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[18631] 【習作】東方悪魔魂(東方project×Demon's Souls) 第一話修正
Name: 塞翁◆39c71bf7 ID:2efcc117
Date: 2010/09/04 22:28
 はじめまして、塞翁といいます。

 このSSは、上海アリス弦楽団様の「東方project」と、FromSoftware様の「Demon's Souls」のクロスオーバーものです。

 捏造設定や独自解釈、ネタバレ、また東方キャラクターの二次創作設定など、俗に言うフロム脳を含みます。

 故に、キャラクターの性格、口調などに違和感を覚えられる方も居られると思いますが、ご了承下さい。

 それらに耐えられないという方専用↓



    興<聞こえるか、こちらに逃げ込め……! つ(戻る)



 なお私こと塞翁は、金銭面の問題上「東方project」を永夜抄までしかプレイしたことがない上、腕のなさが問題でExステージまで到達したことすらありません。

 未プレイ部分のストーリーやキャラの設定やその他もろもろはプレイ動画やwikiを参照して補完していますが、そんな奴の小説なんて読めるわけねーだろクズが、空気にもなれんか・・・。という方も同じく↓



    干<手こずっているようだな、手を貸そう つ(戻る)



 長らく物書きから離れていたため、稚拙な文章が多々あります。

 なるだけ早く上達、そして昔の勘を取り戻していきたいと思いますので、どうかご容赦ください。

 それでは、よろしくお願いします( ´乙`)ノシ

 (追記)
 
 この作品には数多のフロム作品パロディーを含みます。

 そのためレイヴン、リンクス、コジマ、などなどにアレルギーのある方は覚悟の上でお願いします。



[18631] お知らせ
Name: 塞翁◆39c71bf7 ID:2efcc117
Date: 2010/08/14 11:57
たびたびの投稿遅延、申し訳ありません。

この度、一度ゼロから書き直すべく、この板の投稿小説をすべて削除させていただきました。間違っても諦めたわけではありません。

やはり構成が甘かったというべきか、あの状況からどうしていいかわからなくなり、そこで今回の削除に至りました。ここの創作物を残しておくと、どうしても書き直す前のものが気になってしまうと思われたからです。

読者の皆さま、どうかご容赦ください。

それでは。

※8/14 更新再開しました。



[18631] プロローグ【王子、王城に散る】
Name: 塞翁◆39c71bf7 ID:2efcc117
Date: 2010/09/04 23:27
 突き出される。それは槍。

 凄まじい金属音とともに、巨大な穂先が柱の表面を抉り取る。

 振りかぶられる。それは剣。

 散在する障害物を難なく斬り飛ばし、凄まじい勢いで振られた刃が盾を吹き飛ばす。

 飛翔する。それは矢。

 頑丈なバリケードを何枚も貫通し、なお余りある威力を以て鏃が石畳を穿つ。

 それらを扱うは、禍々しい黒きソウル。

 ヒトとしてのカタチを失い、悪意によって使役される、ヒトの映し見。

“塔の騎士”アルフレッド。

“つらぬきの騎士”メタス。

“長弓”ウーラン。

 かつて王国三英雄と呼ばれた者たちの影は、変わり果てた姿となってなお、自らが使える王を守ろうとするが如く、全ての侵入者の前に立ちはだかる。

 そして今、彼らはまさに“侵入者”と争っていた。

 理性を失った彼らにとって王に仇名すものとは、須らく自らの敵でしかない。

 例えその侵入者が、かつての大切なモノだったとしても。

「アルフレッド。お願いです、道を開けてください!」

 侵入者――ボーレタリアのオストラヴァは、今まさにその憂き目にあっていた。

「――!!」

 人外の咆哮とともに人外の力によって繰り出される槍を盾で弾く。身体が大きくぶれ、胴がガラ空きとなったアルフレッドへと剣を繰り出そうとするが、背後から迫る巨大な斬撃に寸前で気が付き、絶好のチャンスを目の前にしながら慌てて身体を地面に投げ出す。

 鎧の表面を大剣が擦る。それだけでフリューテッドの強固なはずの装甲が醜く歪み、メタスが振るう剣の凄まじい威力を十二分に感じさせる。

 だがそれに気を取られた刹那、遥か彼方から飛来した衝撃がオストラヴァを撃ち抜いた。

「ぐぅっ!?」

 肩へ走った鈍痛に思わず顔をゆがめる。関節を動かすために薄くつくられた左肩の装甲部分に、白い燐光を放つ鋭い矢が突き刺さったのだ。

 体勢を崩し、もんどりうって地面を転がったオストラヴァを追いかけるように、第二第三の弓矢が次々と飛来する。

「ウーラン……!」

 ゴロゴロと地面を転がってそれをかわすオストラヴァ。頑丈な石畳を飛来した白い鏃が次々と打ち砕き、続いてオストラヴァの頭上を凄まじい勢いで矢がかすめる。このままでは体勢を立て直すどころか数秒後の命すら危うい。

 どうにか柱の陰に飛び込み、一息つく間もなくすぐさま立ち上がって剣を握り直す。

 だがそれよりも早く、オストラヴァの身体を巨大な影が覆い尽くした。

「アル――」

 ドガァン!

“塔の騎士”の代名詞とすらいわれる、巨大で鈍重、最高の防御力を誇る“塔の盾”。それがアルフレッド渾身の力を以て振り下ろされた瞬間だった。

 衝撃が王城を突き抜け、石畳を根こそぎ吹き飛ばす。もしあれをオストラヴァがその体で受けていたとしたら、おそらく原形も残さず叩きつぶされていただろう。

(……本気で、私を……)

 砂塵が立ち込める中、オストラヴァは息を殺し、柱の陰に身をひそめていた。

 三英雄たちは視界から消えたオストラヴァを探すようにきょろきょろと辺りを見回し、しきりに威嚇行動を行っている。おそらく見つかるのは時間の問題だろう。

 オストラヴァは肩口に突き刺さった弓矢を引き抜き、柱の陰から自分とは反対方向へと思い切り放り投げる。やらないよりやってから後悔した方がいいとはよく言ったものだが、やる前から無意味とわかっていることでしかその場をしのげないというのも虚しいものだ。

