ここはどこだろうか。
目を開けると、知らない場所にいた。
打ち捨てられた、とまではいかないものの、破壊しつくされた城。
王家の石像達は根こそぎなぎ倒され、城壁は砕け、通路は焼け焦げている。
兵士たちの腐乱死体がそこかしこに転がり、その血は石畳を紅く染め上げている。
まさに地獄絵図。地上に地獄がやってきた、そう形容するのがふさわしい光景。
そしてそこで展開されているのは、血で血を洗う壮絶な戦いだった。
連続した金属音、人外の咆哮、肉を切り裂く水音。
黒と白。正反対の力を纏う二人が、玉座へとつながる架け橋の上で、舞踏する。
銀色の鎧を身に纏い、白い大剣を振るう騎士。
同じく鎧を身に纏い、金色の剣を振るう騎士。
殺意と殺意がぶつかり合い、火花が散り、血飛沫が舞う。
絶叫。全てをかき消す衝撃とともに、二人の騎士は鍔迫り合う。
また剣が踊る。また距離を取り、またぶつかる。
これは命を奪いあう戦い。
だが同時に哀しい、余りにも哀しい、殺し合い。
やがて結末は訪れる。
距離をとった満身創痍の騎士たちが、再び剣を取り、突進する。
吼える白い剣の騎士。唸る右腕。そして振り抜かれる両者の剣。
斬。
黒い騎士の首が空を舞う。
金色の剣が地に落ち、黒い力に包まれていた騎士の身体が白に解けていく。
白い大剣をふるった騎士は、傷を受けてなお動かない。
その赤い瞳から、一筋の涙を流したままに。
「……変な夢」
暗闇に包まれた密室に、透き通った少女の声が響いた。
ぼんやりと虚空を見つめる赤い目は眠気に負けて半分とじており、瑞々しい金色の髪も寝起きのために癖がついておかしな形になってしまっている。
髪を手櫛で整え、何故かベッドの下に落ちていたナイトキャップをかぶり直し、少女はベッドから起き上がった。
燈された明かりに照らされ、少女の背に生えた七色の禍々しい翼が暗闇に浮かびあがる。
およそヒトにあるまじきその異形は、まさに彼女が吸血鬼たるゆえんであった。
フランドール・スカーレット。それがこの少女の名だ。
この世界――幻想郷の主とすらいわれる吸血鬼の一族にして、最凶の問題児。
フランは眠たげに目元をぬぐい、考え事をするようにじっと明かりを見つめる。
あの夢は一体何だったのだろうか。
死闘を演じる二人の騎士。
白と黒の力を身に纏う彼らは幾度もぶつかり合い、そして決着が訪れる。
黒い騎士の首が飛び、白い騎士が一筋の涙をこぼす。
そして――。
「……オストラヴァ」
確かそう、呟いたのだった。
傍らから彼らを見ていたフランの耳にもはっきりと聞こえた。
オストラヴァとは一体何なのだろう。もしかすると、あの騎士の名前だろうか。
白い騎士と戦っていた、あの黒い騎士の。
「あれ?」
いや、もしそうとするならばいくつか矛盾する点がある。
フランは首をかしげ、顎に手を当てて思案を続ける。
そもそも戦っているということは、二人は敵同士なのだ。相手の名前を知っているはずもない。そもそも敵を殺して、それに涙するということ自体からしてありえないだろう。
では彼らは仲間同士なのか。仲間同士で、本気の殺し合いを演じていたのだろうか。
幾ら自問してみても、答えは出ない。それは夢の登場人物である彼らの問題であり、そこにフランが介入する余地も、そしてそれを知る権利すらなかったのだから。
「むう……」
釈然としないと言った風な表情を浮かべ、フランは無駄に大きな扉を開けて廊下へ出た。
目がさえてしまったために今すぐ寝直すのも億劫だ。眠くなるまでうろつくとしよう。
真っ暗な廊下に、ひたひたという足音が響く。明かりはないが、吸血鬼にとって暗闇は自分のテリトリーだ。それほど気にするようなことでもない。
まあ吸血鬼の館が真夜中にここまで閑散としているのも、ある意味おかしいのだが。
それはフランの姉君にしてこの紅魔館が主レミリア・スカーレットの影響に他ならない。
