2009-02-21
「台湾は親日的」と思っている全ての人、必読書
台湾の勉強は後回しにしていたが、最近ようやく取りかかった。同じく長年植民地だった朝鮮との比較考察、何より「台湾人(本省人)は親日的」というのが「日本の植民地支配は良かった」と言う右派の大きな拠り所となっているため、台湾について深く知る必要は論を待たないからだ。
で、本書である。とても刺激的な一冊。「台湾は親日的」と思っている全ての人、必読だろう。
本書はまず痛烈な左翼批判ではじまる。
『<小林よしのり『台湾論』>を超えて』にある、「台湾独立派は日本の植民地支配下で利益を得てきた階層」「彼らが日本時代を良く言うのは当然」という台湾独立派批判を批判する。確かに出発点にはそのような勢力もいたが、日本・国民党両政府の弾圧の下では限界も明らかであったため、すぐに影響力を失った。今有名な金美齢、黄昭堂といった台湾独立派はそういった既得権益の恩恵のないところから、命がけで運動した者たちである、と。
台湾独立派は左派に過去ずっと黙殺ないし否定されてきた。それは中台分裂を招いたのは日本の中国侵略(日清戦争による台湾割譲)から始まるという原罪感であったり、中国共産党を神聖化してその中台統一論に全面的にくみしたり、といった党派的なものだった。果ては台湾独立派に「米日帝国主義の手先」「CIAのスパイ」といった根拠薄弱な誹謗中傷が繰り返された。孤立無援の中で台湾独立派は左派に見切りをつけ、当初は「手前ミソな思い上がりで」「植民地支配を美化している」「台湾人は日本統治時代を懐かしんでると言う」と批判してきたはずの右派に、そのうち政治的戦略的に取り入ろうとする。これが「親日派」台湾人が誕生した歴史的経緯なのだという。
これを安易に転向や変節として批判することを、著者は繰り返し戒める。それは彼らの置かれた条件や制約を理解しない独善なのであり、台湾独立派への無理解を再生産してるだけだ、と。だからこそ台湾独立派の苦闘と悲惨を受け止め、彼らのかつて持っていた可能性こそをえぐりださなければいけない、と。
台湾独立派にとって、日本では右派しか頼れる者はいない、という確信は、小林よしのり入境禁止処分事件に対し「これでは台湾の友達は日本に一人もいなくなってしまう」という、見ようによっては異常に危機感にあふれた伊藤潔の主張にうかがえる。
「親日」が所詮政治戦略に過ぎないことは、黄文雄ら親日派台湾人のカリスマである黄昭堂が、「親日でなければならないという理由はない」「(日本に)いちゃもんをつけないと無視されるということになるなら、やっぱりいちゃもんをつけたほうが得」と発言していることからもわかる。
親日派台湾人には「中国は脅威だが、日本は脅威ではない。だから日本の反中国右派と結託するのは安全だ」という信頼がある。だが本当にそうなのか、と著者は問いかける。従軍慰安婦の強制連行を否定した小林よしのりの『台湾論』に、元慰安婦らが抗議の声をあげたとき、金美齢は小林の擁護に回った。それは植民地支配下で苦しんだ人達の声を封殺しようとする、コロニアリズム(植民地主義)の暴力の再生産なのではないか、と。そして外省人との対立をあおる今の台湾独立派は、在日台湾人を残酷に処分してきた戦後日本の排外主義のコピーにとどまらず、日本と相互に触発し連動していると指摘する。そしてこの「連鎖するコロニアリズム」解体のために、植民地支配の画一的な被害者/受動者史観の克服を提言して終わる。
日本の植民地支配で台湾人は精神面では惨めな思いをした。「よくないに決まってます。いいという人がいたら、どうかしてますよ」「「あのときはよかったなぁ」といわれたら、かないません」。生きんがためには忍従するしかなかった。
忍従は自尊心を傷つけ、人間を卑屈にしてしまう。だが、もしこのダメージを自らの努力で補救することが出来るならば、日本時代は台湾人にとって必ずしもマイナスではない。教育の普及とその質的向上によって台湾人は自由と民主の尊さを知り、そのために戦った。そこで身につけた法治主義は台湾人開放の武器となった。その開放の武器を獲得した時代へと日本時代の経験を活かすことが出来るならば、日本の強権政治の支配も決してマイナスのままで終わらないからである。(120p)
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