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【芸能・社会】「私は無罪です」 押尾学被告 裁判員裁判初公判2010年9月4日 紙面から
合成麻薬MDMAを一緒にのんで容体が悪化した知人女性を死亡させたとする保護責任者遺棄致死、麻薬取締法違反(譲り受け、譲渡、所持)の罪に問われた元俳優押尾学被告(32)の裁判員裁判初公判が3日、東京地裁(山口裕之裁判長)で行われた。芸能人が審理の対象となる初めての裁判員裁判で、女性の救命が可能だったかどうかが主な争点。押尾被告は遺棄致死罪と譲渡罪については否認し無罪を主張、検察側と真っ向から対立する姿勢を見せた。残る2つの罪は大筋で認めた。 昨年12月に逮捕されてから約9カ月ぶりに法廷という公の場に姿を見せた押尾被告。罪状認否で「私は無罪」と従来の主張を繰り返し、死亡した田中香織さんの両親らが見守る前で謝罪の言葉もなかった。六本木ヒルズの密室で起きた事件の真相はどこまで明らかになるのか。 逮捕前に短髪だった髪の毛は肩まで伸び、目立っていた白髪も消えていた。黒のスーツに白のワイシャツ、ブルーのネクタイに黒の革靴。裁判長から“無職”の確認を求められ、小さな声で「はい」と答えた押尾被告だが、しゃれた格好からは元俳優の自負ものぞいていた。 先月発売のファッション誌で“獄中手記”を公開し、「押尾学というブランドをはく奪され、死に物狂いで無罪を取る」などと、今回の裁判への決意も示していた。 罪状認否で押尾被告は、用意してきた紙を淡々と読み上げ、まず「私が田中香織さんにMDMAを渡したことはなく、田中さんが持ってきたもの」と主張。“保護責任”と“麻薬の譲渡”は当てはまらないとした。 続いて死亡時刻についても、「起訴状記載よりもっと早い時刻です」と指摘し、たとえ119番したとしても間に合わなかったとして“致死”にも反論。さらに人工呼吸や心臓マッサージを施したことを理由に「私は田中さんを放置していない」と“遺棄”も否定し、保護責任者遺棄致死罪の成立要件をことごとく否認。押尾被告は獄中で法律関連などの本を読んでいたといい、理路整然とした話しぶりに勉強の成果も反映したようだ。 一方、検察側の冒頭陳述では、押尾被告が以前から複数の女性にMDMAを渡して“ドラッグセックス”に興じていた事実を指摘。田中さんが急性MDMA中毒を発症した後も、薬物使用の発覚を恐れて迅速な119番通報をしなかったと断じた。また田中さんが発症する直前の午後5時10分には妻からのメールを受信し、すぐ返信していたことも明らかにした。 検察側は田中さんの容体悪化の過程を「怒りの状態」「ボクシングの状態」「笑いの状態」「無表情の状態」「エクソシストの状態」「呪怨の状態」と、ホラー映画のタイトルを引用するなどして時系列順に名前を付けて状況を再現。裁判員に刺激的な表現で理解を促す場面も見られた。 事件当日に押尾被告が田中さんに送った「来たらすぐいる?」というメールについても、知人らに証拠隠滅を依頼する過程で「オレ変態だから、自分の男性器がいる? という意味にして」と語っていたことを紹介。検察側からは押尾被告の心証を悪くする言葉が相次いだ。 一方、弁護側は冒頭陳述で、田中さんの被害者イメージを崩すような証言や証拠を列挙。暴力団組長らと交際していた過去や、以前からの薬物使用を示唆する勤め先のクラブママの証言、背中一面に入れ墨を彫っていたことなどを次々と挙げて、押尾被告の無罪主張を後押しした。 冒頭陳述に続いて検察側と弁護側双方から計76点の証拠が提出され、この日は閉廷。全面対決の中で時折つぶやいたりメモを取ったりしながらも、終始うつむき加減で無表情を貫いた押尾被告。今後、田中さんの両親など19人の証人尋問も予定され、密室事件の核心に迫る攻防が17日の判決まで続く。 ◆検察と真っ向対決押尾被告は「保護責任はありません。(女性を)少し休ませれば助かると思い、救急車を呼ぶことは考えなかった。すぐに蘇生(そせい)させようとしたが、そのかいなく死亡した。わたしは無罪です」と述べた。 裁判員は、この日は発言の機会がなかった。 起訴状によると、被告は東京・六本木ヒルズのマンションで昨年8月2日午後、飲食店従業員田中香織さん=当時(30)=と一緒にMDMAをのみ、田中さんの容体が急変したのに、救急車を呼ぶなど適切な救命措置を取らずに放置して同6時47分〜53分ごろに死亡させた、などとしている。 冒頭陳述で検察側は「被告がMDMA服用の発覚を恐れ、救急車を呼ばなかった。すぐに119番すれば、救命できた」と指摘。弁護側は、田中さんの死亡推定時刻を午後6時ごろと主張し「119番しても助からなかった」と訴えた。被告が田中さんにMDMAを渡したかどうかについて、検察側は、被告が田中さんに「来たらすぐいる?」とのメールをしていることなどから、被告が渡したと主張。これに対し弁護側は「田中さんが自分で入手し、持参したものを飲んだ」と反論した。 このMDMA使用の罪で被告は昨年11月、懲役1年6月、執行猶予5年が確定している。 第2回公判は6日。違法薬物を被告と一緒に使った経験があると供述している女性ら計6人の証人尋問を行う。13日の第6回公判で被告人質問。14日の第7回公判で結審し16日に評議、17日に判決の予定。 ◆押尾学(おしお・まなぶ) 1978(昭和53)年5月6日、東京都生まれ。4歳から8年間米ロサンゼルスで過ごす。98年Vシネマ「新・湘南爆走族−荒くれナイト3」で主演し、俳優デビュー。同年、ドラマ「愛、ときどき嘘」に出演し注目され、99年「太陽にほえろ!」の復活版で17代目の新人刑事役に抜てきされる。2005年、「KARAOKE」で映画初主演。主なドラマ出演作に「20歳の結婚」「ダブルスコア」「クニミツの政」など。02年、LIV(りぶ)のアーティスト名で歌手活動開始。05年、音楽活動に専念するため大手所属事務所を離れ、インディーズで活動する。08年5月−09年8月エイベックスに所属した。06年女優の矢田亜希子と結婚し、一男をもうける。09年8月、合成麻薬MDMAを使用したとして麻薬取締法違反(使用)の容疑で逮捕され、直後に矢田と離婚。
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