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これがITベンチャーのリアル――堀江貴文氏が語る、小説『拝金』の裏側

Business Media 誠 8月24日(火)14時18分配信

これがITベンチャーのリアル――堀江貴文氏が語る、小説『拝金』の裏側
元ライブドア社長の堀江貴文氏
 若くしてITベンチャー企業を立ち上げ、数年で上場、時価総額を急激に拡大させていき、プロ野球チームや放送局の買収に動く……。

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 6月17日に発売された『拝金』は、そんなどこかで聞いたことがあるような筋書きの小説だ。著者は、証券取引法違反で一審、二審で有罪判決を受け、現在、最高裁に上告中の元ライブドア社長、堀江貴文氏。『拝金』は発売2カ月で5万部を突破、加えて電子書籍として1万部以上販売しているなど、静かなロングセラーとなっている。

 かつてライブドアがたどってきたような道をなぜ今、小説として書いたのか堀江氏に尋ねた。【堀内彰宏,Business Media 誠】

●実際にあった面白いエピソードをつなぐだけで、いいものは書けるはず

――『拝金』を書くきっかけを教えてください。

堀江 NHKドラマ『ハゲタカ』で描かれていたようなITベンチャー企業像に違和感を持ったからですね。社長室には神棚があるといったことが描かれていたのですが、いわゆるITベンチャー企業でそれはないと思いますよ。酉の市で売られている熊手も見たことがないというくらい、基本的に神頼みのようなものをみんな考えていないですし、そういう世代でもありません。

 また、『ハゲタカ』ではITベンチャー企業の社長が、主人公をピストルで撃ち殺そうとしますが、そういうのも誤解を生むのでやめてほしいんですよね。僕からすれば「どうやってピストルを手に入れるんだ?」と思います。悪いイメージばかり出てきています。

 押尾学さんやダイナシティの中山諭元社長がクスリで捕まっていましたが、そういう人たちはITベンチャー企業と関係ないですからね。僕は「麻薬や覚せい剤なんてどこで手に入るの?」と思いますし、ピストルなんてもってのほか。僕の周りの人たちに聞いても同じ認識なのですが、一般的にはそういうイメージなんですよね。

――覚せい剤取締法違反で中山社長が逮捕されたダイナシティにわざわざ手を出したということで、買収したライブドアも怪しいという連想が働いたんじゃないですかね。

堀江 ダイナシティに関して言えば、中山さんは逮捕されて、いなくなったわけなので、僕らは関係ないですよね。何でそこでなぜ関わり合いがあるという認識になってしまうんでしょうか。

 事業がうまくいっている会社を安く買うためには、問題を起こして社長が捕まったといったような会社でないと効率も良くない。買ったからといって、問題に関わっているかと考える人もいるみたいですけど、関わっているわけないじゃないですか。みんながそれをどうジャッジしているかということに、僕はすごく疑問を感じます。僕は、そういった暴力やドラッグなどに頼ってしまう小説やドラマの描き方に憤慨しているところがあって、それに対する1つのアンチテーゼとして『拝金』が生まれました。

 例えば、島耕作シリーズを読んでいると、「何回、暴力団と絡んでいるんだ?」と思います。あれを読んだ普通の人は、「企業というのは常にそういった闇勢力との関わり合いを持っているんだ」と思ってしまうんです。

 僕はヤクザみたいな人とは、1回も関わったことないですよ。偶然、名古屋駅のプラットフォームで、声をかけられたことがあるくらいです。1人で新幹線に乗ろうとしていたら、「堀江さんですか。ファンなんです」と言われて、「怖い人に声をかけられた」と思いつつ、やり過ごしたと思ったら、怖いボスみたいな人が来て、「困ったことがあったら……」と言われて名刺をもらっちゃった、くらいのことしかなくて、一緒にご飯を食べたりしたことも一切ないです。ましてや、脅されてどこかに監禁されたり、呼び出されたりしたようなことも一切ありません。

 『拝金』では「そういうことを書かなくても物語として面白くなるんだ」と示したかったんです。「お前ら適当なことを書いて、誤解を広めるなよ」という感じです。プロットを作る際に安易な取材しかしていないから、そうなっている部分もあるのではないでしょうか。

