チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21665] 元人類が幻想郷を創るようです【東方・TSオリ主・最強物】
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/04 06:19
 本日はお忙しい中、拙作を読んでいただきありがとうございます。
 この作品には

・TS
・最強
・中二病
・独自解釈
・トンデモ

 などの要素が多分に含まれています。



 なお、内容に至ってはスプリガンの読みすぎとかわかりづらすぎるネタなどもあります。
 読み始めて精神汚染されそうだと感じたら速やかにウィンドウを消して、ニコニコ動画で腹筋ブレイカブルなものを視聴することをおすすめします。
 第一話において、東方要素が一切ない珍しい作品です。

 感想、誤字脱字、誤用、ここおかしいだろ修正しろや愚者などのご意見は、ウロボロス的フィードバックによりこの作品をよりよくするための糧となります。
 そもそもフィードバックのフィードとは、餌をやるという意味なので、感想はこの作品に餌をやり成長させるために必要なものです。

 では。



[21665] 1
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/03 17:55
 降り立った世界は、遥か過去だった。
 同時に俺は、人間と男を捨てさせられた。



 死んだ記憶はある。
 母さんがかばってくれたはいいが、500kg投下爆弾の至近着弾を人の躯ごときが楯になるはずもなく。
 気づけばこのザマ。
 股間の波動砲は綺麗さっぱりなくなり、毎年色が薄れていく自慢の髪は昔のようなつややかな真っ黒。胸はわずかに膨らみ、背はかつて170cmちょうどだったのが20cm以上縮んでいる。それなりにあった筋肉は消失。丸裸。
 これが転生あるいは憑依といやつか、などと思い至り、今はずっと歩いている。せっかく転生か憑依かできたんだから、このまま飢え死には勘弁したい。この世で最も根性のいる自殺は餓死なのだ。つまりはそれだけ苦しいということ。
 何か着るものはないかと探したが、森の奥深くにあるはずもない。材料になりそうなものはあるのだが、そいつらを殺そうにも皮を剥ごうにも力も道具もない。そもそも野生動物が稀少種だ。何時間か歩き回って気配すら感じない――――

 エンカウント。熊。

 逃げられない。熊の走行速度はかなり早かったはず。奴は体長3mはありそうな野生動物、こっちは激戦区を走っていた一般人。ただし丸腰。そして弱体化。
 非常に殺気だっているのはなぜか。今の俺は無力な少女。未来はデッドエンドしか見えない。

「ウガアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!」

 死んだ。

「悠々たる哉天壌。遼々たる哉今こっ!」

 衝撃。
 殴られ、パクリの辞世の句を中断せざるを得なくなる。あんなダメージを食らっておきながら痛みがない。人間の脳は、致命傷を食らうと痛覚を切るという。ああ、なるほど、生きるのを諦めるんですね。せめて安らかに。

「……あ、れ?」

 ところがどっこい、死んでいない。痛みがないってのは嘘で、少しだけある。
 躯は思い通りに動くし、傷も出血もない。

「ガゥ!」

「って」

 二発目。痛くない。明らかに爪でがりんちょとやられているくせに、なんという防御力。
 そのままガツガツとラッシュを食らうがどうってこともなく。
 だんだん腹が立ってきた。

「いい加減にやめてくれないか?」

 日本語が熊に通じるわけはなく。

「ええ加減にしろっちゅっちょるんや! あぁ!? 脳天吹っ飛ばすぞ」

 大声に驚いたのか、一瞬止まる腕。その隙に飛び上がり、渾身の力を以てアッパーをぶちかましてやった。
 フッ飛ぶ熊の頭。ぶん殴ってふっ飛んだとかいう『表現』ではなくて、熊の頭が文字通り吹き飛んだのだ。いろいろまき散らして。

「は?」

 頭をなくして即死、頚動脈から赤い噴水を巻き上げゆっくり倒れる熊を、ボーゼンと見上げる俺。

「あー、図らずも素材ゲット?」

 今は『どうしてこうなった』など、調べる余裕はない。全裸で少し寒い今、熊という服の素材がゲットできた。これが重要だ。道具はないが、そこらの尖った石でどうにかしてみる。

「変な肉食動物に遭遇しませんように」

 森の中で血の臭いをさせるということは、そんなのを寄せ集めるということ。怪我して森に潜伏して野犬に襲われる経験は、今の俺に焦りをくれた。
 獲物はでかく硬く、道具は鈍く脆く、皮剥ぎは遅々として進まない。まだ腹すらカッ捌いていなかったり。

「くっそ、これがコンバットナイフだったらいいのに!」

 躯は疲れてないくせに、なんか疲れた感じになって熊の上に寝転がる。

「サボってる場合じゃない、さっさとコイツを剥かない……と……お?」

 我が手には、ヴェトナム帰還兵が大暴れする映画の主人公が持っているようなコンバットナイフが。

「夢……じゃないな」

 試しに熊の胸から股にかけて刃を滑らせる。一気に腹が開けた。前足、そして後ろ足も裂いて、後は一気に剥ぐ。
 力技で剥げるのは、元々そういうものなのか、この熊が特別なのか。熊の解体など、戦前でも特殊な環境でない限りする機会もないだろうし、そんな知識は戦場で生きるのに何の役にも立たないから知らなかったのだ。野生動物なんて人類以外の生物がものすごく希少だったし。そもそもこんな森があることが異常なくらい、地球環境は最悪だったはずだ。森の中だからか、汚染されまくったはずの大気が清浄だ。こんな空気、初めて吸った。

「うげ。そういえば、なんかいろいろ加工が必要だった気が……」

 剥いだばかりの毛皮を躯に巻きつけると、当然未だ水分を含むそれは生臭く、脂肪でぬるぬるする。それほど重みは感じないが。

「ちゃんと加工されてればな……」

 と思った瞬間、感触が変わった。

「マジか」

 まとっているこの毛皮が、柔らかで乾燥し、臭いのないものになっていた。すなわち、加工済み。

「…………」

 念じてみる。

(服! えーと、今は女だからショーツというのか? 綿の黒のTシャツに黒っぽいジーンズ! 黒のジャケット、米軍ご用達の黒トレンチコート(防弾防刃アラミドケブラー)! 黒のハイソックスに編み上げブーツの安全靴! ああそうだ、ついでに清潔な濡れタオルを!)

 ダメモトなのでかなりわがままに念じてみた。そして、それはいともあっさりと叶えられる。

「……なんだこの非現実的な不思議現象は」

 目の前に山となった畳まれた衣類。それは確実に、今の俺のサイズ。
 熊の毛皮を苦労して剥ぐ必要がなかったことに徒労感を覚え、悲しくなる。
 とりあえず濡れタオルで躯を拭いて、出てきたものを着る。もうすぐ夜だ、この黒装備はそうそう見つかるものじゃない。ギリースーツもいいが、あれを着てると見つかったときに問答無用で撃たれる。普通の服なら一般人として見逃してくれることもあるのだ。

「ふう。人類はマッパじゃ落ち着かんな。服を着てこそ、だ」

 熊をどうしようかと思ったが、既に本体は剥いでしまった後でぬるぬるして運びづらい。毛皮だけ持っていくことにする。
 コンパスを念じて召喚し、とりあえず西に行くことにする。熊の頭を吹き飛ばしたことから、空を飛べないか試すことにした。

「とぅ~とぅとぅ~とぅ~とぅ~、とぅとぅ~とぅ~、とぅとぅ~とぅ~、とぅ~とぅとぅ~とぅ~とぅ~~とぅとぅ~とぅ~とぅ~」

 鼻歌を唄いながら、毛皮とコートと髪を風になびかせながら、樹々を避けながら。空は気分がよかった。どこまでも青い空を飛べればさぞ気持ちがいいのだろうが、制空権を確保されてたら危険だし、レーダーに探知されると偵察が来るからあまり高く飛べないが。レーダー波は人で反射するかは知らないが。



 森が切れた。
 あり得ないほど広大な自然が残っていたことに感動しつつ、何故だか久しぶりに感じる大地へ足をおろす。視界の悪い森ならばともかく、何もない場所を飛ぶと確実に撃たれる。ほとんどの地域に敵と味方とそれ以外が混在している世界の状況、飛行物体は問答無用なのだ。何が楽しくて戦争してるんだか。
 テクテクと歩く。森の外にいるのが一般人か、良心的な軍人であることを信じて。
 森の外は――――

「…………」

 何があった。
 今いるのは崖のてっぺん。遥か眼下にずっと広がる森・森・森。崖の下の土地を囲む山。一本の川。トーチカも塹壕もバンカーも滑走路も道路も廃墟も何もかも存在しない。
 一体何年前の、いや何世紀前の光景なんだ。衛星写真で見たら、おそらく緑に見えるだろう。母さんが教えてくれた、初めて宇宙に行った人間の言葉を思い出す。
 あれは薄い水色だったらしいが、おそらく地表の7割を占める海ばかり見ていたのだろう。海を見て陸を見なかったのか。

「美しい……」

 思わず漏れる独り言。これが、母さんが言っていた『在るべき本来の地球の姿』。
 おそらく、ここに人はいまい。もっと西に、こんどは空高く、自由に!
 俺の知る地球は、こんなに空気がうまくなかった! こんなに自然が存在しなかった! こんなに空が澄んでなかった!
 レーダー網も敵戦闘機も衛星兵器も対空砲もSAMも気にせず、自由に飛べる!