 オストラヴァはそんなことを思いつつ柱に背中を預け、力なく地面に座り込んでしまう。

 剣を交えて、やっと再確認した。おそらく、いや確実にオストラヴァは三英雄に勝てはしない。仮に一人一人を引き離し、各個撃破の道を取ったとしても、それは揺るがないだろう。彼に剣を教え、育ててきたのはまぎれもなく三英雄そのものなのだ。百戦錬磨の彼らにとって、オストラヴァを一人殺すことなど赤子の手をひねるに等しい。

 そして、彼ら剣には迷いがなかった。

 ソウルによって、悪意によって使役される黒いファントムに、理性はない。彼らに与えられた使命は王城へ侵入する哀れな走狗を駆逐し、そのソウルを奪うこと。オストラヴァを斬ること、刺すこと、穿つことに対して何のためらいをも持ちはしないのだ。

 対するオストラヴァの剣に覇気はない。決心し、剣を振り上げるたび、かつての面影が脳内でフラッシュバックする。刃はたちまち斬れ味をなくし、剣線は鈍る。

 もしかしたら正気を取り戻してくれるかもしれない、そんな安い希望に刃を支配されたオストラヴァの剣に、真っ向からの実力で勝る王国三英雄を斬ることなできるはずがなかったのだ。

 オストラヴァは震える己の手を見つめ、ぎゅっと拳を握りしめる。

 自分は何をしにここに来たというのだ。

 問うためではないのか、それだけのために今までを戦ってきたのではないのか。

 父――全ての元凶こと老王オーラントにこの惨劇を引き起こした故を問い、そしてその道を正してやる。そのために今日まで生き抜いてきたのではないのか。

 だというのに、自分は今こんなところで力尽きようとしている。

 そんなことがあってたまるものか。そんなことがあっていいはずがない。

 剣を握る手に再び力がこもる。

 そうだ、王子たる私がこんな所で倒れてなるものか。

 ぎしぎしと悲鳴を上げる身体を叱咤し、獣のタリスマンを拾い上げてから立ち上がる。

 既に左肩の止血は終えた。あとはいかにして三英雄を突破し、王のもとへと向かうかだ。

 オストラヴァは柱の向こう側をうかがいつつ――何を思ったか、地面に剣を叩きつけた。

 こぎみ良い金属音が、王城の静寂を切り裂く。

 そして、辺りを徘徊していた三英雄が、一斉にオストラヴァが隠れる柱へ視線を向けた。

 すぐさまアルフレッドが走りだし、メタスが逆方向からそれに続く。ウーランはオストラヴァがいるだろう柱を真横から狙える位置へと移動を開始し、愛弓の弦を曳き絞る。

 槍が降り上げられ――。

 剣が振りかぶられ――。

 弓の弦が嘶き――。

 それぞれの殺意が、オストラヴァへ向けて一斉に牙をむく。

 だがそれは、堅い石畳を突き刺し、叩き割っただけの結果に終わった。

 困惑したかのように顔を見合わせ、辺りを探る王国三英雄の黒いファントムたち。

 そんな彼らの姿をもう一つ後ろの柱から眺めながら、オストラヴァは目的地とは逆方向に、ビンの中に入っていたそれを投げつける。すると三英雄たちは一斉にその方向を睨みつけて一目散に駆けだしたかと思うと、オストラヴァの真横を素通りしていってしまった。

 それを見計らい、オストラヴァはなるべく足音をたてないようにしながら、それでいてなるだけスピードを上げつつ、王城の上層部へと歩を進める。

 彼が剣で三英雄を誘きよせる数秒前、彼はタリスマンを使ってとある奇跡を発動させていたのだ。

 その名も“ソウル抑制”。

 術者のソウルの体外伝播を完全に遮断し、ソウルを使った探知から完全にその姿をくらます。ソウルを使って視覚的な防壁を作る魔術“姿隠し”とは正反対に位置する、まさに奇跡の代名詞ともいえるソウルの業である。

 万全を期すために使用したのはソウルの足しにもならないほどに朽ちたソウルの塊、いわゆるソウルの名残だ。

 黒いファントムは総じてソウルによる標的の探知・襲撃を行う。先ほどまで強い反応を示していたオストラヴァの反応が突然に消えたことで、続いて現れたこの微弱な反応に釣られざるを得なくなったというところだろう。

 恩人から学んだ戦闘技能の一つが、こんな所で役に立つとは思いもよらなかった。

 ふと振り返り、オストラヴァは走り去っていく三英雄の後ろ姿を見つめ、ぽつりと呟く。

「……こんな仕打ちを受けても、貴方たちはあの人を守ろうとするのですか」

 今度こそ踵を返し、オストラヴァは襲い来る兵士たちを打倒しながららせん階段を上る。

 名君オーラント。オストラヴァの父、そして三英雄や双剣の仕えた王とは、そういう人間だったはずなのだ。でなければ小国と呼ばれていたボーレタリアが、たった一代でここまで発展することなどありえない。

 民は王に感謝し、臣下は王を崇め、王は民と臣下の生命を安堵する。

 そんな理想的な王国が、オーラントの下には完成していたのだ。

 だのに、このありさまだ。

 民は王を呪い、臣下は王を恐れ、王は民と臣下の生命を脅かす。

 そんな王国に誰がした。まぎれもない、名君と呼ばれたオーラントである。

 オストラヴァは今でも信じられない。だからこそ、真実を探すために進むのだ。

 上級騎士の振るったクレイモアを躱し、懐に潜り込む。逆手に持ち変え、振り下ろしてきた刃の切先を盾で弾き返すと、鎧の継ぎ目めがけてルーンの刃を思い切り突きこむ。

 血を流し、悲鳴を上げながら後ずさる騎士。だがここは狭い螺旋階段だ。当然そう何度も剣を躱して逃げ回るスペースなど元よりない。たちまち足を踏み外し、赤い瞳でオストラヴァを睨みつけた後、絶叫を上げて落下していった。

 数瞬の後、鎧が砕ける金属音と肉が裂ける水音がオストラヴァの耳をつく。

 おそらく王国三英雄は既にオストラヴァに図られたことを悟り、今頃血眼になって侵入者たるオストラヴァを探していることだろう。

追撃と迎撃――即ち挟撃を受けることがどれほど恐ろしいことか、それは兵法の初歩でも熱く語られていることである。

 もはや僅かの猶予も残されていないのだ。

 オストラヴァは螺旋階段から城壁上の通路の上を覗きこみ、敵影が見当たらないことを確認すると、すばやく城壁通路の上を駆け抜けていく。

 と、その時だった。

 ――ギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!

