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沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題が、民主党代表選の大きな争点に浮かび上がってきた。名護市辺野古への「県内移設」を確認した日米合意を踏襲する菅直人首相に対し、小沢一[記事全文]
在日朝鮮人の若者たちが「なぜ自分たちだけ取り残されるのか」と、つらい思いで2学期を迎えている。朝鮮高級学校をめぐり、文部科学省の専門家会議が、授業料無償化の学校にふくめ[記事全文]
沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題が、民主党代表選の大きな争点に浮かび上がってきた。
名護市辺野古への「県内移設」を確認した日米合意を踏襲する菅直人首相に対し、小沢一郎前幹事長が、沖縄県、米国政府と改めて話し合う方針を公約に掲げたからだ。
在日米軍基地が集中する沖縄県の過重な負担の軽減は、日米安保体制の恩恵を等しく受ける日本国民全体の課題である。この機会を、改めて国民的議論を起こすきっかけにしたい。
とはいえ、打開策を見いだすのは容易ではない。
日米両政府は先に、代替施設の具体案について専門家による検討結果を発表した。米国が推す滑走路2本の「V字案」と、日本が提案した滑走路1本の「I字案」が併記された。後者は埋め立て面積がより少なくて済む。
沖縄の理解なしに無理に案を一本化すれば、かえって事態がこじれる。両論併記は現実的な判断だが、先送りでしかないこともまた事実である。
名護市長はいかなる形であれ、受け入れに反対だ。仲井真弘多県知事も辺野古移設は困難という。11月の県知事選で示される民意次第では、計画は完全に暗礁に乗り上げかねない。
日米合意があっても実現の見通しがないなら、何らかの打開策を探るべきだという小沢氏の主張それ自体には、もっともな面もある。ただ、小沢氏は沖縄も米国も納得できる案を必ず見いだせるというだけで、具体的なアイデアや解決への道筋を示していない。
そんな妙案があれば、鳩山政権9カ月の迷走はなかったはずだ。外交において自己主張を重視する小沢氏としては、正面から米国政府に国外移設を提起する腹づもりなのかもしれない。
しかし、日米の信頼関係を損なわずに共同作業に持ち込めるのか。大きな構想力と、何より覚悟が求められる。
小沢氏は「第7艦隊だけで米国の軍事的プレゼンスは十分」「自衛隊が役割を果たせば、在日米軍の役割は軽減する」といった発言を繰り返している。日本の安全をどう守り、その中で日米同盟をどう位置づけるのか、小沢氏には全体像を示す責任がある。
どんな打開策を探るにしても、沖縄との信頼関係が土台になる。沖縄の負担軽減に先行して取り組むという菅首相の姿勢は正しいが、具体策がなければ説得力を持たない。
民主党は、とりわけ外交・安保政策について党内に亀裂が入ることを恐れ、議論を避けてきた。代表選は政策路線を固め直す好機でもある。
普天間の移設先をどうするかだけではなく、日本外交の針路、日本の安全保障と日米同盟のあり方について、首相選びにふさわしい骨太の議論を深めてほしい。
在日朝鮮人の若者たちが「なぜ自分たちだけ取り残されるのか」と、つらい思いで2学期を迎えている。
朝鮮高級学校をめぐり、文部科学省の専門家会議が、授業料無償化の学校にふくめるかどうか判断するための基準をつくった。高校の無償化は4月に始まったが、朝鮮学校は「日本の高校課程に類する」ことを確認できないとして、先送りになった。
示された案は、授業時数や教員について専修学校なみの水準を求め、支援金がすべて授業料減額に使われるよう財務の透明化の注文もつけた。他の外国人学校とともに、文科省が定期的にチェックする仕組みもとり入れる。
一方で、個々の具体的な教育内容は判断の基準にしない、とした。日本の学校とは異なる方針の下で教育を行うことを、認めようという考え方だ。
時間がかかりすぎたとはいえ、学校制度の外に置かれてきた外国人学校をきちんと位置づけ、多文化の学びを国が支援してゆくための、客観的で公正なモノサシができたと言える。これを使い、4月にさかのぼっての無償化を速やかに実施すべきだ。
ところが文科省は民主党内の意見を聞くとして、またも結論を先延ばしにした。菅直人首相の指示だという。
党内には、経済制裁を続けているのに、その北朝鮮の影響を受ける学校を支援すべきでないとの意見がある。拉致被害者家族からも「対北朝鮮で日本が軟化したと取られる危険が大きい」と反対がある。先送りは、こうした意見にも配慮したのだろう。
しかし、子どもの学びへの支援と、拉致問題への対応とを、同じ線上で論じるのはおかしい。高校無償化の支援対象は学校ではなく、生徒一人一人だ。「外交上の配慮で判断すべきでない」というのは、国会審議の中で示された政府の統一見解でもある。
教育内容を問うべきだとの指摘もある。確かに金正日体制への礼賛は、私たちの民主主義とは相いれない。
だが、同じ町で暮らす朝鮮学校生に目を転じてみよう。スポーツでは地域の強豪校でもある。北朝鮮の思想を授業で学びながらも、生徒や親の考えは一色でない。バイリンガルの能力を生かすなど、様々な分野の担い手として活躍する卒業生もたくさんいる。
ここは日本社会の度量を示そう。
多くの朝鮮人が住み、北朝鮮を支持する人がいるのは、歴史的な経緯があってのことだ。祖国を大事にする価値観を尊重し、同じ社会の一員として学ぶ権利を保障する。そうしてこそ、北朝鮮の現状に疑念を持つ人との対話も広がり、互いの理解が進むだろう。
そのうえで、日本で生きる朝鮮人としてどんな教育がよいか、今の朝鮮学校でよいかどうかは、彼ら自身に考えてもらうべきことだ。