 外部の人でも、例えば山崎豊子さんはしっかり日本航空を取材して『沈まぬ太陽』を書いていますが、そこにヤクザが出てくるかというと、出てこないわけじゃないですか。もちろん、株主優待割引券を横流しして、社内で裏金を作ったりはしているのですが、それは一般社会でも普通にあることです。交通費をごまかしたり、私用で使ったタクシー代を会社に請求したりすることが大きくなっただけの話だと思います。一般の人が「ちょっと魔が差してしまった」という世界と、ヤクザの世界はとても大きな乖離があると思うので、それを一緒にされると困るなあと。

 僕はITベンチャー企業の内部で実際に経験を積んできたからこそ書ける実情があると思っています。暴力やドラッグに頼らなくても、実際にあった面白いエピソードをつなぎ合わせるだけで、いいものが書けるはずです。みんなは細かいエピソードとか知らないですからね。

 『拝金』に登場する、パーティなどに女性を集める「仕出し屋」の“サル”や、流れのイタリアンシェフの奈良橋さんなんかは、すべて実在の人物をモチーフにしたり、実在の人物の要素を合成したものであったりするのですが、そうした人たちのエピソードって通常の取材では出てこないと思うんです。インサイダーでない作家には書けない世界、あるいは何年もかけて取材しつくさないと出てこない世界だから、多くの作家は暴力やドラッグに逃げてしまうんだと思います。『ハゲタカ』では主人公がプールサイドで撃ち殺されそうになりますが、「そんな山場を作ろうとしなくても、実体験に基づいた面白いエピソードを積み重ねるだけでドラマは作れる」という気持ちが動機として一番大きなところでしたね。

――なぜノンフィクションではなく、小説形式にしたのですか?

堀江 小説でしか書けないことがあるからです。迷惑がかかりまくるし、面白おかしくできないからということもありますね。

 例えば、白トリュフとふぐのコースが出る店のエピソード。その店は実在していて、僕も初めて食べた時には「トリュフのゲップが出る」と感動したのですが、そのふぐ屋は小説と違って、カードで支払いができるんです。ただ、それだとインパクトが足りないので、現金でしか支払えない別のふぐ屋と合わせました。実話のハイブリッドなので、リアリティは保てますし、それでいてインパクトは倍以上になるわけじゃないですか。それが小説の面白いところですよね。空想でありえないことを書くと、実際にあったことのように感じられないので、実体験に基づいたエピソードを組み合わせて作りました。

――フィクションの体裁をとりながら、フジサンケイグループ内の権力闘争を描いたとされる『閨閥〜マスコミを支配しようとした男』を参考にされたのかなと思いました。

堀江 それも意識はしていますね。『閨閥〜マスコミを支配しようとした男』は絶版になっているのですが、その経緯として、フジテレビから圧力がかかったからなのか、その後『メディアの支配者』を出した中川一徳さんからクレームが入ったからなのか、どっちなのかなと思っていました。

 『拝金』は『閨閥〜マスコミを支配しようとした男』と同じく、徳間書店から発行されているので聞いてみたのですが、中川さんが雑誌で連載していた時の表現の一部を『閨閥〜マスコミを支配しようとした男』が流用したみたいなんですね。フジテレビからも何らかの話はあったのかもしれませんが、僕は知りません。

●グリーモデルが一番上手くいった時という設定

――今まで小説を書かれたことはあるんですか?

堀江 まったくないですね。2009年秋くらいに、担当することになる編集者と会ってからプロットを考えて、最初は漫画にしようと思っていたのですが、結局、小説にすることになりました。執筆期間は3カ月くらいで、書き上がったのは今年の5月くらいです。自分の経験なので、取材はゼロですね。

――『拝金』には“オッサン”と“藤田優作”という2人の主人公が登場しますが、設定はどのように決められたんですか?

堀江 主人公の2人は、簡単に言うと、僕の人格を両極端に半分に分けたような感じです。オッサンは、僕の実年齢より4〜5歳くらい上で、金を持っているけどその使い道に困っていて、世の中をシニカルに見ていて、すべてをある程度見通せるような人という設定。藤田優作は、バカで、無鉄砲で、若くて、何も知らなくて、でもやる気だけはあって、コンプレックスはあるけどそれを払拭するために一生懸命頑張る人という設定です。僕自身はいろんな要素の集合体で、実在の人物は普通そうだと思うのですが、小説の中のキャラクターだと両極端にした方が分かりやすいし、読者が感情移入できると思ったのです。

――藤田優作が立ち上げるITベンチャー企業が手がける事業として、伝書鳩育成ゲームというソーシャルゲームを選んだ理由は?

