藤田保健衛生大学病院における
多剤耐性アシネトバクター・バウマニ検出事例に
関する概要と当院での対応について


患者さま・ご面会の皆さまへ ―第2報―

平成22年9月1日
藤田保健衛生大学病院
病院長 星長清隆
感染対策室長 吉田俊治

 昨今、新聞などで多剤耐性菌(複数の抗菌薬が効きにくい細菌)に関する報道がされることが多くなりました。藤田保健衛生大学病院におきましても、多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)を検出しました。これまでのところ、幸いにも本菌の感染により死亡された患者さまはおられません。また現在は、継続的に多剤耐性アシネトバクター検出患者が確認される状況にはありません。しかし当院では引き続き事態の収束に向け、医療安全部(感染対策室)を中心に取り組みを続けており、その後の状況につきましてここにご報告致します。


1.経過概要
 平成22年2月から現在までの間に、当院救命救急センター(Neuro care unit:NCU)を中心に、24名の患者さまから多剤耐性アシネトバクター・バウマニが検出されました。当院が最初に当該菌の検出を確認しましたのは、平成22年2月10日でしたが、その後5例の患者さまに当該菌の検出を確認しましたので、週明けの2月15日に病院長の指示で緊急会議を開き、翌朝に所轄の瀬戸保健所に対し報告を致しました。
 当院では多剤耐性アシネトバクター・バウマニの検出確認後は、院内での対策会議を数回行い、関係部署に対して感染防止対策の確認と接触感染予防策の強化、さらに新規入院の停止や入室先の制限などの感染対策を実施致しました。
 当初はNCU、ICU、1-4B 病棟(脳神経外科)を中心として検出され、2月末より一時期新規検出が止まったかに思われましたが、3月下旬より散発的に、また新たに2-9 病棟(腎内科)でも検出が確認されました。そこで2月と6月には公的機関に遺伝子検査を依頼し、複数の部署で検出された当該菌が、すべて同一菌株に由来するという結果を得ました。
 アシネトバクター自体は、環境中に広く存在する菌である事から、当該菌が検出された関連部署だけでなく、全病棟にわたる環境調査を実施しました。その結果、当該菌が検出された患者さまの室内と、当該菌の検出が確認された一部の病棟の汚物室の床などから、多剤耐性アシネトバクター・バウマニが検出されました。通常、床や壁などの環境表面は、感染の原因とはなりにくいとされていますが、当院では当該菌検出が確認された場所の消毒を行い、環境培養で当該菌が陰性であることを確認できるまで、その場所の使用を禁止しています。 
 また院内における感染経路の推定や感染対策の評価を目的とし、6月22日に「国立大学附属病院感染対策協議会による改善支援」を受けました。ただ今その調査で指摘されました事項について、改善へ向けた取り組みをはじめております。
 本件に関する経過は遂次、保健所に報告し、当該菌による感染症の発症の有無に関わらず、検出された患者さまやご家族に対して説明をさせていただいております。また職員や近隣の関連医療機関に対しても、随時情報提供を行っています。なお9月1日現在では1名の入院患者様から検出を確認しております。

2.感染経路
 当院で初めて多剤耐性アシネトバクター・バウマニの検出を確認した時点で、複数の患者さまから検出が確認されていること、なかには近隣の関連病院での検出が確認されて当院に入院された例もあることなどから、現時点で詳細な感染経路は不明です。
 しかし、当該菌の検出患者さまの入院履歴から、院内ではNCUからICUへの伝播が生じたものと推測されます。また1-4B病棟(脳神経外科)では、病棟内で伝播した可能性が否定できません。2-9病棟(腎内科)における1例目については、市中より持ち込まれた可能性が否定できません。

3.当院での対応
  • 1)多剤耐性アシネトバクターが検出された患者さまは速やかに個室に転室していただき、「接触感染予防策」を徹底して実施しています。
  • 2)多剤耐性アシネトバクターが当院で初めて確認された2月以降、院内の検査態勢をより厳しい検出基準に変更し、監視体制を強化しています。
  • 3)多剤耐性アシネトバクター検出状況の詳細な把握と、感染経路の究明・感染拡大防止に努めています。
  • 4)随時、地域や行政との連携を図っております。
  • 5)第3者機関による調査を受け、感染防止対策の改善に向けた取り組みを続けています。

4.「国立大学附属病院感染対策協議会による改善支援」を受けて
 6月22日に国立大学附属病院感染対策協議会より、4名の調査員をお招きしまして、実態調査、実施した感染防止対策の評価、感染対策の実施に関する改善勧告等をいただきました。
 指摘事項としましては、当院における組織的な対応、接触感染予防策や環境整備など発生源対策、入院時のスクリーニングによる保菌者の早期発見・早期対応、地域への情報発信などにつき、一定の評価を頂きました。一方、病棟で使用した医療器材の洗浄方法、水回りの清潔・不潔区域や物品の配置、手指衛生(手洗いや手指消毒)の利便性などについては、改善を求められました。それらの事項に関しましては、現在病院をあげて改善のための取り組みを行っているところです。

5.まとめ
 藤田保健衛生大学病院では、本年2月から現在まで、多剤耐性アシネトバクター・バウマニを24名の入院患者様から検出しました。該当菌を初めて検出して以降、感染対策室が中心となり、全病院を挙げて監視体制を強化して感染拡大防止に取り組んでおります。またその経過は随時、所轄の保健所に報告して参りました。なお、現時点で多剤耐性アシネトバクター・バウマニの感染が重症化し、これが死亡原因となられた患者さまはおられません。今後も事態の収束に向け、鋭意取り組んで参ります。