「とぅとぅ~~~~、とぅ~とぅ~~とぅとぅ~~~~、とぅ~とぅ~~とぅとぅとぅ~とぅ~とぅ~とぅとぅ~~~~、とぅ~とぅ~、とぅとぅ~、とぅとぅ~とぅ~、とぅとぅ~~、とぅとぅ~~、とぅとぅ~~~~」

 ボーイソプラノだった歌を、今やソプラノの俺が歌う。この躯の声はかなりいい感じだ。
 くるくると回ったり、かくかくと曲がったり、コブラやクルビット、インメルマンターンに急降下爆撃、バレルロールにスプリットS。思いつく限りの機動を試して、飽きるほど自在に飛び回って、やっと何か、人工物を見つけた。

「やはり過去か。いったい何百年前、いや……何千年前なんだ?」

 村。母さんが知っている限りの知識を俺に教えてくれなければ、予測もできなかっただろう。縄文とか弥生とかそこらの時代であることは間違いない。
 困った。いや、そうでもないか。俺の格好は向こうからすれば怪しいが、うまく立ち回れば結構友好的に交流が結べるだろう。
 ふむ、腹減ったな。リンゴでも。



 さて、どうしてこうなった。
 日本語が通じる不思議はともかく、降り立ってすぐに騒ぎになるのは予想できた。が。
 よってきた子供にリンゴをやったら、どんどん村人が集まってきて、気づいたら神様に奉り上げられていた。
 この時代にリンゴがあるにはあったらしい。ただ超稀少で、数年に1個か2個しか採れない。故に神の贈り物とされていたが、それを俺がいくらでもポンポン出すから、恵みの神とされてしまったようだ。
 今、長とかの家でもてなされている。なんか外では祭の準備とかがされてるっぽい。

「まあ、いいか」

 文明を破壊しない程度に、『恵み』とやらを与えよう。どうやら、稲作は始まってるらしいし。
 旱魃のときに雨を降らせたり、不作の年に冬を超えられるだけの食糧を与えたり。どうせ死ぬまでの暇潰しだ、自由に生きてやる。

「なぁ、長」
「なんでしょうか神様」

 ただ、幾つか忠告をしておく。

「俺がいるからって、そこまで楽はできないぞ。人間、楽をすることを覚えると一気に堕落するからな」
「はあ……」
「みんなが死にそうなほど苦しいときに手を貸したり、どうしようもないくらいに困ったりしない限り、神としては手を貸せん。豊かな時には、助言くらいしかしない」
「それで充分でございます。確かに、わしの孫もうっかり甘やかして育ててしまったせいか、怠けがちでしての」
「だから、何か問題を解決しない限りお供えとかは要らないからな。神とて、働かざる者食うべからずだ」
「では、神様も働くのですかな」
「いや。少し村から離れたところに社を建ててそこに住もうと思う。そう簡単に頼れないところにな。ときどき顔は出すと思うが、お願いしに来るにはちゃんと社に来ないといけないという規則をつくろう」

 引きこもるための方便だ。この時代にはオーバーテクノロジーな生活を見られるわけにはいかないから。

「社はできてからのお楽しみだ」
「そうですか」

 長は嫌な予感を感じているようだ。
 そうこうしているうちに祭が始まり、俺はその真ん中で出される料理や踊りを楽しんだ。



 祭は終わり、俺は村人に別れを告げ、西の森の奥深くに進む。
 空から見て、ちょうどいい場所に当たりをつけ、念じる。ちょうど川が流れているところに。

「湖! そして島!」

 広大な湖と島ができた。できるかどうかは疑問だったが、案外だ。村から1km程離れたところに真円の、半径4kmの巨大な湖。その中心に島がぽつんとあった。

「桟橋、船、社っと」

 湖を渡る設備と、俺の家。社はカムフラージュなのだが。

「最後、地下施設!」

 湖の底より深くにかなり広い空間をつくる。まるで鉄筋コンクリートのシェルター。移動手段はエレベータと非常階段だけ。

「ふぅーっ」

 溜息は出るが、疲れてはいない。何故だ。こういうのは大抵対価が必要なはず。
 あんまり考えたくないが、これは調べるべきだろう。人生に何らの未練もないが、もし寿命だったりしたら、死によって村人を見捨てることになる。希望を与えられてそれを失うというのは、死にたくなるほどの、いや、死ぬ気力もなくなるほどの絶望につながる。

「正解かも知れんな」

 神として積極的に力を使おうとしなかった、これは正解だと思う。何十年の付き合いになるかは判らんが、あの村との関係は悪くしたくはない。愛着は湧くだろうし、そうなれば死んだ後のことも考えるだろう。

「ふぁ……」

 この時代に来て24時間も経ってないのに、色々あった。まさか神になるとは。躯は疲れてないが、精神的にかなりきた。
 とっとと寝よう。



《あとがき》

 突如始まった東方ものです。
 友人に強制的に書かされています。やけになって投稿。奴には秘密だ!
 ということで、原案は友人です。主人公の能力に関しては私が昔考えていた(プロット以前の段階)小説のトンデモ能力を発掘しやがって、それで書いてみろと。
 ちなみにその友人、私にゲームのシナリオまで書かせています。いやいやではないにしても、人間の限界を突破するのではなかろか。

 さて、私がなんでもホイホイ承る言い訳は程々にして。
 主人公は大惨事世界大戦アルマゲドンの最中に死んだ、ということになっています。
 マザコンではありません。頼れるのが母親しかいなかったってだけで。
 能力は『あらゆるものを作り出す程度の能力』ではありません。
 能力が判明次第、タイトルを変えることになるでしょう。

 主人公が唄っていた鼻歌がなんだったかわかったら共感できるかも。



[21665] 2
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/03 17:41
 ぼーっと過ごしていたら、かなり時が流れてしまった。
 旱魃は湖のおかげでなかったが、自然災害で作物が採れなかったり疫病で村が死にかけたときに大活躍したせいか、俺の神としての地位は殆ど揺らぐことはなかった。
 能力も、大した対価がないとわかった。たぶん。
 この時代に来てから1000年。老化はおろか全く成長もしない。不老不死である現実をいい加減認めなければならないか。
 それよりも問題が一つ。社上空から見える都市。あれは俺が元いた時代の年百年か前クラスではなかろうか。俺は何らの技術提供はしていない。
 森は湖から1km先から途切れて、そこから都市を囲んでいる山の麓までほとんど緑は存在しない。境界線からこっちは聖域とされているらしい。

「神様~!」
「む?」

 空を飛んでいると、下で巫女が俺を呼ぶ。俺の世話をする人として、頼んでもいないのに送ってきたのがはじまり。何故か村で最も綺麗な処女を送ってくるから困った。出生率が落ちる気がして。だから、20歳くらいで村に戻すことに決めた。それ以降、16歳から島に来て20歳で帰るのが恒例となった。

「大統領がお見えです」
「そか」

 おかしな成長を遂げた、ビルが林立する光景を眺めるのをやめにして、島に降り立つ。

「準備はいいのか」
「はい」

 こんなに発展した世界でも、人間は俺に勝てない。一度、俺を排斥しようとした動きがあった。50年ほど前だったか。寝込みを襲えば神も殺せる、そう思ったのか。ナイフでも銃でも傷一つつけられず、朝起きたら爆破された社と、俺を殺そうとする数人の男たち。とりあえず全員にゲンコかまして、正座で12時間ほど説教してやった。当時の巫女は社とは別の場所で寝起きしているからよかったものの。微笑ましい事件だった、ということになっている。

「今度は何を頼みに来るのやら」
「大丈夫ですよ、神様なら」
「おまえは少し俺に盲目的過ぎる。俺とて、真に万能じゃないんだ」

 今代の新米巫女は俺が何でもできると思っているらしい。

「じゃ、俺は中で待ってる。案内は頼んだ」
「任せてください」

 最後に空を見上げると、戦闘機が編隊を組んで飛んでいた。最近多いな。



「戦争、ね」

 大統領は、近々起きるかもしれない戦争のことを俺に説明した。
 ただの世間話のつもりだったらしく、戦争はどうにか話し合いで解決して、ロケットで月にいく計画を立ち上げたいらしい。

「月か。いいな。俺も成功を願うかな」

 今の大統領は俺になついている。あれの親が島を託児所代わりに使ったことが始まりだ。神を恐れぬ、とはよく言ったものだ。ちなみに。その親というのが何代か前の巫女だ。かなり生意気だったからよく覚えている。

「なあ、なんかこう、わくわくしないか?」
「月ですか。ここから見える月が大きな岩の塊なんて、にわかに信じられませんね」
「……ちょっとこれで月見てみろ」

 アホの子の巫女に現実を見せてやる。馬鹿でかい天体望遠鏡をデンと出す。新米巫女は興味深げにそれを覗く。

「何ですかこれ? なんかでこぼこだらけの岩肌が見えるんですけど」
「それが月だ」
「え~~嘘ですよ~~」

 アホの子の巫女を教育してやろうと思い立った日だった。



 何年か経った。巫女が代変わりしてないから4年も経ってないか。どうも時間の感覚が薄くて困る。
 この前、ついに月ロケットが宇宙に飛び発った。戦争はどうにか回避できたらしい。

「神様、見てください! ロケットが見えますよ!」

 天体望遠鏡を覗きながら大はしゃぎの元アホの子の巫女が呼ぶ。
 勉強させているうちに宇宙への興味とロマンを覚えたらしく、毎晩天体望遠鏡にかじりついている。

「ああ、見えてる」

 対して俺の方は天体望遠鏡などなくても見える。月に着地したロケットと、その周りで跳ねまわる小さな影達。

「大統領がこの前言ってたことって本当なんですか?」
「移住計画か。もっともっと先になると思うぞ」
「そうですよね~~。でもでも、もっと先になれば月に人は住めるようになれますよね!」
「ああ。人間に不可能はあんまりないからな」
「私、巫女の任期が終わったら、ロケットの開発にいきます!」
「ならもっと勉強しないとな」
「はい! お願いします!」
「俺が教えるのか……」



 巫女の代が何回か変わって、大統領が暗殺された。
 それから、この国はおかしくなっていった。

「なあ、月ロケットってどうなったんだ?」
「は。そのような話は存じませぬ」

 選挙は行われず、副大統領が大統領として就任した。
 俺のところには一度も来たことがない。

「嫌な予感がするな」
「奇遇ですね。私もであります」

 ものすごい堅苦しい巫女と、巫女の屋敷の縁側でお茶を飲む。

「先代大統領は俺の息子のようなものだった」
「存じております。育ての親だったとか」
「やっぱ、慣れん」
「慣れてはならないと思うのですが」
「その通りだ。だが、辛いのはどうしても、な」

