1月16日、東京・霞が関の法務省に身長2メートルを超す男性が表れた。普通の人より頭二つ分高いその姿は、いやでも目立つ。男性はジョン・ムウェテ・ムルアカ氏(41)。鈴木議員の元私設秘書で、所持する旅券(パスポート)が「偽造だ」としてたたかれまくった人物である。なぜ、ムルアカ氏が法務省を訪ねたのか。法務省関係者が言う。
「実は、法務省はこの日、ムルアカさんを呼び、永住許可の証印をそのパスポートに貼付したのです」
ムルアカ氏は1998年に日本人女性と結婚。永住資格を獲得している。今回、改めて永住許可証印が貼付されたことでムルアカ氏は、旅券に"本物"とのお墨付きを得たことになる。
法務省に、その事実をただした。担当の入国在留課の職員は、「ムルアカさん個人のプライバシーにかかわることなので一切、答えられない」としたものの、「一般論として(永住許可証印を)貼付したということは、同時にその旅券が偽装したものではないということです」と回答した。つまりシロ判定を下したということだ。
ここで、ムルアカ氏の旅券偽造疑惑について説明しておこう。
外務省は昨年3月、ムルアカ氏が当時所持していた旅券について、「コンゴ民主共和国政府から『偽造文書』であるとの連絡を得た」と発表した。
一連のムネオ疑惑の中で、「ムルアカ氏がコンゴの外交旅券を持っており、鈴木議員が私設秘書としたのは問題だ」との疑いが浮上。同省はコンゴ政府に事実関係を照会していた。偽造であれば、ムルアカ氏は入管難民法違反で強制退去処分となる。
当時、法務省側はコンゴの政情が不安であることに加え、
・旅券が欧州各国の厳しい出入国審査で有効と認められている
・コンゴ政府の回答文書にある「faux」は「偽造」のほかに「はっきりしない」との意味があり、誤訳の可能性がある
・回答文書で偽造の根拠が示されていない─ことから、外務省の「偽造」の判断に?を付けていた。
「法務省が首をかしげたのも当然です。当時、外務省は鈴木氏の追い落としのため内部文書を次々公開しており、一部の文書は内容を書き換えて怪文書の形で議員に送付するなど、えげつなかった」(外務省関係者)
正確に説明すると、今回、永住許可証印が貼付された旅券は、問題となった旅券ではなく、2002年11月にコンゴ政府によって更新されたものである。 ただ、法務省の原則は「永住許可を不当に取得した場合は、さかのぼって永住許可を取り消す」というもの。 つまり、今回、新旅券にお墨付きを与えたことは、問題の前の旅券も「有効」と判断したことになるわけだ。
これに対し、ムルアカ氏はどういうわけか、沈黙を守っている。
「今回の判定を公表するつもりはないようです。「いくらシロであっても、『もう、この問題で騒がれたくない』と漏らしてます」(ムルアカ氏周辺)
知らんぷりの外務省
今回の法務省の処置については、外務省側にも伝えられたはずだが、「幹部に聞いても『えっ、そうなの。でも、もう終わったことだし一』との返事です。もう過去の話で、話題にも上りません」(外務省関係者)
と知らんぷりだ。
外務省の先走った判断の結果、ムルアカ氏は大学講師(国際関係論)の職を追われ、現在は無職。夫人と幼い子供3人を抱えて職探しの日々を送っている。
「奥さんのアルバイトで家計を支えています。スポーツ紙などでプロ格闘家に転身するとの話が出てますが、それも食いつなぐため。心労で体重も10キロ以上減っていて、体力的にも無理です。本当は大学講師の職を探しています」(ムルアカ氏周辺)
そんなムルアカ氏を苦境に陥れた責任を外務省はどう考えているのか。ほっかむりしたままでは済まされないのではないか。
松本サリン事件(94年)で長野県警に犯人扱いされた河野義行さんに対し、当時の野中広務・国家公安委員長は、「一政治家として心からおわびしたい」と、深々と頭を下げた。
外務省、とくに記者会見や国会答弁などで旅券の「偽造」について盛んに言及した川口外相は、野中氏にならってムルアカ氏に謝罪すべきでないのか。