松井を獲得したエンゼルス温情GM 気配り上手な苦労人

2009.12.24


温かい人柄で知られるリーギンスGM(左)(共同)。非情で知られるヤンキースのキャッシュマンGMとは対照的だ【拡大】

 エンゼルスに移籍した松井秀喜外野手(35)の獲得を積極的に進めたのがトニー・リーギンス・ゼネラルマネジャー(42)だ。大リーグ4人目の黒人GMで、貧困の中から身を立て、チーム編成を任されるまでになった文字通りのたたき上げでもある。リーギンスGMからのオファーは、松井にとって“天使の声”だったか。

【「自分は一生黒人」差別受けても親の教えを忘れず】

 リーギンスGMはカリフォルニア州立大でマーケティングの学士号を修了し、1992年に営業のインターンとしてエンゼルスに入った。編成部に異動してからは主にマイナー選手の育成に携わり、2008年に40歳でGMに昇格。エンゼルスでは少なかった大型トレードを行い、常勝チームを作り、今オフは主砲ゲレロ外野手の代わりに松井を獲得した。

 「松井の加入は打線を強化するだけでなく、球団と(地元)コミュニティーに好影響があるはずだ」と松井の入団会見では、松井獲得の波及効果にも言及している。

 リーギンスGMはカリフォルニア州の田舎町で4人姉弟の末っ子として生まれた。4歳のときに父親が病死し、母親は3つの仕事を掛け持ちし一家を切り盛りした。それでも年収は2万ドル(約180万円)程度と家計は苦しかったという。母親は02年に亡くなったが、冗談が好きで貧しくても常に明るく、人への敬意を忘れないことを教えられたという。

 リーギンスGMはインターン時代から差別を受けることもあったが、母親の教えを忘れることはなかった。モレノ・オーナーの目にとまったのも、マイナーの人材育成に熱心に取り組み、全選手、監督・コーチとの関係が良かったためだ。

 「自分は一生黒人だ。差別的な扱いを受けるのは珍しいことでもない。ただ、自分自身が誰であるかを認識できれば、事態の処理方法も分かって楽になる。10年前はわれわれがGMになるとは考えられなかった時代だ」とリーギンスGMは話している。

 松井の獲得に関しても、リーギンスGMの気配りが奏功した。ヤンキースが、松井の希望する外野守備を否定したのと対照的に、リーギンスGMは交渉の最初からこの条件を検討した。結果的に今季(1300万ドル)の半額以下の600万ドル(約5億4000万円)の格安年俸で松井の獲得に成功している。

 親の七光でヤンキースに入り、オーナー一族、スタインブレナー家に取り入って金満編成を繰り返し、松井を冷血放出に追い込んだキャッシュマンGM(46)と比べると、松井の好感度はさぞ高かったことだろう。

 「言ったこと以上の結果を見せること。人生最後の日に、自分の実績を評価してもらえればいいと思っている」がリーギンスGMのモットー。今の松井には、共感する部分も多いかもしれない。

 

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