堀江 そんな極端な設定の20代前半の主人公が、短期間で上場するストーリーにしたかったので、そうするためにはどうしたらいいかと逆算して考えました。モデルとなったのはグリーなのですが、グリーがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をやろうとしていた時期を省いて、釣りゲーム(釣り★スタ)を伝書鳩育成ゲームに変えたという形です。

 時間がないので、実際に釣り★スタはやっていなくて、育成系ゲームもさわりくらいしかやっていないのですが、仕組みは分かります。競馬シミュレーションゲームの『ダービースタリオン』についても書いていますが、それもまったくやっていなくて、でも周りにやっている人はいっぱいいたので、何をやるかは分かっています。僕にとってのゲームは20数年前の『イース』『ソーサリアン』で止まっているので。ただ、そこで遊んだゲームにすべての要素が多分入っていると思うので、大体想像はつきますね。

 グリーは2004年に立ち上がったのですが、最初の2〜3年は手がけていたSNSがあまりうまくいかなくて、ミクシィの後塵を拝していたわけです。ただ、リクルートとKDDIの資本を入れて、auの公式サイトとなって、モバゲータウンのビジネスモデルを取り入れて大成功したわけです。

 それなら、最初からそれだけをやればいいだろうということで、『拝金』ではグリーがいきなり釣りゲームを始めたような設定にしました。そして、オッサンというある程度、業界に人脈のある人のバックアップが付けば、大きく成長できるだろうということです。グリーモデルが一番上手くいった場合という設定なので、リアリティはあるはずなんです。

 実際に海外ではFacebookやGrouponのように、2年くらいで売り上げが数百億円規模となる会社があるわけじゃないですか。「20代のフリーターで何のスキルもないけど、200万円くらい金を借りたら、そこまでいける可能性がゼロではない。ゼロどころか結構可能性がある」というリアリティを感じてほしかったんです。そうした起業物語に、「プロ野球チームを買収しようとしたらどうなるか」といったエピソードをくっつけました。

 上場のシーンも、実際に近いですね。ライブドア(上場時はオン・ザ・エッヂ)の上場記念パーティは地味だったのですが、その前に開かれたインターキュー(現GMOインターネット)の上場記念パーティでは当時イメージタレントになっていた木村佳乃さんのような芸能人が来ていました。上場を経験した人たちはみんな、このくだりを読んで共感するんですよ。上場日に証券会社の人たちが日本橋の老舗店とかに昼飯に連れて行ってくれるのですが、しょぼい接待で「こんなんでごまかすなよ」と思ったりするところとか。

 証券会社の社員をスカウトすることも普通に行われていました。公開引受部にいるような人だと野心が芽生えてくるので、ストックオプションをエサにどんどん転職していくんですね。

 『拝金』では上場記念パーティでの話として描いていますが、ボルドー5大シャトーワインを混ぜて飲むというのも、とある有名歌手の誕生日パーティで実際に行われたことです。また、2004〜2005年ころの時代性を出すために、シャンパンを出すシーンでもドン・ペリニヨンではなく、アンリ・ジローを持ってきています。

 みんなが知らない世界を描いているわけですが、それにリアリティを持たせるためには本当に近いことを書かないといけないと思っています。みんなが思っているIT起業家のバブリーなイメージというのは、20年前の土地バブルの時とまったく変わっていないんですね。「ITバブルも土地バブルも同じようなもんだろ」と。だから、ちゃんぽん飲みにしても、ドン・ペリニヨンのピンク(ロゼ)とロマネ・コンティを混ぜて飲むみたいな、滅茶苦茶な飲み方を想像するわけです。20年前は実際そうだったから。

 でも同じバブルでも、お酒の飲み方や知識については進化していて、ボルドー5大シャトーワインをちゃんぽん飲みするのは合理性があるんです。ロマネ・コンティのようにブルゴーニュ地方の小さなピノ・ノワール種のブドウ畑でとれたブドウだけから造ったワインと違って、ボルドーのワインはブレンドワインなので、ある程度ほかのシャトーのワインと混ぜても、それなりの味になるんです。混ぜものをさらに混ぜものにして、そのいいところだけをとっていくというイメージで、そこそこおいしいものになるという話です。

 ワイン漫画『神の雫』原作者の亜樹直さんにその話をしたら、「ボルドー5大シャトーワインの中でも、癖のあるシャトー・オー・ブリオンを抜いて混ぜたら完璧だね」と言われました。昨日、よく行くワインバーでさらにその話をしたら、「シャトー・オー・ブリオンの代わりに、癖のないシャトー・シュヴァル・ブランを入れたら完璧だよね」みたいなことを言われました。ワインがすごく好きな人たちというのは、多分、一生に1回くらいそういうことをするわけですが、そんなエピソードを入れてみました。

