地元に断りなく、勝手に設計図をつくり、米軍基地を建設しようとする。しかも基地を使用する軍用機の飛行経路をありのままに出さないで。
日米両政府は米軍普天間飛行場の移設先として、地元の頭越しに名護市辺野古崎と隣接水域で合意。これを受け、日米の専門家は代替施設の位置や配置、工法に関する報告書をまとめた。
報告書では1800メートル滑走路2本から成るV字案と1本のI字案を併記。いずれも埋め立てでメリット、デメリットを列記し米側はV字案、日本側はI字案を推している。
V字案は総面積205ヘクタール、埋め立て面積160ヘクタール。絶滅危惧(きぐ)種ジュゴンに必要な藻場の消失面積は78・1ヘクタール、いくつかの動植物の生息環境が失われるとしている。
I字案はそれぞれ150ヘクタール、120ヘクタール、67ヘクタールである。動植物の生息環境への影響は今後評価する必要があるとしている。経費は埋め立て面積が減る分、I字案がV字案と比べ3%少なくできるという。
I字案が出てきた背景にはV字案に比べ環境への負荷が小さいことと政権交代をアピールできる思惑があった。
日米共同声明で報告書のタイムリミットが8月末日と明記されていたとはいえ、誰に向かって説明をしているのか。さっぱり分からない。
情報開示も不十分だ。V字案で米側が求めた陸上部に近い新たな飛行ルートは明記していない。一方でI字案では名護市安部の集落やカヌチャリゾートホテル上空の飛行が想定されている。
V字案は集落上空を飛行しないことや騒音問題を抑えるため考え出された。集落上空を飛ぶようでは、沖合に出して騒音被害を抑える条件で移設を容認していた人たちの意向にも逆行する。
9月以降、外務、防衛両省の審議官級で絞り込む作業を続け、日米安全保障協議委員会(2プラス2)での合意を目指すという。
地元は移設そのものに反対している。空中でスケジュールが進んでも実体は何もない。仲井真弘多知事は「日米両政府が当事者の沖縄県抜きで勝手に決めている」との姿勢を示している。
強権的に新基地を建設できる時代ではない。名護市の稲嶺進市長は報告書について「話にならない。言語道断だ」と批判している。稲嶺氏は「陸にも海にも新基地は造らせない」と公約して当選した。民意という意味ではこれほど重いものはない。
在沖米海兵隊8000人のグアム移転は、普天間移設とパッケージとされ、2014年までに完了するとしていた。だが、グアム移転は米国の環境影響評価(アセスメント)で、工事関係者らの急激な人口増加が見込まれ、インフラ整備が追いつかず、事実上、数年間ずれ込むことが明らかになっている。日米合意はもう破綻(はたん)しているとみていいのではないか。
日米両政府は実現性が限りなくゼロに近い辺野古移設に精力を傾けるよりも、移設断念を前提に「戦略的対話」を重ねていくことが日米関係にとっても有益なはずである。