東の国の人里離れた山の中。
人間以外の生き物と、ほんの少しの人間が暮らす場所。
その地は、幻想郷と呼ばれていた。
幻想郷にも四季はあり、今は夏。
まだ昼前とはいえ、外に出て活動していれば汗をかくぐらいには暑い。
いつもと同じ幻想郷の夏ならば、ではあるが。
幻想郷は突如、謎の紅い霧に包まれていた。
俺――天城ヶ原明人(あまぎがはらあきと)――は、この異変の原因を究明するためにある場所を目指していた。
しばらく空を飛んでいると、目的地である博麗神社が見えてきた。
博麗神社の巫女、博麗霊夢はいつもどおり神社の掃除をしていた。
霊夢は降りてくる俺に気付くと、掃除を中断してこちらに向かって来た。
「ああ、明人じゃない。そろそろ来る頃だと思ってたわ」
「またいつもの巫女の勘ってやつか」
「ええ、そうよ」
自慢げに答える霊夢。
おそらくはこの紅い霧のことで俺が来ることが分かっていたのだろうが、まあ言わないでおこう。
「で、原因は?」
「知らないわよ。そっちは?」
「知ってたらお前に聞かないだろ」
「それもそうね」
やはりと言うべきか、まだ異変の原因は判明していないみたいだ。
朝起きたらいきなり紅い霧が広がっていたので、すでに調べ終わっているとも思っていなかったが。
「私の勘によると、あっちの方に原因があるわ」
霊夢が指差す方を見る。
あっちにはたしか人里があったけど、おそらく違うだろうな。となると、その奥の妖怪の山か?
「じゃあ、よろしくね」
そう言って掃除の続きをしようとする霊夢。いや、待て待て。
「よろしくってどういう意味だよ」
「そのままの意味よ。今ここに来ているのだって、私の手伝いのためなんでしょ?」
俺は以前にも霊夢の仕事を手伝ったことが何度かある。それにしたって霊夢の補助という形でしかない。
「いや、そうなんだけどさ。俺一人で行くのか?」
「まだ掃除し始めたばっかりだから、とりあえず様子を見てきてよ。一人でどうにかできないなら戻ってこればいいし、原因が分かってなんとかなりそうならそのまま解決しちゃって。」
「異変の解決は博麗の巫女の仕事じゃなかったか?」
「特に決まっているわけじゃないわ。それにいつも私の手伝いをしてるあんたが異変を解決すれば、私が解決したも同然でしょ。」
いやその理屈はおかしい。とか思ったが、異変が早く解決するに越したことはない。
藍さんも洗濯物が乾きにくいって困ってたし。昼までに解決すれば乾くか?
「まあいいや、じゃあ行ってくる」
「掃除が終わったら追いかけるわ」
とりあえず、霊夢が指差した方向に行くことにした。