きょうの社説 2010年9月5日

◎トキ施設拡充 公開の可能性も探りたい
 いしかわ動物園(能美市)で生まれたトキ8羽は、佐渡トキ保護センターに4羽が移送 され、残る4羽は動物園での継続飼育が決まったことで、石川県は9月補正予算で施設を拡充し、飼育体制を強化することになった。繁殖地、飼育地としての動物園の役割はますます重くなるが、これらの取り組みが軌道に乗れば、映像モニターにとどまらない本格的な公開を求める声が高まってくることも予想される。

 環境省は、人の気配を感じることによる事故死の防止や、トキ野生化に地域挙げて取り 組む佐渡に配慮し、分散飼育地での直接公開は認めていない。だが、トキの飼育は多摩動物公園、いしかわ動物園に続き、年内には島根県出雲市、来年秋には新潟県長岡市でも始まり、感染症による絶滅リスクを避けるための分散体制は一応整うことになる。

 トキが各地で増えれば、佐渡だけに限定している公開の在り方も見直しを迫られるので はないか。どんな条件が満たされれば直接公開が可能なのか、県も専門家会合の議論をにらみながら実現の道筋を前向きに探ってほしい。

 県は、いしかわ動物園の「希少鳥類繁殖ケージ」を改修し、生まれたトキ4羽の専用ケ ージとして活用する。今年1月から始まった分散飼育では、誕生後に1羽が亡くなったものの、9羽の孵化に成功した。繁殖技術に問題はなく、来春も同じ2ペアによる繁殖が期待される。

 分散飼育に合わせ、1月にオープンした「トキ展示・映像コーナー」の推計入場者は、 半年間で約7万人に上った。これは佐渡市の「トキ資料展示館」の約6万3千人(1〜6月)を上回っており、動物園入場者の多さの反映とはいえ、トキ保護の啓発拠点として、いしかわ動物園の役割が高まっていることは間違いない。

 佐渡では今年11月に3回目の放鳥が予定されている。個体数の増加、放鳥が安定軌道 に乗れば、関心をさらに広げるために見せ方にも一段の工夫が求められよう。直接公開は新たな環境整備を伴うことになるが、その実現も視野に入れながら飼育体制の充実に取り組んでほしい。

◎イラン追加制裁 効果の一方でジレンマも
 政府は核開発をやめないイランに対し、資産凍結の対象拡大など独自の追加制裁を決め た。米国や欧州連合(EU)などと連携し、イランの核開発を防ぐために必要な措置である。

 ただ、核開発阻止という大義の一方で、ジレンマも深まるばかりである。国連制裁決議 に上乗せする独自制裁の強化は、元来友好国で原油輸入など重要な貿易相手国であるイランとの関係をさらに冷却化させ、資源獲得戦略に悪影響を及ぼす。が、独自制裁を見送れば日米関係に亀裂が生じる。

 さらに、米欧や日本が制裁を強化するほど、イラン経済は中国やロシア、その他の新興 国との結びつきを強め、中ロを利するという構図になっている側面も直視しなければならない。

 国連決議を無視してウラン濃縮活動を続けるイランに対し、安保理は6月に追加制裁決 議を採択した。米国、EUはこれに加えてエネルギー分野への投資禁止や金融取引制限など独自の追加制裁を決め、カナダやオーストラリアなども追随した。日本も同調することで、イラン包囲網は一層狭まり、強化される。こうした締め付けはイラン経済に大きなダメージを与えよう。それでも、イランは強気の姿勢を崩していない。

 米欧や日本が独自制裁を強化するのは、国連の制裁決議の内容が中ロ両国によって弱め られたからにほかならない。中ロは対米配慮から先の国連制裁決議に賛成しながらも、引き続き、エネルギー分野などでイランとの協力強化に動いていると伝えられる。

 国連制裁が続くここ数年のうちに、イランとの貿易を最も伸ばしたは中国である。イラ ンの最大の貿易相手国は日本であったが、今では中国に取って代わられた。制裁を強める米国に配慮して、日本はイラン最大級のアザデガン油田の権益を自ら縮小したが、その権益が昨年、中国に奪われてしまったのは象徴的である。

 イランからの原油輸入が欠かせない日本は、米国と歩調を合わせ制裁でイランに核開発 断念を迫る一方、決定的な対立は回避する高度な外交が必要である。