●まったくの作り話というのはほとんどない

堀江 物語の冒頭で、オッサンと藤田優作がゲームセンターで会うのですが、これも実話がベースになっているんです。まったく接点がない2人を会わせないといけないので、いろいろ考えて、とあるエピソードを下敷きにしたんです。ただ、そのエピソードの人は、オッサンのように若い子を使って何か事業をさせて、自分のために利用しようと思っている人ではなくて、単純にゲームセンターで金を配っているんです。

――ドワンゴの川上量生会長ですか?

堀江 川上さんではないですが、川上さんと同じくらいの年で、同じような風貌の人が僕の知り合いでいるんです。その人は渋谷のゲームセンターで「機動戦士ガンダム 戦場の絆」というゲームをやっていて仲良くなった若者たちに金を配っていて、10人くらい連れてラスベガスに行ったりとかしているんです。しかも、カジノで賭ける金まであげているという。すげえなと(笑)。そういう人もいるので、ゲームセンターで出会うのも、リアリティがあるんですよ。

 作り話は、敵対的買収を仕掛けたテレビ局の社長とオッサンとの関係くらいですね。ただそれも、モデルとなったフジテレビは『閨閥〜マスコミを支配しようとした男』や『メディアの支配者』で描かれているように、グジャグジャしている会社であることは確かなので、まったくの作り話というのはほとんどないですね。

――テレビ局の社長に会いに行くために、秘密裏にヘリで向かったりということもですか?

堀江 ヘリでは乗り込んでいないです。違うエピソードを無理やりそこに持っていったんです。ヘリで行ったのはトヨタ自動車本社で、それはニッポン放送の件でフジテレビともめていた時に、奥田碩会長(当時)に会いに行ったんです。

 その時は、東京へリポートから豊田市までヘリで行って、本社近くのヘリポートに降り立ったら、黒塗りのクルマが待っていて、本社の地下に行って、直通エレベーターで会長室に行ったというようなことです。

――都心のビル最上階にある日本庭園みたいなものも実話なんですか?

堀江 そうです。ある企業の社長室の裏をバッて開けると、そうなっているんです。だから、経営破たんしたNOVAの社長室が豪華で叩かれているという話を聞いて、「この社長、こんな程度で文句言われてかわいそうだな」と思いました。「ベッド2つしかないじゃん、そんなレベルじゃねえよ」みたいな。

 モデルにしたところでは、部屋の中に川が流れていて、能舞台があって、風呂場まであるみたいになっていて、女子アナや外資系証券会社社長が来るようなパーティを開くと言っていました。女子アナとその社長が付き合っているというのは事実のようだし、その女子アナがニュース番組で僕のことを報道するのも事実なので、本当に面白いなと思いますね。

 プロ野球チーム買収の際の討論番組のシーンもそうです。ベースとなっているのは2004年7月の「朝まで生テレビ」で、僕は出演していたし、隣は酔っ払ってきた東尾修さんでした。小説のように乱闘にはなりませんでしたが、一触即発といった感じではありました。

――放送局に敵対的買収をかける時、自宅に幹部を集めて「買うぞ」と言ったシーンは本当にそんな感じだったんですか?

堀江 放送局買収のくだりは、結構オーバーに書いている部分もあります。実際は村上世彰さんの家に行った時に、2005年1月17日にフジテレビがニッポン放送にTOB(株式公開買い付け)をかけてきたので、「村上ファンドが持っているニッポン放送株を売ろうか」という話になっていて、「だけど、何か納得いかないですよね」と僕が酔っ払って村上さんに話していたら、次の日に村上さんが「時間外取引というやり方がある」という話をしてきたというのが実話です。

――堀江さんにとって2005年郵政選挙の出馬は重要な出来事だと思っていたのですが、『拝金』で選挙は書かれていないですね。

堀江 これは僕の私小説じゃないですからね。『拝金』のストーリーの中で、選挙の話なんかいらないじゃないですか。僕を描いたノンフィクションなら必要かもしれないですが、あくまでITベンチャー企業のリアルを書いた小説なので、政界のことが入ってくるとわけが分からなくなるので、あえて余計なことは入れませんでした。

 事前にいただいた質問項目にも、ライブドアの上場前の内紛のことが書いていないといったものがありましたが、それを書いてしまうと10年スパンの物語になってしまうので、絶対に間延びしてしまうんですよ。

