【動画】院内感染の疑いで9人死亡 帝京大病院、46人感染確認
院内感染が相次いだ帝京大学医学部付属病院の病棟(手前)=3日午後、東京都板橋区、朝日新聞社ヘリから、水野義則撮影
謝罪する森田茂穂病院長(中央)ら=3日午後、東京都板橋区、安冨良弘撮影
多剤耐性アシネトバクター=国立感染症研究所提供
帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)は3日、複数の抗生剤が効きにくい多剤耐性の細菌アシネトバクターによる院内感染が起き、1日までに46人が感染したと発表した。ほぼ全員が血液や腎臓などに重い病気をもっていた。27人が死亡、このうち9人は感染と死亡との因果関係を否定できないという。厚生労働省によると、この菌による院内感染では過去最大の規模になるという。
感染した患者は、35〜92歳の男性27人、女性19人。60代以上が7割を超える。急性骨髄性白血病や慢性腎不全など、血液や循環器に重い病気を患って免疫力が低下している人が多い。病院の調査では、9人のほか、12人は持病が原因で死亡。残り6人は因果関係が不明だという。
病院の説明によると、5月の連休明けごろから、内科系病棟で約10人の患者から菌が検出された。病院は、感染者を個室で管理し、病棟を一時閉鎖。部局をまたがるスタッフでつくる感染制御委員会で調査も始めた。
カルテや保管していた検体を調べ直したところ、昨年8月から今年9月までに46人がアシネトバクターに感染していたことがわかった。患者が確認されたのは10病棟で、フロアは4階から17階までの8階で患者が見つかった。
最初の死亡者は昨年10月。感染源は特定できていないが、菌は人工呼吸器の管やその周りから検出された。
感染患者のうち近くの医療機関に2人が転院。菌を検出した1人には転院時に伝えたが、もう1人には転院後に菌を検出して初めて知らせた。このときも院内感染の事実は伏せていたという。
昨秋から複数の病棟で患者から散発的に菌が検出されていた。今年2月にも検出が相次ぎ、病院は内部に注意喚起の文書を出したが感染制御委員会は把握していなかった。一部の抗生剤が効いたため担当医は委員会などに報告せず情報が共有されなかった。
厚生労働省は都道府県に対し、多剤耐性アシネトバクターが病院内で発生した場合に報告を求める通知を昨年1月に出している。しかし今回、報告は今月2日になってから。報告を受け、都は板橋保健所と2日、病院に立ち入り調査や厳重注意をした。
報告が遅れたことについて森田茂穂院長は「当時は患者への治療に100%専念することを念頭に置いていた」と話している。
アシネトバクターの院内感染では、2008年秋〜09年1月に福岡大病院(福岡市)で23人が感染し4人が死亡した例がある。このときは、韓国で手術を受けた患者から菌が検出され、ここから感染が広がった可能性がある。(熊井洋美、小坪遊、月舘彩子)