ニュース争論

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ニュース争論:戦争の過去と向き合う 東郷和彦氏/内海愛子氏(1/6ページ)

東郷和彦 京都産業大世界問題研究所長=東京都千代田区で、梅田麻衣子撮影
東郷和彦 京都産業大世界問題研究所長=東京都千代田区で、梅田麻衣子撮影
内海愛子 恵泉女学園大名誉教授=東京都千代田区で、梅田麻衣子撮影
内海愛子 恵泉女学園大名誉教授=東京都千代田区で、梅田麻衣子撮影

 日韓併合100年の菅直人首相談話やシベリア抑留者の特別措置法成立、米大使らによる被爆地訪問など、先の戦争をめぐり新たな動きが出ている。戦後65年のいま、過去とどう向き合うべきか。【立会人・岸俊光編集委員、栗原俊雄】

 ◆日本は欧米に先んじ植民地支配を反省した--京都産業大世界問題研究所長・東郷和彦氏

 ◆冷戦の中の講和が戦後処理に問題残した--恵泉女学園大名誉教授・内海愛子氏

 ◇アジア植民地支配

 立会人 菅首相が日韓併合100年に当たり「痛切な反省と心からのおわび」を表明し、朝鮮王室儀軌(ぎき)を引き渡す首相談話を発表しました。

 東郷 一番大事なのは「その意に反して行われた植民地支配」とはっきり述べたこと。日韓の識者約200人が今年の春、「併合条約は無効」とする声明を発表した。私は「無効」というところまでは賛成できなかったが、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書にも記されているように「日本は、武力を背景に韓国内の反対をおさえて、併合を断行した」とまでは言ってよいのではないかと考えていた。今回の談話はそれに近いところまで言っていると思う。

 内海 植民地支配については、95年の村山富市首相談話(村山談話)から一歩踏み込んだ歴史認識を示したが、懸案の戦後補償などは新しいことには何も言及していない。今後への含みをもたせた文言もあり、政府がどう行動するのか注目している。

 東郷 菅首相からはこれまで、対外問題に関して、信念に基づく発言を聞かなかったと思う。「右」からの批判は当然考慮されただろう。その中で、全体として今回の談話は評価できるのではないか。

 立会人 確かに日本の保守派からは反発が出ています。

 内海 その反発に関連して、東郷さんはご著書で、国内で激しく議論しているうちに外の世界で何が起きているのか分からなくなっている、国内のいわゆる従軍慰安婦の強制性を否定した発言が海外で猛反発を引き起こし、2007年の米下院における「慰安婦」への公式謝罪決議案の採択につながったと指摘した。歴史認識や戦後処理の問題を具体的に解決していくことが、アジアはもちろん国際関係においても重要だと思う。

 東郷 日本には戦後処理の問題はすべて終わっているのに首相が談話を出すのはけしからんという意見があり、他方、それでは済まないという意見もある。コンセンサスを見つけられずに、対立抗争が続く。そのことが外から批判され、信用を下げている。全員が同じ意見になることは難しいが、オールジャパンとしての方向性を探したい。

 ただ日本なりに過去に向き合い、けじめをつけてきた面はある。第一に戦犯裁判の判決を受け入れたサンフランシスコ平和条約。第二に村山談話を頂点とする90年代前半の自らの反省。「左」「右」対立の混迷の中から日本自身が選び取ってきたのが村山談話だと、私は思う。

 内海 村山談話の背景には、敗戦から50年の節目にアジアに向かって政府の姿勢を示す必要があったことがある。さらに国内では80年代からアジアの被害者の声を聞き、戦争責任の問題に取り組んできた弁護士や市民の運動があった。91年の元「慰安婦」の証言も衝撃だった。国会議員や政府関係者が被害者の証言を聞いて調査し、93年には河野洋平官房長官談話が出ている。

 東郷 和解のベースはすべて村山談話にある。外務省時代に戦後処理の仕事をしたから、痛いほど分かる。あれがなければ政府の立場は心棒が欠けてぐらぐらしていた。

 内海 外務省とは別に、私たちは戦争裁判でもサンフランシスコ講和条約でもほとんど取り上げられなかったアジアの被害者の証言を聞き、資料を調べるなどの取り組みをしてきた。被害者の謝罪と補償を求める痛切な叫びと怒りに応えて、90年代には戦後補償を求める裁判が起こされた。弁護士はもちろん、証言を聞いた市民もこれを支えて活動を続けている。

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2010年8月28日

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