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第1章 統一教会における経典問題

【4】 『統一思想』の問題点

統一思想

 更に、「統一原理」の“哲学的分野における理論展開”として、李相憲先生の書かれた『統一思想』(広い意味で『勝共理論』も含む)がありますが、そこにおいても同様な問題が起きています。

  『統一思想』は、著者である李相憲先生が他界されたこともあり、その理論の扱う範囲(量)とその展開の深さ(質)において、多くの課題を残したままであると言わざるを得ません。

  本来であるならば、具体的な地上天国の建設を標榜する統一教会にとって、ありとあらゆる“既存の学問との関連”を扱わなければならない「統一思想(統一理論)」は、今後、ある意味では、全ての学問分野に亘って、最も充実させていくべき領域であるにもかかわらず、研究に携わる人材や資金面でも、教団として十分な取り組みをしていると言うことはできないでしょう。

 事実、知的で探究心のある多くの統一教会員は、この思想部門の充実発展にどれほど大きな期待を寄せていることでしょう。しかし実際は、李相憲先生を超える思想家としての後継者が出てきている様子もなく、現実的な理想国家建設に必須であると考えられる、具体的な「(統一)政治論」「(統一)経済論」「(統一)教育論」等も、未だ発表されてはいないというのが現状です。

  ただ「統一思想」には、『原理講論』『統一神学』には全く登場しない、文先生の『御言』にある沢山の新しい重要な概念の一部分(「四大心情圏」「三大王権」)が解説されてはおりますが、その取り扱い方は決して充分なものとは言えず、かろうじて「改訂版」の中で“付録”として取り上げられているに過ぎません。(『新版 統一思想要綱(頭翼思想)』統一思想研究院 光言社 2000年9月18日初版)

  更に、“宗教と科学の統一”を主張する立場からは、当然「原相論」「存在論」「認識論」といった「比較思想」「比較哲学」のテーマだけではなく、「比較宗教」としての「罪論」「堕落論」「救済論」「メシヤ論」「霊界論」「天使論」といった様々な“宗教的テーマ”に関しても、『統一神学』だけではなく、『統一思想』の観点からも“哲学的科学的論証”を展開する必要があるにもかかわらず、それらについての言及がほとんどありません。

  最新版の『統一思想要綱(頭翼思想)』(統一思想研究院)のまえがきに、「本書の内容は今まで発表された文先生の思想の主要部分を整理しただけであって、文先生によって、今後、より深く、より新しい真理が続々と発表されることが予想される。」(8頁)と述べられているように、『原理講論』と同様、『統一思想』も“真理の一部分的展開に留まっている”ということは明らかな事実であると言えるでしょう。

  従って、“地上天国の具体的実現”の為には、まだまだ数多くの学問的分野にわたって、その理論的“不足面”が補われなければならず、現段階の「統一思想」をもって神の願いを成就することは、現実的には“不可能である”と言っても過言ではないでしょう。

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救済論の問題点 目次
はじめに
第1章 統一教会における教典問題
【1】統一教会の「教理」と『原理講論』
【2】『原理講論』の“教典的位置”としての問題点
【3】『統一神学』の問題点
【4】『統一思想』の問題点
【5】「統一教会の教理」に関するその他の「解説書」
【6】文先生の『御言』の中にある「最終的真理」
 
第2章 統一教会の救済観の問題点
【1】「霊肉共の救い」を主張した統一教会
【2】統一教会の主流的救済観─「法廷論的贖罪観」の問題点
【3】「法廷論的贖罪観」が強調されるようになった経緯
【4】「法廷論的贖罪観」の強調は、“反対牧師対策”がその背景。
【5】「法廷論的贖罪観」の問題点。
【6】統一教会内にあった「二つの見解」
【7】「実存と法廷的評価」の分離は「キリスト教型の救済観」
【8】「罪」と「堕落性」の関係
【9】「罪と堕落性」という“対比の仕方”の問題点
【10】「堕落性本性」の内容と「罪」との関係
【11】「性質としての罪」の概念
 
【12】「堕落性」という言葉
【13】 「思い」や「性質」は“罪ではない”と主張する統一教会
【14】 「堕落性と罪」のより適切な対比表現
【15】 キリスト教における「堕落性と罪」の概念
【16】 「原罪」ついての二つの捉え方
【17】 人類始祖の犯罪行為としての「原罪」概念の問題点
【18】 「神の血統」の真の意味
【19】 「淫行関係」と「血縁関係」の概念の混乱
【20】 「罪の遺伝(転嫁)」とは?
【21】 「法廷論的贖罪観」の論理的問題点
【22】 もう一つの救済観─「生物学的血統転換論」の問題点
【23】 統一教会に混在する「二つの救済観」
【24】 『御言』にみる「正しい血統的転換論」
【25】 「心の遺伝」
【26】 「救済論」における「義認」と「聖化」
【27】 統一教会の救済論の重点は、「義認」より「聖化」
【28】 「義認と聖化」は“同時的”に実現
【29】 「罪と堕落性」「義認と聖化」からみた「イスラエル(選民圏)の変遷」
【30】 統一教会の本来の目的は「聖化」の完成
【31】 「第三イスラエル」としての統一教会と「第四イスラエル」時代の到来
あとがき