 かなりの歳になったかつての巫女が、俺のところに来て泣いて帰っていった。俺には何もできなかった。
 神というルールを作ったことを、これほど呪ったことはない。後悔したことはない。
 だが、ルールがなければ早々にあの村は滅んだだろう。

「涙が枯れてるのを、後悔する日が来るとはな」
「はたして、真に枯れているのでしょうか」
「泣けないんだよ。それに、眠れなくなった」
「なにゆえ?」
「夢を見るとな、あいつに会うんだ。起きて現実を知ると、いつもより悲しくなる」
「ならば、夢を見ぬ薬を作りましょう」
「頼む。できるのなら」

 この灰色の髪の巫女といると、何故か暗い話がどんどん暗くなるから不思議だ。
 ともかく、下らない話をしていたのだが、存外嫌な予感というものは当たるもので。



 終末戦争、勃発。



 元巫女とその家族はこぞって俺の元に来た。俺は地下シェルターに元巫女たちを匿った。こんなこともあろうかと、村が大きくなる度に、街が大きくなる度に、国が富む度にどんどん拡張していたのだ。
 神の元で4年も過ごせば、何故か勘がよくなる。核っぽいけど放射能のない弾頭を積んだミサイル発射の一報が来る前にみんな来るものだから、元巫女一族はみんな助かったのではないだろうか。ただ、重要人物や政府の上層に食い込んでいた何人かは、政府のシェルターに匿われたようだが。そいつらと仲のよかった巫女の情報だ。
 残された人々は、全ての都市で地獄を演じたという。シェルターに押し寄せ、逃げられないと悟ったものは刹那の衝動に身を任す。
 大地と空は汚染され、人が生きれるのは地下のみとなった。もはや国家間で争いごとなどできる状況ではなかった。
 やがて限界を感じた人類は地球を捨てることを決意し、地下サイロに完成したまま放置されていた月ロケットを整備し、月に行こうとした。なんでそんなミサイルサイロみたいな構造かというと、先代大統領が死んだ後に弾道ミサイルの代わりに使おうとしたらしい。馬鹿だ。
 白い灰と嵐が吹き荒れる中、俺はガスマスクのレンズ越しに、ロケットが上がっていくのを見た。こんな状況でさえなければ、かつて月に行くことを夢見た、あの巫女に見せてやりたかった。巫女の気配が幾つか、ロケットの中に確認できた。
 何億もの人間が地下シェルターに取り残されただろうと思って見てみたら、誰もいなかった。死体ばかりで、その全てが殺されていた。暴動を恐れたのだろう、死体には争った形跡はなかった。
 巫女たちはそんなことを知らず、地下で割と平和に暮らしていた。
 これがノアの方舟とかいう物語のことだったのかな、などと思いながら。



 人工の太陽光の元、地下にできた広大な空間は、植物も動物も存在した。俺が作り出した。
 ダメモトで生物を創ったが、存外かなりうまくいくものだ。動物を創って子供達がたわむれる。動物図鑑を作り出し、それに描いてある動物を創る。俺の知らない情報でも、知ろうとすれば出てくれる。
 地上は浄化しようとすればできるだろうが、そうすれば今度は平気で汚染兵器を撃ち合うだろう。『神様が浄化してくれるからどんだけやっても平気だ』なんて。
 俺は遊んでいるだけで、巫女の末裔が地下世界を発展させた。前世の経験で、太陽があまり好きではない俺は、この地下世界でも幸せに生きてこれたし、巫女の末裔は太陽の存在を知らないから幸せに生きていられた。
 地下の楽園は、しかし次第に出生率が下がっていき、最後の巫女の末裔も老衰で死んでしまった。
 思えば数千年、こんな地下の世界にしてはよくもったものだ。今まで寂しくはあっても、孤独だったことはない。村人は時々会いに来てくれたし、巫女が来るようになってからはいつも巫女が隣にいてくれた。一時は我が子と呼べるような存在もいた。
 どうしようもなく悲しくなった。何がノアだ。結局俺の隣には誰もいないじゃないか。
 きっと聖書の神は、孤独からアダムとイヴを創ったんだろう。俺も人を創ることができるが、虚しくなりそうでやめた。



 地上に出ることを決めた。気分で時々地上に顔を出していたが、汚染された大地は人間が住める状態ではなかった。それでも、最後の巫女の末裔が死んでから無為に無駄に無気力に時を過ごして数千年、もしくは数万年。もしかしたら、と少しの希望を持って外に出ることを決めたのだ。



 地上は楽園だった。全てが枯れ果て、もはや墓と廃墟しかない地下世界に比べ、一面の草原が鮮やかだった。あの日と同じ、どこまでもどこまでも青い空。かつてあった、真っ白な灰とそれを巻き上げる嵐は、もうどこにもなかった。
 俺の創った湖は長い年月で埋まったらしく、島だったところが丘になっていた。
 もう誰も訪れることのないだろう地下世界は、後に暴かれないように埋めた。人工物は全て消し、丘のてっぺんに墓標を、大きな岩の墓標を置いた。

「我が子らよ、さらばだ」

 時々、来ることにしよう。



 人類は生きていた。汚染の後遺症は一切ないようだ。もしかしたら、旧世界の人類とはまた違うのかもしれない。
 この時代の人は、そこまで盲目ではなかった。俺は神でなく妖怪と呼ばれ、村人に追い回された。いや、その表現は正しくないか。農具だろうと銃砲だろうとNBCだろうと最終兵器だろうと、どうせ傷一つつかなかったのだから、無視して話し掛けようとする。
 すると、適わないとみたのか、みんな逃げていった。

「……迷惑料、置いていくか」

 大量の保存の効く食糧、米に、生野菜。それらを木の板の上に置いて、俺は村を去った。
 遠くの森の端、誰も訪れないであろう崖の上で、村人が恐る恐る置き土産に手を出すのを確認して、そういえば自分の格好があまりに時代にそぐわないことをやっと思い出す。

「なるほど」

 だが、改める気はない。着心地は悪そうだし、慣れればいいとはいうが、あまり慣れたくはない。俺はなるべく楽をしたい、そういうダメ人間になっていた。
 とりあえず、この時代のことは手探りで知っていくことになりそうだ。

「しかし……妖怪か」

 幼いころに聞かされた、母さんの物語に出てくる怪物。そういえば、母さんは妖怪に会ったことがあるらしい。あの時はまさか、と笑っていたが――――案外そうでもないようだ。

「あなた、食べられる人類?」
「……食えんことはないとは思うが」

 実際、何も食うものがなかったときは、そこらの死体を食ったこともあった。母さんに、死ぬんじゃないかってほど殴られてから二度と食わないと誓ったが。

「じゃあ、いただくわ」

 妖怪の中で最も恐ろしいのは、人を丸呑みにして、広大な腹の中の不思議世界で飼う理不尽な奴らしい。殺したりしないから、結構安全ではないかとは思うのだが。それが、俺の人食い妖怪のイメージだ。
 だが、俺は目の前の時代を無視した格好の少女に頭をかじられている。歯が立たないとはこのことか。丸呑みにできないのなら、俺にとっては何らの脅威にすらならない。

「なによ、あなた妖怪?」
「知らん」

 俺が何者か。そんなこと、俺が知りたい。

「そういえば、妙な格好ね。妖気は感じないけど、やっぱり妖怪かしら」
「はぁ。人外に人外と認められるか。いい加減認めるべきか」
「なんだ、やっぱり妖怪なんじゃない」
「いや、妖怪かどうかは判らん。少なくとも人間ではないことは確かってだけで」

 心は人間のつもりだ。もう、人のものとかけ離れている気がしないでもないが。

「……いや、そもそも妖怪の定義を知らん。ついこの前までずっと、地下で過ごしてたからな」
「何年くらい?」
「…………………………………………数千年、いや、数万年以上」

 まさか一万年以上地下にいるとは思わなかった。地上も浄化されるわけだ。

「呆れた。とんでもないひきこもりね」
「当時は地上が生物の住める環境じゃなかった。何千年か何万年かは知らんが。子供達が死んで無気力に何もせずにずっといたしな」
「変な奴」
「変ではないと思うぞ。世界にたった一人ぼっちってのは案外、何もする気になれん」

 背後に創り出した椅子に座り、小さなテーブルともう一脚。

「空腹なら、座るといい。希望があれば、人間以外ならなんでも出そう」
「驚いたわ。能力持ち?」
「能力、という言葉がこの手の異能を指すなら、確かに俺は能力持ちだ」

 金髪の黒衣をまとった少女は、素直に俺の対面に座る。

「なんて能力なの?」
「能力には名があるものなのか? 少なくとも、俺はこれを名付けて呼んだことはないが」
「おかしいわね。能力持ちなら、その能力を理解したときに名前を知るはずなんだけど」
「たとえば?」
「『闇を操る程度の能力』とか」
「それは君の能力か?」
「そうよ」

 闇を操る、か。
 闇というのは光のない状態。光は直接操れるが、闇は光がなくては操れない。それはある種、光を操るのと同義ではないかと俺は思うのだが、無から有を作り出す俺の能力も大概に物理法則を無視している。能力というものは、『モノノコトワリ』に左右されないのかもしれない。妖怪というファンタジーな存在もいることだ。この少女の言うことを信じれば、の話だが。人を食う特殊な人類である可能性も、少ないがあるのだ。

「さっきから話ばっかだが、何か食いたいもんはないのか?」
「人間以外食べたことがないの」
「それは人生の半分以上を損しているな。とりあえず……おにぎりか。食器も使ったことすらないだろう?」
「なにそれ」
「今は気にしなくていい」