 一般の小説は小説が好きな人しか読まないと思っていて、僕はもっと広い読者層を想定しているんです。ケータイ小説やライトノベルを読むような層、マンガしか読まない層もターゲットに入れたかったんです。それを考えて、2〜3年の短期スパンですべてが終わる形にしています。ギュッと絞り込んである方が読者は引き込まれて2〜3時間で読めるんじゃないかなと。もっと言うと、僕がそういう小説を読みたいんです。今までの小説って長すぎて眠くなるんです。

――上場のシーンが終わったら、すぐにプロ野球チーム買収のシーンに移りますからね。

堀江 そうです、重要な動きがあるシーンってそこじゃないですか。その間にあったどうでもいいような出来事を書いても、単なるボリュームを出すための手段でしかなくて、それを読者が読みたいかというと、読みたくないと僕は勝手に思っているんです。

 芝居や映画を見に行っても思うことなのですが、ボリュームを増やすためなのか、役者の出番を作るためなのか、2時間ものにしたいからなのかよく分からないのですが、つまらないシーンが結構続くんですよね。あれが本当に必要かと言うと、いらないと思うんです。僕はそういうことを一切やりたくなかったので、どこを読んでも間延びしないようにしています。それが本来の小説なんじゃないかなと思っています。商売として考えた場合は、間延びさせた方がいいのかもしれないですが、一読者の立場からすると、間延びしない世界の方が正しいんです。

 ただ、僕の中にエピソードはいっぱいあるので、続編は考えています。続編の舞台は2000年前後、光通信バブルに絡めて書きたいと思っています。携帯電話の「寝かせ」問題とかありましたからね。

●Twitterの書評とiPhoneアプリのランキング入りが大きかった

――今、何万部くらい売れているんですか?

堀江 紙で5万部です。ただ、電子書籍では1万部を超えていて、この記事が掲載されるころには1万5000部を超えている、という感じです。

 最初、Amazon.co.jpですごく売れたんです。本部門のランキングでトップ10くらいに入ったのですが、在庫切れになってから100位くらいまで落ちちゃいました。在庫切れが解消されてからは30位くらいまで戻ってきてコンスタントに売れています。

 第2の山は電子書籍です。まず電子文庫パブリで発売したのですが、電子文庫パブリは買いにくかったので、イマイチ売り上げが伸びませんでした。しかし、次にiPhoneアプリを出すと、いきなり本部門のランキングでトップになって、有料アプリ全体でも2位までいきました。それが宣伝効果になって、さらにiPhoneアプリが売れるようになって、一時期『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』のiPhoneアプリを超えるくらいの勢いになっていて、いまでもその次くらいにロングセラーで売れている感じになっています。

 また、Twitterで書評を書いてくれる人が出てきて、結構うざがられつつも、1日10本くらいしつこくRTしていたら、それを読んだ人が買ってくれていて、これが意外と効いています。有名人でも、茂木健一郎さんや勝間和代さんが書評を書いてくれていました。僕たちもそういう人たちには戦略的に献本するようにしています。これからは、『拝金』に共感しそうな若者に影響力を持つ人と対談をしていこうと考えています。

 Twitterの書評の威力はすごいなと感じています。ウソではない感想を、140字の制限の中で簡潔に書いてくれるわけですからね。また、多くの人たちは僕にRTされることによって、フォロワーが増えることを期待して、積極的に感想を送ってくれるという部分もあって、それがうまく相乗効果を生んでいると思います。

 僕は猪瀬直樹さんをフォローしているのですが、猪瀬さんは書評を書いてくれる人があまりいないので、たまに自分で著書のエピソードを書いているんですね。それで、『昭和16年夏の敗戦』『東京の副知事になってみたら』『ジミーの誕生日―アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」』といった書名を僕も覚えるようになっていて、買ってみたいなと思う自分もいるので、本についてツイートすることはうざがられるのですが、言われるほどはうざがられないんですよ。

――同様に著書の書評をツイートしている人は多いのですが、「フォローを外される」といった声もよく聞きます。

堀江 それによってフォローを外す人もいますが、フォローする人もいるので、それはそれでいいんです。処理能力が高い人は外さなくて、そういう人はフォロワーも多いので、影響力という意味では多分そんなに変わらないと思います。怒って外す人の影響力はそんなに大きくないので、そんなに気にしなくてもいいと思っています。

 マーケティングではTwitterの書評とiPhoneアプリのランキング入りが大きくて、その2つだけで売っているようなものです。最近、本屋でポツポツと平積みで置かれるようになって、大きいロットで増刷がかかるようになっていますが、書店は後追いですからね。ほとんどネットのクチコミで売っています。

――ネット上で『拝金』の一部を公開されていますが、その効果はどのくらいありましたか?

