HDD内蔵型オーディオプレイヤーとしてトップクラスの人気をほこる「iPod」がフルモデルチェンジした。3世代目となる今回は、本体の薄型化やボタン類の変更、クレードル対応などで、使い勝手をさらにアップしている。15GB版の新iPod(4万7800円)を、1週間に渡って使ってみたので、さっそくリポートしよう。

●そのスリムさにビックリ!

 まずびっくりするのが、手に持ったときのスリムさ。写真で見ただけでは、従来モデルとあまり違いを感じないが、手に持てば歴然とする。とにかく、スリムでコンパクトなのだ。

 新iPodのラインアップは、10GB/15GB/30GBと、HDDの容量別に3種類用意されている。今回使用した15GBモデルの厚さは15.7mmだ。数値的には従来機より3mm薄くなったに過ぎないが、数値以上スリムになったように感じる。なお、30GBモデルだけは3mmほど厚めで、従来の最薄モデルである旧10GBと同じ厚さとなっている。


●旧iPodとの比較
旧iPod(10GB版、左)と比較。操作ボタンの配置が変わり、すべてのボタン、ホイールがタッチパッド化された(右)。メカスイッチが一切ないため、故障の確率も減っているという。本体にねじ穴や開閉部品がないことも合わせて、ホコリなどにも強いだろう

新iPod(15GB版、右)の厚さを旧機種と比較。旧iPod(10GB、左)に比べて大分スリムになっている。上部にあったFireWire端子は、新iPodでは専用コネクター化して本体下部に移動。ヘッドホンジャックも、差し込みが浅くても接触不良を起こさないために、形状変更された。音声とリモコンがアースを共用しないため、ノイズの混入を抑えるメリットもあるだろう

●旧iPod(10GB版)と新iPod(15GB版)のサイズ比較
機種名旧iPod(10GB)新iPod(15GB)
外形寸法61.8(W)×102(H)×18.4(D)mm 61.8(W)×103.5(H)×15.7(D)mm
重さ185g158g

 デザイン面も変更されている。従来は、前面の樹脂板のカドが角張っていて若干持ちづらい面もあったが、新iPodでは角が丸くなり、持ちやすさがアップした。このデザイン上の変化も、薄さ、小ささを感じさせるポイントだろう。背面はこれまで同様、ステンレス製の鏡面加工で、指紋のあとなどが目立ちやすい欠点がある。

 さらに、操作ボタン類の機構や配置も変わった。これまで、円形タッチパッド周囲に配置されていた操作ボタンが、ディスプレイ下にヨコ一列に並んだ。これらのボタン類もタッチパッド式に変更されている。片手で操作した時、すべてのボタンを親指でスピーディーに操作できるようになったのはうれしい。

 操作ボタンを使った曲選択のしやすさも、快適そのものだ。30GBモデルなら7500曲ほども収録できるが、普通に考えればそれだけのライブラリからお気に入りを探すのは至難のワザ。だが、iPodなら、円形タッチパッドを使って、アーティスト/アルバム名/曲名/作曲者名などのリストから素早く曲を選べる。タッチパッドをなぞる速度で、スクロール速度が変わるのはもちろん、収録曲が少なければ遅めに、多ければ速めになる設定がされているのだ。こうした、ヒトの感覚にフィットしたチューニングのうまさは、他社の同様の製品を寄せ付けない。

 なお、15GB版と30GBには専用リモコンが付属する。手元だけで本体を操作できるのは便利だが、ディスプレイを備えず曲名などを表示できない。iPodで最も残念に思う点だ。


暗い場所では、バックライトを点灯可能。液晶部分は白色に、操作ボタン部は淡い赤色に光る。バックライトの消え方も、緩やかにフェードアウトするため高級感が漂う。これまで「MENU」ボタンの長押しが、バックライト点灯のスイッチだったが、メニュー第一階層にもバックライトの点灯メニューが追加されている

●Macintosh/Windowsがひとつのパッケージに

 パソコン連携で新しい機能が加わっている。従来はWindows版とMacintosh版は別製品だったが、今回からひとつのパッケージで両OSに対応した。初期設定では、Macintosh用にHDDがフォーマットされている(HFS+)ため、Windows環境で利用する場合、FAT32に変換してから使用する。両OS間での共用は基本的にはサポートしないという。転送ソフトは、従来同様、Macintoshでは「iTunes」、Windowsでは「MUSICMATCH Jukebox」だ。


Macintosh環境下では、アップルが無償提供する「iTunes」を転送ソフトとして使う。最新バージョンのiTunes 4では、MP3よりも圧縮効率がよいAAC形式に対応したほか、オンラインで楽曲を購入できる「iTunes Music Store」を利用可能になった。iTunes Music Storeは、米国在住者向けのサービスで、日本からは楽曲を購入できないが、30秒の試聴やジャケットアートの閲覧などが可能。それだけでも、なかなか楽しい

Windows環境で利用する場合は、iPodのHDDの再フォーマットが必要。付属ソフトをインストール後、iPodを接続すると、再フォーマットを促すアラートが表示される Windowsでは「MUSICMATCH Jukebox」を転送ソフトとして利用。インタフェースがiTunesほど洗練されていないため、慣れないうちには操作に手間取る。なお、アップルでは、Windows用のiTunesを自社開発する予定である