 適当な具の入ったおにぎりを幾つか出す。

「へぇ。便利な能力ね」
「能力から離れろ。人間よりかは旨いはずだ」
「そう」

 そのうちの一つを食う。俺も密かに腹が減っていたりする。何せ数千年以上ぶりの食事だ。消化器系が驚かないことを願うのみ。
 それを見て、少女も真似するようにおにぎりを掴み、モクモクと食う。

「!」

 何か、効果音が鳴った気がした。
 しばしの沈黙ののち、猛然と――――とは言えないが、一心不乱におにぎりを食らう少女。
 その様は涙を誘った。泣けないが。
 皿の上のおにぎりがなくなるたび、新しいおにぎりを皿の上に創り出す。

「そう急がずとも、無限にあるんだ。落ち着け」

 聞こえているのかいないのか。その口は止まる気配を見せず、結局少女が満足するまでずっとおにぎりを提供し続ける羽目になった。その躯の体積より多かった気がするのだが。

「こんなおいしいものがこの世にあるなんて」
「こんな悲しい現実(こと)がこの世にあるなんて」
「え?」
「いや、なんでもない」

 たかがおにぎりごときでここまで喜んでくれるとは。
 緑茶を出し、一息つく。

「それで、これからどうする?」
「そうね、あなたについていこうかしら」
「食糧が目的か」
「ええ」

 正直者だ。まあ、嫌いではない。

「……そうだな、いろいろ教えてくれるならいいが」
「決定ね」

 こうして、妙な妖怪少女と一緒に動くことになったわけだ。
 道連れがいる、というのは悪くなかった。



《あとがき》

 原作キャラ登場。あの子も結構謎が多いよね。
 色々つっこめますが、気にするな! スプリガンの読みすぎとかいうな!



[21665] 3
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/04 02:27
 意外といえば意外、そうでないといえばそうでもない。
 教えられるまでもなく、俺は知識を得ることができた。この時代の知識を。最初は歴史書を出せばいいと思いつき、それをだらだら読んでいるうちに、闇使いの少女・ルーミアが興味を覚えたのか本を見せてとねだり、歴史書を渡して別の歴史書に手を出すと、今度は読めないから文字を教えろという。
 教えながら、思う。「この時代の知識があればいいのに」と。
 それは願望だ。諦めに近いぼやきでも、願いは『そう思うだけ』で叶えられていたことに気づく。
 俺の頭に存在しなかった、母さんに教えられてすらいないこの時代の知識が、既に存在した。
 もしやと思い、「ルーミアが言語を知っていればいいのに」と願う。

「え? あれ?」

 解読不能なほどにヘタクソだった文字が、同じヘタクソでもひらがなになる。
 『書き』は多分問題ない。

「ルーミア。これ、読んでみろ」

 文字の並べられた紙切れを渡す。

「Viel schwarze Vögel ziehen
Hoch über Land und Meer,
Und wo sie erscheinen, da fliehen
Die Feinde vor ihnen her.
Sie lassen jäh sich fallen
Vom Himmel tiefbodenwärts.
Sie schlagen die ehernen Krallen
Dem Gegner mitten ins Herz.
Wir sind die schwarzen Husaren der Luft,
Die Stukas, die Stukas, die Stukas……」

「もういい。パーフェクトだ」

 まさか冗談で渡したドイツ語の歌詞を完璧に読むとは。

「ねぇ、シュトゥーカって何?」
「遥か未来の、人が乗る鉄の鳥だ。恐ろしい鳴き声をあげて、垂直に突っ込んできて、巨大な石を正確に落としてくる」
「妖怪?」
「人間の乗り物だ。運がよければ、見れるかもな。じゃあ、次はこれ」

 別の紙切れを渡す。

「ゆうゆうたるかなてんじょう、
りょうりょうたるかなここん、
ごしゃくのしょうくをもってひだいをはからんとす、
ほれーしょのてつがくついになんらのおーそりちぃーをあたいするものぞ、
ばんゆうのしんそうはただひとことにしてつくす、いわくふかかい。……なにこれ」
「意味の判らない文章の代表だ。自殺する人間の書いたもんだからやたらと有名だが」

 日本語も完璧。

「それよりも……はぁ」
「何よ、ため息なんかついて」

 まさか、いや、やろうとしなかっただけで何でもできたんだろう、俺の能力は。
 知りたくないことまで知る。厄介な能力だ。
 まさか、月ロケットのはずが、月をスルーして火星に行くとは。しかも異位相空間に移動して大都市を築いてる。恐らくは、残地球勢力を恐れたのだろう。
 しかも地球に巨大隕石衝突、一度死の星になって、進化の過程をやり直している。地下シェルターが無事だったのは、俺が願ったから。何があっても大丈夫、と。だからあの一帯が丘になっていた。何千何万じゃなかった、何億だった。
 そして頭の痛くなる事実。神々がいる。天地開闢ってのは新世界がまっとうな生物の住める状態になったことをいうらしい。母さん、まさか役に立たんと思っていた神話がこんなところで役に立つとは思いませんでした。
 ということは、俺は神々より年上ということになるのだが……深く考えないことにしよう。
 最初の神どもは既にどこかに行った後で、イザナギとイザナミはもう死んだらしい。天岩戸も終わり、。恐竜の時代より前にヒトガタの存在がいることがおかしいが、神だから問題ない。ということにする。何故か人もいるし。
 それより、だ。ルーミア……願ってすらいないのに、ここまで無節操に叶えられるとは。
 彼女は、俺の記憶の、断片から創り出された存在。
 知りたくなかった。孤独を感じたから、誰か傍にいて欲しくて、そんな心の奥底の願いが叶った。叶ってしまった。
 意思ある存在を創り出してしまう、それがどんなことか。あの時、汚染された地球を浄化しようと思った、それが隕石による地殻津波という結果になったのではないか。

「夜っ!!」

 窓から入り込む光が消え、部屋が闇に包まれる。光と闇が反転していた。

「元に戻れ!!」

 正しい時間帯に戻る。日が照っている。

「吹雪っ!!」

 ごうごうと、春なのに吹雪が吹き荒れる。思った通り、超限定的な範囲にだけ。

「槍!! 生物は避けろ!」

 本当に槍が降った。

「地震! 震度4!! 震源地そこの森!!」

 大地が揺れる。

「雷!! 」

 閃光と轟音が同時に起こる。目の前に落ちていた。

「世界的に雨!!」

 雨が降っている。世界中で。陸も海も山も、雲の上に突き出た高山にすら。

「濃霧!」

 全ての愛と罪が集まる街に、世界が変貌した。

「過ごしやすい晴天……本日限定……」

 元はカンカン晴れだったが、若干の風と適度な湿度の空気を送り、日差しは若干弱く、酸素濃度を少し上げてやった。妙な天気にしたお詫びだ。

「何、今の」
「気にするな」
「気にするわよ。突然叫んだと思ったら、夜になったり天変地異が起きたり……」
「己の力の非常識加減を確認していたところだ」
「そんなこと、確認しなくても充分非常識なことは判ってるわよ。こんなところにこんな家を作るんだから」

 家。
 新たに居を構えた場所は、崖の中。いわゆる地下空間だ。質量保存則や強度などの理を一切無視した空間。

「そんなレベルじゃなかった、そういう話だ」
「どんなレベルなのよ」
「俺にも判らん。ただ、この世界で俺にできんことはない」
「あ、だからさっき突然文字が書けたのね。どんな理不尽よ」
「全くだ。俺の身に余る……」

 過ぎた力は、身を滅ぼす。では、その身が滅ぶことのないものならば、いかなる力でも破滅はしないのだろうか。答えは否。
 精神的に死ねる。

「昼飯にするか」
「え? もうこんな時間?」

 飯の時間になると眼を輝かせるルーミア。かわいいが、少しだけ罪悪感を感じる。
 とりあえず、能力には頼らず自分で料理を作ることから始めるか。



「…………」
「どうしたのよ? こんなに美味しいのに」
「初めての料理が、かくもうまくなる訳がないんだ……」
「いいじゃない、美味しいんだから」

 ルーミアが、食後のデザートをその小さな口に運びながら俺を諭す。諦めろと。
 この能力は、非常に俺が大好きなようだ。
 料理をやったことがないからレシピを検索すると、ノウハウや技術が勝手にインストールされる。プロ級の腕が、勝手に手に入るのだ。

「くそ、制御する方法はないのか?」
「拒絶するからいけないんじゃないの?」
「……能力を受け入れる、か。どういった能力かは未だ不明なんだが……」
「『願いを叶える程度の能力』なんじゃない」
「それは確かにそうなんだが、どうも違う気がしてな。なんというか、願いが叶うという感覚とはなんか違う……ん?」

 『願いが叶うという感覚』と違う。おかしい、俺はその感覚を知っていることになるが……どういうことだ?
 自分で言って理解できん。あまりに自然に出たものだから流しそうになったが。

「そういえば、私に『言語の知識』を教えてくれたじゃない。あれの応用であなたの能力を知ることってできないの?」
「……その発想はなかった。やってみるか」

 さっきの感覚は保留にしておこう。今はこの便利にすぎる能力を知ることが優先だ。

「俺の能力の詳細!」
「叫ぶ必要はあるのかしら?」

 そういえば、願うだけでいいのだから口頭で宣言する必要はない。
 だが、それを気にする余裕はない。

「俺は神を超えた」
「え?」
「『ありとあらゆる理を操る程度の能力』。世界創造から滅亡まで、俺の意のまま。あり得ん」

 全てが吹っ切れた。俺はもう人間じゃない、人間であってはいけない。俺は世界と繋がっている、いや、世界そのものといっていい。ありとあらゆる世界を構成する全ての理であり、その理の管理者でもある。
 泣きたかった。だが泣けない。余計悲しくなる悪循環。
 あの時知っていれば、今のように吹っ切れていれば。過去を変える、ifを実現できることを理解して、それは絶対にしない。彼らの選択、意思を全て否定することになるだろうから。