堀江 全7章のうち3章の途中までを公開しているのですが、そこから買った人も多いですね。どれくらいページが読まれたかはちょっと分からないのですが。

――Amazon.co.jpの『拝金』のページでは、動画を使ったプロモーションもされています。

堀江 『徹底抗戦』を出した時から動画は始めていて、毎回やろうやろうと出版社に言っているのですが、動きが鈍いところはやらないですね。僕は『拝金』は力を入れて売りたかったので、僕らがやれることは全部やろうと思っていて、サイン会もできるところでやりましょうとこちらからも働きかけをしています。

――表紙を『ブラックジャックによろしく』の佐藤秀峰さんが描いていますが、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の表紙を参考にされたのですか?

堀江 小説を書く時は、絶対表紙は漫画にしようと思っていたんです。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』は萌え系の表紙なのですが、萌え系だとどうしても客を選んでしまうので、普通の漫画にしようと思いました。

 萌え系の表紙が多いライトノベルの読者は、10〜20代のオタク系が多いですよね。そうではなくて、もっと幅広い人に支持される絵を描ける漫画家ということで、僕が好きな漫画家でもある佐藤秀峰さんにお願いをしました。佐藤さんの漫画が売れている理由には、ストーリー作りだけではなくて、絵がきれいなこともあると思っていて、表紙を描いてもらって小説コーナーに置かれたら、明らかに違うので絶対目立つと思ったんです。内容も漫画くらい軽く読めるので、「漫画と誤解されてもいいじゃないか」というぐらいの勢いでやりました。

 僕は不思議だと思っているのですが、小説家の人たちは装丁にこだわっていないですよね。不気味な表紙とか幾何学文様の表紙とか、何も考えていない証拠ですよ。それに対してもコストを払っているわけですから、コストを払うのならちゃんと考えようと思いました。版形もコミックスに似せています。

 佐藤さんは「表紙を描くだけでお金をもらえてうれしい」という感じでしたね。コミックスの表紙の原稿料がタダということで、佐藤さんは小学館ともめていたのですが、ちょうどその時に頼んだら、「マジっすか、お金をもらえるんでやります」みたいな感じになりました。値段はそんなに高くはなかったようなのですが、「原画を返してほしい」と言われて、返したらすぐにネットで売られていました(笑)。

――最後の質問なのですが、ブックファーストの方が、「いつ『池上バブル』が弾けるかが書店界で一番話題になっている」とブログに書かれていました。堀江さんもたくさん本を出されていますが、同様にバブルが弾けてしまう可能性についてどのようにお考えですか。

堀江 僕はバブルになっていないので大丈夫ですよ。勝間さんの本みたいに売れていないので。大きな書店くらいにしか、コーナーはないみたいですからね。年間10冊くらい出していて、多い方なのかもしれませんが、バブルというほど売れていないです。

 それに僕は本が売れ続けなくても、メールマガジンがありますから。月840円なのですが、そのくらいの料金だと読者が減らないんです。雑誌の定期購読モデルと同じで、カードで毎月代金が引き落とされるというモデルは非常に強固です。「新書は3ついいことが書いてあれば、みんな満足する」と言われるので、メールマガジンでは「1号あたり、役立つことが1個書いてあれば読者に喜んでもらえる」と思ってやっています。

●『拝金』(堀江貴文著、iPhoneアプリ版)

<あらすじ>

「藤田優作、君はどのくらいの金持ちになりたい?」「そうだな、金で買えないものはない、そう言えるくらいかな」「わかった。それでいこう」年収200万円のフリーター・優作はなぞのオッサン・堀井健史と握手を交わした。そこから彼の運命は大きく変わる。携帯ゲーム事業を成功させ、さらにあらゆる金融技術を駆使。瞬く間に会社は売上500億円の大手IT企業に変貌する。人はそれを「ヒルズの奇跡」と呼び、優作は一躍時代の寵児に。快進撃はさらに続くかに思われた―オッサンの無謀なミッションが下るまでは。金とは、勝者とは、絆とは? 感動の青春経済小説。


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最終更新:8月24日(火)14時18分

Business Media 誠

 

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