紅霧異変という事件をご存じだろうか。
ある日突然幻想郷中を謎の紅い霧が覆ってしまうという事件。
その張本人こそがこのレミリアであり、その動機は太陽が隠れていれば昼でも外に出て遊べるんじゃないか、という人間たちにとって迷惑極まりないものだったのだが、それなりの大事件として幻想郷に語り継がれているものの一つである。
結局この異変は紅魔館勢を打倒した人間に鎮められ、もう既に空は元通りの姿を取り戻している。しかし当のレミリアがこの人間を彼女はとても気に入ってしまったらしいのだ。
その人間こそが人呼んで博霊神社の紅白巫女、博霊霊夢である。
それが原因でこの紅魔館の日常はほとんど逆転。それどころか吸血鬼は一度招かれた家にしか入ることはできないため、レミリアは霊夢の友人で紅霧異変解決のもう一人の立役者、白黒魔法少女こと霧雨魔理沙に頭を下げてまで頼みこみ、なんとか神社の出入りを許可してもらうほどの執着ぶりである。
いつか借りを返すためとか何とか言っているが、それが本当かどうかすら怪しいものだ。
そういうわけで今の紅魔館は普通の人間と同じ生活リズムを保っている。主がそうなっているのだから仕方がないことだが、これは吸血鬼の館としてどうなのだろうか。
まあレミリアが霊夢と仲良くしているのはフランにとってメリットとなってもデメリットにはなりえないから良いだろう。神社と館の関係が強まれば神社側にいる魔理沙も面白半分にこちらへ絡んでくることになるからだ。
大図書館の主パチュリー・ノーレッジが泥棒退治的な意味で倒れてしまいそうではあるが、フラン的には時たまに遊んでくれる魔理沙の方が好みなので仕方がない。
そういうわけで、紅魔館は眠りについていた。
作業をしている者もほとんどおらず、ただフランの足音だけが静かに響き渡る。
少しやんちゃするだけで大慌てするメイド長も、それを止めに来る姉君も、特に動くことの無い読書家も、動くどころか微動だにしない門番も、フランの世界にはいない。
「……あれ、良く考えると優先順位が一つ落とされたってことじゃない?」
ぽつりとつぶやいたその言葉が半分は的を射ていたことを、彼女は知る由もなかった。
特にすることもなくぶらぶら歩いている内に、紅魔館のバルコニーにたどり着く。
空には月が昇り、そして星が踊る。世界は闇に満たされ、夜という名の魔物が生命から限りある生の時間を根こそぎ奪い取っていく。言ってみれば死の世界が展開していた。
冷たい夜風が頬を撫で、髪を揺らして遥か彼方へと過ぎ去っていく。今日は少し風が強い。スカートの裾がふわりと膨らむのを押さえ、フランはバルコニーの端から夜を眺めた。
月明かりのみが世界を照らす。人里もこんな真夜中ではもはや明かりがついているところなど存在しない。まるでこの世にいるのが自分だけになったような感覚。
夜とは吸血鬼が領域。天敵たる太陽亡き今、まさに世界の全てが彼女の世界だった。
フランはにま、と笑みを浮かべてはるか高みの月へと手を伸ばす。
夜の散歩というのもいいモノだ。自分が吸血鬼たるゆえんを思い出させてくれる。
さて、そろそろ部屋に戻るとしよう。もしかしたら夢の続きを見れるかもしれない。
そう思い、くるりと身を翻した、その瞬間。
――Souls of the mind key to life's Æther...
頭の中に、声が響いた。
――Souls of the lost withdrawn from its vessel...
緩やかに浸透し、そして消えていく女性の声が。
――Let the strength to be granted, so the world might be mended...
辺りを見回しても、人影一つ、動物の姿すら見当たらない。
――so the world might be mended...