「すごいわね。やっぱりただものじゃなかったってことね」
「夢が終えたよ」
「夢?」
「人間じゃない。母さんが語ってくれた、あの憧れた破壊神には、もう、届かない。同じステージに立てないんだから」

 人間であるのか疑わしい、恐らく永き人類の歴史の中で最も強かったと謳われる伝説の英雄。物語の、架空の英雄などより遥かに誇り高く、信念を曲げず、そしてそれをなせる不死身の躯を持っていた。

「不死身くらいなら、まだ、人間だったんだがな……」
「いいじゃない、人間じゃなくても。いつまでも後ろ向きじゃ何もできないわよ?」
「そうだな。とりあえず、当面の目標は決まったな」
「目標?」
「この能力を制御する。ただの願望まで勝手に叶うんじゃ、な」



[21665] 4
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/04 13:52
 新世界の文明の発展を、ずっと傍観していた。能力を制御するのでいっぱいいっぱいだったともいう。
 百年程度で俺の知っている歴史における数世紀分の発展を遂げる新世界の人類は、ほんの3世紀程で旧世界末期ほどの発展を遂げた。
 人類というものは争うことで成長するもので、その争いが激しければ激しいほどにその成長は加速していく。
 何が言いたいかというと、新世界は妖怪との闘争の歴史だったということだ。人間と妖怪の激しい生存競争、いや、生存戦争。
 人類種より遥かに強大な力を持ち、人を襲わなければ存在できない妖怪。世界のログによると、俺が理を書き換えてはいないらしいので、妖怪は自然発生したもの、歪みない正しい存在だ。正しい存在を俺が理で『修正』するのはおかしな話だ。
 崖の上から森を挟んで向こう、都市を観察していると、

「おなか減った」
「あ、私も」
「やれやれ」

 と、催促が来た。
 同居人と客……なのか。よく来ては飯をたかって去っていく変わった人間の少女。この時代の人間の名前は俺には発音できないのでエーリンと呼んでいる。

「めんどい」
「理使いが何を言ってるのかしら」
「なんの因果があるんだ? これで我慢しろ」

 未だ沸騰している、煮えたぎるスープに沈む麺。直径500mmはあろうか、かなり大きなドンブリに入った非常にくどそうなトンコツラーメンチャーシュー増量。ちなみに、今は夏まっ盛り。
 ラーメンはこの時期に涼しい場所でくトンコツを食うと最高だと母さんは言っていた。トンコツ以外はラーメンではないとも。俺はラーメンなるものを最近になるまで食ったことはないが、確かにうまかった。

「嫌がらせかしら」
「仲よくルーミアと分け合うがいい」
「この炎天下で?」
「炎天下……なのか?」
「年中真っ黒なコートを着ている人にはわからないかしら?」
「理のおかげで年中快適なコートだ。いるか?」
「いらないわよ」
「家なら涼しく鍋すら食える」

 我が家は一切の理が外界と違う異世界ともいえる空間になりつつある。
 崖の中の家は既に引き払い、同じ場所の異位相世界にまともな家を建てた。異位相世界にある時点でまともではない気がするが。現行人類に襲撃を受けたからには、おとなしく引きこもるのが一番だろう。俺は見守るべきであって、怒りに任せて力を振るうべきではない。うっかり人類滅亡・地球崩壊など、洒落にならん。
 と、俺と人類は一応敵対関係にあるが、この客は変わり者で、ついでに天才で、異位相空間へのカギを自ら開けてしまった。そのときに我が家を見つけてからの付き合いだ。

「でも、これは……ねぇ?」
「? さっさと家にいきましょ」

 ルーミアに何かを察しろというのがそもそもの間違いだ。こいつは見た目に反してかなりの食いしんぼうだ。

「ラーメンはルーミアに独占されかねんな。エーリン、手」

 いつもの通り、エーリンは掌を上に向けて手を突き出す。俺はその小さな掌に、サンドイッチのバスケットを出してやる。

「まったく」
「俺はかわいい女の子をいじめたくなるタイプだ」
「それを世間ではツンデレと言うらしいわよ」

 そう言い残して、エーリンは異位相世界に消える。ルーミアもそれについていく。

「ツンデレ……」

 母さんが教えてくれた概念『属性』にそんな分類が存在していたな。まさか、こんな時代に存在していたとは。いや、ある意味正常なのかも知れん。



 さすがに腹が減ったので、家で何か食うことにする。

「流石だなルーミア」

 からっぽのラーメンドンブリを見て感心した。
 晩飯は野菜尽くしにしよう。何を食おうが栄養が偏ろうが何も食わなかろうが問題ない俺と違い、ルーミアは生まれが特殊なだけでまっとうな存在だ。肉や油脂だらけの食事より、もう少しバランスの取れたものをやりたいと思うのは悪いことではないと思う。味覚障害とかになったら可哀想だ。理をいじれば一瞬で治療ができるが、あまり使いたくないのが正直なところだ。妖怪がなるのかは微妙なところだが。
 最近では理が勝手に働くこともなくなった。ちゃんとした意思が伴わない限り、理は書き変わることはない。かなり便利に使ってはいるが。

「さて、本日のデザートは杏仁豆腐だ」

 円いテーブル、それを囲む座布団にあぐらをかき、俺は今日のデザートを出す。大きめの器にたっぷり充填された白い液体? の中には、サクランボや黄桃などのフルーツが隠れている。

「いただきま~す!」

 平和だ。
 何かを幸せそうに食べているルーミアを見ていると、どうしてもそう思ってしまう。

「あいかわらずおいしいわね。あなたが考えたの?」
「いや、遥か未来の人類の考えついたものだ。今は材料が手に入らんからな」
「理使いさんのところでしか食べられないのね。なんて贅沢なのかしら」

 エーリンがなにやら感心していた。ルーミアは一心不乱に食っている。ああ、平和だ。

「そういえば理使いさん。そろそろ名前を教えてくれないかしら?」
「名前?」
「いつまでも『理使いさん』じゃ、呼びにくいわ」
「名前、名前か」

 元の世界で母さんにつけてもらった名前は、男のものだからもう使えない。かといって、新しい名前は――――いや、いっそ母さんから貰おう。――――母さんの名前、なんだったか。

「……レイ」
「え?」
「レイだ。名前、忘れていた」
「自分の名前を忘れるってどうなのよ」
「そう言うな、旧世界の黎明期からずっと名前なぞ呼ばれてないんだ、忘れもする」
「旧世界、今の火星人の時代なんてにわかに信じられないわね」
「恐らく、俺を覚えている奴なんていない。もう数万年以上前のことだ」

 巫女一族もその末裔もみんな地下の楽園で死んだ。
 火星がどうなっているかは知らんが、生物としての限界を迎えている可能性はある。

「滅亡ね……私達も、もしかしたら」
「妖怪か。旧世界以上に歯止めが効かんかも知れん」
「人間同士で争って、地上を滅ぼしたんだっけ? 馬鹿よねぇ」
「この時代の人間もどうかな。手順は違っても、同じ轍を踏みそうだ」
「ありえないわ」
「世界はエーリンみたいに賢い奴ばかりじゃない。それに、馬鹿と天才は紙一重というが、馬鹿と天才は兼ねることもある。先人の言葉に耳を傾けることも、時には必要だ」
「そう。そこまで言うなら、頭の片隅にでも置いておくわ」



 その日からしばらく、エーリンが来なくなった。
 嫌な予感がした。ルーミアも同じらしい。
 遠くの都市を見ていると、妖怪と人間の争いが次第に激化しつつあるのが判った。

「嫌な予感、止まらん」
「奇遇ね、私も」
「このやりとり、前にもしたことがある気がしてならない」

 いつだったか。もう思い出せない。

「エーリンが来なくなって何日だったか」
「何年の間違いでしょ?」
「……そんなにか?」
「正月を4回は祝ったはずだけど」
「4年か。時間の感覚がおかしいな」

 今まで生きてきた数万の、あるいはそれ以上の年月に比べ、4年という時間はあまりに短い。歳を食うと一日が短くなるというのは本当らしい。

「お久しぶり」
「俺はそう久しく感じないのが不思議だ」
「時間感覚が狂ってるんじゃない? なんなら、薬つくるけど」
「いや、理で修正できる。まあ、一応挨拶として。お久しぶり」

 突然の訪問だった。ノックもなしに我が家に入ることを許したのは、ルーミア以外にはエーリンしかいない。

「どうする? 飯にするか、お茶にするか」
「お茶でお願い」
「む。本日のデザートはティラミスだ」
「太りそうで怖いわ」
「自慢の薬でどうにかできんか」
「薬に頼る薬師は薬師失格よ」
「矛盾している気がするが。まあいい、太ったら理でどうにかしてやる」
「太る前にどうにかしてほしいのだけど。いずれにせよ、安心ね」

 いつも通り。エーリンとルーミアがテーブルの定位置につき、デザートを出して紅茶を注ぐ。だがこの不安は何だろうか。
 ルーミアがティラミスを一心不乱に切り崩し、エーリンはその1/10くらいの速度で食べ進める。エーリンが1個食べ終わるころには、ルーミアが10個食い尽くしていたから確かだ。面倒なので1ホール丸々与えて、満足するまで食わせる。

「相変わらずね」
「妖怪はあまり変わらんものだ」
「あなたもよ、レイ」
「理がコロコロ変わったら困るだろ」
「そうね、迷惑極まりないわ」

 束の間の平和を、ルーミアを見ることで実感する。

「何があった?」
「……人類は地球を捨てるわ」
「均衡が崩れたか」
「ここはそうでもないけど、各地で敗走が始まってるらしいわ。幾つか滅んだ国もあるみたい」
「行き先は?」
「月よ。穢れがなく、妖怪のいない世界」