 咆哮が、王城を突き抜けた。

 それは喰われた亡者たちの断末魔か、それとも悪魔の呼び声か。

 その巨体は王城に降り注ぐ日光を遮り、翼は全てを根こそぎ吹き飛ばしていく。

 オストラヴァは通路の道半ばで思わず身体を竦ませ、空を見上げた。

「王の飛竜……!?」

 帰ってきたのか。そう呟くよりも先に、飛竜の背中から放たれた二つの火球が彼を襲う。

 それは魔術の初歩。掌から高威力の火を発生させ、標的を狙い打つ“火線”。

「エヘヘヘヘヘ」

 慌ててそれを交わしたオストラヴァの身体めがけて、道化師のような笑い声を振りまきながら、太った公使の大斧が振り下ろされた。

 自身の体重、斧の自重、そして飛び降りたことによって発生した重力、さらに加算されるのは巨大な大斧を片手で振るうその恐るべき腕力。

 その凄まじい威力は、背後の強固な城壁を紙屑のように叩きつぶす。

「公使……!」

「ウフフ、イーッヒヒヒヒ」

 ぶんぶんと大斧を振り回す公使に行く手を阻まれ、オストラヴァは盾を構えてじりじりと後退する。だがその背後にも大斧を構えて公使が待ち構えているのだ。

 これ以上後退すれば、大斧の射程内に入る。そうなってしまえばオストラヴァの首が宙を舞うだろう。

 さらには、おそらく王国三英雄からの報告を得た公使が呼びもどしたであろう、王の飛竜がいた。

 ボーレタリアが誇るワイバーンの一種であり、代々の王によって屈伏され、王国への侵略者を喰らうことを生業にしていた王国の守護者。

 だがデーモンと化してしまった今では目に映る者すべてを捕食する悪食極まりない怪物にすぎない。

 食事中に突如として呼び戻され、空腹の絶頂にいる飛竜の怒りは尋常でない。真っ赤に血走った眼はまっすぐにオストラヴァを見据え、その巨大な顎からはちろちろと灼熱の焔があふれ出ている。

 空腹の獣に、理性を期待してはならないのだ。

「どきなさい!」

 城壁上に着地して大きく首を振り上げた飛竜を見、オストラヴァは目の前の公使の腹に思い切り剣を突き刺した。

 狭撃に成功し、勝ち誇っていた公使にとってこの突然の反撃は余りに予想外だったらしく、くぐもった呻き声をあげてその場に膝を突く。

 オストラヴァはその顔を思い切り蹴り飛ばし、一目散に入口に向けて城壁を駆けた。

 刹那。

 灼熱の焔が、駆けるオストラヴァの背後で炸裂する。

 公使たちは慌てて自らの得物で身体を守るが、炎は容赦なく彼らを飲み込んだ。

「おおおおおおおおおおおっ!」

 駆ける。駆ける。駆ける。

 背後で炎が踊り狂う感覚。髪がその熱にちりちりと焦げだし、どっと汗が噴き出す。それでも彼は足を止めはしない。足を止めたが最後、一瞬にして灰になってしまう。

「はっ!」

 気合いの一声と同時に、オストラヴァの足が思い切り地面をける。まさに火事場の馬鹿力と言わんばかりの勢いでオストラヴァの身体は宙を舞い、炎から逃れることのできる唯一の道――王城最上部へと続く階段の中へと飛び込んで行った。

「ぐあああ!」

 だが公使に道を阻まれた分だけ、やはり時間が足りなかったらしい。オストラヴァの背中を業火が襲い、その堅牢な装甲を飴細工か何かのように溶かしていく。凄まじい熱とその余波に悲鳴を上げた身体はたちまち体勢を崩し、地面に思い切りたたきつけられる。

「う、あ……!」

 焼かれる痛みを背中全体に感じつつ、オストラヴァは苦悶の声を漏らして立ち上がる。

「ま、だ。まだまだです……」

 今の衝撃で傷が開いたらしい。肩からあふれた血が腕を伝い、足がしびれてうまく走ることもできない。それでもオストラヴァは足を止めることはしなかった。

 あと少し。あと少しだ。玉座にたどり着きさえすれば、なんとかなる。

 城壁上通路を足を引きずりながら進み、玉座へつながる道へと顔を向ける。

 だがそこには、侵入者を駆逐せんと待ち構える、王の飛竜の姿があった。

「……!」

 オストラヴァをあざ笑うかのようにその頭上を旋回し、城壁にしがみついたかと思えば、灼熱の業火を以て通路全体を埋め尽くす。業火は黒い塊と化した数多の戦士たちを執拗に舐め、今度こそ完全に灰燼へと帰していった。

 王の飛竜とは即ち王の畏怖そのもの。味方であればあれほどに頼もしいものはないが、敵とすればここまで恐ろしいものなのか。オストラヴァは思わず立ちすくむ。

 だがここを通らねば、玉座へはたどり着けない。

 ではどうする? このまま引き返すのか?

 オストラヴァは道具袋から要石の欠片を取り出し、じっと見つめた。

 今引き返せば、間違いなく王のもとへ辿り着く段取りが立てられる。

 フレーキやユーリアの魔術ならば飛竜を撃ち落とすことなど造作もないだろうし、ウルベインがいれば傷ついた時の対処には困らない。

 ビヨールや殺す者なら三英雄と渡り合うことも可能だろう。

 それにデーモンを殺す者には別世界の戦士たち――青いファントムの加護がある。

 では、また逃げるのか? また誰かの力にすがるのか?

