前門も「善知識」なのでしょうか？ご承知の通り、大谷光照前門はこのような消息を発布されています。池田行信先生が『真宗教団の思想と行動』
（法藏館）の著書の中に於いて指摘されておられますので一部引用させて頂きます。
「皇国護持の消息
戦局いよいよ重大にして皇国今や存亡の関頭に立てり。一宗挙げて国恩に報ゆるとき今日を措いてまた何れの日にかあらむ。抑宗祖聖人に朝家の御ため念仏まうすべきよし御教訓あり、中興上人に王法為本の御勧化あり。されば真宗念仏の行者、かかる皇国の一大事に際しては宜しく眼中に一身なく脳裡に一家なく、己を忘れ家を捨て、ひたすら念仏護国の大道を邁進すべきなり。（中略）わけても教導の大任を負ふ一宗の僧侶は率先門徒の陣頭に立ち、粉骨砕身、衆を率ゐて奉公の誠を致し、以て皇国護持の重責を完うせられるべし。希くは一流の道俗相ともにたづさへて信火に燃え、挙宗一体国難を荷負して皇恩の万一に答へ奉らんことを。かへすがへすもおくれをとりて六字のみ名をけがすことなからむやうに切に望むところに候なり。（昭和二十年五月二十一日消息）
右の文よりも知られるように、勝如において明かされる『真宗念仏の行者』の十五年戦争への参加の内的契機は、『国家覆後の恩を報じ』・・・（中略）『只管君恩』『国恩に報ゆる』などであった。それらは『真俗二諦の法義』によって国家権力に内面収奪されてしまった『愛国護法』（昭和十二年一月四日親示）・『尊皇護法』
（『本願寺新報』昭和十七年十二月五日法主謹話）・『宗教報国』（昭和十九年十一月三日教辞）・『念仏護国』（昭和二十年五月二十一日消息）などという信心理解に基くものである。まさに『祖前に殉ずる覚悟』『六字のみ名をけがすことなからんやう』と鼓吹されたけれども、その『祖前』『六字』への『覚悟』が、そのまま日本帝国主義の侵略戦争翼賛になってしまったところに『真俗二諦の法義』によった皇国・宗門運命共同体の悲劇があった。」（91頁〜92頁）と指摘されています。
この度の宗法改正問題をきっかけとして、私たちの教団が「部落差別」・「戦時教学」など、再び過去の過ちを繰り返さないことを念じて質問を終了させて頂きます。
以上