 月。かつて旧世界の人々が夢見て果たせなかった地。
 旧世界のころ、いつか彼女の夢が叶った時の為に浄化していた。もはや、夢の片鱗すらないが。
 未だ浄化し続けているのは、未練か。

「神がどうにかすると信じていたが……」
「レイが神様じゃないの?」
「一応、神より上位存在だ。下手に関与できん」

 いつぞやか神の類が大挙してやってきて、喧嘩を売られて返り討ちにして、拝まれるようになってしまった。神の力ですら本当にどうしようもない時に頼ってくるが、最近は全く見ない。あ、異位相空間に家を建てたからか。死んだと思われたかも知れん。

「それで、いつ出発だ?」
「明後日よ。さよならを言いに来たの」
「そうか。寂しくなるな」
「カケラも思ってないくせに」
「月は今も浄化し続けているからな。穢れがなければ寿命はなくなるだろうよ。生きていればまた逢える。時間感覚のおかしい俺なら、あっという間だ」
「別れを惜しんだ私が馬鹿みたい」
「『サヨナラ』じゃなくて『またな』、だ。気分次第で月に行くかも知れんし、そう長い別れでないかもな」
「そうね。レイほど非常識なら……」
「約束するか」

 俺は小指をエーリンに突き出す。

「? ああ、昔言ってた誓いの儀式?」
「そんな大仰なものじゃない。指切りだ」
「必要ないわ。私の大好きな理使いさんは、誓わずとも約束を守る子よ」

 そう言ってエーリンは俺の小指を握る。

「約束。また逢いましょう」
「ああ、またな」



 ロケットが飛んでいく。満月の月に向かって一直線、地球の自転も月の公転も知ったことではないと言わんばかりに。
 妖怪が押し寄せる中、最後に残った都市から人間は逃げだすことができた。破壊の限りを尽くした妖怪は、逃げ出した人間を追うこともできない。
 そして彼らは気づく。人間が地上から全て消え去ってしまったことを。人間を食うことができなければ妖怪は存在することはできない。そのままでも妖怪は自然と消滅してしまうが、そんなことは知らない人類は、長年の恨みと怨念を込めて、とんでもない置き土産を残していった。
 最高に汚い花火が見える。綺麗に等間隔に並んだキノコ雲、妖怪はやりすぎてしまったことを省みることもなく、殲滅されてしまった。

「……エーリンはこれを知ってたのかな?」
「知っていたとしても、俺達はどうしようもない。妖怪と何か妙な存在を月に連れては行けんだろう。それに――――」
「それに?」
「約束した。俺達が死ぬとは思ってはいないさ」

 月に行った人類は多分、この楽園には戻ってこない。安定して住めるようになるまで時間はかかるだろうが、それから後はわざわざ穢れた、自らが穢した大地に戻ることはないだろう。月が安定したら、地上を浄化しよう。



《あとがき》

 ベルカ戦争を参照(冗。
 永琳登場の巻。

 白鳥座イ(発声不能)アヴァロン人。断りをいじれば発声できるけど、そんなことには使わないレイさん。マザコンじゃないけどマザコンだなぁ、この人。そんなつもりはなかったのに。


 月は無垢なほど光に力は宿る。



[21665] 5
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/04 17:03
 時々神がやってくる。
 というのも、俺がちょっと理を書き換えれば世界は清浄になるのだ。ちなみに、人類が月に行って隠れる必要になくなった我が家は表世界に移転した。おかげで神が俺の存在を再確認してしまった訳だ。やはり死んだと思われていたらしい。

「理使い殿に頼るしかないのです!」
「月人が戻ってくる可能性」

 あの日から、俺はかつて新世界と呼んでいた時代の人類を『月人』と呼ぶようになった。

「たとえ戻ってきたとして、何ができましょう! 理使い殿の力さえあれば……」

 若い、小さな少女の姿をした神はおおげさに身ぶり手ぶりを加えて訴えてくる。何人目だったか。もう忘れた。

「あんまり自由がすぎると、俺が俺を制することができなくなる。もし、貴様らが創り出した人類が地に満ちたころに侵略してきたらどうする。月に月人の楽園ができるまで、地上を浄化する訳にはいかん。月人が月に定着すれば、穢れている地上にはそうそう降りてこん」

 人は土地につく。開拓した新天地を、穢れのない世界を捨ててわざわざ穢れた地上へ戻ってはこないだろう。ましてや、壮絶な戦争ののちに絶滅しかけた月人だ、生に対する執着はかなりのものだ。遺伝子に刻まれていると言っていい。かつてエーリンは不老不死になるための薬を研究していたし、似たような研究はかなりの数だといっていた。軍事研究に次ぐ規模だとも。

「あと50、いや、100年待て。100年後から500年かけて地上を浄化する。月人に怪しまれぬように、ゆっくりと。それまで天界で待て」
「本当ですか?」
「次、誰か文句言いにきたら、神界を封鎖する。600年後まで誰も出ることを許さんから、そのつもりで」
「は、はい!」
「ああ、普通にお茶をしにくるなら問題ない。それは歓迎しよう」
「え? 本当ですか!?」

 眼が輝きだす。神といっても少女、甘い菓子類は大好きなのだろう。今日出したジンジャークッキーは、密かになくなっていた。

「封鎖されたら600年は来れんな」

 意地悪、それは充分自覚している。

「は! 他の皆にも徹底させます!」

 現金なやつだ。まあ、これからは文句は来ることはないだろう。



 結果、その日から一切の文句は来なくなった。こっそり神界に行ってみたら、理由がわかった。甘党の神々が、直談判しようとする神を実力で排除していた。

「うわ……」
「神様ってこうも俗っぽかったのね……」

 全ては甘いもののため。
 これは歴史に残してはならない。断腸の思いで『世界の記憶』の黒歴史カテゴリに隔離した。



 600年。
 長いようで短かった。
 ルーミアが新しい菓子の開発に目覚め、神がちょくちょくお茶をしに来て。

「そろそろ完全に浄化されるな」
「今でも充分綺麗な世界だとは思うけど」
「変化なき世界など、壊れないガラス細工と一緒だ。ありがたみがない」
「ん~。よくわからないわ」
「いずれ理解できる」

 世界は変化があるから美しい。四季なき世界などつまらん。死ぬ前はそんなこと、考えたことすらなかったが、余裕ができたからなのか。

「こんにちはー」
「また来ましたですよ~」

 神が来た。
 『甘党』という組織を組んで、ローテーションで我が家に遊びに来る。毎日。
 目的は、全知全能の神でさえ未だつくれない人類の英知、お菓子である。

「ルーミアちゃん、今日は何?」
「抹茶外郎よ」
「初めてのですね? 楽しみです~」

 姦しい。
 女3人寄ればというが、いや、俺もいるから4人か。しかし俺はカウントすべきなのか。

「ふむ。外郎か。ならば玉露だな」

 いつもは洋菓子ばかりだから、多種多彩な紅茶を用意していた。緑茶は久しぶりだ。

「あー、いつもありがとうございます~」
「ありがとうございます!」
「なに、暇を潰してくれる対価だ」

 よく冷えた外郎が出される。材料は俺が出したものだが、完全にルーミアの手製だ。

「この中に俺が出したものが紛れている。当ててみろ」
「簡単ですよ」
「おいしい方がルーミアちゃんのです~」

 毎回思うが、素粒子に至るまで全く同じものをコピーして出しているのに、こいつらはそれを見分ける。理でも判らないことはあるということを知った。並行世界のルーミアが作ったものだと見分けられない。解せぬ。
 最初は戯れで始めたことだが、今では恒例行事だ。うっかり間違える奴がたまにいて、ルーミアに菓子を取り上げられるのを見るのが楽しみになっている。

「そういえば、大地完全浄化記念祭をやるとかで、神界が慌ただしくなっています」
「今度はまた『母なる海』から始めないといけないから、創造神さまは鬱々しいってぼやいてました~」

 それは、確かに。長い時間をかけて育てたものが理不尽に一気に消え去って、また創らなければならないとしたら。

「俺が手伝うと伝えておけ」
「了解です」
「はい~」

 一度目は神すら存在しなかった世界。二度目の世界は神ですら手に負えなかった世界。三度目、これからの新世界は、俺が介入する。
 人類という種は、確かに特別なのだ。その知識、その姿。この宇宙に存在するほぼ全ての知的炭素系生物の姿は『人間』なのだ。ある程度知恵を持った種が人類種に似る理が、『ヒトガタの理』という理が存在する。対して、ほぼ同数を誇る知的珪素系生物は様々な形をしている。
 対して、妖怪や精霊・妖精、幻想種における『ヒトガタの理』は各種族によってあったりなかったりするために、まんまバケモノから普通に人と見分けがつかなかったりするものまで、その姿は幅広い。
 そもそも妖怪とは、人類種の存在に依存する生物、概念によって生かされている生物だ。憑喪神などはその最たるもの。物理的な攻撃では滅多なことで死なないが、概念攻撃ではあっさり死ぬ。
 第二世界で月人が置き土産は、極めて高濃度の『穢れ』という汚染概念をまき散らすことで、炸裂だけで致命傷を負わなかった妖怪にトドメを刺したのだ。当時の月人の科学がどれほどのものかよくわかる。彼らは相手にしていたもののせいか、幻想さえも操っていた。

「人類なくして妖怪は在りえんか」
「ふぇ?」
「なんですか、それ?」
「いや、独り言だ。少し考え事をな」

 声に出ていたらしい。

「そういえば、次の世界の終着はどうするつもりなんだ、神側としては?」
「結構がんばって制御するらしいです~」
「ただ、今回みたいにまた制御しきれなくなったらどうしようという話をちらほらと聞きますね」
「問題は妖怪なのですよ~」
「妖怪なくして世界のバランスは保てません」
「第一世界は、妖怪は存在しなかったんだが」
「え?」
「そんなはずはないですよ~」

