黒のスーツに白のワイシャツ姿で入廷した押尾被告。静まりかえった東京地裁最大の104号法廷に、押尾被告の手錠をはずす「カチン」という金属音が響いた。
昨年11月2日、麻薬取締法違反罪で懲役1年6月、執行猶予5年の実刑を受けた際は短髪だったが、肩口まで伸びた“ロン毛”に変貌していた。
検察側による起訴状の朗読後、押尾被告は文書を取り出し、容体が急変した香織さんについて「少し休めば戻るだろうと思い、救急車を呼ぶことを思いつきませんでした」と弁明。「私は田中さんにMDMAを渡していません。私に保護責任はなく、無罪です」と早口で読み上げた。
東京拘置所で半年過ごした押尾被告は、ほおがこけ、やつれた表情。公判中はじっと目を閉じたり、香織さんの両親や弟が座る傍聴席を鋭いまなざしで振り返った。証拠調べでは大学ノートを開き熱心にメモをとった。
最大の争点は香織さんの救命が可能だったかどうか。起訴状によると昨年8月2日夕、東京・六本木ヒルズのマンション一室でMDMAを一緒に飲んだ香織さんの容体が急変したにもかかわらず、救急車を呼ぶなどの適切な救急措置を取らずに放置。同午後6時47〜53分ごろに死亡させたとしている。
押尾被告の知人が119番したのは同9時19分ごろ。検察側は同5時50分ごろ、香織さんに中毒症状が現れ、6時ごろには白目をむくなど容体が急変したとし、「被告がMDMA服用の発覚を恐れ、救急車を呼ばなかった。すぐ119番すれば救命できた」と対応を批判。同被告が08年ごろにはMDMAを使いはじめ「複数の女性と違法薬物を使った」とも指摘した。
一方、弁護側は、死亡推定時刻を急変直後の午後6時ごろと主張。「119番をしても助からなかった。被告は懸命に人工呼吸や心臓マッサージをしており、放置、遺棄していない」と訴えた。
押尾被告は保護責任者遺棄致死罪のほか、麻薬取締法違反(譲り受け、香織さんへの譲渡、合成麻薬TFMPPの所持)の4つの罪に問われている。遺棄致死罪と譲渡罪は無罪を主張し、残る2つは大筋で認めた。次回公判は6日に行われる。