 Win/Mac環境共に、パソコンとFireWire(IEEE1394)ケーブルで接続するだけで、自動的にソフトが立ち上がり、新しく加わった曲だけが瞬時にiPod内に転送される。同時に充電もしてくれるので、まさに"つなぐだけ"で運用できる。新型ではiPodを載せるクレードル「iPod Dock」も用意され、さらに接続がカンタンになった。なお、WindowsではUSB2.0接続にも対応予定。USB2.0ドライバーは6月から無償配布の予定で、USB2.0ケーブルは別売となる。

 テストとしてPowerBook G4 500MHzを使って300曲あまり、合計21時間分のMP3ファイルを転送してみたが、かかった時間はたったの200秒。60分のCDアルバム1枚が、10秒足らずという超スピードだ。


新採用されたクレードル「iPod Dock」。接続は本体下部に装備されたものと同じ、平形の専用FireWire端子。その左にはステレオミニジャック仕様のオーディオ出力端子を装備。手持ちのアクティブスピーカーやオーディオとつなげて、システムアップできる

 実際に新iPodで音楽を聴いてみたが、これまで同様に高音質だ。従来機では、高音部が若干ガサついて荒れた印象があったが、より滑らかになった感触だ。その分、高音部のパンチの強さは減ったかもしれない。ただ、これはあくまでもキャラクターの違いで、好き嫌いは分かれるだろう。クオリティではほぼ同等で、携帯音楽プレーヤーのなかでは最高クラスと言える。

 なお、Mac用転送ソフトの最新版「iTunes 4」では、初期設定のエンコード形式がMP3よりも圧縮効率がよいAAC形式に変更、ビットレートも128kbpsに改められた。無料配布の新ファームウエアをインストールすれば、従来モデルでもAAC形式に対応できるのはうれしい。音質的には、MP3の160kbpsとの差が分からないほどなので、HDDのスペースを効率よく活用できる。

●本体でプレイリストを作成可能

 今回追加された機能で特に便利と感じたのは、本体でプレイリストを作成可能になった点だ。従来機ではパソコン上で好みの曲順をプレイリストとして登録する必要があった。それが、通勤中の電車のなかでも、オリジナルのベストアルバムを作ることが可能になった。

 また、曲に自分なりの評価を付ける「レーティング」も、iPod本体で設定可能になった。曲を聴いたその場で評価を付け加えられるのは、操作上とても自然で、レーティング機能の価値も上がりそうだ。


本体でプレイリストを作成可能になった。リスト画面で曲を選択、円形パッド中央のタッチパッドを長押しすることで「On-The-Go」というメニューに曲が追加される。気に入った曲があれば、その場で好みの曲を集めた曲リストが作成できる。ただし、本体で作成できるリストは一つのみ 従来はiTunesなどの転送ソフト上で、曲のランク付け(レーティング)をする必要があったが、こちらも本体のみで可能になった。曲を再生中、選択パッドを2回押すことによって、レーティングの設定画面が現れる

 気になったのは、内蔵バッテリーが従来のリチウムポリマーからリチウムイオンに変更され、容量が1200mAhから630mAhへ減ってしまったこと。だが、スペック上の再生時間は、これまでの10時間から8時間へと容量ほど減ってはいない。実際に、かけっぱなしの状態で試してみたところ、スペック通り、約8時間再生できた。頻繁に曲をサーチで飛ばしたり、バックライトを点灯すると、若干、再生可能時間が短くなるようだ。また、ディスプレイに表示されるバッテリー残量は、あまり正確ではなく使い始めて2時間ほどで残量半分と表示されることもあった。


プレゼントにも最適な、美しい正方形のパッケージは初代から続くもの。今回、外装スリープデザインが黒と白のツートンカラー化して、従来の白からよりソリッドにイメージチェンジ。中の梱包もていねいで凝っており、買った製品を取り出すまでに、これほどドキドキさせてくれるプロダクトも珍しい

 とにかくかんたんに使いこなせて、新曲の追加やお気に入り曲の管理もラク。部屋で、車内で、電車のなかでと音楽のリスニング環境を根本から変えてしまうパワーがある。これまでHDD型のオーディオプレーヤーの弱点とされた、大きさ、重さも改善されているため、その点でためらっていたユーザーにも大きくアピールするはずだ。リモコンに液晶表示がない、指紋が付きやすいなどの惜しい部分はあるが、それを忘れてしまうほどの魅力に溢れた製品だ。

(吉村 永=ライター)

機種iPod(10GB)iPod(15GB)iPod(30GB)
HDD容量10GB15GB30GB
実売価格3万6800円4万7800円5万9800円
オーディオ形式AAC、MP3、MP3 VBR、AIFF、WAV、Audible(Windows環境では、MP3、MP3 VBR、WAVのみ対応)
連続再生時間8時間
外形寸法61.8(W)×103.5(H)×15.7(D)mm 61.8(W)×103.5(H)×18.7(D)mm
重さ158g176g
リモコン-付属
iPod Dock-付属
キャリングケース-付属
発売日2003年5月9日
詳細情報http://www.apple.co.jp/ipod/