 俺が神として奉られていた時代、第一世界に妖怪やその他異形は存在しなかった。
 『世界の記憶』にアクセスしても、第一世界には一切の記述が存在しない。いや、違う。

「……妖怪によってバランスが――――ん? 神が生まれてからだな、妖怪が発生したのは。両者の理の発生に因果はない、ふむ。成程、理が自然発生している。人間の記憶や強い想いが理に影響するのか」
「どういうことですか?」
「第二世界の神や妖怪は、第一世界の人の想いによって生まれたようなもの、ということだ」

 人間は想像を現実にしてしまう能力がある。たとえ夢物語であろうと、幻想であろうと。俺が人や巫女に語った、母に聞かされた物語、それはいつの間にか世界中に広まり、人の意思や思想に影響を与えていた。バタフライ効果、というのだろうか。
 とあるベストセラーになったホラー小説は、多くの人々の記憶に残り、そこから発展する物語が残留思念となり力場が発生し、理にわずかな歪みを発生させる。
 俺という存在を知った人類は、『レイ』という存在ではなく『神』というものに対し想像を膨らませ、宗教的概念を発生させ、世界の終焉の際には信者が祈った。
 それらの歪みは長い時間をかけ新たな理を発生させ、結果、第二世界ができるころには『神』と『妖怪』が発生した。

「嘘!?」
「まっさか~」
「真実はどうだろう。理すら不変ではない、ならば『在り得ない』ことなど存在しない」

 少しだけ、理をいじる。
 俺の隣に少女が現れた。俺と同じ姿の。

「俺が一人だけではなかったら」
「全く同じ意思と思考を共有している複数というのは、『在り得ない』?」
「それこそ在り得ん」
「人類はいずれ理にいきつくだろう」
「神を超え、あるいは俺の居る高みにまで」
「はじめに言葉ありき、次に神ありき」
「実際にその通りだった。言葉から、それに付随する想いから、神は生まれた」
「ならば、言葉は誰が発したんだ?」
「人間だ」

 俺が交互に言葉を紡ぐ。妙な感覚だ。俺は一人なのに躯が二つある。
 理が俺を支配し、俺もまた、理を支配している。俺は理のもとに存在を許されている。理は、俺という制御がなければ安定できない。だからこそ、ちょっとしたこと、ちょっとした改変は許される。理が許してくれる。あまりにも大規模な理の改変は、俺の存在にも多大な影響を与えるだろう。あるいは消えてしまうかもしれない。理に、世界に存在を否定される、それだけは勘弁願いたい。不安定な理のもとに、ルーミアやエーリン、この先生まれるであろう母さんをさらしたくない。母さんが生まれるかはわからないけど。

「さて。もう時間だな」
「あ、丁度帰るころには神界の夜ですね」
「ごちそうさまでした~」
「ああ、俺も神界に用があるからついでに送っていこう」
「え? それはありがたいですけど~……」
「ルーミアちゃん、置いていっていいんですか?」

 この二人が言うのは、俺から離れるとルーミアがしばらく不機嫌になる現象のことだ。しばらく菓子を自分で全部消費するようになるので、甘党の党員はなるべく避けたいのだろう。

「問題ない」
「俺が行く」

 答えるのは俺の分身、いや、俺そのもの。

「本当に分身なんですね~」
「いや」
「俺も」
「俺だ」
「わけわかんないですよ……」

 正直、俺にも理解しがたい。理解できていても、それを言葉にはできない。表現には限界がある。理で直接『理解』させるのが最も手っ取り早いが、他人に理を使うのは嫌だ。自己満足に過ぎないのだろうが。

「そう深く考える必要はない」
「理使い様がそういうのなら」
「気にしませんけど~」
「さあ、行こう」
「はい」
「おじゃましました~」



 日本神話におけるやたら難しい名前の神どもは激減し、北欧神話やギリシャ神話に出てくる神もだんだん減ってきた。たとえばラグナロクは第二世界の崩壊のことを指すらしく、海の向うではほとんどの神が消えてしまったらしい。
 そもそも神話なんてものがあやふやで不確かなものであるが故に、未来の人間の妄想などフィクションが多分に含まれている。消えた神がまだいることになっていたり、まだ存在する神が遥か昔に死んだことになっていたり。俺がいることによるバタフライ効果である可能性は否定できないが。

「それで、何の用ですかな」
「手伝いだ。近いうちに種を蒔くんだろ」
「理使い殿が手伝いを? これはこれは、明日には世界が滅びますな」

 この創造神、大陸の方から流れてきた流れ神だ。
 つまりは、神の国境とでも言おうか、そんなものがすでに崩壊している。こと、日本列島圏に関しては。
 日本が超無節操宗教国家なのはこれが理由か、などと本気で考える。前世では、もう神なんて言葉すら誰も口にしてなかったが。

「貴様の世界だけがな」
「まだ私は死にたくはないので、丁重にお断りさせていただきますぞ」
「貴様の意見は訊いていない。そうだな、美人系と可愛い系、どっちの美少女になりたい」
「美、美少女!? なりたくはありません! 股間の大樹とはサヨナラなど!」
「そういえば、噂があったな……浮気したい放題していると、貴様の伴侶が泣きながら」
「そ、それは直接聞いているではないですか!」
「安心しろ、たとえ女でも愛してくれるらしい」
「いやあああああああああ!!」

 理の書き換え。対象、そこの創造神。
 足先から消えていき、完全に消滅したら、また足先から現れる。おっさんがほんわかした可愛い美少女に。

「ぬぐああああああああ!! 私が! 股間のカノンが!」
「やかましい。奥さんが許してくれたら戻してやる」

 幼女じゃないだけマシだと思え。

「さて、ついでに言うと能力も強化できている。『生命を創造する程度の能力』からどう進化した?」
「ううう……」
「戻ったとき、キャノンを小さくされたくなければ」
「『創造を司る程度の能力』でありますぞ!」
「減点。5mmマイナス」
「なんですか、その嫌な予感のする数字は?」
「外見に相応しくない発言の度に銃身長を5mm切り詰める」
「いやあああああああああああ!!」
「黙れ。それにしても、生命だけではなくなったか。司るということは制御も可能と見ていいのか?」
「は、はい。長期的な修正などは可能と思われますぞ、いや、思われます!」

 恐怖は学習が早くていい。

「とりあえず、緊急でどうこうはできないか。そんときは俺がどうにかしよう」
「しくしく。理使い殿も一人称が『俺』じゃないですか……」
「私、とでも言えばいいのか? 一人称以外は充分女として通用するから問題ない。ああ、今日から世話になる」
「は?」
「手伝う、と言っただろう? 安心しろ、夫婦の営みは邪魔しない」
「そんなああああああああ……」



《あとがき》

 レイさんにはちょっとはっちゃけてもらいました。
 暇でしょうし。仲のいい娘の頼みは断れません。漢として。女だけど。

 神話の神様って色々と無節操です。妹とか姉とか母とか弟とか。
 当時にはよほど貞操観念が薄かったりサブカルチャーが蔓延していたに違いない。
 とすると、今の日本は神の国か。あれ? いろいろ辻褄があう……?

 なんて冗談はさておき。

 月人がオルタネイティヴⅤに似ていると聞いて。
「あ。そう言えばすげー状況的に似てる」
 ちなみに、月人がオルタ5を実行したときの置き土産は核ではありません。妖怪は物理ダメージに強いとされていることから、精神攻撃系兵器を月人は使っていたのでは? という発想を。
 普通の物理法則に法った兵器では、後に紫の月侵攻の際に妖怪が大敗するはずもなし、妖怪との戦いの歴史=月人の歴史だから妖怪のこともよく知っているだろうし。
 『穢れ』というものが核汚染なら、月は放射線ダイレクト照射だし、『穢れ』=汚染概念ということで。

 永琳=旧世界の巫女は、最初はそのつもりだったんだけど、妖怪のいない世界の人間では後々おかしなことになりそうなので、人類ごと火星行きもしくは絶滅してもらいました。巫女、なんかもったいない気も。



 ネギま要素と聞いて、何のことかわからなかった。
 ダチに訊くと、「火星の異位相世界みたいなの=魔法世界」
 なるほど。
 でもネギまは――――どうしようかなー。
 火星は木星衛星で稀少鉱石が見つかるまで放置しようかと(マテ



 そろそろ書き溜めがなくなる……
 実はかなり前に書いたものを修正して出しているから早いわけで。



[21665] 6
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:4943e38d
Date: 2010/09/04 20:32
《まえがき》

 少し暴走気味です。
 注意書きにある、トンデモ成分と言い訳しても許されないかも。
 耐えられない方はこの話を飛ばして次を読むことをおすすめします。
 あるいはこの作品を見限るのも手です。

――――いいわけおわり。



 母なる海に生命の素をまいて、放置すること数億年。
 あまりにも恐竜が発展してヒトガタに進化しそうな未来が見えたので隕石を落とす。核の冬のような現象が起きては、変温動物たる恐竜は絶滅せざるを得ない。寒さに強い哺乳類が主に生き残った。これも俺のわがまま。
 やがて一部の進化はヒトガタに収束し、人類が地上の王に君臨しだした。
 人間が増えるということは、それだけ思考の多様性があるということであり、同時に似たような思考もあるということだ。
 万物への感謝が、『神』という定義の元となり、それに対する信仰という概念が発生した。
 概念に基づく想い――――祈りや信仰は理を自然に歪め、新たな、今までの『神』とは違う『神様』を産み出した。
 それまでの間、非常に退屈だった。

「退屈だな」
「そうだねー」

 数億の年月を退屈に過ごす、これは致命的だ。退屈で死ねる。暇潰しを考えるのが再優先事項になる。

「並行世界に行こうか」
「並行世界?」
「面白いものがある可能性が否定できん。なにせ可能性が無限に存在するんだからな」

 全は急げ、俺はワームホールを開ける。

「しっかり掴まれ。離れたら見つけるのが骨だ」
「わかった」

 ダイヴ・イントゥ・ザ・ホール。
 穴の向うは奇妙な空間。ここは世界の狭間。眼のようにも見える、世界が無数にあった。それの、世界の記憶を片っ端から読み、適当な世界に潜り込んだ。