しかし、空耳でないことだけは確かだった。
やがてフランを取り巻く環境が変化していく。
きょろきょろと辺りを見回すフラン。その周りを、奇妙な霧が覆い始めたのだ。
纏わりつくようなその感覚に、フランは思わず顔をしかめる。
その翼で以て身体の周囲にある霧を吹き散らそうとするものの、どうにもうまくいかない。それどころかどんどん霧の濃度は濃くなり、やがて辺りの景色が一切見えなくなるほど深まっていく。
何よりその霧には、色がなかった。
夜の闇も、星の明かりも、月の光も、全てを遮断し、飲み込んでいく。
まるで世界そのものを削り取っていくかのように。
これはただの霧じゃない。気づいた時には、フランはすでに霧に飲み込まれていた。
「何これ……」
手をかざし、霧を能力で以て吹き飛ばそうとしてみるが、まるで何かに干渉されているかのごとく能力の発生が阻害されてしまう。奇妙な霧はわずかなざわめきを見せただけだ。
後ろを振り返ってみても、既に紅魔館の姿はない。
「ここ、どこ……?」
フランは手さぐりで濃霧の中をゆっくりと進んでいく。
五百年の歳月を経ているとはいえ、吸血鬼の寿命は人間のそれとは比べ物にならないほどに長い。そもそも人間とは生きている時間が違うからだ。人間は小動物の寿命を短いというが、小動物は人間が生涯を通して行うことをその短い寿命ですべてこなしてしまう。
つまり彼女らの五百年は人間で言うところの十年に満たないのである。
彼女らが人間で言う十歳程度の外見、精神を保っているのも、それに起因する。
そしてフランの四九五年は幽閉の歴史。外界との接触を断たれ、幼いなりに成長しきれなかった彼女は、まさにブレーキを失った乗り物に等しい。ただ暴走するだけだ。
今の彼女を突き動かすのは好奇心。例え能力が使えないとしても、吸血鬼の基本性能は人間のそれを大きく凌駕する。その自信が彼女の膨れ上がった好奇心を後押ししていた。
フランは興味深げに辺りを見回しながら、とてとてと霧の中を歩いている。
霧の湖を覆う霧の中を歩いているわけではないことは確かだった。もしそうでないとするならば、先ほどまでフランが紅魔館のバルコニーにいたことから考えるに、落下して地面に頭から突き刺さることは目に見えている。だがそれが起こる気配はない。
つまりここは先ほどまの世界――幻想郷とは一線を駕す世界だということなのだろう。
隔離された世界の中に、もう一つ隔離された世界を作る。こんなことができそうなのは最古参妖怪の一角、八雲紫くらいだろう。だが今回のことで彼女が出てくる動機はない。
ならば一体どういうことなのだろう。あの夢にしろ、この世界にしろ。
フランが再び首をかしげた時だった。
――Souls of the mind key to life's Æther...
また声が聞こえた。
霧に飲まれる前にも聞こえたのと同じ、あの澄んだ女性の歌声が。
「こっち?」
フランは辺りを見回し、音を頼りに霧の中を進む。
――Souls of the lost withdrawn from its vessel...
ざわり、何かが自分の奥底で蠢くのを感じた。
それはフランの意思とは関係なく、歌声を聴いて覚醒した新たな感覚。
――Let the strength to be granted, so the world might be mended...
ざわり、ざわざわ。
力ではない。心でもない。最も的確に表現するならば、それは魂。
――so the world might be mended...
刹那、フランの奥底にあったそれが、喜びに打ちふるえるかのようにざわめいた。
霧に混ざるのは、無数の燐光。
それは舞い踊る蛍のような、妖しく美しい、そして全てを惹きつける輝き。
フランの周りは、いつの間やら光に包まれていた。
「わあ……!」
フランは感嘆の声をあげてそれに手を伸ばしてみる。
辺りを漂う燐光は、フランの手にとどまることなく掌をすり抜けた。
不思議な物質だ。いや、物質と呼んでいいものだろうか。
触れるごとに、体内の何かが震えるのを感じる。そして大きくなるのを実感する。
フランは興味深げに辺りを見回し――そしてきゅっと眉をひそめた。
燐光とは明らかに違う金色の光が、視界の端を掠めたのだ。
目を凝らし、再びその方角へと視線を走らせる。
それは断続的に輝く金色の閃光。
やけに弱弱しく、目をそらせばたちまち霧の合間に隠れてしまうほどに小さな光。
まるで助けを求めるかのように、霧の合間で明滅を続けている。
「なんだろ?」
考えてみても何も始まらない。とりあえず行動することにした。
フランはとてとてと移動を開始する。幸い辺りの霧はだいぶ和らぎ、少し先ならば見通せるほどに景色は回復していた。その反面不思議な燐光は数を増やし、数多がふわふわと空を舞いながら、ゆっくりとフランが向かう方向へと収束している。
集められている。いや、呼ばれているのだろうか。
そんな考えが脳裏に浮かび、フランが金色から一瞬だけ目を切る。
「あっ!」
刹那、ふっと蝋燭の炎が掻き消えるかのように、金色は霧に溶けていった。
慌ててフランは走りだす。ここにきて唯一の手がかりを失うわけにはいかないのだ。
幸い方向だけは見失っていない。このまま直進すればいずれは――。
「!?」
その時、慌てて走っていたフランの爪先が何か固いモノを引っかけた。
勢いづいた身体は突然のブレーキについていけず、慣性の法則に従ってそのまま
前のめりに投げ出される。スカートがふわりと膨らみ、浅くかぶっていた帽子が宙を舞った。
驚愕に見開かれる赤い瞳。慌ててばたばたと手を振ってみても、もう遅い。
やがてフランの身体は霧の向こうに消え、七色の輝きがぼんやりと霧に浮かびあがる。
ごちんっ!
