1.1995年2月5日サラエボの市場で68人が迫撃砲の犠牲になった事件をうけて、NATO(北大西洋条約機構)は、セルビア人が2月21日までに火器を首都サラエボから撤去または国連管理下に移管しない場合は、空爆を実施するとの最後通告を発した。NATO介入の可能性は、同じ東方正教徒であるスラブ人への忠誠と西側への協力から得られる利益とのジレンマに陥っていたロシアを調停に駆り立てた。ロシア大統領特使ビタリー・チュルキンはサラエボを見下ろす行楽地パレに入り、ボスニアのセルビア人指導者カラジッチと面会した。
Alliance air strikes would force Boris Yeltsin to either risk the wrath of Russian nationalists or, if he condemned the attacks,alienate international friends.So Churkin paid his visit to Pale,carrying a face-saving plan from Yeltsin.No longer a war the world could ignore,the Bosnia carnage had dragged in, if indirectly,the major powers.
Alliance air strikes would force Boris Yeltsin to either risk the wrath of Russian nationalists or, if he condemned the attacks,alienate international friends.So Churkin paid his visit to Pale,carrying a face-saving plan from Yeltsin.
【和訳】 同盟国側の空爆が実施されれば、ボリス・エリツィンはロシア民族主義者の怒りをかうか、もし空爆を非難した場合には、世界の友好国を敵に回さざるをえなくなるだろう。そこで、チュルキンが、エリツィンから託された面子の立つ案を携えて、パレに入ったのである。
【解説】 force 人 to−は「人が−せざるをえない状態を生み出す」という意味の第5動詞型です。このto不定詞の原形動詞の部分にriskとalienateという2つのBの動詞(=完全他動詞)が入り、この2つの動詞がeither 〜 or … で結ばれています。したがってalienateはto eitherのtoにつながるのです。また、either A or BのorとBの間にifが導く副詞節が入っています。このif節は、後のalienateにかかります。carryingは付帯状況を表す分詞構文で、paidを修飾しています。face-savingのsavingはBの現在分詞形容詞用法で、planを修飾しています。faceはsavingのO(=意味上の目的語)です。したがって、face-saving planを直訳すると「顔を救うような性質をもっている案」となります。この「顔」はもちろんセルビア人勢力(の代表であるカラジッチ)の顔です。つまり、これは「セルビア人勢力(=カラジッチ)の顔が立つ案」という意味です。
エリツィン大統領は、国連およびNATOの側に立って、空爆を支持すれば、「同じ東方正教徒であるスラブ人(セルビア人のことです)を見捨てるのか」という非難をロシア国内の民族主義者から浴びせられます。かといって、空爆を非難すれば、西側諸国を怒らせ、西側から受けている経済援助に悪影響が生じます。このジレンマを切り抜けるためには、セルビア人勢力がNATOの最後通告に従って、火器を国連側に引き渡し、結果的に空爆が実施されなければよいわけです。そこで、ロシア大統領特使、ビタリー・チュルキンが、カラジッチを説得するために、急遽サラエボに派遣されたのです。
No longer a war the world could ignore,the Bosnia carnage had dragged in, if indirectly,the major powers.
【解説】 皆さんの中にはa warの働きがわからなくて、首をひねった人はいなかったでしょうか? a warは名詞ですから、原則として、働きは主語・動詞の目的語・前置詞の目的語・補語のどれかのはずです。
a warをignoreの目的語にすると、No longerからignoreまでは1つの文で、構造はO+S+Vという倒置構文になります。しかし、これではNo longer … ignoreという文と、the Bosnian … powersという文がコンマだけでつながれていることになり不自然です(2つのS+Vを対等につなぐためには、間に等位接続詞かコロンかセミコロンかダッシュのどれかを置くのが原則です)。
そこで、考え方を変えて、a warとthe worldの間に関係代名詞が省略されていると考えて、the worldからignoreまでを形容詞節にしてa warにかけます。すると今度はa warの働きが決まりません。the Bosnian … powersはすべての要素がそろった完全な文ですから(dragged inのinは前置詞ではなく副詞です)、a warをどこかにはめ込む余地はありません。
結局、この英文は名詞(=a war)が1つ余っているのです。「名詞が余る」というのは、もっと詳しくいえば、「名詞が主語・動詞の目的語・前置詞の目的語・補語のどれにも当てはまらない」ということです。
英文を読んでいて名詞が余った場合は、次の3つの可能性を考えます。
1.同格
同格というのは、名詞を別の名詞で言い換えることです。この場合、言い換えた名詞(=後に出てくる名詞)は余ってしまいます。
2.副詞的目的格
副詞的目的格というのは、時間・距離・数量・様態などを表す名詞が前置詞なしで副詞の働きをする現象です。これは、名詞でありながら副詞の働きをするのですから、当然余ってしまいます。
3.beingが省略された分詞構文
beingに導かれる分詞構文は、しばしばbeingを省略します。すると、beingの補語になっている名詞、あるいはbeingの意味上の主語になっている名詞が取り残されて、一見余っているように見えることがあります。この名詞はそう見えるだけで、本当は補語(beingの補語です)、あるいは意味上の主語(beingの意味上の主語です)という名詞本来の働きをしています。