「……変な世界」
「黒い太陽、湯気が出ている黒服の住民……」

 うろうろしている、真っ白な顔の住人たち。明らかに人間ではない。
 確か、世界の記憶では『闇人』というらしい。

『? あ、あああああ!?』
「? どうした」

 今まで俺たちに気づかなかったらしい。
 その驚声は周囲に伝播し、闇人たちは逃げていく。看板などから鑑みるに言語系が違うらしく俺の言葉は伝わっていないらしい。

「絶滅したはずの人間がなんで、だって」
「……闇の妖怪だからか?」
「わからないわよ」
「じゃあ、敵意はないことを伝えられるか?」
「ん」



 結局和解はできず、何故か古びた蝙蝠傘を貰って、その世界を後にした。

「不思議な世界だったな」
「なんか懐かしい感じがした……」

 まさか。ルーミアは俺の深層意識が創り出した存在だ、俺に逢う以前の記憶もなかった。
 だが、もしかしたら。無限の可能性の並行世界、そこから連れてきた可能性が……ないか。理で消さない限り存在する『世界の記憶』に、そんな記述はなかった。

「……傘、か。夜にこんなのさして歩いてたら、普通に妖怪だな」
「レイ、真っ黒だもんね」
「ルーミアの闇よりは白いさ」



 次の世界、遥か未来の世界だった。俺の知っている日本、母さんが教えてくれた過去。日本が最もダメだった頃の世界。に似て非なるらしい世界。
 娯楽には事欠かなかった。確かに、ネットワークとオタク文化は楽しい。母さんが絶賛したのも理解できる。

「この時代の人間の想像力……秒単位で新しい世界ができつつある……」

 人間の脳内にある世界は現実だ。無限の並行世界では、俺達が持っている常識から見て如何に破綻んしていようと、それが常識であることもある。並行世界の先には、どんな世界だってあるのだ。たとえば、もしかしたらこの世界に俺達のことを描いた物語があるかもしれない。少なくとも、ルーミアが出てくる物語は存在した。
 日々新しい物語が生まれ、その数だけ世界はある。誰も、世界を創り出す責任を知らず。知ることが無理なのだが。

「……ダメ文化というのも頷ける。確かに中毒性は高い」

 面白い物語が多すぎるのだ。待つのに慣れているはずの俺が、漫画や小説の発売日をまだかまだかと待ちきれない現実がそこにはある。ネット小説は途中で連載が途切れたりするし、削除されたりする。同人誌などは稀少にも程がある。うむ、完全に染まっている。いや、まだ戻れるはずだ。

「ねぇねぇ、レイはザ・ワールドできる?」
「できんことはないが……」

 何よりルーミアの汚染が激しい。
 さすがに日常会話にジョジョネタを使うことを禁じてはいたが、俺に理を歪めて「スタンドのある世界にしろ」という。拒否すると、今度は俺に「スタンドを出せ」。
 これはまだいい方で、どこから持ってきたのかエロゲをやっては妹やメイドロボが欲しいとか言いだす始末。見た目幼子でも18は遥かに超えているから、問題ないといえば問題ないが、なんだかなぁ。

「後もう少しで真緋蜂改が倒せるから待て」
「昨日は紅魔郷やってたのに?」
「人類に挑戦されたんだ。やるしかなかろう」

 そういえば、東方シリーズなるSTGにルーミアが出てきた。「私あんなに馬鹿っぽくないー」とか言っていたが、俺が思うに遥か未来の話だろう。リボンなんかつけていたし。

「あ」
「あ」

 さすが真緋蜂改。人を遥かに超越した俺の動態視力・神経伝達速度を上回るとは。二葬式洗濯機、おそるべし。

「あ、あと幻想殺し」
「それをするとルーミアが消えてしまうんだが」
「う。だったらレールガン」
「ダウト。俺はレールキャノンがいい」

 大艦巨砲主義。温泉ウェポンしかり、パラケルススの魔剣しかり、ストーンヘンジしかり、ノスフェラトしかり。撃つからには一撃必殺。

「とりあえず、ザ・ワールド。時は止まる」
「おお~」

 世界が色を失う。窓の外は誰も何も動くものはない。

「そして時は動き出す」
「最強のスタンド使いがここに……」
「レールキャノンはいつかどこか別の場所でな」

 俺がやるとエネルギー変換効率100%の亜光速を実現しかねない。地球上で撃てば、地軸、自転速度、公転軌道に影響が出る計算結果が出た。手加減すれば問題ないが。

「まだ飽きてはいないが、敢えてこの世界にいる必要もないか。適当にアマゾン異世界便の理を作って家に輸送しようか」
「限定版が変えないのは痛いけど……」
「予約特典や初回特典より、俺は中身がどうかに重点をおくタイプだからな。それに、しまう場所に困る。作るのはやぶさかではないが、めんどい」
「うぐぅ……」
「次の世界の方がつまらない可能性もあるが、そうでない可能性もある。この世界でニートよろしく働きもせず遊び続けるのはさすがにどうかと思う」
「元の世界でだって、いつも働いてないじゃない」
「むぅ。世界が発展しだしたらなにかするさ。さぁて、怠惰な日常にさよならだ」
「うう……新たなる旅路! さらば友よ」
「ジョジョ禁止」
「うぐぅ……」
「あゆも禁止」
「ひ、酷い気がする」



 思えば、闇人もとあるゲームに出てきていた。
 あの時は理解できなかったが、なるほど。虐殺されれば恐れるようにもなるか。
 とりあえず、それからは物語の世界でちょこちょこ関与してみたりして暇を潰していた。



「あれは……」
「破壊神だ! 破壊神が来た!」
「すげぇ……サンダーボルトでチルミナータルと互角だ」

 メビウスのいないユージアで彼の代わりに戦ったり。



「たった2機でハイヴが陥ちたですって!?」
「詳細は一切不明です。機体についても、衛星写真が何枚かしか……」
「見せなさい!」
「は」
「何よこれ……」
「通信に応答があり、『こちらはネクスト・ナインボールセラフ、及びネクスト・メタルウルフ』と」
「……ネクスト」
「……え? オリジナルハイヴ陥落、月のハイヴが消滅したとのことです!」
「はぁ!?」

 BETAを太陽系から駆逐したり。



「何があった!?」
「襲撃だ! たった二人で半数がやられた!」
「管理局の二柱の黒き破壊神だ!」
「投降しよう」

 気分で管理局に入局したり。そこにいた破壊神の器と意気投合して一緒に行動したり。



「なっ……神より神々しい美少女だとっ……」
「だからってさらうな!」
「む? 躯が勝手に……おのれ、織天使たる俺を惑わすとは、貴様! 何者だ!」

 ロリコン天使に誘拐されたり。



 いくつもの可能性世界をフラフラしていた。
 ほとんど理をいじってはいないが、この躯、理に護られているだけあってハイスペックだ。何かに巻き込まれるように運命の理を書き換えると、新しい世界に楽園を創っる羽目になったり、人間がどこまで強くなるか研究させられたり、ファンタジー世界のラスボスにされたり。傍観するのも楽しかったし、裏で暗躍するのも面白かった。それなりに楽しく生きた。少なくとも、暇ではなかった。
 さすがに元の世界が始まる前に戻ったが。

「しかしまあ、今度は普通に発展しているみたいで」
「がんばりました!」

 未だ許されず、というか夫婦揃って百合に覚醒した創造神が元気に宣言する。
 聞いてみたところ、「え、そうでしたっけ」もはや男だったことも忘れているようだ。億という時間は残酷にも彼を彼女にしてしまったということか。この神、完璧に萌えキャラと化している。ああ、俺も随分汚染されている。
 余談だが、子供もできていたらしい。これが一番謎だが、気にしてはいけないことなのだろう。どうやったらできた、とか、どっちが生んだなど、正直聞きたくない。

「じゃ、これからもがんばってくれ」
「はい! 後のことは任せてください!」

 約束は果たすべきなのだろうが……夫婦なのか? 仲はいいに越したことはないが……いっそ男の娘にしてやろうか?
 まさかこうなるとは思わなかった。性格も変わって一途になったし……むう。
 とりあえず、問題が出るまで放置だな。



「旅に出よう」
「え? あのひきこもりのレイが、旅に?」
「ひきこも……俺の何人かは既に世界中を回っているんだが」
「じゃあ、なんで?」
「ルーミアと、この世界を見て回りたい。これじゃ不満か?」
「う、ううん。レイと一緒ならどこにだって行くよ」

 なつくのはいいのだが、これは少し盲目的ではないだろうか。ヤンデレというか、なんというか。

「とりあえず、適当に気の向くままフラフラと行くか」
「無計画ね」
「運命の理をいじった。無計画に行っても面白いことに遭遇できるさ」
「相変わらずムチャクチャね」
「さあ行こう」
「え? なんの準備も」
「要るか? 準備」
「そうだね」
「いってらっしゃい」

 俺が見送ってくれる。正しくは、俺がルーミアを見送っている。

「いってきまーす」

 かくして旅が始まった。
 たとえ理で未来が判るとしても、それは無限の分岐の一つ。さて、この世界がどの分岐先に向かうかなんて、選んでみるまで判らない。
 だから、これからが楽しみだ。



 心苦しいが、ルーミアから幾つか記憶を奪った。
 汚染が激しすぎる……



《あとがき》

 若気の至り。番外。空白期、彼らは何をしていたか。
 私は絶対にン億年もだらだらと過ごすなんてできない!



 BETAを駆逐するのはオービタルフレームの予定が、ACERにナインボールセラフがネクストになってきたからつい。
 大統領も気軽に宇宙に行くし、AC5で多分出てくるといいな!


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.988738059998 / キャッシュ効いてます^^