患者さま・ご面会の皆さまへ ―第1報―

平成22年6月11日
藤田保健衛生大学病院
病院長 星長清隆
感染対策室長 吉田俊治

 昨今、新聞などで多剤耐性菌(複数の抗菌薬が効きにくい細菌)に関する報道がされることが多くなりました。藤田保健衛生大学病院におきましても、日ごろより医療安全部(感染対策室)を中心に多剤耐性菌の院内拡大防止に向けて、様々な対策を講じて参りましたが、当院でも多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)を検出しました。これまでのところ、幸いにも本菌の感染により死亡された患者さまはおられませんが、複数の入院患者さまの検体より多剤耐性アシネトバクター・バウマニが分離されたことを重く受け止め、ここにご報告致します。


1.経過概要
 平成22年2月から約4ヵ月の間に、当院救命救急センター(Neuro care unit:NCU)を中心に、20名の患者さまから多剤耐性アシネトバクター・バウマニが検出されました。当院が最初に当該菌の検出を確認しましたのは、平成22年2月10日でしたが、その後5例の患者さまに当該菌の検出を確認しましたので、週明けの2月15日に病院長の指示で緊急会議を開き、翌朝に所轄の瀬戸保健所に対し報告を致しました。
 当院では多剤耐性アシネトバクター・バウマニの検出確認後は、院内での対策会議を数回行い、関係部署に対して感染防止対策の確認と接触感染予防策の強化、さらに新規入院の停止や入室先の制限などの感染対策を実施致しました。2月末には公的機関に、計19菌株の遺伝子検査を依頼し、すべて同一菌株に由来するものという結果を得ています。
 アシネトバクター自体は、環境中に広く存在する菌である事から、当該菌が検出された関連部署だけでなく、全病棟にわたる環境調査を実施しました。その結果、当該菌が検出された患者さまの室内と、当該菌の検出が確認された一部の病棟の汚物室の床などから、多剤耐性アシネトバクター・バウマニが検出されました。通常、床や壁などの環境表面は、感染の原因とはなりにくいとされていますが、当院では当該菌検出が確認された場所の消毒を行い、職員の手指衛生に対しても対応を強化しています。
 本件に関する経過は遂次、保健所に報告し、当該菌による感染症の発症の有無に関わらず、検出された患者さまやご家族に対して説明をさせていただいております。また職員や近隣の関連医療機関に対しても、随時情報提供を行っています。なお、新規の当該菌検出患者さまの最終確認は6月11日であり、この時点で当該菌を保菌されている入院患者さまは5名ですが、幸いにも治療を必要とする重症感染症の患者さまはおられません。

2.感染経路
 当院で初めて多剤耐性アシネトバクター・バウマニの検出を確認した時点で、複数の患者さまから検出が確認されていること、なかには近隣の関連病院での検出が確認されて当院に入院された例もあることなどから、現時点で詳細な感染経路は不明です。
 しかし、当該菌の検出患者さまの入院履歴から、院内ではNCUからICUへの伝播が生じたものと推測されます。また1-4B病棟(脳神経外科)では、病棟内で伝播した可能性が否定できません。

3.当院での対応
  • 1)多剤耐性アシネトバクターが検出された患者さまは速やかに個室に転室していただき、「接触感染予防策」を徹底して実施しています。
  • 2)多剤耐性アシネトバクターが当院で初めて確認された2月以降、院内の検査態勢をより厳しい検出基準に変更し、監視体制を強化しています。
  • 3)多剤耐性アシネトバクター検出状況の詳細な把握と、感染経路の究明・感染拡大防止に努めています。
  • 4)随時、地域や行政との連携を図っております。

4.アシネトバクター・バウマニについて
  • 1)多剤耐性アシネトバクター・バウマニ
    当院で分離された多剤耐性アシネトバクター・バウマニは、「カルバペネム」「アミノグリコシド」「フルオロキノロン」というグループの抗菌薬に、耐性を獲得したものです。従って多くの抗菌薬が無効と考えられますが、全ての抗菌薬が無効なのではなく、先般報道にありました「超耐性型」とは異なるものと考えられます。
  • 2)アシネトバクター・バウマニ
    土壌や水系など自然界に広く存在する細菌であり、通常皮膚などに付着しても病気を起こすことはありません。しかし、糖尿病や重症疾患などで免疫力の低下した場合には、肺炎や敗血症を発症し、死に至ることもあります。本来は弱毒菌ですが、極めて高い薬剤耐性を持ち、海外においては重大な院内感染の原因菌として注意喚起がなされています。なお、本菌の感染症は、わが国の感染症法の報告対象には含まれておりません。

5.まとめ
 藤田保健衛生大学病院では、本年2月からの約4ヶ月間に、多剤耐性アシネトバクター・バウマニを20名の入院患者様から検出しました。該当菌の確認後には、感染対策室が中心となって、全病院を挙げて監視体制を強化して感染拡大予防策に取り組んでおり、その経過は随時、所轄の保健所に報告して参りました。
 なお、現時点で多剤耐性アシネトバクター・バウマニの感染が重症化し、これが死亡原因となられた患者さまはおられません。