本文のa warもこの3つのどれかのはずです。そういう眼でもう一度眺めれば、答えは容易にわかります。これはbeingが省略された分詞構文です。a warの働きは直前に省略されているBeingの補語です。Being a warは付帯状況を表す分詞構文で、意味上の主語はthe Bosnian carnageです。
if indirectlyは副詞節の省略形です。このようにif+副詞要素という形の省略形では、ifはeven if「たとえ 〜 だとしても」という譲歩の意味を表すのが普通です。この文の場合も、if indirectlyは「たとえ間接的であるにしても」という意味です。ここで「間接的」といっているのは、アメリカ、ロシアといった大国がまだ兵を出していないことを指しています。
the major powersはdraggedの目的語です。
【和訳】 ボスニアの虐殺は、もはや世界が無視できる紛争の域を超え、たとえ間接的であるにしても、大国を巻き込んでいたのである。
2.ロシア政府は350億ドルという巨額の財政赤字を切り抜けるために増税策をとり、ありとあらゆるものに課税を強化している。しかし、官僚を出し抜くことが長年国民的娯楽になってきたロシア社会では、徴税制度が完備していないために、脱税が社会のすみずみにまで浸透している。
(注)the IRS;アメリカ国税局
Would-be tax evaders can take consolation from the fact that Russia is still light-years away from having a tax administration that is as dogged as,say,the IRS.The three-year-old State Tax Service managed to collect 38 trillion rubles in taxes in 1993.The service,which wants to increase collections 50% this year,is seriously understaffed,and its inspectors are often as confused as taxpayers about applicable codes.
Would-be tax evaders can take consolation from the fact that Russia is still light-years away from having a tax administration that is as dogged as,say,the IRS.
【和訳】 ロシアは、まだ、たとえばアメリカ国税局のような粘り強い徴税機関を持つにはほど遠い状態にあるが、この事実から脱税志願者は慰めを得ることができる。
【解説】 would-be 〜 は「〜を自称する人、〜を志望する人」という意味です。light-yearsはisの補語に見えますが、そのためにはRussia=light-yearsが成立しなければなりません。Russiaは国家で、light-years「光年」は距離ですからイコールの関係になるわけがありません。したがって、light-yearsを補語にすることは無理です。かといって、主語・動詞の目的語・前置詞の目的語はもっと無理です。つまり、light-yearsという名詞は余っているのです。そこで、さきほど勉強した3つの可能性(=同格、副詞的目的格、beingが省略された分詞構文)を考えます。すると、副詞的目的格が正解であることがわかります。light-yearsは距離を表す副詞的目的格で、awayを修飾している(とてつもなく離れていることを、比喩的に示している)のです。sayは原形動詞で、例示するものの前に置いて「そう、たとえば」という意味を表す特別な用法です。
The three-year-old State Tax Service managed to collect 38 trillion rubles in taxes in 1993.The service,which wants to increase collections 50% this year,is seriously understaffed,and its inspectors are often as confused as taxpayers about applicable codes.
【和訳】 3年前に設立された国税局は93年には38兆ルーブルの税金をなんとか徴収した。今年は5割増しの増収を目指す同局は、深刻な人手不足の状態で、国税査察官は適用可能な法律について、しばしば納税者と同じくらい混乱しているのである.
最後に入試問題を1題紹介します。皆さんは楽に読めるようになったと思うのですが。
問 下線部を和訳せよ。
The urgent calls for wheat in recent years from the developing countries, in order to prevent famine conditions, show that much of the world is one harvest away from starvation. (早稲田大・法)
【和訳】 飢餓状態に陥るのを防ぐために小麦を援助してほしいという緊急の要請が、最近発展途上国からなされているが、これは世界の多くが一度収穫が途絶えると飢饉になるということを示している。
【解説】 one harvestは「一回の収穫=穀物収穫一年分」という意味です。この文では、これが比喩的に距離を表す副詞的目的格として用いられています。is one harvest away from starvationを直訳すると「飢饉から穀物収穫一年分だけ離れたところにいる」となります。これは「冷害などの原因で一年穀物生産がストップすると、たちまち飢饉になる」という意味です。
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