何も見えなくなった向こう側で、思わず目を覆いたくなるような重低音音が響いた。
「~っ!」
見れば、額を押さえて霧の中をのたうちまわるフランが一人。
つくづく足もとに運の無い幼女であった。転んだ拍子に、何かを頭にぶつけたのだろう。
涙目になりながらも、フランは紅い瞳で霧の中に佇む何かをキッと睨みつける。
「……え?」
刹那、怒りにつりあがっていたその目が拍子抜けしたように見開かれた。
目の前に転がっていた硬いモノ――それは銀色の鉄鎧に身を包んだ、何か。
軽量ながらそれなりの防御力を発揮するために溝が作られた鎧、マクシミリアン式フリューテッドメイル。腰には金色の鞘を下げ、すぐ傍には呪式が余すところなく刀身に刻み込まれた金色の剣が転がっている。不思議な形状をした金色の盾も同様に。
いわゆる中世の騎士だ。それは異変中の異変の中で、再び出会う新たな異変。
――外来人。
そんな言葉がフランの脳裏によぎるのも時間の問題だった。
この幻想郷に騎士など存在しない。それ以前に博霊大結界が敷かれている外界の国に、騎士という職業が存在しないのだ。似たところで言う武士ならば存在するのだが。
そしてもう一つ、その姿がフランの瞳を捕えて離さない。
銀色の鎧を纏い、金色の剣と盾を持った騎士。
夢の中に出てきた登場人物と瓜二つ……いや、それそのものだったのだから。
浮かび上がるのは剣を振るうたびに発せられていた邪悪な波動。その余波が壁を吹き飛ばし、地面を斬り裂き、そしてその殺意が向けられているもう一人の騎士の肉を抉る。
ぞくり、背筋を駆けのぼる悪寒を振り払い、フランはその騎士へすっと手を伸ばした。
ひんやりとした鎧の冷たさが掌に伝わる。そしてその奥、身体には触れていないにもかかわらず、掌を直接打ちつける波動――否、鼓動。共鳴するかのように震える体内の何か。
伝わる感覚に、あの夢の邪悪な波動はない。
それどころか真逆だ。慈しみと、優しさ、温かさに満ちた、穏やかな鼓動に満ちている。
おそらくこの騎士は悪い人間ではない。あの化け物めいた黒い騎士とは別物なのだ。
言葉も交わさず、ただ触れているだけだというのに、フランの直感がそれを示した。
フランはその根拠が何に基づいているのかは知らない。
人妖の内に眠るそれの脈動を。
それを具現化する穢れ無きキャンパス、色の無い世界のことを。
えてして、ソウルの存在を。
「……うーん」
だが今はそんなことよりもこの異変から首尾よく脱出する方が先だ。
問題は山積み、それもかなり切迫している。
まず最重要の問題としては時間の制約だ。
起きてしまったのは真夜中だったが、この異空間に来てからそれなりの時間がたっているように思う。吸血鬼にとって太陽は唯一無二の天敵。もし何とかしてここを脱出できたとしても、既に太陽が顔を出してしまっていた場合、光を浴びて灰になってしまう。
霧に遮られて時間の把握ができない以上、可及的速やかにここを脱出しなければならない、そうでなければ命にかかわるだろう。
そしてもう一つは、そんな状況にもかかわらず一向に解決方法がわからないことだ。
霧の中をうろうろと歩き回って、やっと見つけたのは目の前の騎士だけ。それもかなり衰弱しており、正直なところフランのお荷物的存在でしかないのは言うまでもない。
だが今のフランの中に、この騎士をおいていくという選択肢は浮かんでこなかった。
助けてあげなければ、そんな思いを胸にフランは彼の周りをぐるぐると回る。
何故なのかはフラン自身にも分からない。
だが助けてあげたいというその想いだけは、確かなものだったから。
「あれ?」
騎士を中心に、くるくると辺りを回っていたフランが負と歩みをとめた。
――霧の中をうろうろと歩き回って、やっと見つけたのは目の前の騎士だけ。
本当にそうだっただろうか。
フランは金色の光に向かって走った道筋を、頭の中で反芻する。
何もない平坦な世界を歩いて渡り、そして光が消えてしまったために慌てて走り出した。
そして何かに足を引っ掛けて、転んだのではなかっただろうか。
フランははっとした表情で後ろを振り返る。
そこには、物々しく剣を突き刺され燐光を放つ奇妙な石が佇んでいた。
石自体の大きさはそれほどではない。だが突き刺された剣はフランの胸元辺りまであり、幾ら慌てていたとはいえ、これに気付かなかったこと自体が不思議なくらいだ。
おそらく先から見ている燐光の収束点もこれなのだろう。周辺で渦巻く燐光は突き刺された剣に吸収されるように消え、そしてまた霧の中に舞い散っていく。
フランの中で何かが、かちりと音を立てて合わさった。
見たこともない異変と、その中で出会った外来由来だろう人間、そしてその中心に位置し、外来人らしき騎士のすぐ傍に転がっていた奇妙な石。
もしかすると、この石が引き金となって異変を発生させているのではあるまいか。
にや、フランが意味深げな笑みを浮かべる。
この怪しげな石を何とかすれば、この霧を消すことができるかもしれない。
フラン的解釈に則るならば、この石吹き飛ばしてもいいよね?
