秋元さんにとって「大ヒット」とは何ですか?
大ヒットは、「想定外」のものだと思います。想像とか予定の壁を越えないと大ヒットにはなりません。
ビジネスの世界でいうと、創業者・二代目・三代目あたりが築き上げたものを四代目くらいで壊した時に大きな成功を産むような気がします。創業者の「想定外」が会社を大きくするのです。
例えば「AKB48を秋葉原で作るぞ!」と当初、僕が言ったとき、みんな意味が分かりませんでした。
「そんなの秋葉原に見に来るんですか?」との声に、「来る!なぜなら、ネット社会となって、昔で言えば口コミで1ヶ月あるいは半年かかっていたのもが一瞬で伝わるようになるから」と僕は説明しました。
テレビで子どもからお年寄りにうける最大公約数のコンテンツを作るよりセグメントしたターゲットに最小公倍数のコンテンツを作った方がいいと確信していたんです。
しばらくの間はお客さんが10人くらいだったのが、1ヶ月半くらいで満員。今では、AKB48のチケットはプラチナチケットになりました。
この2年半で10万人動員したんです。そうなると、今度はネット会社が配信させてくださいとか、グッズを作らせてくださいとか、プリクラを作らせてくださいとか、ゲームを作らせてくださいとか、声が掛かるようになりました。
みんなの想像力が追いついたのです。
後と先が逆になる、ということですか?
物事を理屈で考えてはいけません。マーケティングやコンセプトから考えると発想が当たり前になります。
まず、予定調和を壊すことから始めます。「普通なら○○するだろうから、僕は△△しよう」と天の邪鬼に考えることが大切です。
ヒントや〝気づき〟を与えているんですね?
例えばスポーツジムに関しても、今、スポーツジムは経営が大変ですよね。
作りすぎて潰れているところもありますし、ガラガラです。
ならば再建策として、スポーツジムと生命保険会社を結びつけて、何か商品は作れないだろうか。週3回行けば保険の掛け率が落ちていくような。
生命保険会社としても、メタボな人が少なくなれば良いじゃないかと。
そんなことを思いつきで話しているうちに企画が転がって行くんです。
その最たる例が、うどん屋の「はなまる」ですよね?
最初は「新メニューを考えてくれませんか」という依頼でした。
しかし新メニューはすぐに真似されると思ったので「うどんの定期券」を作ったらどうかと提案したんです。うどんを何杯でも食べられる定期です。
これさえ持っていれば“食事の心配はない”という意味で、田舎の親が上京した息子や娘に渡すかも知れません。
問題はその「うどんの定期」が使い回しされることです。一枚の定期券で何人もの人に食べられてしまっては赤字になります。そこで僕が提案したのは“指紋認証”です。たかが“うどん一杯”のために指紋を登録しておいて本人と確認するんです。SF映画のように面白いでしょう?
早速はじめようということになって、渋谷で1号店を立ち上げると、それがビジネスサテライトや日経新聞で取り上げられて大きな話題を呼んだのです。
好奇心旺盛で面白がりな起業家やビジネスマンは成功します。
冗談半分のアイディアを受け入れるか否か、勇気なんですね?
“聞く耳を持っている”というのが必要です。
ビジネスのタネって、あちこちに転がっています。しかし、たいていのものは誰かに拾われているんですね。でも、よく目を凝らすと、小石の陰や木の葉の下にビジネスのタネが残っているんです。
どんな所に「面白さ」を見出すのか、そこが勝負なんですね?
そうですね。どれだけ先入観を捨てられるかということじゃないですか?
「まさか」というところに「成功の鍵」が落ちていますから。まず、手を伸ばしてみないと・・・。
匂いを感じ取るためには、ある程度の「経験値」も必要ですよね?
そうですね。僕はその匂いを感じ取れるけど他の人には感じ取れない、そんな経験が何度かあります。でも、言い方を変えれば他の人には感じ取れるけど、僕には感じ取れない匂いもある。
アイディアがピンチを救う。
セガの湯川専務のCMを作ったのは、苦肉の策でした。ライバルのSONYのプレイステーションと比較すると大幅に広告・宣伝費が少なかったので、話題性で引っ張るしかありませんでした。セガの本物の専務が出て来て、子どもたちに「プレステ」の方が面白いと言われて奮起するという企画です。
僕は湯川専務を“時の人”にして、メディアに登場させ、足りない広告・宣伝費を埋めようとしたのです。
AKB48もそうだったんですか?
AKB48は、全くのO(ゼロ)からのスタートでしたね。「アイドルになりたい人、集まれ~!」「アイドルを作ってみたいスタッフ、集まれ~!」と呼びかけて集まった本当の素人集団です。みんなで劇場を作るところから始めたわけですから、よくこんな人気グループになりましたよね。
でも、それは変に固定概念に縛られたプロたちではなかったのが良かったんだと思いますね。新しい風は、必ず、“怖いもの知らず”な人たちが起こすんです。
【次号】第3回:自信とは、「軸足を動かさないこと」