 城下を守るボーレタリア大城壁のすぐ近くで立ち往生していたあの時のように。

 兵士たちに追い立てられ、情けなく助けを求めたあの時のように。

 騎士たちに剣をふるうことすらできず、ただただ逃げ惑っていたあの時のように。

「違う!」

 オストラヴァはその手に握る要石の欠片を地面に叩きつけた。

 がしゃん、ガラスが割れるような音とともに、要石の欠片が粉々に砕けて四散する。

「ここで彼に、彼らにすがることは、王子として、騎士としての名折れ……」

 そう、私は王子だ。

 ボーレタリアを正すべくこの世に生を受けた、唯一の断罪者。

 ならばこれ以上彼らを巻き込むべきでない。

 死ぬならば、私が王とともに心中しなければならないのだ。

 ストラヴァは飛竜を睨みつけ、咆哮する。

「ボーレタリアのオストラヴァ、推して参る!」

 盾を構え、頭上から襲いかかる炎を縫うように前進する。

 飛竜のはきだす炎が濃密な死の香りとともにすぐ傍で爆発する。鎧が焦げ付き、皮膚がただれる。汗は留まることを知らず、凄まじい熱気に充てられて足がもつれる。

 あと少し。入口はもう目の前だ。

 飛竜は炎を吐きだすための息継ぎに入っており、オストラヴァを足止めするものはない。

 ――はずだった。

 もつれた足が、死した戦士の屍を引っ掛ける。息も絶え絶えだったオストラヴァはたちまち体勢を崩し、勢いよく地面に転がってしまった。

 絶望の一瞬。

 飛竜は、真下にいるオストラヴァを捕えていた。

「しまっ――」

 すぐさま体勢を立て直し、無理やり入口へ向けて身体を放り投げる。

 しかし残酷な火焔地獄の使者は、無残にもオストラヴァの脚を食いちぎった。

「っぎゃああああああああ!」

 肉が焼ける。猛烈な痛みとともに異臭が鎧の中に立ち込め、それでもなお鍛え上げられた精神力が意識を手放さない。この時ばかりは自分の打たれ強さを呪わざるを得なかった。

 爆発の余波でしたたかに床へと叩きつけられ、ゴロゴロと転がるオストラヴァ。背中を階段に思い切りぶつつけたところでようやく止まり、やっとのことで足を視界に入れる。

「……足が……足があああああ!」

 赤熱したフリューテッドは原形を残さぬほどにドロドロと溶け、それが足をさらに傷つけていく。じゅうじゅうと脂が焼ける音は留まるところを知らず、オストラヴァは激痛の余り地面をのたうつことすらできなかった。もはや鎧を引きはがす体力も残っていない。

 たちまち黒く変色したフリューテッドレギンス。足は半ば蒸し焼き状態になり、もう指一本動かすことができない。おそらく皮膚が溶解し、癒着してしまっているのだろう。

 その内、痛みすらも感じなくなった。激痛の余り脳神経がイカレタのか、それ主足そのものが完全に身体から切り離されてしまったのか。確認する気力などすでになかった。

 傷口から血が流れ出す。応急処置だけして放っておいたのが悪かったのか、ここにきて全身の傷が開いてしまった。溢れた血は焼け焦げた鎧に触れ、一瞬のうちに蒸発していく。

「……ここ、まで……ですか……」

 うまく息継ぎもできない。言葉が話せているかどうかすら不明瞭だ。

「すみません……やはり、あなた頼み、です……」

 階段に背中を預け、入口から覗く城下の絶景を視界に収める。

 この王国を再び美しい国にしたいと立ち、その結果がこれだ。自分では王として力不足だったのだろう。いや王どころか、王子としての器ですらなかったのだ。

 オストラヴァは所詮文人であった。

 いかに強力な武器を握ろうとも、彼は心から平和を愛する騎士だった。

 彼にとって、この世界は余りに絶望に満ちすぎていた。

 だからこそ、藁にすがるような思いで、ありえもしない希望を選んでしまったのだ。

 死にかけてやっと気づく。王は、父は自分を見てなどいない。侵入者として、自らの野望を妨げるものとして、全力を持ってオストラヴァを殺そうとしている。もはやヒトではない。ソウルに飲まれ、デーモンと化してしまった哀れなヒトモドキだ。

