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2010年9月4日(土)付

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小沢氏とカネ―仮に訴追を受けたなら…

民主党の小沢一郎前幹事長が、自らの資金管理団体の土地取引事件で、検察審査会の議決により「強制起訴」となれば、訴追に応じると明言した。それ自体は、きわめて当然な判断である[記事全文]

パレスチナ―和平への道を米国が示せ

イスラエルとパレスチナ自治政府の直接和平交渉が、1年9カ月ぶりにワシントンで再開された。オバマ米大統領が双方に強く働きかけた結果である。大統領には11月の中間選挙に向け[記事全文]

小沢氏とカネ―仮に訴追を受けたなら…

 民主党の小沢一郎前幹事長が、自らの資金管理団体の土地取引事件で、検察審査会の議決により「強制起訴」となれば、訴追に応じると明言した。

 それ自体は、きわめて当然な判断である。

 憲法の規定で国務大臣の訴追には首相の同意が必要だ。小沢氏はきのうのテレビ出演で、首相になっても自らの訴追に同意し、裁判を「堂々と受け、潔白を主張したい」と語った。

 小沢氏の党代表選立候補には、「訴追逃れ」との見方がつきまとってきた。選挙戦序盤のうちに、そうした批判を払拭(ふっしょく)しておきたかったのだろう。

 しかしながら、大きな問題はむしろそこから先に横たわっている。

 仮定の話になるが、「小沢首相」が起訴されたとき、私たちは何とも異様な光景を目にすることになる。

 刑事事件の被告は、一審の公判には必ず出席しなければならない。

 判決の確定までは「推定無罪」の原則が働くとはいえ、私たち日本国民は裁判が終わるまで「被告席に立つ首相」をいただき続けることになる。

 そのような首相が諸外国とどうやって首脳外交を展開するのか。公判中に危機管理や安全保障に絡む緊急事態が発生した場合、どう対応するのか。

 裁判闘争をしながら、最高指導者の重責も果たす。そんなことが現実に可能だろうか。

 小沢氏はこの間、検察の不起訴で「不正がなかった」ことが証明されたと繰り返してきた。しかし正確には、刑事事件として立件するに足る証拠が認められなかったということだ。

 小沢氏のこれまでの説明には、腑(ふ)に落ちない点がたくさん残っている。

 小沢氏は訴追を受ければ国会での説明に応じる考えも示したが、その前に、この代表選の中できちんと疑問に答えてもらわなければならない。

 4億円の土地購入の原資をめぐる小沢氏の説明は二転三転した。手元資金があるのに、利息を払ってまで銀行融資を受けるといった不自然な資金の流れについても、納得のいく説明はない。小沢氏の了解なしに秘書が独断で処理したというのも、額面通りには受け取りにくい。

 そもそも、この問題に対する小沢氏の認識は甘いと言わざるを得ない。

 収支報告書の虚偽記載を、相変わらず「手続きミス」だと言っているが、収支報告書の記載が信用できなければ、政治資金公開制度の根幹が揺らぐ。単なる形式犯ではない。

 今回の代表選では、カネと数の原理が幅をきかす「古い政治文化」の是非も重要な論点となる。説明責任を軽んじる政治もまた、古い政治である。

 小沢氏がまずここで疑問に答えなければ、せっかくの政策論争の機会も十分に生かせない。

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パレスチナ―和平への道を米国が示せ

 イスラエルとパレスチナ自治政府の直接和平交渉が、1年9カ月ぶりにワシントンで再開された。

 オバマ米大統領が双方に強く働きかけた結果である。大統領には11月の中間選挙に向けて外交成果を強調する狙いがあるだろう。しかし、外交ショーだけに終わらせてはならない。

 交渉を取り巻く状況は厳しい。イスラエルは和平で強硬姿勢をとる極右政党を含む右派連立政権である。一方のパレスチナ自治政府はヨルダン川西岸だけを支配し、ガザはイスラム組織ハマスが抑え、政治的に分裂している。

 米政権は1年以内の合意を目指すとするが、直接交渉で双方が合意に達する可能性は低いと言わざるを得ない。

 だからこそ、和平実現には米国の強い指導力が必要である。むしろ、双方の主張を聞いたうえで、オバマ大統領が双方に具体的な和平案を提示するような踏み込んだ役割を期待したい。

 オバマ大統領は就任以来、和平はイスラエルとパレスチナの2国共存によって実現すると明言してきた。

 それは、イスラエルが西岸とガザの占領を終わらせ、パレスチナ国家が独立することで成就する。そのためには西岸のユダヤ人入植地問題の処理や、双方が首都と主張する聖地エルサレムの帰属で合意する必要がある。

 アラブ首脳会議はすでにイスラエルが占領地から撤退すれば集団でイスラエルと国交を正常化することを決めている。イスラエルにとっては自国の安全を確立する重要な機会である。

 1948年のイスラエル独立で生じたパレスチナ難民問題も忘れてはならない。国連総会は難民の帰還権を認めたが、イスラエルは約500万人の難民が国内に帰還すれば国が破綻(はたん)すると懸念を強める。しかし、難民問題が未解決では紛争は終わらない。

 オバマ大統領の和平仲介では、同じく米民主党のクリントン元大統領が2000年12月に示した包括的な和平指針の提案が参考となるだろう。

 提案では、イスラエルが西岸の9割以上から撤退するが、停戦ラインに近い入植地はイスラエルに編入し、その代わりに、パレスチナ側にイスラエルの土地を与える土地交換案が示された。エルサレムは双方の共通の首都とし、難民問題ではパレスチナ国家を主な帰還先とすることを唱えた。

 クリントン提案は任期切れ直前に出され、成就しなかったが、オバマ大統領には双方を説得し、国際社会の理解と支持を得る時間が残っている。

 米国が踏み込んだ案を出せば、和平の実現に悲観的になっている双方の民衆に希望を示すことができる。双方の選挙で、和平派が影響力を強めるうねりが出てくるかもしれない。

 交渉再開にあたり、そんな期待を描きつつ、和平の行方を見守りたい。

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