きょうの社説 2010年9月6日

◎予算概算要求 費用対効果の検証が不十分
 総額約96兆7465億円と過去最大に膨らんだ来年度政府予算の概算要求で、衆院選 の政権公約は修正にかじを切ったとはいえ、十分な検証もないまま、継続、拡充することには疑問がぬぐえない。高速道路無料化や農家の戸別所得補償にしても、その効果をめぐっては、さまざまな見方が出ている。本来なら政策効果、費用対効果を見極めたうえで予算措置を講じるのが筋である。

 民主党代表選では、小沢一郎前幹事長が「国民との約束を実行する」と繰り返し、衆院 選公約実現へ意欲を示している。だが、公約の個別政策に関しては、各種世論調査でも評価は高いとはいえず、「国民との約束」という原則論を押し通す意味は薄れているように思われる。実行に移すとしても、財源の明示とともに、その政策が狙い通りの効果を発揮するのか、厳密な検証が不可欠である。

 高速道路無料化については今年度、1千億円の予算が計上され、37路線50区間で社 会実験が行われている。来年度概算要求では、1・5倍となる1500億円が盛り込まれた。一方で、6月末に始まったばかりの実験では、渋滞増加や一般道沿いの店舗の悪影響を訴える声が相次ぎ、前原誠司国土交通相も「メリット、デメリットがある」と認めている。

 観光など地域経済への波及効果や物流コストの変化、公共交通機関の影響などは一定の 時間をかけないと見えてこないが、継続するのであれば、少なくとも予算を編成する年末までに功罪を分析し、国民がその是非を考えられる一定の判断材料を示す必要がある。

 農家の戸別所得補償もコメに続き、来年度は麦や大豆など畑作にも広げ、予算は約56 00億円から1兆円規模に拡大する。コメはデータが整っているとして先行実施されたが、その仕組みが妥当か詳細な検証もないまま、他の品目に拡大して大丈夫だろうか。

 小沢氏は子ども手当の2012年度からの満額支給を打ち出したが、民主党の目玉政策 は完全実施しようとすれば巨額を要する。やってみて「失敗でした」では済まされない。段階を踏んだ政策の検証は極めて重要である。

◎MICE誘致事業 まずは認識深める活動を
 石川県は今年度からMICE(マイス)誘致事業として、民間企業の会議や研修の誘致 に力を入れている。観光庁も国際観光戦略として今年度を「MICEイヤー」と位置づけ、取り組みを本格化させているが、いまはまだMICEという言葉自体なじみが薄い状態である。

 言葉の読み方すら十分に知られていないようでは、国の重要な観光政策として政府・自 治体・民間が一体となって活動を推進しようという機運も高まりにくい。政府と自治体は、MICEの意義について認識を広げる広報活動にまず力を入れる必要がある。

 MICEとは企業・団体の会議(ミーティング)や報奨・研修旅行(インセンティブ旅 行)、国際会議・学会(コンベンション)、さらにイベント・展示会(エキシビジョン)の英語表記の頭文字を組み合わせた言葉である。

 政府はこれまでコンベンション誘致に力を入れており、日本での国際会議開催件数は2 008年度で世界4位と成果を挙げている。石川でも全国に先駆けて金沢コンベンションビューローが設立されている。しかし、国際的にはコンベンションだけでなく、幅広いMICE誘致競争が激化しており、政府も昨年「MICE推進アクションプラン」を策定し、催事による国際誘客戦略を転換した。

 こうした政府方針と北陸新幹線開業をにらんで石川県は今春、MICEの概念に基づい た「コンベンション誘致推進計画」を策定した。時宜にかなった取り組みであるが、MICE誘致は新幹線の先行都市も力を入れており、水をあけられるわけにはいかない。

 また、金沢コンベンションビューローも今年から、観光事業者らを対象にMICEビジ ネス講座を開催している。こうした活動をさらに広げてほしい。

 政府のMICE推進プランは、訪日外国人3000万人計画の一環であり、海外からの 呼び込みを主眼としているが、国内企業の会議や研修などを含めた自治体独自のMICE誘致事業も政府の政策なかにきちっと位置づけ、後押ししてもらいたい。