民主党の小沢一郎前幹事長は過去20年間、日本の政治を刷新しようと努めてきた。彼の最新の勝利は、自らが築いた民主党が昨年、長期政権の座に あった自民党から権力を奪取したことだ。しかし、今月行われる民主党代表選で菅直人首相に挑戦することで、小沢氏は民主党を待望の審判に追い込み、これに より党が二分される可能性もあり、民主党にダメージを与えるようなものになろう。
これは「政治的な一匹狼」の評判を持つ小沢氏にとって は、いつものパターンである。同氏は1969年、自民党の国会議員として政治家のキャリアをスタートした。しかし、自民党が大きな改革を法制化できなかっ たことに不満を募らせ、93年に自民党を離党した。90年代に彼が樹立した連立は一時的に政権の座に就いたが、すぐにその座を失った。その後小沢氏は邁進 し、米国への依存度低下や財政拡大のほか、国連により密接に関わった国際貢献など、日本にとって従来のものに替わる構想を打ち出してきた。
9月14日の民主党代表選への挑戦は、小沢氏が低迷する日本経済の再生でどのような構想を持っているかを示すものであるべきだ。民主党はまだ、一貫した成 長戦略を策定できないままでいる。このため消費者、経営者、投資家などの間で懸念が強まっている。デフレが続くなか、日経平均株価は9000円を割り込 み、第2四半期の経済成長率は0.1%と低迷。今や世界第2位の経済大国は日本ではなく中国だ。
これらの問題も重大だが、党首選は何より も民主党の政治的存続にかかわるものとなろう。昨年の衆院選での歴史的勝利の僅か数カ月前に代表辞任に追い込まれた小沢氏は、鳩山由紀夫前首相の失政で党 の信頼感が低下したことも見てきた。鳩山氏の後任に据えた菅直人首相が、参院選の投票日の数日前に予想外の増税論議を展開し、同選挙での民主党大敗要因と なった。
日本では最も鋭敏な政治家の1人である小沢氏は、2年目の民主党政権が1年目同様、問題含みなものになることを理解している。能 力がないという党のイメージは、大衆の意識に消えることなく刻み困れてしまう。だからといって、自民党が再び権力の座に就くことにはならないだろう。しか し、それにより、多くの小規模政党の形成が促され、日本の政治的不安定な状態が予想以上に長期化することになる。党内では菅、鳩山両氏とも小沢グループに は属していないため、小沢氏は党首選に立候補する以外の選択肢はないと感じていた。
菅・小沢バトルは、民主党の魂をめぐる闘争として見る ことができる。小沢氏はこの戦いでは「始原主義者」として、民主党は、先の総選挙で勝利することができた選挙公約を守らなければならないと主張している。 彼は歳出拡大を支持し、子ども手当支給と高速道路無料化など再配分主義者的な政策を掲げている。また、2000年代の改革の目玉でその後の改革の先駆けに なるはずだった郵政民営化を後退させたい意向だ。これは、債務残高の対国内総生産(GDP)比が200%に達している日本の財政をさらに悪化させる危険な 戦略だ。
一方、菅氏は、民主党政権下で景気が低迷してきたことを見てきて、妥協する必要性も認識している、民主党内では形勢不利な現実主 義者を代表している。菅首相は、歳出を抑制することを約束する一方、大幅な法人税減税も提案している。ただ現実主義者が抱える問題は、日本を立て直す強制 的なマスタープランがないことだ。
菅、小沢両氏はいずれも、日本が抱えている問題に対する答えを持っていないようだ。だからこそ、彼らの 戦いは、小沢氏が結局は日本の指導者になりたいという個人的な願望だけに関心が集まっているように見える。日本はまだ、経済再生のために必要とされる活発 な議論を行っていない。この議論の遅れが長引けば、審判を迎える可能性がさらに強まる。そのような事態になれば、日本の政治は一段と混迷することになろ う。これが小沢氏の永続する遺産であるのならば、残念なことだ。
(マイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長)