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辺野古報告書/実現不能な空証文 日米合意の破綻明らか2010年9月2日  このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 twitterに投稿する

 もつれた糸をほどこうにも、根掛かりがひど過ぎて右往左往する姿が明るみに出た―。
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関する日米の専門家による報告書を読み解くとこんな表現が浮かぶ。
 航空基地を運用する上で、核心を成すのは軍用機の種類や飛行経路である。米側はV字形の滑走路をめぐり、陸域のより近くを飛ぶ経路を採用せよと主張し、日本政府の説明は誤りと指摘してきた。
■オスプレイ配備
 軍用機を飛ばす当事者である米側が「正直に地元に説明せよ」と要求し、日本側の隠ぺい体質を批判する喜劇のような交渉が続いたようだが、日米の報告書は飛行経路を明示しなかった。
 岡田外相は会見で、米側が主張する飛行経路の見直しについて、米海兵隊が沖縄への配備計画を明らかにしている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備をにらんだものと明らかにした。普天間代替基地への配備を明確に示唆したのは日本の閣僚で初めてだ。
 老朽化が進む普天間飛行場の主力輸送ヘリからオスプレイへの更新は織り込み済みで、海兵隊は2009年米会計年度の航空機配備計画で、14年10月からの沖縄への配備を明記していた。
 開発段階で墜落事故が相次いだオスプレイの安全性に不安を抱く県民の反発を恐れ、日本政府は照会さえせずに「正式な通告がない」として配備を一貫して否定してきた。都合の悪い情報を封印する安保政策の悪弊そのものだ。
 垂直離着陸ができる一方で、水平飛行が可能なオスプレイは飛行経路が大回りとなり、騒音も拡大するとの指摘がある。
 オスプレイ配備の可能性を認めざるを得ない状況に追い込まれた以上、その飛行実態にそぐわない形で進められてきた環境影響評価(アセスメント)の見直しは責務となった。政府はこれ以上、不誠実な対応を続けてはならない。
 根幹の対立点をひた隠しにする一方で、報告書は「検証及び確認の過程で修正の可能性が排除されない」と記した。沖縄側が要望すれば、それに沿った修正も可能だとにじませている。
 普天間飛行場の県内移設を再確定された5月の日米合意の是非を問う県民世論調査で、84%が辺野古移設に反対した。4・25県民大会で示された県内移設ノーの世論は圧倒的多数を占め、高止まりしたままである。
 今回の報告書で誘い水を向けても、沖縄社会が移設受け入れに傾く要素は極めて乏しい。
 仲井真弘多知事は「単なる絵空事だ」と批判し、地元名護市の稲嶺進市長は「折り合うことはない」と交渉の余地がないと強調した。地元の反発を恐れるあまり、航空基地の最重要事項さえ表に出せない報告書とは一体、誰のために、何のために書かれたものなのだろうか。自縄自縛に陥るとはまさにこのことではないか。

■県内移設の論拠希薄
 そもそも、なぜ沖縄に新たな基地を建設してまで海兵隊の航空基地が必要なのか、なぜ、県外移設を主張した民主党政権が辺野古に回帰したのか。県民を納得させる説明は尽くされていない。論拠を示すことができないからだろう。
 中国と台湾が「自由貿易協定」を取り交わし、人的、経済的交流が深化する台湾海峡の火種は小さくなった。米議会で海兵隊不要論が浮上した論拠には、沖縄の海兵隊が「抑止力」として機能していないという疑念の台頭がある。
 さらに在沖海兵隊員8千人のグアム移転は、米政府による環境影響評価で工事や移駐による急激な人口増に伴う社会資本整備が追い付かないことなどから、大幅に遅れることが確定的になっている。
 日米合意実現の前提となるさまざまな要素が破綻(はたん)し、袋小路に陥りつつある中で、沖縄の頭越しの作業が続いているにすぎない。
 滑走路に関し、報告書はV字形とI字形を併記した。新たなI字は、自公政権との違いを出したい民主党政権の思惑が生み出した産物であり、埋め立て面積や経費に違いはあっても、五十歩百歩だ。
 辺野古の海を埋め立てて新基地を造る日米合意のほころびは大きく、もはや覆い隠せない。日米政府は、県内移設が、限りなく実現不能に近い「空証文」と化しつつあることを自覚すべきだ。


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