 だがもはや自分に剣を握る気力はない。ならば、遺志を託さねばならぬ。

「……」

 どれくらいたっただろうか。絶叫とともに飛竜が堕ち、かつかつと足音が響き始める。

 現れたのはオストラヴァと同じフリューテッドに身を包み、にび石によってより威力を高めた大剣クレイモアと暗銀の盾を備えた真の戦士。

 名を、デーモンを殺す者。

「……お待ちしていました、名も知らぬ、殺す者よ」

 オストラヴァの呼びかけに、デーモンを殺す者はたちまち顔色を変え、オストラヴァのもとへと駆けよってくる。しかしオストラヴァはそれを右手で制し、ふと微笑んだ。

 ――そんなに取り乱すとは、貴方らしくもない。

「……ビヨール殿は……」

 その問いに、殺す者は一瞬だけ躊躇う表情を見せたものの、入口に立てかけられていた焼き焦げた巨大な剣――グレードソードを指差し、首を振った。

「そうです、か……」

 オストラヴァの呟きが、飛竜を失い、一転して静かになった王城内に浸透していく。

「では貴方が三英雄を……ならば、これを使いこなせるやもしれません」

 オストラヴァは左手をフリューテッドメイルの隙間に差し込み、乱暴にそれを掴むと、首にかけていたひもを乱暴に引きちぎった。

「これは古き王ドランが統べる、王家の霊廊――神の聖域へと続く門を開く鍵です。そこにオーラントの持つソウルブランドと対をなす、デモンブランドが眠っています」

 オストラヴァは決死の覚悟でゆっくりと立ち上がる。剣を杖にし、殺す者の制止を振りきってまで、勝手にボロボロと崩れていく黒焦げの足を叱責しながら。

「デモンブランドは魔を断つ剣。父の持つ魂を断つ剣ソウルブランドにも、あれならば拮抗しうるでしょう……先ほど言った通り、これらは白と黒、対をなす二つの剣なのです」

 オストラヴァは震える左手にそれを握り、デーモンを殺す者へすっと差し出す。

「最後まで貴方に頼ることになってしまったこと、本当に申し訳ありません」

 デーモンを殺す者はオストラヴァを見つめて動かない。

「王子として、貴方に託します。これを使って、王を、殺してください」

 右手で殺す者の左手を取り、鍵を握った左手でその手を握りしめる。殺す者の凄まじく強大なソウルの波動がオストラヴァの手に伝わり、オストラヴァはまた微笑みかける。

「貴方なら、世界を救えます。なにより、私はそれを信じています」

 オストラヴァと殺す者の視線が交錯する。

「そうすれば、貴方は自由の身。もはや楔が貴方をつなぎとめることはありません。もし王か私が健在であれば、臣下として召抱えたいところですが」

 今度は殺す者が笑う番だった。

 口元に僅かな笑みを浮かべた彼を満足げに見つめ、オストラヴァはさらに言葉を紡ぐ。

「……ですが、それももう叶わないようです」

 握りあった左手に一瞬だけ視線を移し、再びオストラヴァは顔を上げた。

 生命が終わろうとしている。もはや意識も、感覚も、全てが不明瞭。

 だがこれだけは、これだけは伝えねばならない。

 オストラヴァの覚悟が、最後の生命を、ソウルを燃えたぎらせる。

「王子としてはなく、“友”として、貴方の生還を……」

 ――信じています。

 その言葉が、オストラヴァの口から発せられることはなかった。

 殺す者の手から、オストラヴァの左手がするりと滑り落ちる。

 がしゃん。

 驚愕に目を見開く殺す者の前で、オストラヴァの身体は糸の切れた人形の如く、受け身一つ取らずに石畳の上を転がった。その音は、人が倒れたにしてはあまりに軽い。

 左手に鍵を握ったまま固まる殺す者の足もとで、オストラヴァの身体がゆっくりと霧散していく。世界という名の、巨大すぎるソウルの中へと還元されているのだ。

 哀しい静寂が王城を支配する。静かでありながら、泣いているような、そんな静けさ。

 そして、誰もいなくなった。





 ~後書きという名のお茶会~

( ´乙`)ランク一、オッツダルヴァだ。

( ´乙`)こんな駄作を呼んでくれた暇人諸君、貴様らには感謝が似合いだ!

( ´乙`)さて作者の愚痴を聞かせるのもアレだということで私が直々に出向いてやったわけだが……。

(;´乙`)特に話題がないな。

( ´乙`)そして私一人しかいないのにお茶会とはどういうわけだ。

(//´乙`)べ、別にさびしいとかそんなんじゃないぞ!

( ´乙`)まあいい。今回の話はまさにプロローグだ。導入編という奴だな。

( ´乙`)どうでもいいが、このオストラヴァとか言う奴、どこか私と名前が似ている。デモンズとやらは旧チャイニーズ製のゲームなのか?

( ´乙`)……似ている……私に……。                                                                                                             ジノーヴィー:……

  あのー、物真似はいいんで、早く話を進めちゃってください。

(゜乙゜#)屑が、空気にもなれんか。貴様がだらしないからわざわざ出張ってきてやっているんだろうに!

  ……すんません。

( ´乙`)まあいい、ではいくか。

( ´乙`)次回の東方悪魔魂は~♪

( ´乙`)……。

( ´乙`)まあ、次回のお楽しみということだな。

( ´乙`)作者がカンぺ(話題)をくれなったんだ。決して私のせいではない。

( ´乙`)ノシでは諸君、派手に行こう。



[18631] 第一話【王子、幻想に至る】
Name: 塞翁◆39c71bf7 ID:68286109
Date: 2010/09/05 20:39
 ここはどこだろうか。