そう判断してからの彼女の行動は、余りに素早かった。
手をかざし、そして握りしめるだけ。
フランの能力たる“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”は、全ての物に存在する弱点“目”を掌の中に移動させ、それを握りつぶすことを原点とする。それによって抗いようのない絶対破壊とし、敵味方問わず粉砕、息の根を止める。
それはいかなる存在にも、決して例外はなく。
きゅっとして、どかーん。
次の瞬間、哀れな“要石”は、フランのイライラをぶつけられる形で、粉々に吹き飛ばされた。
総計六つにわかれた破片は勢いよく霧を突き抜け、遥か彼方へと飛び去っていく。
楔が崩壊したことで“繋がり”を失った濃霧は、夜に溶けた。
余りにあっさりと、何事もなかったかのように。
世界に光が戻り、暁に染まる夜空が目に飛び込んでくる。
いつも通りの幻想郷。いつも通りの世界。それは日常への回帰。
あの異空間で感じていた胸の中のざわめきは、もうなくなっていた。
「……おー、意外とあっさり」
我に返ったフランがきょろきょろと辺りを見回す。
東の空は徐々に明るくなりつつあるが、まだ太陽そのものは顔を出していなかった。どうやら館に戻る前に灰になってしまうという事態は避けられたらしい。
だが余りノロノロもしていられない。早く館の中へ戻らなければ。
そう思ったフランは騎士の身体を軽々と持ち上げ、館の方角へ歩いて行く。
日の出は、すぐそこに迫っていた。
そして物語が幕を開ける。
失われた者たちの楽園に、全てを失った騎士が流れ着く。
彼が何を得、また何を失うのか。
それはただ、ソウルの導くところにあり。
~後書きという名のお茶会~
( ´乙`):ランク1、オッツダルヴァだ。
メルツェル:ORCA旅団、メルツェルだ。
(;´乙`):メルツェル!? なぜここに?
メルツェル;お前だけでは頼りないと判断されたらしいな。
(゜乙゜#)なんだと!? 作者め、後で覚えておけよ!
メルツェル;お前はもう一度前回の後書きを見てきた方がいい。まあいい、ともかく話を進めるとしよう。
(;´乙`):こう言っては何だが、第一話だというのに死ぬほど会話が少ないな……。
メルツェル;ああ、登場人物がしゃべらないお前と幼女しかいないからな。
(゜乙゜#);誰が私だ! 名前しか似ていないじゃないか!
メルツェル;片や水没王子、片や徘徊王子。そして同じような名前。性格こそ違えど何らかのつながりを意識せざるを得ないだろう?
(゜乙゜#);表 へ 出 ろ !
メルツェル;ああそうそう。一応言っておくが、紅霧異変云々の設定は言わずもがな、作者のフロム脳だ。仮に正式な設定があったらどんどん指摘してくれ。
(;´乙`):無視か……。
メルツェル:それと更新が再開早々に遅れがちな件についてだが、作者もそろそろ受験間近なのでな……テストで赤点だけは出すわけにはいかないらしい。我々には関係のない話だが。
メルツェル;まあそういうわけで、ここ数週間は更新頻度が鈍くなるだろう。
メルツェル:次話のタイトルは【王子、紅魔と相対す】の予定だ。
メルツェル;それでは、次回の更新でまた会おうノシ
( ´乙`)ノシ:(……あるぇ?)