2010年7月16日 14時58分 更新:7月16日 16時46分
熊本県水俣市出身の女性(84)=大阪府豊中市=が、国と熊本県を相手取り、水俣病患者としての行政認定を求めた訴訟の判決が16日、大阪地裁であった。山田明裁判長は「国の認定基準を満たしていなくても、個別の事情を考慮すれば、水俣病と認める余地はある」とし、「原告の感覚障害は水俣病と認められる」と判断、女性の申請を棄却した県の処分を取り消し、水俣病患者として認定するよう命じた。
水俣病患者の認定を巡り、認定基準の範囲が狭いとして処分の取り消しを命じた判決は、86年の熊本地裁判決に続いて2例目。行政に水俣病としての認定を義務付けた判決は初めて。
現行の認定基準は、公害健康被害補償法に基づき77年に旧環境庁が規定した。手足の感覚障害のほか、運動失調や視野狭さくなど複数の症状の組み合わせを求めている。判決はこの組み合わせがない限り、水俣病と認められないとする国などの主張は「医学的正当性を裏付ける的確な証拠はない」とした。
原告女性は78年に熊本県に認定申請をして棄却された。国に審査請求をしたが、07年3月にこれも棄却された。関西に移住した水俣病の未認定患者が起こした水俣病関西訴訟に88年に加わり、最高裁判決(04年10月)でメチル水銀中毒被害者として認められた。
原告女性の主な症状は手足の感覚障害で、「最高裁判決でも被害者と認められており、水俣病患者であることは明らか」と主張。さらに「認定基準は医学的根拠もなく、患者を不当に絞り込んでいる」と認定基準を批判していた。
これに対して、国側は「手足の感覚障害だけではほかの病気と区別できない。認定基準は現在でも合理的だ」と反論していた。
患者として認定を受ければ、チッソから1600万~1800万円の補償金などを受けられる。しかし国の基準では認定患者は3000人に満たない。04年に最高裁判決で敗訴が確定したことなどを受けて、国は昨年、水俣病被害者救済特別措置法を制定。認定基準を変えないまま、一時金210万円などの未認定患者の救済策を進めている。【日野行介】