 目を開けると、知らない場所にいた。

 打ち捨てられた、とまではいかないものの、破壊しつくされた城。

 王家の石像達は根こそぎなぎ倒され、城壁は砕け、通路は焼け焦げている。

 兵士たちの腐乱死体がそこかしこに転がり、その血は石畳を紅く染め上げている。

 まさに地獄絵図。地上に地獄がやってきた、そう形容するのがふさわしい光景。

 そしてそこで展開されているのは、血で血を洗う壮絶な戦いだった。

 連続した金属音、人外の咆哮、肉を切り裂く水音。

 黒と白。正反対の力を纏う二人が、玉座へとつながる架け橋の上で、舞踏する。

 銀色の鎧を身に纏い、白い大剣を振るう騎士。

 同じく鎧を身に纏い、金色の剣を振るう騎士。

 殺意と殺意がぶつかり合い、火花が散り、血飛沫が舞う。

 絶叫。全てをかき消す衝撃とともに、二人の騎士は鍔迫り合う。

 また剣が踊る。また距離を取り、またぶつかる。

 これは命を奪いあう戦い。

 だが同時に哀しい、余りにも哀しい、殺し合い。

 やがて結末は訪れる。

 距離をとった満身創痍の騎士たちが、再び剣を取り、突進する。

 吼える白い剣の騎士。唸る右腕。そして振り抜かれる両者の剣。

 斬。

 黒い騎士の首が空を舞う。

 金色の剣が地に落ち、黒い力に包まれていた騎士の身体が白に解けていく。

 白い大剣をふるった騎士は、傷を受けてなお動かない。

 その赤い瞳から、一筋の涙を流したままに。



「……変な夢」

 暗闇に包まれた密室に、透き通った少女の声が響いた。

 ぼんやりと虚空を見つめる赤い目は眠気に負けて半分とじており、瑞々しい金色の髪も寝起きのために癖がついておかしな形になってしまっている。

 髪を手櫛で整え、何故かベッドの下に落ちていたナイトキャップをかぶり直し、少女はベッドから起き上がった。

 燈された明かりに照らされ、少女の背に生えた七色の禍々しい翼が暗闇に浮かびあがる。

 およそヒトにあるまじきその異形は、まさに彼女が吸血鬼たるゆえんであった。

 フランドール・スカーレット。それがこの少女の名だ。

 この世界――幻想郷の主とすらいわれる吸血鬼の一族にして、最凶の問題児。

 フランは眠たげに目元をぬぐい、考え事をするようにじっと明かりを見つめる。

 あの夢は一体何だったのだろうか。

 死闘を演じる二人の騎士。

 白と黒の力を身に纏う彼らは幾度もぶつかり合い、そして決着が訪れる。

 黒い騎士の首が飛び、白い騎士が一筋の涙をこぼす。

 そして――。

「……オストラヴァ」

 確かそう、呟いたのだった。

 傍らから彼らを見ていたフランの耳にもはっきりと聞こえた。

 オストラヴァとは一体何なのだろう。もしかすると、あの騎士の名前だろうか。

 白い騎士と戦っていた、あの黒い騎士の。

「あれ?」

 いや、もしそうとするならばいくつか矛盾する点がある。

 フランは首をかしげ、顎に手を当てて思案を続ける。

 そもそも戦っているということは、二人は敵同士なのだ。相手の名前を知っているはずもない。そもそも敵を殺して、それに涙するということ自体からしてありえないだろう。

 では彼らは仲間同士なのか。仲間同士で、本気の殺し合いを演じていたのだろうか。

 幾ら自問してみても、答えは出ない。それは夢の登場人物である彼らの問題であり、そこにフランが介入する余地も、そしてそれを知る権利すらなかったのだから。

「むう……」

 釈然としないと言った風な表情を浮かべ、フランは無駄に大きな扉を開けて廊下へ出た。

 目がさえてしまったために今すぐ寝直すのも億劫だ。眠くなるまでうろつくとしよう。

 真っ暗な廊下に、ひたひたという足音が響く。明かりはないが、吸血鬼にとって暗闇は自分のテリトリーだ。それほど気にするようなことでもない。

 まあ吸血鬼の館が真夜中にここまで閑散としているのも、ある意味おかしいのだが。

 それはフランの姉君にしてこの紅魔館が主レミリア・スカーレットの影響に他ならない。

 紅霧異変という事件をご存じだろうか。

 ある日突然幻想郷中を謎の紅い霧が覆ってしまうという事件。

 その張本人こそがこのレミリアであり、その動機は太陽が隠れていれば昼でも外に出て遊べるんじゃないか、という人間たちにとって迷惑極まりないものだったのだが、それなりの大事件として幻想郷に語り継がれているものの一つである。

 結局この異変は紅魔館勢を打倒した人間に鎮められ、もう既に空は元通りの姿を取り戻している。しかし当のレミリアがこの人間を彼女はとても気に入ってしまったらしいのだ。

 その人間こそが人呼んで博霊神社の紅白巫女、博霊霊夢である。

 それが原因でこの紅魔館の日常はほとんど逆転。それどころか吸血鬼は一度招かれた家にしか入ることはできないため、レミリアは霊夢の友人で紅霧異変解決のもう一人の立役者、白黒魔法少女こと霧雨魔理沙に頭を下げてまで頼みこみ、なんとか神社の出入りを許可してもらうほどの執着ぶりである。

 いつか借りを返すためとか何とか言っているが、それが本当かどうかすら怪しいものだ。

 そういうわけで今の紅魔館は普通の人間と同じ生活リズムを保っている。主がそうなっているのだから仕方がないことだが、これは吸血鬼の館としてどうなのだろうか。

 まあレミリアが霊夢と仲良くしているのはフランにとってメリットとなってもデメリットにはなりえないから良いだろう。神社と館の関係が強まれば神社側にいる魔理沙も面白半分にこちらへ絡んでくることになるからだ。

 大図書館の主パチュリー・ノーレッジが泥棒退治的な意味で倒れてしまいそうではあるが、フラン的には時たまに遊んでくれる魔理沙の方が好みなので仕方がない。

 そういうわけで、紅魔館は眠りについていた。

 作業をしている者もほとんどおらず、ただフランの足音だけが静かに響き渡る。

 少しやんちゃするだけで大慌てするメイド長も、それを止めに来る姉君も、特に動くことの無い読書家も、動くどころか微動だにしない門番も、フランの世界にはいない。

「……あれ、良く考えると優先順位が一つ落とされたってことじゃない?」

 ぽつりとつぶやいたその言葉が半分は的を射ていたことを、彼女は知る由もなかった。

 特にすることもなくぶらぶら歩いている内に、紅魔館のバルコニーにたどり着く。

 空には月が昇り、そして星が踊る。世界は闇に満たされ、夜という名の魔物が生命から限りある生の時間を根こそぎ奪い取っていく。言ってみれば死の世界が展開していた。

 冷たい夜風が頬を撫で、髪を揺らして遥か彼方へと過ぎ去っていく。今日は少し風が強い。スカートの裾がふわりと膨らむのを押さえ、フランはバルコニーの端から夜を眺めた。

 月明かりのみが世界を照らす。人里もこんな真夜中ではもはや明かりがついているところなど存在しない。まるでこの世にいるのが自分だけになったような感覚。

 夜とは吸血鬼が領域。天敵たる太陽亡き今、まさに世界の全てが彼女の世界だった。

 フランはにま、と笑みを浮かべてはるか高みの月へと手を伸ばす。

 夜の散歩というのもいいモノだ。自分が吸血鬼たるゆえんを思い出させてくれる。

 さて、そろそろ部屋に戻るとしよう。もしかしたら夢の続きを見れるかもしれない。

 そう思い、くるりと身を翻した、その瞬間。

 ――Souls of the mind key to life's Æther...

 頭の中に、声が響いた。

 ――Souls of the lost withdrawn from its vessel...

 緩やかに浸透し、そして消えていく女性の声が。

 ――Let the strength to be granted, so the world might be mended...

 辺りを見回しても、人影一つ、動物の姿すら見当たらない。

 ――so the world might be mended...

 しかし、空耳でないことだけは確かだった。

 やがてフランを取り巻く環境が変化していく。

 きょろきょろと辺りを見回すフラン。その周りを、奇妙な霧が覆い始めたのだ。

 纏わりつくようなその感覚に、フランは思わず顔をしかめる。

 その翼で以て身体の周囲にある霧を吹き散らそうとするものの、どうにもうまくいかない。それどころかどんどん霧の濃度は濃くなり、やがて辺りの景色が一切見えなくなるほど深まっていく。

 何よりその霧には、色がなかった。

 夜の闇も、星の明かりも、月の光も、全てを遮断し、飲み込んでいく。

 まるで世界そのものを削り取っていくかのように。

 これはただの霧じゃない。気づいた時には、フランはすでに霧に飲み込まれていた。

「何これ……」

 手をかざし、霧を能力で以て吹き飛ばそうとしてみるが、まるで何かに干渉されているかのごとく能力の発生が阻害されてしまう。奇妙な霧はわずかなざわめきを見せただけだ。

 後ろを振り返ってみても、既に紅魔館の姿はない。

「ここ、どこ……?」

 フランは手さぐりで濃霧の中をゆっくりと進んでいく。

 五百年の歳月を経ているとはいえ、吸血鬼の寿命は人間のそれとは比べ物にならないほどに長い。そもそも人間とは生きている時間が違うからだ。人間は小動物の寿命を短いというが、小動物は人間が生涯を通して行うことをその短い寿命ですべてこなしてしまう。

 つまり彼女らの五百年は人間で言うところの十年に満たないのである。

 彼女らが人間で言う十歳程度の外見、精神を保っているのも、それに起因する。

 そしてフランの四九五年は幽閉の歴史。外界との接触を断たれ、幼いなりに成長しきれなかった彼女は、まさにブレーキを失った乗り物に等しい。ただ暴走するだけだ。

 今の彼女を突き動かすのは好奇心。例え能力が使えないとしても、吸血鬼の基本性能は人間のそれを大きく凌駕する。その自信が彼女の膨れ上がった好奇心を後押ししていた。

 フランは興味深げに辺りを見回しながら、とてとてと霧の中を歩いている。

 霧の湖を覆う霧の中を歩いているわけではないことは確かだった。もしそうでないとするならば、先ほどまでフランが紅魔館のバルコニーにいたことから考えるに、落下して地面に頭から突き刺さることは目に見えている。だがそれが起こる気配はない。

 つまりここは先ほどまの世界――幻想郷とは一線を駕す世界だということなのだろう。

 隔離された世界の中に、もう一つ隔離された世界を作る。こんなことができそうなのは最古参妖怪の一角、八雲紫くらいだろう。だが今回のことで彼女が出てくる動機はない。

 ならば一体どういうことなのだろう。あの夢にしろ、この世界にしろ。
フランが再び首をかしげた時だった。

 ――Souls of the mind key to life's Æther...

 また声が聞こえた。

 霧に飲まれる前にも聞こえたのと同じ、あの澄んだ女性の歌声が。

「こっち?」

 フランは辺りを見回し、音を頼りに霧の中を進む。

 ――Souls of the lost withdrawn from its vessel...

 ざわり、何かが自分の奥底で蠢くのを感じた。

 それはフランの意思とは関係なく、歌声を聴いて覚醒した新たな感覚。

 ――Let the strength to be granted, so the world might be mended...

 ざわり、ざわざわ。

 力ではない。心でもない。最も的確に表現するならば、それは魂。

 ――so the world might be mended...

 刹那、フランの奥底にあったそれが、喜びに打ちふるえるかのようにざわめいた。

 霧に混ざるのは、無数の燐光。

 それは舞い踊る蛍のような、妖しく美しい、そして全てを惹きつける輝き。

 フランの周りは、いつの間やら光に包まれていた。

「わあ……!」

 フランは感嘆の声をあげてそれに手を伸ばしてみる。

 辺りを漂う燐光は、フランの手にとどまることなく掌をすり抜けた。

 不思議な物質だ。いや、物質と呼んでいいものだろうか。

 触れるごとに、体内の何かが震えるのを感じる。そして大きくなるのを実感する。

 フランは興味深げに辺りを見回し――そしてきゅっと眉をひそめた。

 燐光とは明らかに違う金色の光が、視界の端を掠めたのだ。

 目を凝らし、再びその方角へと視線を走らせる。

 それは断続的に輝く金色の閃光。

 やけに弱弱しく、目をそらせばたちまち霧の合間に隠れてしまうほどに小さな光。

 まるで助けを求めるかのように、霧の合間で明滅を続けている。

「なんだろ?」

 考えてみても何も始まらない。とりあえず行動することにした。

 フランはとてとてと移動を開始する。幸い辺りの霧はだいぶ和らぎ、少し先ならば見通せるほどに景色は回復していた。その反面不思議な燐光は数を増やし、数多がふわふわと空を舞いながら、ゆっくりとフランが向かう方向へと収束している。

 集められている。いや、呼ばれているのだろうか。

 そんな考えが脳裏に浮かび、フランが金色から一瞬だけ目を切る。

「あっ!」

 刹那、ふっと蝋燭の炎が掻き消えるかのように、金色は霧に溶けていった。

 慌ててフランは走りだす。ここにきて唯一の手がかりを失うわけにはいかないのだ。

 幸い方向だけは見失っていない。このまま直進すればいずれは――。

「!?」

 その時、慌てて走っていたフランの爪先が何か固いモノを引っかけた。

 勢いづいた身体は突然のブレーキについていけず、慣性の法則に従ってそのまま
前のめりに投げ出される。スカートがふわりと膨らみ、浅くかぶっていた帽子が宙を舞った。

 驚愕に見開かれる赤い瞳。慌ててばたばたと手を振ってみても、もう遅い。

 やがてフランの身体は霧の向こうに消え、七色の輝きがぼんやりと霧に浮かびあがる。

 ごちんっ!

 何も見えなくなった向こう側で、思わず目を覆いたくなるような重低音音が響いた。

「~っ!」

 見れば、額を押さえて霧の中をのたうちまわるフランが一人。

 つくづく足もとに運の無い幼女であった。転んだ拍子に、何かを頭にぶつけたのだろう。

 涙目になりながらも、フランは紅い瞳で霧の中に佇む何かをキッと睨みつける。

「……え?」

 刹那、怒りにつりあがっていたその目が拍子抜けしたように見開かれた。

 目の前に転がっていた硬いモノ――それは銀色の鉄鎧に身を包んだ、何か。

 軽量ながらそれなりの防御力を発揮するために溝が作られた鎧、マクシミリアン式フリューテッドメイル。腰には金色の鞘を下げ、すぐ傍には呪式が余すところなく刀身に刻み込まれた金色の剣が転がっている。不思議な形状をした金色の盾も同様に。

 いわゆる中世の騎士だ。それは異変中の異変の中で、再び出会う新たな異変。

 ――外来人。

 そんな言葉がフランの脳裏によぎるのも時間の問題だった。

 この幻想郷に騎士など存在しない。それ以前に博霊大結界が敷かれている外界の国に、騎士という職業が存在しないのだ。似たところで言う武士ならば存在するのだが。

 そしてもう一つ、その姿がフランの瞳を捕えて離さない。

 銀色の鎧を纏い、金色の剣と盾を持った騎士。

 夢の中に出てきた登場人物と瓜二つ……いや、それそのものだったのだから。

 浮かび上がるのは剣を振るうたびに発せられていた邪悪な波動。その余波が壁を吹き飛ばし、地面を斬り裂き、そしてその殺意が向けられているもう一人の騎士の肉を抉る。

 ぞくり、背筋を駆けのぼる悪寒を振り払い、フランはその騎士へすっと手を伸ばした。

 ひんやりとした鎧の冷たさが掌に伝わる。そしてその奥、身体には触れていないにもかかわらず、掌を直接打ちつける波動――否、鼓動。共鳴するかのように震える体内の何か。

 伝わる感覚に、あの夢の邪悪な波動はない。

 それどころか真逆だ。慈しみと、優しさ、温かさに満ちた、穏やかな鼓動に満ちている。

 おそらくこの騎士は悪い人間ではない。あの化け物めいた黒い騎士とは別物なのだ。

 言葉も交わさず、ただ触れているだけだというのに、フランの直感がそれを示した。

 フランはその根拠が何に基づいているのかは知らない。

 人妖の内に眠るそれの脈動を。

 それを具現化する穢れ無きキャンパス、色の無い世界のことを。

 えてして、ソウルの存在を。

「……うーん」

 だが今はそんなことよりもこの異変から首尾よく脱出する方が先だ。

 問題は山積み、それもかなり切迫している。

 まず最重要の問題としては時間の制約だ。

 起きてしまったのは真夜中だったが、この異空間に来てからそれなりの時間がたっているように思う。吸血鬼にとって太陽は唯一無二の天敵。もし何とかしてここを脱出できたとしても、既に太陽が顔を出してしまっていた場合、光を浴びて灰になってしまう。

 霧に遮られて時間の把握ができない以上、可及的速やかにここを脱出しなければならない、そうでなければ命にかかわるだろう。

 そしてもう一つは、そんな状況にもかかわらず一向に解決方法がわからないことだ。

 霧の中をうろうろと歩き回って、やっと見つけたのは目の前の騎士だけ。それもかなり衰弱しており、正直なところフランのお荷物的存在でしかないのは言うまでもない。

 だが今のフランの中に、この騎士をおいていくという選択肢は浮かんでこなかった。

 助けてあげなければ、そんな思いを胸にフランは彼の周りをぐるぐると回る。

 何故なのかはフラン自身にも分からない。

 だが助けてあげたいというその想いだけは、確かなものだったから。

「あれ?」

 騎士を中心に、くるくると辺りを回っていたフランが負と歩みをとめた。

 ――霧の中をうろうろと歩き回って、やっと見つけたのは目の前の騎士だけ。

 本当にそうだっただろうか。

 フランは金色の光に向かって走った道筋を、頭の中で反芻する。

 何もない平坦な世界を歩いて渡り、そして光が消えてしまったために慌てて走り出した。

 そして何かに足を引っ掛けて、転んだのではなかっただろうか。

 フランははっとした表情で後ろを振り返る。

 そこには、物々しく剣を突き刺され燐光を放つ奇妙な石が佇んでいた。

 石自体の大きさはそれほどではない。だが突き刺された剣はフランの胸元辺りまであり、幾ら慌てていたとはいえ、これに気付かなかったこと自体が不思議なくらいだ。

 おそらく先から見ている燐光の収束点もこれなのだろう。周辺で渦巻く燐光は突き刺された剣に吸収されるように消え、そしてまた霧の中に舞い散っていく。

 フランの中で何かが、かちりと音を立てて合わさった。

 見たこともない異変と、その中で出会った外来由来だろう人間、そしてその中心に位置し、外来人らしき騎士のすぐ傍に転がっていた奇妙な石。

 もしかすると、この石が引き金となって異変を発生させているのではあるまいか。

 にや、フランが意味深げな笑みを浮かべる。

 この怪しげな石を何とかすれば、この霧を消すことができるかもしれない。

 フラン的解釈に則るならば、この石吹き飛ばしてもいいよね?

 そう判断してからの彼女の行動は、余りに素早かった。

 手をかざし、そして握りしめるだけ。

 フランの能力たる“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”は、全ての物に存在する弱点“目”を掌の中に移動させ、それを握りつぶすことを原点とする。それによって抗いようのない絶対破壊とし、敵味方問わず粉砕、息の根を止める。

 それはいかなる存在にも、決して例外はなく。

 きゅっとして、どかーん。

 次の瞬間、哀れな“要石”は、フランのイライラをぶつけられる形で、粉々に吹き飛ばされた。

 総計六つにわかれた破片は勢いよく霧を突き抜け、遥か彼方へと飛び去っていく。

 楔が崩壊したことで“繋がり”を失った濃霧は、夜に溶けた。

 余りにあっさりと、何事もなかったかのように。

 世界に光が戻り、暁に染まる夜空が目に飛び込んでくる。

 いつも通りの幻想郷。いつも通りの世界。それは日常への回帰。

 あの異空間で感じていた胸の中のざわめきは、もうなくなっていた。

「……おー、意外とあっさり」

 我に返ったフランがきょろきょろと辺りを見回す。

 東の空は徐々に明るくなりつつあるが、まだ太陽そのものは顔を出していなかった。どうやら館に戻る前に灰になってしまうという事態は避けられたらしい。

 だが余りノロノロもしていられない。早く館の中へ戻らなければ。

 そう思ったフランは騎士の身体を軽々と持ち上げ、館の方角へ歩いて行く。

 日の出は、すぐそこに迫っていた。



 そして物語が幕を開ける。

 失われた者たちの楽園に、全てを失った騎士が流れ着く。

 彼が何を得、また何を失うのか。

 それはただ、ソウルの導くところにあり。





 ~後書きという名のお茶会~

( ´乙`):ランク1、オッツダルヴァだ。

メルツェル:ORCA旅団、メルツェルだ。

(;´乙`):メルツェル!? なぜここに?

メルツェル;お前だけでは頼りないと判断されたらしいな。

(゜乙゜#)なんだと!? 作者め、後で覚えておけよ!

メルツェル;お前はもう一度前回の後書きを見てきた方がいい。まあいい、ともかく話を進めるとしよう。

(;´乙`):こう言っては何だが、第一話だというのに死ぬほど会話が少ないな……。

メルツェル;ああ、登場人物がしゃべらないお前と幼女しかいないからな。

(゜乙゜#);誰が私だ! 名前しか似ていないじゃないか!

メルツェル;片や水没王子、片や徘徊王子。そして同じような名前。性格こそ違えど何らかのつながりを意識せざるを得ないだろう?

(゜乙゜#);表 へ 出 ろ !

メルツェル;ああそうそう。一応言っておくが、紅霧異変云々の設定は言わずもがな、作者のフロム脳だ。仮に正式な設定があったらどんどん指摘してくれ。

(;´乙`):無視か……。

メルツェル:それと更新が再開早々に遅れがちな件についてだが、作者もそろそろ受験間近なのでな……テストで赤点だけは出すわけにはいかないらしい。我々には関係のない話だが。

メルツェル;まあそういうわけで、ここ数週間は更新頻度が鈍くなるだろう。

メルツェル:次話のタイトルは【王子、紅魔と相対す】の予定だ。

メルツェル;それでは、次回の更新でまた会おうノシ

( ´乙`)ノシ:(……あるぇ?)


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